【石井紘人コラム】開幕へ 最高の準備と一抹の不安
テーマ:コラム 「(宮崎合宿での)鹿島アントラーズのトレーニング見ました?凄いですよね。」
プロフェッショナルレフェリーたち(PR:日本サッカー協会と契約するプロの審判員)とのトレーニングを終えたトップレフェリーインストラクター上川徹氏は、昨シーズン三連覇を果たした鹿島のトレーニングのハードさに感嘆の声をあげたが、PRたちのトレーニングもそれに負けない素晴らしいものだった。
宮崎で行われるPR合宿を取材してもう三年目になる。
そこで行われるトレーニングで重要になるのが、地元の高校生の協力をえて、試合で想定される様々な場面を作り、ゲームフリーズなどで判断力の向上を計るプラクティカルトレーニングだ。
三年前に行われたプラクティカルトレーニングは、インストラクターが上川氏一人だったため、厳しい空気というのを作りきれていなかった。そこにあったのは‘審判チーム’という一つのチームを一人で見るのは不可能という答えでもあった。
その反省をふまえてか、昨年は新たに小幡真一郎チーフレフェリーインストラクターも加わった。しかし、分担してトレーニングを行えるようになったものの、プラクティカルトレーニングを消化しきれていない印象を受けた。また、副審との関係性は詰めきれておらず、シーズンに向けての不安要素が垣間見れた。
そして、今年。そこで行われていたトレーニングは、選手やチーム関係者、さらにサポーターが見ても、充分に‘受け入れられる(納得できる)’トレーニングだった。
各インストラクターの声が飛び交うピッチに作られた三つのブロック。一つ目は毎年行われるCKでの判定をマンマネジメントを含め小幡氏が担当。二つ目が、ドイツW杯3位決定戦の副審を経て、新たにトップレフェリーインストラクターになった廣嶋禎数氏がコーチングする「最も主審から見えづらい位置」(上川氏)での副審と主審のトレーニング。廣嶋氏は「責任を持って旗を上げろ」と副審に厳しい激を飛ばし、副審のボールに対する体の向きを指摘するなど細かい修正を加えた。また、練習中のディスカッションでは主審から「警告に値するプレーなら主審の判断を待たず旗をあげて欲しい」という声が上がるなど互いに最確認を行った。これは昨年見られなかった光景だ。
そして、最後の三つ目のブロックで、審判にとって最も重要な、「攻撃がスピードアップし、なおかつゴールに直結するペナルティエリア付近での判定」をハーフウェーラインから上川氏が。イングランドから招聘されたアラン・ウィルキー氏が左から判定をチェックする。今年は、このトレーニングに副審も参加した。トレーニングだろうとも、副審が旗を上げ、PKをとる場面もしばしば。判定後には上川氏、ウィルキー氏がどうしてその判定になったのかを主審に問う。そこに副審も加わり、検証が行われる。答えられないような曖昧な判定では選手に迷惑をかけてしまうからだ。そういったシビアな状況で、PRは自分の判定を突き詰めていく。
昨シーズン、審判とチーム関係者・選手の溝が埋まったとは言いがたい。
天皇杯4回戦・鹿島対神戸戦後、オリヴェイラ監督は「最後にひとつだけ言いたい」と訴えるように話始めた。「開幕前のルール講習会で『肘打ち、悪質なプレー、ホールディング、プッシングを撲滅する』と言っているのにもかかわらず、それが実行されているとは思えない。できないのならば、最初から言わなければいい。」
その言葉を審判団は重く受け止めている。プラクティカルトレーニングでインストラクターたちがホールディングのプレーをフリーズして全審判員に振り返らせるなど、徹底して追求していたのが物語っている。
もちろん、シーズンに向け不安がない訳ではない。昨シーズンを持って穴沢努氏、山西博文氏というトップレベルのパフォーマンスをみせていた主審が引退した。その穴を埋めるため、新たにJ1担当主審に若手の審判員たちが割り当てられる。
J1担当になる若手審判員たちの技術やフィジカルになんら不安はない。J2でも安定したレフェリングを見せているし、大きなミスを犯したこともない。ただ、逆に大きなミスを犯したことがないことに不安もある。
昨シーズン素晴らしいレフェリングを見せた佐藤隆治氏は一昨シーズンのJ1初年度は誤審で紙面を賑わせてしまった。どんな審判もミスを乗り越え、その経験を糧にタフになっていく。トップレフェリーフィジカルトレーナーの山岸昂司氏は言う。「審判は体力だけでなく、体力を支えるメンタルなど経験が重要になる」と。そういったこともあり、52歳の岡田正義氏は重宝されている。この経験だけはトレーニングではどうにもできないからだ。
おそらく新たにJ1に上がる若き審判員たちにとって難しいシーンが訪れるはずだ。それは回避不可能なものだと私は思っているし、どれくらいの問題になるかは、どのシーンでミスをしてしまうかによるため誰しもが想像できない。
審判団がJの開幕以降、最高の準備ができたのは間違いない。そのことへの期待と新たな顔ぶれに一抹の不安を覚えながらも、今シーズンこそ、毎試合後、選手と審判がすがすがしい気持ちで握手する光景を期待したい。

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