http://www.gsic.jp/immunity/mk_03/13/02.html

免疫細胞治療でも重要な個別化医療

樹状細胞ワクチン療法では、樹状細胞からがんの目印を教え込まれたCTLが選択的にがん細胞を攻撃する。しかし、がん細胞はCTLからの攻撃を逃れるために、自らのがんの目印を巧妙に隠す場合がある。例えば胃がん患者では50パーセント以上、非小細胞肺がん患者では60パーセント以上にその傾向があったという報告(*2)もある。

その場合、樹状細胞ワクチン療法は期待通りの効果を上げられない。その場合、どうするか。神垣さんはこう話す。

「患者さん1人ひとりによって、がん細胞の状態は全く異なります。樹状細胞ワクチン療法の効果が期待できない患者さんには、違う作用でがんを攻撃する免疫細胞治療、例えばαβT細胞療法やγδT細胞療法などをお勧めしています。

樹状細胞ワクチン療法は確かに効果的ですが、それだけを勧めるわけではありません。結局は、患者さん1人ひとりに合わせた治療=個別化医療を提供するのが、最も効果的なのです」(図3)

[図3 個別化医療の流れ]
患者さんの状況(治療歴・症状・経済的状況)や、がん細胞や遺伝子の科学的な検査を踏まえ、1人ひとりに最適な治療法を決定していく

個別化医療を実施するポイントは、患者さんそれぞれのがん細胞や遺伝子などを事前にしっかり検査すること。瀬田クリニックグループでは「免疫組織化学染色検査」(図4)など科学的な検査プロセスを実施し、更には治療歴や病状などを考慮の上で患者個々に最適な治療を決定していく。

[図4 免疫組織化学染色検査]

*2=埼玉医大雑誌第28巻 第2外科/第47回肺癌学会総会 北海道大学1内・札幌医大1病理

手術後の免疫細胞治療でがんの完治をめざす

様々な種類がある免疫細胞治療だが基本的には採血→細胞加工→投与を1治療として数回繰り返す。一部のがんを除きほぼ全ての主要ながん種に適用でき、通院治療も可能。治療費は公的保険が適用されないこともあり、治療法にもよるが1治療あたり約20万~40万円かかる。細胞培養には専門施設や熟練の技術者が必要で、安全性や治療効果を確保するためのコストともいえる。現在、多くの患者さんから公的保険適用を望む声が上がっている。

免疫細胞治療を受けたい場合、「まずは主治医に相談してください」と神垣さんは言う。「おかかり中の主治医と我々が連携することで、よりよい協力体制を作ることができます。現在行っている標準治療と効果的に組みあわせたり、樹状細胞ワクチン療法のために手術で切除したがん細胞を確保する上でも大切です」

主治医に相談しづらい場合は、「免疫細胞治療施設に先に相談していただければ、主治医への相談方法を含め、ご相談を受けます」と話した。

「私は、なんとしてもがんを治したいと考えています。特に、手術や放射線で大きな塊を取り去ったあとに免疫細胞治療を実施することは、完治を目指す大きなチャンス。私の所には、再発予防目的で受診される方や、ある程度進行した状態で受診される方など様々な患者さんが来院されますが、そういった患者さん1人ひとりに合わせ、個々に最適な治療を提供することが、がんの克服に繋がると考えています」。1万人以上の治療実績を持つ専門施設で患者さんと向き合ってきた神垣さんは、そう熱く語ってくれた。


監修:神垣 隆 医療法人社団滉志会 瀬田クリニックグループ 臨床研究センター長/神戸大学大学院医学部非常勤講師