いずみホールのブログ

スタッフのリレー執筆で、ホールでの出来事や、主催公演の詳細&裏話などをお届けします。


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今年のメイン企画は「ウィーン・ムジークフェスト2017」と銘打ち、ウィーンを拠点とする世界的ピアニスト、ルドルフ・ブッフビンダーを迎えてお贈りします。リサイタル室内楽協奏曲の3つの演奏会を通じ、豊かな音楽性が多彩に展開することでしょう。昨年、ウィーン・フィルと共に来日した巨匠を、礒山雅いずみホール音楽ディレクターが語り合いました。

 

※公演情報はHPをご覧ください。当記事の末尾にもリンクがございます※

 

―― 先生は日本にはもう何度もお出でになっていると思いますが、日本と日本文化には、どんな印象を受けておいでですか。

 

ブッフビンダー(以下) 最初は1965年にNHKで、モーツァルトを弾きました。その時のことはよく覚えています。私はつねに、日本文化に魅了されてきました。日本の伝統芸能にも、とても関心をもっています。また、日本の方々が西洋音楽に対してすばらしい理解を示されることにも、敬意を表しています。東京、京都、神戸、奈良、広島・・・いろいろなところでコンサートをしました。京都はことにすばらしいと思います。


―― 先生にいずみホールのステージにご登場いただけることを、たいへん嬉しく思っています。しかも、ウィーン楽友協会との共同プロジェクトによる、フェスティバルという形でです。それについて、どうお思いですか。

 とてもいいアイデアです。日本の音楽家たちの中にウィーン・フィルのメンバーが入った室内オーケストラと共演できるのですからね。音楽は、国際的なものです。それは、翻訳なしで理解できる唯一の言語です。ですから、世界のどこでも、聴きにきてくださる方と通じ合える。ニューヨークでも、東京でもパリでもシンガポールでも、聴衆は一つだと思っています。

―― 先生は、偉大なるウィーンの伝統の体現者だと見なされています。そのことに、誇りをもっておられるでしょうか。

 ウィーンが特別だとは、私は思わないのです。「ウィーン古典派」といいますが、それは後からできた言葉で、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンが、自分たちの音楽はウィーンの古典だ、と思っていたわけではない。ベートーヴェンやブラームスがなぜウィーンに出て来たのかというと、ウィーンが他方から文化の流入するところで、それが魅力的だったからです。たとえばブラームスの作品には、ほとんどどんな曲にも、民族的な要素、ハンガリー的な要素が取り込まれています。外からのさまざまな影響が働きかけているからこそ、ウィーンは昔も今も、人を惹きつけるのです。

―― 音楽をなにより尊重する風土がありますよね。

 歌劇場にスキャンダルがあると、世界が経済危機にあっても、スキャンダルの方が新聞の見出しになります(笑)。テレビのニュースも、最後は必ず芸術の話題になる。音楽ばかりでなく、絵画や演劇が採り上げられます。芸術への関心が高いのは事実ですね。

―― バッハのCD、とても良かったです。音色が美しく、アーティキュレーションがたいへん明晰でした。先生にとって、バッハの音楽はどんなものですか。

 バッハなくしては、ベートーヴェンもブラームスもチャイコフスキーも考えられません。同時に、ハイドンなくしては、モーツァルトもベートーヴェンも考えられない。音楽はそのようにして、発展を遂げてゆきます。しかし私は、この人が古典的、この人がロマン的という分け方には反対なのです。バッハもベートーヴェンも、古典的であるのと同じぐらい、ロマン的だと思います。

―― 先生はよく大きなプログラムを演奏されます。コンチェルトを2曲も3曲もお弾きになるのは、たいへんではありませんか。

 なぜですか。ソナタを演奏する方がよほど大変ですよ。コンチェルトでは、オーケストラが演奏する間に休んでいることができますから(笑)。

―― コンチェルトは、弾き振りの形でなさいますね。それがとても楽しみです。

 モーツァルトやベートーヴェンのコンチェルトは、大きな室内楽なのです。指揮者がいないと、ヴァイオリンの末席の奏者も、自ら表現の責任を取らなくてはならない。そういう条件の中でリハーサルし、アイ・コンタクトをとりながら、大きな室内楽を実現してゆくのです。私は世界で150回ぐらい、弾き振りでコンチェルトをやりました。どのオーケストラも喜んで演奏しましたよ。

―― 大きな室内楽というのはすばらしいイメージですが、室内楽の経験を積み重ねてこそ、持ちうるアイデアですね。

 私は室内楽で成長しました。とくにトリオ。スーク、シュタルケルと、ずいぶんトリオを弾いて鍛えられました。

―― 私と先生は同い年です。年齢から来る感慨というのはお持ちですか。
 
 音楽にヒエラルキーはありませんから、20歳も70歳も、対等です。ただわれわれの世代は、いい時代に生きてきたと思う。第二次大戦後、大きな経済発展があり、社会が豊かでしたから。でも、それが孫の世代にも受け継がれていくかどうかはわかりません。広島やアウシュヴィッツを、忘れてはいけないと思います。

―― 若いピアニストへのアドバイスをいただけますか。
 
 才能だけでは十分でない。練習だけでもダメです。しかし才能があるのなら、それを生かすように努力していくことが義務になります。そうすれば、いい結果を得ることができる。まず自分自身を考えること。楽譜だけでなく、作曲家に関する本を読み、作曲家を人間として感じることが重要です。

―― ありがとうございました。大阪で再会できるのを楽しみにしています。
 

聞き手・執筆  礒山 雅
(いずみホール音楽ディレクター、国立音楽大楽招聘教授)

(ホール情報誌Jupiter164号より転載)

 

公演情報はこちらから。チケット好評発売中です
ウィーン楽友協会提携企画
ウィーン・ムジークフェスト2017

Vol.1 ピアノ・リサイタル(9月17日・日/14時開演)

Vol.2 ピアノ・トリオ(9月20日・水/19時開演)

Vol.3 コンチェルト(9月23日・土祝/16時開演)

※セット券はいずみホールチケットセンターのみのお取り扱い。

 

ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ)/Rudolf Buchbinder

5歳の時、最も若い学生としてウィーン音楽大学への入学を認められ、11歳で著名なピアノ教育家ブルーノ・ザイドルホーファーのマスター・クラスに入門を許可された。教育を終えると彼は各地で演奏活動を行い、最初は室内楽奏者として、その後は徐々にソリストとしての地歩を固めていった。例年のようにザルツブルク音楽祭などの国際的な音楽祭に招聘され、世界中の代表的なオーケストラ、指揮者と共演してきた。レパートリーは非常に広く、その中には多くの20世紀作品も含まれ、100枚を超えるレコード、CDに収められている。

 

 

 

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