Isanan の駄文ブログ

… 自作小説(?)やら何やらの駄文を、気が向いたときにだらだらと書き連ねて行くブログです


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「良いわよ。どうぞ入って」

 レナが答えると、シャリーンはそっとドアを開けおずおずと部屋に足を踏み入れた。ア
シュウィンがいるのに気付き、少し驚いた顔をする。

「あ……、もしかして、お邪魔だったでしょうか?」

「いーえ、全然! それより、どうしたの?」

 シャリーンは無言のまま立ち尽くし、しばらくどう切り出せば良いものか悩んでいるよ
うだったが、やおら頭を深く下げ、彼女にしては大きな声を出した。

「あの、さっきはごめんなさい! 私ったら、お客様の前であんな態度をとってしまって
……」

「な……、何言ってるのよ。気にしないで」

 レナがそう声をかけたが、シャリーンはもう、まるで今にも泣き出しそうなほどに見え
た。

「こちらからお招きしたのに、せっかくの晩餐を台無しにしてしまって、本当に何とお詫
びをしたら良いものか、私、私……」

「もう、本当に気にしないでったら。悪いのは、全部そこにいるバカのせいなんだからっ!」

 そう言ってレナはアシュウィンを指差した。指されたアシュウィンは左右を見回して、
そして該当するのが自分しか見当たらないのを確認すると、今度は窓の外を覗いた。

「このっ……!」

 ぬいぐるみを投げつけようとレナが振りかぶる。そのときシャリーンは二人のそんな様
子を見て、しばし呆然とし、それから、くすりと小さく笑い声をもらした。

 レナは軽く息をつき、投げるのをやめた。そしてベッドの上で腰をずらして、自分の横
にも座れる場所を空ける。

「どう、シャリーン? せっかくだから、ここで少し話でもしていかない?」

 シャリーンはまた表情を固くし、この誘いにとまどう風を見せた。だがやがて遠慮がち
に歩み寄って、自分もレナの横に腰を下ろした。しかし顔を伏せ、黙ったままだ。レナの
方から声をかける。

「シャリーン、謝ったりなんかしないで。こっちは、こんな良いお屋敷に泊めてもらって
晩餐にまで呼んでもらって、もうあなたには、感謝の気持ちでいっぱいなんだからっ」

 だがシャリーンの沈黙は変わらない。レナは続けた。

「だって、本当だったらあたし達今ごろ、野宿してたはずなのよ? それがこうしてベッ
ドの上でのんびりくつろいでいられるのも、ぜーーんぶ、あなたがあのとき、わからず屋
のあの門番をとりなしてくれたお蔭で……」

 唐突に、そのときシャリーンが口を開いた。

「あのっ、……私がお二人をお通ししたのは、わけがあるんです。レナさん、わりと良い
ものを着てられるでしょう? それで、何か失礼があったらまずいのでは、と思って……」

 シャリーンはそう言って一瞬顔を上げレナを見つめ、またすぐに俯いた。

「ごめんなさい。……私、里の人達ほど純真じゃないんです」 

 そして再び無言に戻る。確かにレナが身につけているものは、一見すると地味で簡素に
見えたが、実際には素材も作りもかなり良く、手に入れようとすればそれなりに値が張る
ものだった。レナは、自分の素性を見透かされた気がした。

 ――このような辺境の地においては国境は密には接しておらず、ナメアカ庄は歴史的に
はラーナティアの支配下であったり、また別の隣国の領土だったこともあるが、現在はな
かば独立領の立場にあった。それは土地の規模の小ささと、政治的な重要さの無さの表れ
だったが、何にせよ今、ラーナティアの王族であるという、自らの身分を明らかにするの
はレナの本意ではなかった。

 そんな事情と、シャリーンの言葉が意外だったこともあって、レナはどう返事をすれば
良いかわからずにいた。部屋の中に、重苦しい沈黙だけが続く。必死に次の言葉を探した
が見つからなくて、レナは気まずさに耐えかね、ただ闇雲に膝の上に置いたぬいぐるみを
揉み潰した。

 沈黙を破ったのは、シャリーンの方だった。

「……そのぬいぐるみ、大事なものなんですね」

「え?」

 レナがシャリーンに目を向ける。彼女は相変わらず俯いたままだったが、その視線はレ
ナのぬいぐるみにそそがれていた。

「だって、そんなぼろぼろになっても取ってあるんですもの。レナさんにとって、大事な
ものなんでしょう?」

「う、うん……」

 レナも目を落とし、自分の手もとのぬいぐるみを見つめた。

「これは……、私には、お母様の形見みたいなものだから」

「え……。では、レナさんのお母様は……」

「うん……。まあ、亡くなったのは、もうずっと前のことなんだけどね。私がまだ小さか
った頃の話よ。……他にも形見になるものはたくさんあるし、もっと高価なものもあるん
だけど、これだけはどうしても手放せないのよね。不思議ね。何でだろう?」

 そこで一度言葉が途切れて、もの思いに沈み独り言のようにレナは続けた。

「……きっと、これには特別に思い出が詰まってるって。そう感じてるのかもしれない。
自分でもわからない、心のどこかで……」

「そうだったんですか……」

 またしばらく沈黙が続き、それから、シャリーンはつぶやくように言った。

「私も、母を亡くしてるんです。レナさんと、同じですね」

「……シャリーン、あなたのお母様って、あの肖像画の?」

 シャリーンは小さくうなずいた。

「そうです。あれが、私の知る唯一の母の顔です。私、母の思い出がないんです。私を生
むと同時に、母は亡くなりましたから。……嵐のなか迷い込んだ森の中で、母は息を引き
取ったんです。そこで一人で、私を産み落として」



(続く)

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