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「君の名は。」の彗星は実在? 天文学者と考察

2016/10/30 6:30

 

 大ヒット中の東宝のアニメ映画「君の名は。」(新海誠監督)。

夢の中で入れ替わる少年と少女の恋と奇跡の物語で、

1200年周期で太陽を回る彗星(すいせい)が大きな役割を果たしている。

映画で描かれる彗星は花火のように夜空を彩るが、

こうした天体ショーが映画の中だけでなく実際に起こりうるのだろうか。

大学で宇宙物理学を学んだ記者が、

国立天文台副台長の渡部潤一教授に話を聞きながら6つの視点で考察してみた

※この記事には映画「君の名は。」の内容に関する記述が含まれています

 

映画「君の名は。」は様々な場面で彗星が印象的に登場する((C)2016「君の名は。」製作委員会)

 

■考察1 長く美しい尾は見えるか

 

 映画で描かれる「ティアマト彗星」は地球に近づくにつれて長い尾を描き、

夜空の半分ほどの長さに達しているように見える。

有名なハレー彗星が1910年に地球に接近したときには、

一等星を上回る明るさになり、夜空の全体をほぼ横切る長さの尾が見えたと記録されている。

 

 彗星は火星軌道の内側に入る頃からはっきりした尾が見え始め、

太陽や地球に近い場所を通るほど大彗星になりやすい。

ティアマト彗星は地球に最も近づくと12万キロメートルしかない設定で、月よりも近くを通る。

1910年のハレー彗星よりずっと近く、映画に描かれたような大彗星になる可能性は十分といえる。

 

 さらに彗星をよく見ると、緩やかにカーブした長い尾だけでなく、

短く真っすぐな尾も描かれているのがわかる。

取材時に映画を未見だった渡部教授も

「きちんと描き分けているのなら、よく調べている」と感心する描写だ。

 

 彗星は凍ったガスに細かなちりや岩石が混じってできていて、「汚れた雪玉」と呼ばれることもある。

太陽に近づいて暖まると溶けたガスやちりなどが噴き出し、

太陽から吹き寄せる太陽風などによって押し流されて尾を作る。

長い尾はちりなどで、短い尾はイオン化したガスでできているため、流れ方が違い2つの尾に分かれる。

ふつうは目立つ長い尾だけが描かれることが多く、2通りの尾が描きわけられることは少ない。

 

 映画ではさらに、彗星から分かれるようにいくつもの赤く流れ、

花火のように広がる美しい光景が描かれる。

彗星から分かれた破片が地球の大気中に飛び込んで、流れ星になったという設定だ。

 

 流れ星は宇宙を漂うちりや岩石が地球の引力に引かれて落下。

猛烈な落下スピードのために空気との摩擦で燃えだし、明るく輝く。

彗星が通った跡には噴きだした多くのちりが残され流星群となることもある。

見る場所によっては、映画のように花火のような光景が現れるかもしれない。

 

 映画では、地球の近くで分裂した彗星の一部が落下。

美しい天体ショーは一転して大惨事を引き起こす。

映画に加えて新海監督が執筆した小説版「小説 君の名は。」(KADOKAWA)では、

分裂した彗星の一部に直径40メートルの岩の塊が含まれていて、

直径1キロメートルのクレーターを形成することなどが説明されている。

 

アイソン彗星は太陽に近づいた時に分裂した(国立天文台提供)

 

■考察2 彗星は分裂するのか

 

 そもそも、彗星は分裂するのだろうか。

 

 これは実際に分裂した彗星がいくつか観測されている。

最近では、2013年に太陽に接近したアイソン彗星が、分裂して消えてしまった。

太陽に近づいて熱せられたことが原因とみられている。

 

 1992年には木星の近くでシューメーカー・レビー第9彗星が20個あまりの破片に分裂した。

これは木星に近づいたため、潮汐(ちょうせき)力と呼ばれる強い重力の作用によって

分裂したと考えられている。

 

 ただ、映画の中のニュースでは、原因は太陽の熱でもなく、

潮汐力が小惑星などを粉々にするほど強まる「ロシュ限界」と呼ばれるものでもないと説明。

なぜ分裂したかはわからないと語られている。

 

木星に近づき分裂したシューメーカー・レビー第9彗星(NASA提供)

 

分裂したシューメーカー・レビー第9彗星は木星に衝突した(NASA提供)

 

 しかし、渡部教授によると「太陽や惑星に近づかなくても彗星が分裂することはある」という。

もともと、いくつかの小さな彗星のもとになる塊がぶつかりあってくっついた彗星も多いためこうした塊が、

なにかの拍子で離れて分裂してしまうわけだ。

「こうしたときは2、3個の塊に分かれることが多い」(渡部教授)。

映画では長い尾を引く彗星の回りに何個もの流れ星が描かれるが、

分裂した彗星の一部がさらに分かれて流れ星になったと考えれば、無理はなさそうだ。

 

■考察3 彗星中に40メートルの岩があるか

 

 ちりやガスなどが凍った雪玉のようなものといわれる彗星に、

直径40メートルの岩石が含まれていたという設定はどうだろう。

 

 渡部教授は「十分にありうる」と説明する。

欧州の彗星探査機が14年に到達して詳しく調査したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は

「予想された以上に大きな岩石を含んでいた」(同)。

核と呼ばれる彗星の本体の大きさは、

この彗星では長い場所で約4キロメートルの落花生のような形をしていた。

76年周期のハレー彗星は長さ16キロメートルほどだ。

映画のティアマト彗星は1200年という長い周期で太陽を回るが、

長周期の彗星の核は大きなものが多く、40メートル程度の岩石ならば十分にありうる大きさといえる。

 

欧州の探査機が観測したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星には予想以上の岩石が存在した(欧州宇宙機関提供)

 

■考察4 できたクレーターの大きさは妥当か

 

 隕石(いんせき)が地表に衝突して地表にできるクレーターの直径は、

一般に衝突した隕石の大きさの10~20倍程度とされる。

「彗星のスピードは、ふつう隕石より速いので、1キロメートルという大きさは適当だと思う」

(渡部教授)。

同じ大きさでも衝突するスピードが速いほど衝突のエネルギーは大きくなるからだ。

 

 13年にロシア南部のチェリャビンスク市付近に落下して1000人を超す負傷者を出した隕石は、

大気圏に突入する前の大きさが直径17メートルと推定されている。

ただ地面まで届いた破片は1センチメートル程度の小さなもので、

隕石が大気中で発生させた衝撃波による被害が大きかった。

 

■考察5 おしい軌道のミス

 

 全体に彗星についての考証はしっかりしている中で、一見してわかるおかしな描写も登場する。

すでに多くの指摘がされているが、彗星の接近を紹介するテレビニュースの場面で、

描かれる彗星の軌道が太陽を回らずに遠ざかる形をしているのだ。

木星などの近くを通り軌道が変わる彗星もあるが

「太陽を回らない彗星はない」(渡部教授)。

細部の描写にまで注意が行き届いている点が多いだけに、

軌道の絵が単純なミスだとすれば惜しい誤りといえそうだ。

 

■考察6 彗星が地球に衝突する確率

 

 1994年に、分裂したシューメーカー・レビー第9彗星の破片が次々と木星に衝突する様子が観測され、

話題になったが、地球ではどうだろう。

 

 これまで観測された彗星で地球に最も近づいたものでも141万キロメートルで、

映画の設定とは大きな差がある。

岩石や鉄などでできた小惑星では、13年に直径45メートルの「2012DA14」が

地球から2万7000キロメートルまで接近したことがある。

しかし地球に近づいて衝突する危険があると考えられるものに限っても9000個以上発見され、

全体では何十万個も存在する小惑星に対して、彗星の数は3000個余りとずっと少ない。

映画のように地球のすぐ横を彗星が通過するのは、

「可能性がゼロではないが、リアリスティックではない」と渡部教授は話す。

 

 では過去に彗星が地球に衝突したことがないかとなると、よくわかっていない。

古いクレーターなどを調べても、隕石と彗星の核に含まれる岩石との成分の違いを明確に区別し、

衝突したのが彗星かどうか判定するのは難しいからだ。

1908年にシベリア・ツングースカ川の上空で爆発した小天体は彗星だと考える研究者もいるが、

現在は隕石が有力視されている。

映画ではもとから存在する糸守湖は隕石の衝突でできた「隕石湖」とされるが、

こうした事情を踏まえているのかもしれない。

 

 映画では、もとの糸守湖も同じ彗星から分裂した破片が衝突してできた可能性が暗示されている。

同じ彗星から分裂した破片が、地球の同じ場所に衝突する確率となると、

分母はまさに天文学的な数字になる。

あくまで、物語を成立させるための方便と考えた方がよさそうだ。

 

(科学技術部シニア・エディター 小玉祥司)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本経済新聞

 

 

 

 

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