Isanan の駄文ブログ

… 自作小説(?)やら何やらの駄文を、気が向いたときにだらだらと書き連ねて行くブログです


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 臨月を間もなくに控えたシャリーンの母は、近隣の集落にたまたま名医が逗留している
とのことで、伴を連れてその地を訪れていた。診察は問題なく済み、ナメアカ庄へ引き返
そうとしたのだが、そこで天候不順のせいで思わぬ長居を強いられることになった。

 そのまま出産の時までその地に留まることも考えられたが、件の名医はすでに他の土地
へと去っており、やはり住み慣れた緑篭館へ戻るのが最善と思われた。彼女の体調にも変
化は見られず、一行は天候が充分に回復したときを見計らって、ナメアカ庄に向け出発し
た。

 当初は順調に進むことができた。しかしまた徐々に空模様が怪しくなり出していた。一
行は可能な限り歩を速めたが、風は強まり、小雨が降り始めた。そして逆側から来た者か
ら、最近の悪天候により、この先の道の状態がかなり悪いとの情報がもたらされた。

 そこで一行が取った選択は、『生きとしの森』を抜けることだった。人里に出るには、
元の集落に戻るより、それが最短の径路となるはずだった。本来なら、そうすれば日が沈
む前にはナメアカ庄に着ける予定だった。

 伴の一人は森に入らずそのまま先へ行くこととなった。ナメアカ庄側から迎えが来る手
はずだったので、変更を伝え入れ違いを防ぐためだった。その迎えを呼ぶために先に発っ
ていた者や、急な体調不良で来られなかった者があり、シャリーンの母に付き従う伴はあ
と一人しかいなかった。その二人だけで森に入った。

 森に入ってからも、天候はますます悪くなった。普段でも暗い森の中は、いっそうその
影を濃くしていた。しかし付き従った伴は何度かこの森を抜けて集落間を行き来していた
ので、進む方向を間違えない自信はあった。にもかかわらず、彼等はいつの間にか森の中
で自分達の位置を見失ってしまっていた。それはまるで、森自身が突如巨大な迷宮とでも
化したかのようであった。

 風雨は強まり、いよいよ本格的な嵐となり始めていた。先を急ぐしかなかったが、見慣
れぬ風景のなか、いくら進んでもまた元の場所に戻されるようで、森が彼等を閉じ込めて
いるかにすら思えた。そのとき、シャリーンの母に異変が起こった。陣痛が始まったのだ。

 すでにもう夕刻押し迫ろうとしていた。止む無く、シャリーンの母を大木のうろに避難
させ、そこに置き去りにして伴は一人で里に向かった。少なくとも、元来た道にはすぐに
戻れる方へと進んでいるはずだった。嵐の吹き荒れ真っ暗な森の中を、危険を顧みず彼は
全力で進み続けた。だがそれでも、彼が疲労困憊ながらようやくナメアカ庄にたどり着い
たそのときには、もう夜が明けようとするほどに時間が経ってしまっていた。

 ナメアカ庄では、まず迎えに出た者達から予定の時間までには会えていないとの報せが
あり、さらに夜になってシャリーンの母と別れた使いから、すでに森を抜けて里に着いて
いるはずとの連絡がもたらされて、里中が大騒ぎとなっていた。そこに森を抜けてこの伴
が到着し、シャリーンの母が一人で森に残され、しかももう陣痛が始まっていることが伝
えられると、直ちに領主タボンを先頭にした大捜索隊が結成された。

 嵐はいまだにやんでいなかったが、一行は森に入り、懸命の捜索が始まった。だが、里
とシャリーンの母達が森に入った地点との間を隈なく探しても、彼女を見つけることはで
きなかった。二次遭難の可能性もあって闇雲に範囲も広げられず、手がかりもつかめない
まま、また日の落ちる時になろうとしてた。捜索活動も限界に近付いていたが、必死なタ
ボンの姿を見ると、誰も撤収を言い出せずにいた。

 その頃になってようやく、嵐が治まり出した。そして捜索隊の一人が、静寂を取り戻し
始めた森の奥深くから、風に乗って響く赤子の泣き声を耳にした。彼等はそれを頼りに、
その聞こえる方へと向かって進んだ。

 そこで彼等が目にしたのは、巨木のうろの中で、泣きじゃくる生まれたばかりの赤ん坊
と、それを抱くシャリーンの母親の姿だった。だが彼女は、――その胸に赤ん坊を抱き締
めたまま――、すでに事切れ、もう冷たくなっていた。



(続く)
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「良いわよ。どうぞ入って」

 レナが答えると、シャリーンはそっとドアを開けおずおずと部屋に足を踏み入れた。ア
シュウィンがいるのに気付き、少し驚いた顔をする。

「あ……、もしかして、お邪魔だったでしょうか?」

「いーえ、全然! それより、どうしたの?」

 シャリーンは無言のまま立ち尽くし、しばらくどう切り出せば良いものか悩んでいるよ
うだったが、やおら頭を深く下げ、彼女にしては大きな声を出した。

「あの、さっきはごめんなさい! 私ったら、お客様の前であんな態度をとってしまって
……」

「な……、何言ってるのよ。気にしないで」

 レナがそう声をかけたが、シャリーンはもう、まるで今にも泣き出しそうなほどに見え
た。

「こちらからお招きしたのに、せっかくの晩餐を台無しにしてしまって、本当に何とお詫
びをしたら良いものか、私、私……」

「もう、本当に気にしないでったら。悪いのは、全部そこにいるバカのせいなんだからっ!」

 そう言ってレナはアシュウィンを指差した。指されたアシュウィンは左右を見回して、
そして該当するのが自分しか見当たらないのを確認すると、今度は窓の外を覗いた。

「このっ……!」

 ぬいぐるみを投げつけようとレナが振りかぶる。そのときシャリーンは二人のそんな様
子を見て、しばし呆然とし、それから、くすりと小さく笑い声をもらした。

 レナは軽く息をつき、投げるのをやめた。そしてベッドの上で腰をずらして、自分の横
にも座れる場所を空ける。

「どう、シャリーン? せっかくだから、ここで少し話でもしていかない?」

 シャリーンはまた表情を固くし、この誘いにとまどう風を見せた。だがやがて遠慮がち
に歩み寄って、自分もレナの横に腰を下ろした。しかし顔を伏せ、黙ったままだ。レナの
方から声をかける。

「シャリーン、謝ったりなんかしないで。こっちは、こんな良いお屋敷に泊めてもらって
晩餐にまで呼んでもらって、もうあなたには、感謝の気持ちでいっぱいなんだからっ」

 だがシャリーンの沈黙は変わらない。レナは続けた。

「だって、本当だったらあたし達今ごろ、野宿してたはずなのよ? それがこうしてベッ
ドの上でのんびりくつろいでいられるのも、ぜーーんぶ、あなたがあのとき、わからず屋
のあの門番をとりなしてくれたお蔭で……」

 唐突に、そのときシャリーンが口を開いた。

「あのっ、……私がお二人をお通ししたのは、わけがあるんです。レナさん、わりと良い
ものを着てられるでしょう? それで、何か失礼があったらまずいのでは、と思って……」

 シャリーンはそう言って一瞬顔を上げレナを見つめ、またすぐに俯いた。

「ごめんなさい。……私、里の人達ほど純真じゃないんです」 

 そして再び無言に戻る。確かにレナが身につけているものは、一見すると地味で簡素に
見えたが、実際には素材も作りもかなり良く、手に入れようとすればそれなりに値が張る
ものだった。レナは、自分の素性を見透かされた気がした。

 ――このような辺境の地においては国境は密には接しておらず、ナメアカ庄は歴史的に
はラーナティアの支配下であったり、また別の隣国の領土だったこともあるが、現在はな
かば独立領の立場にあった。それは土地の規模の小ささと、政治的な重要さの無さの表れ
だったが、何にせよ今、ラーナティアの王族であるという、自らの身分を明らかにするの
はレナの本意ではなかった。

 そんな事情と、シャリーンの言葉が意外だったこともあって、レナはどう返事をすれば
良いかわからずにいた。部屋の中に、重苦しい沈黙だけが続く。必死に次の言葉を探した
が見つからなくて、レナは気まずさに耐えかね、ただ闇雲に膝の上に置いたぬいぐるみを
揉み潰した。

 沈黙を破ったのは、シャリーンの方だった。

「……そのぬいぐるみ、大事なものなんですね」

「え?」

 レナがシャリーンに目を向ける。彼女は相変わらず俯いたままだったが、その視線はレ
ナのぬいぐるみにそそがれていた。

「だって、そんなぼろぼろになっても取ってあるんですもの。レナさんにとって、大事な
ものなんでしょう?」

「う、うん……」

 レナも目を落とし、自分の手もとのぬいぐるみを見つめた。

「これは……、私には、お母様の形見みたいなものだから」

「え……。では、レナさんのお母様は……」

「うん……。まあ、亡くなったのは、もうずっと前のことなんだけどね。私がまだ小さか
った頃の話よ。……他にも形見になるものはたくさんあるし、もっと高価なものもあるん
だけど、これだけはどうしても手放せないのよね。不思議ね。何でだろう?」

 そこで一度言葉が途切れて、もの思いに沈み独り言のようにレナは続けた。

「……きっと、これには特別に思い出が詰まってるって。そう感じてるのかもしれない。
自分でもわからない、心のどこかで……」

「そうだったんですか……」

 またしばらく沈黙が続き、それから、シャリーンはつぶやくように言った。

「私も、母を亡くしてるんです。レナさんと、同じですね」

「……シャリーン、あなたのお母様って、あの肖像画の?」

 シャリーンは小さくうなずいた。

「そうです。あれが、私の知る唯一の母の顔です。私、母の思い出がないんです。私を生
むと同時に、母は亡くなりましたから。……嵐のなか迷い込んだ森の中で、母は息を引き
取ったんです。そこで一人で、私を産み落として」



(続く)

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