J1第34節 浦和vs鹿島 柏原主審評
テーマ:審判レポート■主審:柏原丈二
採点:3
埼玉高速鉄道、東川口駅で電車が止まると、赤いユニホームの波が電車に押し寄せてきた。時計を見ると14時20分。
キックオフまでまだ1時間以上あるのに、電車のなかからフットボールの匂いが漂ってくる。この期待感は、試合後、どちらかのチームでは失望感に変わってしまうのがさだめ。
そんなビックマッチを取材できるという責任を持ちつつも、この試合を担当する審判団のことを考えずにはいられなかった。
「どんな結果になれ、どちらかから大ブーイングをうけるシーンは絶対あるだろうな」と。
スタジアムに入るとそこは‘夢の劇場’。
コンコースは映画館に入るまでの道のりのようで、売店に並ぶ老若男女は、開演を心待ちにしている。おいしそうなつまみとビール片手に談笑している姿はイングランドで見た光景となんらかわらない。
しかし、スタンドに上がると空気は一変。サポーター同士の戦いが始まっていた。
「‘さとうきびを食べながら笛は吹けない’川崎のことを考えながら、この試合のことも考えるのは無理です。川崎の情報は入れないよいにし、浦和戦のことだけ考えさせた。」(オリヴェイラ監督)
鹿島は決勝戦という位置づけでこの一戦に望んでいる。
対する浦和は5万人のサポーターの「目の前で優勝されたくない。特に鹿島には。」という思いを背負って試合に臨む。
‘絶対に負けられない戦い’なのだという空気が張り詰めた緊張感を作り、それが非日常的な高揚感を生んでいた。
J2降格、J1昇格がかかった試合はチームに関わる全ての人たちにとって重要な一戦だが、ヤマザキナビスコ杯決勝や天皇杯決勝は日本サッカーにとっても重要である。
それは、最高峰の試合で、これからの選手たちや指導者たちに勉強させるというトップレベルとしての責任もある。
そして、今日の試合はそんな2009シーズン最高峰の試合のひとつ。
NHKでの生中継もあり、各局が女子アナウンサーを記者席に派遣し、試合の隅々を報道する。
そんな難しい試合の主審に任命されたのは柏原丈二だった。
強面の柏原だが、話をした印象は長谷川健太氏に近い。非常に論理的で、しっかりと話ができる。自分のスタイルを持ちつつも、それを相手に伝えることが出来るため、「判定を聞きにいったら‘私の位置からはノーファウルに見えた’と答えてくれたんで、まぁすっきりしています」と柏原に好感を持つ選手もいる。
上川徹トップレフェリーインストラクターと同期。開幕前には「コンディションをしっかりと整えて、選手のために走りたい」と語っていた柏原が、ビックマッチの始まりを告げる笛を吹いた。
最初のファウルは44秒、ひっかけた田中に対して。1分には興梠のハンドを見逃さずしっかりととる。5分、マルキーニョスがぶつかって倒れるがノーファウル。これはマルキーニョス自身が自分からぶつかりにいったため妥当な判定だ。
15分の内田へのチャージはボールに対してということでノーファウル。17分にも、野沢がキッキングのような格好となるが、柏原主審は‘ボールにいっている’というジェスチャーを出しノーファウルに。非常にわかりやすかった。
21分には体に競りにいった山田直のファウル。
22分の伊野波の競り合いも妥当だが、この判定にオリヴェイラ監督が興奮。柏原主審はここで冷静にオリヴェイラ監督とコミュニケーションをとり、判定の説明をする。非常にクールな判断だった。
このように立ち上がりから選手とコミュニケーションをとり、試合をコントロールする。もちろん、時には厳しい表情を見せ、選手を突き放すなど、異議が多くなりすぎないようにマンマネジメントする。
柏原主審はいつも通り、ボールにいっていれば流し、足に入った場合はしっかりととるという基準で試合を進めていく。
30分にはハンドした新井場のファウルを副審が見逃さずしっかりととり警告を与える。
31分には、本山へのファウルで、本山が苛ついた素振りを見せるとすぐに駆け寄り、選手同士に握手をさせ、荒れない雰囲気を作った。
44分、原口のシュートのワンタッチを見抜けず、CKではなくGKに。スタジアムのオーロラビジョンにうつったためにスタジアム全体にミスがみえてしまった。
さらに45分には、田中とのフィジカルコンタクトに伊野波が競り勝ち、ルーズボールを拾おうとした所で、倒れた田中の足が伊野波にかかる。鹿島側は意図的だと猛講義するが、これはフィフティフィフティのギリギリ裁量内の判定だろう。
50分、少し遅れたが副審が興梠をしっかりとる。
54分、裏からスライディングタックルする格好になった山田直に警告。
58分の田中が引っ張ってファウルとなったシーンも妥当だ。
63分、後方からスライディングタックルした鈴木に警告。
69分、ダニーロの両足タックルに警告。
78分、高原がPA内で倒れるが、ボールに対してプレーしたということでノーファウル。PKをとる主審もいるだろうが、今日の基準、さらにPA内での基準はよりタフでノーファウルということだろう。
同じく、新井場の手にボールが当たったシーンも、PA内での基準、さらに意図的ではないという判定。
ロスタイムにポンテからのボールで闘莉王がつぶされたシーンもギリギリの判定だ。
浦和側からは鹿島よりの判定に見えただろうが、それは大きな判定が浦和側に多かったからで、けっして偏っていたとは思わない。微妙な判定もいくつかあったため、「今日の審判良かったなぁ」とはいわれないだろうが、熱くなる両チームをカードではなくコミュニケーションで収めたというのを忘れてはいけない(主審が選手を熱くしたというかもしれないが)。
この試合を妥当に終わらせたことにたいして拍手がなければ審判文化は生まれない。
あと、第四審判を包めた高山啓義氏に、第四審判として採点:4を与えたい。両監督とのコミュニケーションのとり方が素晴らしく、まさに審判チームとして動いていた。
最後に、25分に興梠が坪井のボールにチャレンジをした時に、興梠の足が少し坪井に入った。もちろん、ボールと共にで、まったく悪質さはなくアクシデントだったため、ノーファウルだし、坪井も一瞬気にかけてプレーに戻ろうとした。
すると、興梠はスローインしようとする鹿島選手にプレーを止めるのを促し、主審に足がちょっと入りましたとジェスチャーで伝え、坪井を気遣うように求める。これに主審も答え、試合を止め、坪井もありがとうというしぐさで自分の足を確認する。
そして、坪井が少し伸ばし大丈夫と確認すると、柏原主審が興梠と坪井の腰を叩いて試合は再開した。
試合終了間際に、演技で倒れ、ボールを外に出し、そのボールを相手チームに返す流れはフェアプレーなのか。
0-0という拮抗したなかで、興梠が見せた対応に、フェアプレーとはなにかと考えずにはいられなかった。
~採点基準~
5:彼なしに試合はありえなかった
4:普通に試合を終わらせた
3:ミスにも見えるシーンがあったが、試合に影響はなかった
2:ミスがあり、試合に影響した可能性もあり、微妙な観がある
1:ミスから試合の流れを変えてしまった
0:試合を壊してしまった

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