特別養護老人ホームのベッドを複数の利用者が3カ月を上限に、交互に使う「ベッドシェアリング」。東京都世田谷区の特養「きたざわ苑」では、この期間に利用者のおむつ外しや歩行回復に取り組み、在宅介護の負担軽減を目指す。“終(つい)の棲家(すみか)”のイメージが強い特養だが、同苑では「元気になって帰ってもらい、必要なときに利用してもらえれば」と話している。(佐藤好美)

 世田谷区に住む小林ヌイさん(85)=仮名=は1人暮らし。要介護4だが、デイサービスなどを使い、なんとか1人暮らしが続けられるのは、きたざわ苑でベッドシェアリングを利用していたからだと考えている。

 きたざわ苑を初めて利用したのは昨年秋。小林さんは手術と半年間の入院生活で、すっかり歩けなくなっていた。衰弱と栄養不良もあって入院早々におむつをあてがわれ、退院して別の施設に移ったが、そこでも、ほとんど寝たきりだった。

 「家に帰りたい」という小林さんの強い希望で、ケアマネジャーが紹介したのが、歩行回復やおむつ外しに熱心なきたざわ苑だった。

 きたざわ苑に入所した小林さんは、同苑の指導で水分を1日1500ミリリットル摂取。服用していた下剤をやめて食物繊維を取り、6種類のマシンを使った筋力トレーニング、歩行訓練などを行った。

 入所期間中、小林さんが一番楽しみだったのは、職員が日に何度か部屋にやってきて、「たばこを吸いに行こう」と誘ってくれたこと。戸外にある喫煙所まで階段を歩いて下り、また上って部屋に戻る。リハビリの一環だが、“たばこ友達”もできた。

 齊藤貴也グループマネジャーは「小林さんは入所後まもなく効果が出ました。おむつは2週間でいらなくなった。歩行は、初日に車いすをやめて歩行器にし、2カ月目には独力で歩けるようになった」という。

 回復の度合いやスピードは、体を使わずにいた期間の長短や要介護度、要介護になったきっかけにもよるため、一概にはいえない。

 しかし、「トレーニングをすれば歩いたり、トイレに行ったりできる人も寝たきりにされているのでは」との疑問は、小林さん自身も抱く。「前の施設では寝かされきりでしたから、このままは嫌だと思って『帰りたい』って言ったんです。こちらにお世話になってびっくりです。多くの施設でしょぼ~んとしているお年寄りは、たくさんいらっしゃると思うの」と話している。

 ■「家族の負担ゼロ」目的

 ベッドシェアリングの正式名称は「在宅・入所相互利用」。平成18年度に創設され、要介護3~5の人が対象。特養の1つのベッドを複数でシェアして利用する。1人が1回に入所する期間は3カ月が上限で、施設側には在宅との情報共有が求められている。しかし、実施施設は数えるほど。

 きたざわ苑では、この制度を「長いショートステイ」にせず、意識して利用者の身体状況改善の期間に充てる。齊藤マネジャーは「3カ月の間に、家族の介護負担をゼロにするのが目的」と言い切る。

 きたざわ苑は現在、ベッドシェアに6床を充てる。1床を3人で利用するから、計18人が利用できる。利用者は入所待ちの人が多いが、3カ月の間に元気になると、家族から「もう少し、在宅で介護できそう」との声も上がる。家で暮らす間に身体状態が落ちても、定期的な入所で改善が見込めるし、家族も「○月までがんばれば再入所できる」と見通しもつく。

 同苑の岩上広一施設長は「入所者の中には、どうしても長期入所が必要な人はいる。しかし、在宅介護が立ちゆかなくなった原因を解消すれば、家で暮らし続けられる人もいる。在宅介護を困難にしている点が何かを見極め、解消するのがプロ」と話す。来年には6床を10床に増やす予定だ。

 ■自立の可否で「2分化」

 きたざわ苑の「元気にする介護」の柱になっているのが、自立支援の考え方。同苑では、国際医療福祉大学大学院の竹内孝仁教授が提唱する「水分、栄養、排泄(はいせつ)、運動」に基づいて介護を行っている。

 竹内教授は「多くの高齢者が便秘で下剤を飲み、排便のリズムが崩れるからおむつをする。その結果、歩かなくなり、ますます便が出なくなる悪循環に陥っている。下剤とおむつをやめ、水分と運動の機会を提供することが大切だ」と指摘する。

 こうした介護の方法がすべての人の状態改善につながるかどうかは分からない。しかし、竹内教授は「要介護5でも、再び歩けるようになる可能性はある。介護職員が車いすを食堂まで押していくか、『途中まででも歩いて行こう』と誘い、介護職員が2人ついて歩行訓練をできるかどうかで決まる」と言う。

 高齢者の在宅復帰のための施設としては「老人保健施設」があり、「特別養護老人ホーム」には終の棲家のイメージが強い。しかし、竹内教授は「施設は今後、入所者を自立させて家に帰すことができる施設と、帰すことのできない移設に2分化する。自立させられる施設では、入所者の状態が改善されるから誤嚥(ごえん)性肺炎や転倒骨折も減る。入院も減って経営状態も良くなるはずだ」と話している。

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