内戦を激化させる「紛争の木材」
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石 弘之
コンゴ民主共和国(旧ザイール)東部の森林地帯の道端に、伐採したばかりらしい大木が積み上げられていた(写真)。車から降りて写真を撮っていたら、物陰から現れた数人の男にパンガ(山刀)やチェーンソーで威嚇され、あわてて逃げだした。盗伐した木材を運び出していた現場に、たまたま出くわしたのだ。
今年3月にイギリスのダービーシャーで開催された主要先進国環境・開発大臣会合で、気候変動とともにアフリカの違法伐採がはじめて主要な議題になった。それほどアフリカの違法伐採に、国際的な関心が集まっている。これらの木材が闇ルートを通して、反政府活動やテロや犯罪集団の資金源になっている、とする懸念が高まっているからだ。
5月に発表された世界自然保護基金(WWF)の報告書によると、アフリカではすでに本来の熱帯林の85%失われたという(写真)。国連食糧農業機関(FAO)の「世界森林白書」の05年版によると、90-00年の11年間だけで、アフリカでは日本の面積の1.4倍にもなる5千200万㌶の森林が破壊された。これは、同時期の世界の森林破壊の56%に相当する。この破壊面積の半分は、スーダン、ザンビア、コンゴ民主共和国、ナイジェリアの4ヵ国で占められている。
伐採された木材の半分以上が、違法なものであると推定されている。
アナン国連事務総長が03年に、ジュネーブで開催した「国連森林フォーラム」に提出した報告書によると、熱帯林で横行する違法な森林伐採によって、90年代に世界中で日本の面積のほぼ2.5倍に匹敵する94万平方キロの森林が失われたという。
この結果、各国政府が本来得られるはずの税収や木材製品の売却代金など、年50~100億ドル(約1兆1000億円)の経済損失を出したと推定している。このうち、アフリカがほぼ6割を占めている。
世界銀行の「森林保全戦略」(02年)のよると、ガーナだけで年間3千750万ドル(約41億2500円)、ガボンでは1千10万ドル(約11億1000万円)にものぼるという。
このアフリカの違法伐採の背後にあるのは、紛争や国内の混乱である。反政府組織やテロ・犯罪集団の資金稼ぎのために木材が違法に伐採され、他方で独裁政権や政府や軍の有力者の懐を潤してきた。それが政治の腐敗を蔓延させ、それでなくても脆弱な国家財政をさらに圧迫することにもなってきた。
アフリカでは、スーダンを筆頭に、コンゴ民主共和国、アンゴラ、ウガンダ、シエラレオネなど、独立以来、国内紛争が断続的につづいて国は少なくない。
冷戦時代には、米ソ両陣営から軍事援助があったが、冷戦終結後にもつづいている最大の理由は、木材、ダイヤモンド、石油などの資源から得られる資金が紛争を支えていることにある。とくに、採掘や精錬の手間がかからず、伐採してそのまま売れる木材は、紛争当事者、犯罪集団、武器商人にとって格好の資金源にもなってきた。
政府あるいは反政府勢力は、自分たちの勢力に味方する組織に対して、その見返りとして自分の勢力圏内の森林伐採の許可を与えるか黙認する。世界的に熱帯の硬材は資源枯渇から高騰しており木材は高値で売れるので、武器などの必要な物資が調達できる。
違法伐採の特集を組んだ仏ル・モンド紙によると、違法伐採には木材を仲介する業者がいて、森林資源に恵まれた熱帯地方では、木材の闇取引のネットワークが張りめぐらされている。ウガンダ、ルワンダ、ジンバブエなどには、違法伐採された木材は武器商人が流通を握っており、コンゴ民主共和国では、100以上の個人と企業が闇ルート群がっているという。
90年にはじまったシエラレオネの内戦は、01年の終結までに20万人が殺害され、100万人が家を失った。乳幼児死亡率、平均寿命、教育水準、個人所得などどれをとっても世界の最低水準にある最貧国であり、本来ならば紛争が10年以上もつづく余力はないはずだ。だが、高品質のダイヤモンドと木材の産出国であり、この横流しが政府・反政府両勢力の軍資金になった。
隣国のリベリアは、シエラレオネの反政府勢力に武器弾薬を提供して、紛争を長期化、複雑化させる元凶ともなった。この引き換えにリベリアが受け取ったのはダイヤモンドと木材だった。このダイヤモンドは、そのまま市場に流れると価格が下落することにもなり、それを恐れた国際ダイヤモンド・シンジケートが買い取っていた。
国連は資金源を断つ目的でこれらの禁輸措置をとったが、あまり効果はなかった。リベリアのテイラー大統領(当時)はこの禁輸措置を無視して、ダイヤモンドや木材から得た資金と武器を、今度は近隣のコートジボワールの反政府勢力に提供して、紛争を煽り立てた。西アフリカでもっとも政治的に安定していたコートジボワールは、2002年以後泥沼の内戦に引きずり込まれた。
こうした違法木材は「紛争の木材」と呼ばれている。02年に国連で「天然資源の不法開発に関する国連専門家グループ」が発表した「コンゴ民主共和国における天然資源の不法開発に関する調査報告」でこの表現が使われて以来、定着してきた。「政府軍、反政府軍、または武力紛争に関与する武装集団によって商取引の対象とされ、かつ紛争を長引かせ、もしくは個人的利益のために利用される木材」と定義されている。
ただ、こんな皮肉な例も報告されている。ウガンダでは、反政府勢力や紛争に介入している近隣諸国の政府軍などによって大量の伐採された結果、木材価格が98年から03年の間に半値にまで下落してしまった。
こうした違法な木材の流通は、一義的には輸出国の側に責任があるが、輸入側の先進国も目をつぶってきた、という批判も国際的に高まっている。
武器の密売や紛争に明らかに関与しているとみられる会社から、木材を買い続けている先進国の企業もある。国際環境保護団体のグリーンピースは昨年6月に「スイスに本社のある大手の木材会社ダンツァー・グループが、アフリカの高官に賄賂をわたして違法木材を輸入している」とその取引の詳細を公表した。
カメルーンでも、フランスの大手伐採企業4社とイタリアの伐採企業1社が違法伐採に関わっていたことが、グリーンピースがカメルーン政府から入手した文書によって明らかにされた。この5社で、カメルーンの森林の34%の伐採権を握っている。
伐採現場に住む住民は大きな影響を被っている。合法、違法にせよ、森林伐採権が設定された森林には立ち入りができなくなる。生活の場であった森林から追い立てられた住民は、生活必需品の木材や薪や薬草などの入手ができなくなる。しかも、森林が広範囲に破壊されると洪水や干ばつなどの自然災害が増え、その被害は住民に及ぶ。
リベリアでは、大手木材会社オリエンタル・ティンバー社(OTC)が大統領に多額の賄賂を贈って、伐採地を2500人もの私兵で固めわがもの顔で違法伐採とつづけてきた。困り果てた住民が2003年に同社を告訴したが敗訴に終わった。
国連安全保障理事会は2003年、リベリアからの木材輸入を全面的に禁止する勧告を採択した。また、専門家グループによる報告を受けたコンゴ民主共和国にも輸出禁止が勧告され、取引に関与した企業の資産が差し押さえられ、賄賂を受け取った公務員が停職処分となった。しかし、多くの勧告は現実には死文化して、効果はほとんどなかった。
これらの違法木材をもっとも輸入している欧州連合(EU)は、04年7月に違法木材取引を阻止するために一連の包括的措置を採択した。違法伐採が激しい木材生産国と協定を結んで、合法的な木材だけが輸入されるための保証措置である。
だが、EUはこれまでも繰り返し違法取引阻止の対策をとってきたがあまり効果がなく、今回の措置の実効性についても環境保護団体からは疑問の声がでている。業を煮やしたグリ―ンピースは、アフリカ産木材を積んだ貨物船を海上で占拠する、といった強硬手段に訴えている。
現実に、アフリカの森林の違法伐採を監視する国家の体制は皆無にひとしい。まして、取り締まりの当事者である政府や軍が関わっている場合には、不可能に近い。悲しい現実だが、内戦や紛争や汚職がつづく限り、違法な伐採と木材取引もつづくことになるだろう。
(この記事は「グリーンパワー誌」に掲載したものを再録したものです)






