いずみホールのブログ

スタッフのリレー執筆で、ホールでの出来事や、主催公演の詳細&裏話などをお届けします。


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12月16日に開催する「シューベルト こころの奥へ」vol.3に出演するピアニストの北村朋幹にスタッフが「シューベルトと自分」をテーマに話を聞きました。

演奏と同じく奥深い内容を話してくれました。その一部をお届けしますカナヘイきらきら

 

-北村さんとシューベルトとの出会いについて教えて下さい。

北村:10代の頃、シューベルトをまるで自分のことのように想いながら、沢山の作品を弾いていた時期がありました。当時は、ベートーヴェンなどにはほとんど見向きもせず、リリカルで軽やかな作品が好みで、ひたすらシューベルトとモーツァルトを弾いていました。そこまで夢中になっていたのは、恐らく単純に「いい曲だから好き」と感じて弾いていたのでしょう。そういう感情で曲に接したり、演奏する作品を選ぶというのは、歳を重ねて知識が増えるにつれてだんだんと難しくなってきます。シューベルトに理由もなく惹かれた10代の時期があったというのは、本当に幸運だったと思います。

 

-北村さんにとってシューベルトは、どのようなイメージですか?

例えば、友人のように理解できる”“先生のように尊敬している”“常人でなく理解しがたいなど。

北村:20歳の年にシューベルトのソナタを1曲じっくり勉強したのを最後に、ソロ作品には全く手を付けていませんでした。その後の5年間で、留学し、ドイツ語を話すようになり(ウィーン訛りではないですが)、色々なことが身の回りに起き、自分の音楽性、人間性が大きく変わったのを強く感じます。気が付けば彼があの「未完成」を作曲した歳(25歳)になりましたが、今自分は、彼が歩んだものとは全く違う種類の人生を歩んでいるので、残念ながら以前ほど彼の作品を「自分のことのように」は捉えられなくなっているのも事実でしょうね。

でもいつも僕が感じているのは、我々は歴史や、ある人の人生の「その先」を知ってしまっていて、その知識は時として非常に大きなノイズとなるという事です。予感はあってもその先は何もわからないという類の人生への不安は、いつ・どこで生きている人にとっても平等なのではないか、と思えるようになり、最近改めてシューベルトの作品に取り組んでみて、その新たな意味を感じるようになりました。

シューベルトの音楽は若者、言うならば自分と同世代が書いた音楽だと思います。つい数日前も「楽興の時」を演奏する機会があり、もちろん1曲目から6曲目まですべて準備しているわけですが、演奏中も「今、その瞬間に」後先考えず心底没頭出来たときにはじめて、彼の見ていた景色が見えてくるのだと思います。

 

-シューベルトに取り組むことで北村さん自身に何か影響はありますか。

北村:あまりに儚い音楽なので、自分自身を含めた身の回りのものすべてに「限り」が存在するという事を強く感じるようになります。それこそが彼の音楽、または音楽という芸術が持つ美しさの秘密なのかもしれません。ただその世界にあまりに深く浸ってしまうのはとても不健康で、時々、そういったものを超越しようと試みた作曲家の力強い作品に触れることにより、自分の中のバランスを何とか保っている気がします。

 

 

 

-ソナタの他に取り上げるのは、シューベルト、ベートーヴェン、クルターグの3人がそれぞれピアノと言う楽器に向かって徒然と綴った作品です。これらの曲を選ばれたのには、北村さんとピアノとの関係性にもつながりがあるのでしょうか。

北村:数年前に、随分長い間ベートーヴェンについて思いを巡らせていたことがあり、結局彼が交響曲ではなくピアノソナタを32曲も遺したのは、大勢で演奏するオーケストラでは絶対に不可能な、シューマンの言葉を借りれば「心の深奥にある」何かを表現するために、たった独りで、自分のためだけにピアノに向かうほかなかったからなのではないか、というようなことをその時に思いました。以来その考えは自分がピアノを演奏する上でのヒント、モットーのようなものにもなっています。

シューベルト自身は恐らくもう少し日常的な感覚で、交響曲よりもオープンマインドでピアノに触れている部分があります。クルターグはご本人のあまりに素晴らしい演奏を聴く事ができ、そして他の2人の「その後」を経た上での作品です。決して計18の作品が同じ方向を向いて何かを目指すプログラムではないのですが、その名の通り各6つの音楽の「瞬間(moments)」があり、それらは一瞬で過ぎ去っていく音楽です。過ぎ去っていく音楽は、音を出したらあとは減衰していくだけという運命をもつピアノという楽器で演奏されるのが、やはり一番美しいと思うのです。

 

-もし3人の作曲家がコンサートに立ち会うことが出来るとしたら、誰に演奏を聴いてほしい、または欲しくないですか。

北村:実はこの3人を繋ぐ隠された線として、シューマンがいます。

自分が音楽をしている理由の中でも最も大きな1人といっても過言ではないくらい、個人的にとても大切に思っている作曲家です。彼が演奏会を聴いてどう感じてくれるか、これは少々興味があります。直接お会いするのはあまりに恐れ多いので、「新音楽時報」(シューマンが創刊した音楽雑誌)に小さな記事でも書いてくだされば・・・

 

■シューベルト こころの奥へ vol.3 北村朋幹

【日時】2016年12月16日(金)19時00分開演
【出演】北村朋幹(ピアノ)
【曲目】ベートーヴェン:6つのバガテル
    クルターグ:「遊び」より6つの小品
    シューベルト:楽興の時
    シューベルト:ピアノ・ソナタ 第18番 ト長調
【料金】一般¥4,000 学生¥2,000
    いずみホールフレンズ¥3,600
 
※チケットのお求めは、いずみホールチケットセンターまで。
  電話 06-6944-1188 (10:00~17:30/日・祝休業)
※インターネットからもご購入いただけます。ネット購入はコチラから。  
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