いずみホールのブログ

スタッフのリレー執筆で、ホールでの出来事や、主催公演の詳細&裏話などをお届けします。


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様々なかたちでピアニスト・北村朋幹の魅力をお伝えしてきましたが、最後はいずみホールの音楽ディレクター礒山雅が「なぜ北村朋幹の演奏に心惹かれるのか」をお伝えしたい、と特別に寄せたメッセージをお贈りしますピアノ

 

問いと答――音楽家・北村朋幹に

 

 北村朋幹さんのピアノ演奏に初めて接したのは、埼玉県富士見市の、ささやかなコンサートにおいてでした。私はそのステージから、探究すべきものを内にしっかりと持った高貴な若者の存在を、忘れがたく心に焼き付けました。その印象は、「黄昏に」と題するCDを聴くに及んで、ますます確かなものになりました。

私には、北村さんの音楽がいずみホールの空間に、また「こころの奥へ」と題された今年度のシューベルト・シリーズに、いかにもふさわしいものと直観されました。ですから、彼の登場を仲間たちと前向きに議論することに、ためらいはありませんでした。その思いをお伝えするべくこの筆を執っているわけですが、北村さんの演奏や人柄を説明したり、来たるべきコンサートの予想を述べたりするには、私の知識が不足しています。

 

そこで私は、北村さんにメールを書き、2つの質問を差し上げました。音楽に対する、またシューベルトに対するスタンスを、深いところで示唆していただくための質問です。

 

私は保守的な人間かもしれませんが、「昔聴いたあの演奏を超えるものはない」という類の考え方にはまったく無縁で、たえず新しい演奏の可能性に向き合っているつもりです。しかし、研究が本業であるためでしょうか、「何でも自由に演奏すれば面白いじゃないか」という風にも、考えることができないのです。そのあたり、若い演奏家はどう考えているのか。自分なりの個性的なアプローチを磨いて登場することを求められる者として、作品とどのような関係を築くべきなのか。

 

そこで、「作曲家・作品と演奏家・演奏の関係について――クリエイティブな演奏とは、どんなもののことを言うのでしょうか」という質問を、北村さんに投げかけてみました。

 

すると北村さんは、「芸術に携わるものとして、creationというのはもっとも心惹かれる言葉のひとつではありますが、演奏家としてはその裏に潜むエゴイズムのようなものの危険性を常に感じざるを得ません」とおっしゃるのです。世界をcreateしているのは作曲家であり、彼らが遺した音符があるからこそ、弾き手も聴き手も「この世界ではないどこか」を見ることができるから、というのがその理由です。

演奏家にcreateがあるとしたら、それは、誰かが描いてくれた作品の中に、たとえ和音一つでも心から共感できる瞬間を見出し、その瞬間を的確に表現できる音色を見つけてゆく道のりの中にあるのではないか。それを時間をかけ、嘘偽りなく進めていく作業には、エゴイズムとは違う自由があるのではないか、とのことでした。

 

 私の第2の質問は、「人はなぜ、シューベルトを聴きたくなるのだと思われますか」というものです。私はシューベルトが大好きなのですが、シューベルトにはやはり哀しく暗い傾向があり、「歩いている先にすとんと下に落ちる穴がある」ような気持ちに、よくなります。それでもなぜ聴きたくなるのか、私には答が見出せないわけです。北村さんの答を要約しましょう。

 

 

 ――人は何げないときに、何げなく音楽を聴きたくなることがある。シューベルトの音楽には、そんな瞬間によく溶け込む「優しさ」があるのではないか。シューベルトの哀しさは作品を弾いているときに強く感じているが、それは「儚さ」と言い換えてもいいと思う。彼の音楽は常に動いていて、同じことを繰り返しているように見えても、ある瞬間が来ると、すっとどこか違う場所へ旅立ってしまう。よく言われることだが、その儚さは、人生にもピアノの音にも共通する。

 こうした優しく親しみやすい面と儚い面が、シューベルトには常に隣り合わせになっている。でも、それもまた人生だということを理解する前に、シューベルトはこの世を去ってしまったのではないか――

 

 北村さんがシューベルトを聴きたくなるのは、心がとても静かなときだそうです。文章がこの「心がとても静か」というところに来たとき、私には、いずみホールで《幻想ソナタ》を奏でる北村さんのイメージが、くっきりと浮かんできました。多くの方とご一緒に、彼のシューベルトを体験できたらと願っております。

 

礒山 雅(いずみホール音楽ディレクター)

 

 

 

音楽の専門家たちが大きな期待を寄せる若きピアニストが描くシューベルト像にご期待くださいベル

 

■シューベルト こころの奥へ vol.3 北村朋幹

【日時】2016年12月16日(金)19時00分開演
【出演】北村朋幹(ピアノ)
【曲目】ベートーヴェン:6つのバガテル
    クルターグ:「遊び」より6つの小品
    シューベルト:楽興の時
    シューベルト:ピアノ・ソナタ 第18番 ト長調
【料金】一般¥4,000 学生¥2,000
    いずみホールフレンズ¥3,600
 
※チケットのお求めは、いずみホールチケットセンターまで。
  電話 06-6944-1188 (10:00~17:30/日・祝休業)
※インターネットからもご購入いただけます。ネット購入はコチラから。 
 (ひらめき電球オンラインチケットの受付は、12月13日23:59まで)

 

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