おとぎ話みたい 
  
最近は日本映画の女性監督の作品を少しマメに見ている。かつては大手の映画会社が撮る作品は35ミリのフィルム撮影。その現場を仕切る映画監督は、大勢のスタッフ・キャストを従えていかなければならない度量や胆力が必要だったはず。世界的な“巨匠”の黒澤明や溝口健二らには、その監督としての傲慢ぶりのエピソードを今に残している。

つまり映画製作の中心人物たる映画監督に女性が進出することは、日本映画においては極めて稀なことだったわけで、女優・田中絹代の監督業などはその稀な例でしょう。

それが8ミリフィルムの自主製作から、いまやデジタル映像による撮影・編集の時代です。大掛かりな機材も大人数のスタッフがいなくても映画は撮れるわけで、そこに女性を含めた新たな才能が生まれてくる。そんな注目の監督のひとりが、愛知県出身の山戸結希

今回は刈谷市出身の山戸監督の『おとぎ話みたい』を、特集上映していた刈谷日劇で平日の朝一番に見てきた。劇場で追加印刷しただろうチラシコピーには「刈谷市でクライマックスを撮影した映画が、刈谷日劇で3/14(土)~凱旋上映!」「依佐美中学校生
多数出演!春休みに観よう!」
と、ローカルな情報も盛り込まれている。観客は二十歳前後の男性2名と私です。刈谷日劇スクリーン1(10時からの初回上映で1,000円)。

おとぎ話みたい 

この映画『おとぎ話みたい』は、“MOOSIC LAB”という若手監督と新進アーティストを組み合わせた音楽映画を制作公開するプロジェクトの作品で、全編は「おとぎ話」というアーティストの楽曲に彩られている。映画作品として51分、その後に5分弱の山戸監督が製作したミュージック・ビデオの上映という構成でした。(ビデオ映像は添えます)

映画本編のストーリー。田舎の高校に通う主人公の高崎しほ(趣里)は、卒業後は東京に出てダンサーになろうと考えている。そんな“とんがった”考えを持っている彼女は、自分と同じように“文化”を考えている社会科の教師・新見(岡部尚)に出会うと、
すぐに好きになる。同じような考えを持つ二人は、当然惹かれ合っていると考える彼女の一途さ、思い込みの強さ。しかし、ささいな諍いから、しほは新見先生に激しい侮蔑の言葉を投げかける。恋は終わったようだが、本当に始まっていたのか。

おとぎ話みたい 
 
映画本編は彼女の新見先生に抱く恋心を描くドラマ部分と、4人バンドの「おとぎ話」のライブ映像が並行して織りなされている。主人公のしほは「おとぎ話」のライブ・ステージでダンス・パフォーマンスを見せているが、印象的にはバンドの楽曲がメインです。

そういう意味では、本編は映画作品ではありますが、やはり「ミュージック・ビデオ的」と感じてしまうアナログ世代の映画好きオヤジです。主人公のしほを演じていたのは、山本政志監督の『水の声を聞く』にも出ていた趣里。役柄の印象は異なりますが、特徴のある名ですぐに思い出しました。本編の“とんがった”少女役はインパクトがあります。

モノトーンの映像を織り込んだり、大胆なアングルやカッティングを施した映像で物語を進めます。泣いているのが少女ではなく教師というエンディングの切れ味、そのビターな味わいは実にいいです。さらに上映時間の長い映画作品を、山戸監督が発表できることを願っています。私の娘と“同い年”の山戸監督の作品、また見たいものです。

 (2013年、監督・脚本/山戸結希、音楽/おとぎ話、撮影/今井孝博、編集/平井健一、51分)
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