母が居酒屋の経営者を引退宣言した日 (中編)

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営業を終えて深夜を過ぎた居酒屋の店内では、従業員の母親と息子が、

焦燥感を表し互いを見つめ合います。やがて息子は裏切られたと詰ると、

母親は引責を取るために経営者を引退する、と受け答えをいたしました。

普段は仲の良い親子が一体なぜ、このような事態を迎えたのでしょうか。

 

母親が経営する居酒屋には、8年前から娘が店員として勤めていました。

娘は百貨店の勤務経験を武器にして、どのようなお客様にも臨機応変に

対応できる能力を持っていましたが、その利点が霞んでしまう、致命的な

欠点がありました。お酒のコントロールができずに酩酊を繰り返すのです。

 

母娘の2人で働いていた8年間は、母の居酒屋の店員の娘が酩酊をして、

お客様との間に度々トラブルを起こす噂が、巷で広く有名だったために、

来店されるお客様も、お行儀が悪く下世話になる人が集まっていました。

この時期の母は、お酒飲みにまともな人種はいないと酷評されています。

 

こうした居酒屋の悪評も、息子が勤め始めてからは徐々に払拭されて、

いつしかお店には、良識と品位のあるお客様で溢れるようになりました。

ですがそれは、内憂外患の「外患」の部分を一先ず片付けたに過ぎず、

息子が勤めてから9ヵ月が経っていても、「内憂」は残されたままでした。

 

息子が居酒屋に勤め始めたときの光景を、ここで少し語ろうと思います。

驚かされたのは、店員の立場にいる娘が、店長に当たる母親の指示に

言い逆らうか、従った場合でも不平不満をこぼして動いている状況です。

母の居酒屋では、職場の規律が存在していなかったことは明白でした。

 

接客のイロハ「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」「ご注文は」

「おつかれさま」も、娘ができなかった有様に落胆したのを覚えています。

娘の酩酊については矯正が不可能でした。勤務中を飲酒禁止にしても、

娘は母親や息子の目を逃れて、飲む行為を繰り返し続けていたのです。

 

罪を犯すとその代価として贖いを支払うことは、万国共通ルールですが、

母親は娘を溺愛しているので、娘に懲らしめはいつも台無しになります。

娘からの見方に置き換えると、いつ何時であろうとも、母親に哀願すると

罪は許されるので、罪はいつまでも作り続けられ規律は徹底されません。

 

息子が勤め始めてから9ヵ月の間に、「内憂」の問題が進展しないのは、

溺愛する娘のために、母親が職場の規律を乱していることが原因でした。

冒頭で息子が裏切られたと発したのは、母親に向けての言葉になります。

息子からは、私の痛みも知ってほしいと、母親に問おうとした言葉でした。

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