Isanan の駄文ブログ

… 自作小説(?)やら何やらの駄文を、気が向いたときにだらだらと書き連ねて行くブログです


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 レナの部屋にノックの音が響き、ドアの向こうからアシュウィンの声がした。

「レナさん、入って良いですか?」

「良いわよ」

 戸を開けてアシュウィンが部屋に入ろうとすると、その顔目がけてぬいぐるみが猛然と
飛んできた。

「わわっ! 何するんですか?」

「もう、あんたのせいで、さっきは気まずくなっちゃったじゃないのっ! 何であんなこ
と言うのよ?」

「いや、黙ったきりじゃ、失礼かなと思って……」

「それなら、一生黙ってなさいっ!」

 怒るレナに杖を持たない右手でぬいぐるみを拾い渡すと、アシュウィンは横を通り過ぎ、
窓から外を覗いた。

「窓には鉄格子がかかってて、壁は手がかりも無く返し付き。確かに、危険はなさそうで
すね」

「そう。外はどう? 何か見えるの?」

 レナは立ち上がって、自分も窓のそばに行こうとした。

「いやー、暗闇の中に、あの森がどこまでも広がるばかりです。黒々としてこの館を取り
囲んで、中から歩いて見た以上に不気味な感じがします。レナさんも見ます?」

「良いわよ! カーテン閉めといて」

 きびすを返してレナは戻り、ベッドに腰掛けた。膝を立てて肘を置き、頬杖をつく。

「そんなことより、結局何もわからずじまいだったわね。どう、アッシュ? あんた、少
しくらい謎は解けたの?」

「謎? 何の謎、どの謎ですか?」

「うー、いろいろよ! まず、この地で続発する怪事件の犯人は何者なのか? そして、
それはあたし達を森で襲ったあの昆虫人間と関係あるのか? だとしたらその目的は?」

「ふーむ……」

「それに、まだあのとき、連中が突然退いた理由や、あの聞こえた音の正体も、不明のま
まよね」

「……そうですねぇ」

「でも、あたしが何より気になるのは、あの二人のこと。どういうことなの? 領主の娘
のシャリーンと、森の中で会ったユマが、同じ顔をしてるなんて! 二人の間には、いっ
たい……」

 レナは急に言葉を止めた。アシュウィンが口元に指を立てて、静かにするよう促してい
た。少しして、部屋にまたノックの音が響いた。

「あの、すみません。……入っても、よろしいですか?」

 そのか細い声は、シャリーンのものだった。



(続く)

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 晩餐が終わり、アシュウィンとレナの二人は使用人の案内で今晩泊まる客人用の部屋へ
と向かった。その途中、階段の踊り場に懸けられた肖像画がレナの目を引いた。

 それらは歴代領主を描いたもののようだった。そのうち真中の二枚は、他より大きくま
た新しかった。一枚はごく最近のもののようで、タボンとシャリーンが描かれている。そ
の隣りの一枚はもう少し古くて、若き日のタボンと思われる青年と、同じ年頃の女性が並
んで立つ絵だった。その女性には、シャリーンとよく似た面影があった。

「アシュウィン様、そちらではございませんよ」

 突然の使用人の声にレナが振り向くと、アシュウィンが階下で何やらごそごそとうろつ
いているところだった。

「アッシュ、あんた何やってんのよ?」

「いや、この辺の部屋は随分年期が入って見えるけど、いったい何の部屋なのかな~、と
思って……」

「おっしゃる通り、大変古いものでございますな。この館の一階部分などは創建当初より
ほとんど手が加えられてないと伝えられておりますが、ではいつ頃建てられたかと言えば、
記録が無いのでわからない、という程の古さですから。ただ古くていろいろ使い勝手も悪
いので、今では大抵物置代わりとなっております」

「へーえ。……地下もあるみたいですけど」

「地下となると内壁も崩れかけでいささか危ないので、立ち入り禁止でございます。古く
て危ないと申しましても、お客様の部屋は心配ございませんよ。見ての通り昔の土台の上
に増築を重ねてまして、上の方ほど新しくまた過ごしやすくなっておりますが、土台自体
はしっかりしていますし、客室は最上階にありますので」

「ふーん……」

 建て増しを繰り返したと言うだけに、館の構造はなかなか複雑そうだった。使用人に促
されて階段を上がりながらも、アシュウィンは質問を続けた。

「あの、さっきのゲックとか言う人は、ここには泊まってないんですか?」

「はい。今は宿屋が兵舎代わりになってまして、傭兵の方々は皆そちらにおられます。先
程は突然のことでこちらの対応も悪く、お客様を不愉快にさせ大変に失礼しました。申し
訳ございません」

「いえ、別に気にしてないので、どうかお構いなく。でもすると、タボンさん、シャリー
ンさん以外は、いるのは僕らだけですか?」

「ええ、そうなのですとも!」

 この問いかけに、思わぬほど強い調子で使用人は答えた。

「実は前に、最近いろいろと物騒なこともありましたので、『警備用に傭兵を何人か館に
置いては?』と申し上げたことがあるのです。ところがタボン様は、『あれは領主ではな
く、領民の安全を守るために雇ったのだ!』と拒否されましてな」

「へえ! 立派な人なんですねぇ、タボンさんは」

「全く、もったいないお言葉でございました。あのような方が領主で、我等はまことに恵
まれております」

 アシュウィンの言葉に、使用人は自分のことのように何度も誇らしげにうなずいた。だ
がその様子がふともの憂げに変わる。

「ただ本音を言えば、あの連中にうろつかれて里の者はかなり迷惑しておるのです。でき
れば早く立ち去ってもらえたらありがたいのですが。本当に、こんなことにさえならなけ
れば……」

「こんなこと……、怪事件、いや、連続誘拐事件のことですね?」

 こう聞かれて、使用人はすぐには返事をしなかった。しばらくアシュウィン達を様子を
窺うように見つめてから、彼は口篭もりつつまた口を開いた。

「むむ……。誘拐なのか失踪なのか、ともかくそのことです。何にせよ我等としては、一
刻も早く解決して、そしていなくなった者が無事に帰ってきてほしいと。元の平穏な生活
に戻りたいと。そう願い、祈るばかりです」

「誘拐ではない、可能性もあるんですか?」

 使用人は再び押し黙った。答えて良いものかどうか、躊躇しているようだった。先程よ
り長い沈黙の後、彼はもう一度話し出したが、やはり歯切れは悪く口振りは重たかった。

「さあ、何ぶん今度のことは、我等には窺い知れぬことが多くて……。ただ誘拐だとした
ら、いろいろと合点のいかぬ点があり過ぎるのです。金品の要求があるわけでなし、庄の
外に連れ去った様子もなし。となればそれでいったい、何が目的だと言うのか……」

 そこでいったん言葉を切ると、使用人は周囲に視線を巡らせた。目に見えぬ何かに対し
て、警戒をしているように見えた。そして声を潜めて続ける。

「……これは、里の者達が誰とは無しに口にしておることなのですが、最近起こった一連
のことは全て、森に棲む妖魔の仕業ではないか、と言うのです」

「森の……、妖魔ですか?」

「そうです。あの森で長く眠りに就いていた何かが、遂に目覚めたのではないかと――。
もちろん、ただの噂話です。賊徒が森に侵入したと考える方が、まあ妥当でしょう。ただ、
あの森が普通と違うのも、また事実なのです。何もいないはずなのに、確かに何かがいる
ような……。いや、むしろ、森自体がまるで生きてでもいるかのような……」

 そこまで言ったところで、使用人は足を止めた。客室に着いたのだった。

「さあ、ここがお客様用のお部屋でございます。こちらとあちらの、二部屋をお使いくだ
さい。それと、つい長々と喋ってお客様が不安になるようなくだらないことを申してしま
いましたが、この緑篭館が里で最も堅牢な建物であることはもう間違いありませんので、
安心してお休みになってくださいませ。では、私はこれで」

「あ、ちょっと待ってください。最後に一つだけ」

 立ち去ろうとする使用人をアシュウィンが呼び止めた。

「あの、さっき行方不明は全部森で起きたと聞いたのですけど、そんな森に、何で皆さん
近付くんでしょう? 何か事情でもあるんですか?」

「それは、近隣への用事を済ますのに森の中を抜けないと、どうしても不便なこともある
からです。それに何だかんだ言っても、ずっと慣れ親しんだ場所でもありますし。別にこ
れまでは、今回のように怪異が続発することもありませんでしたからな。我等にとって森
はまだ、やはり恐れとともに、敬いの対象でもあるのです。……たださすがに、好き好ん
でまで入ろうと言うのは庄の中でも、……そうですな、シャリーン様お一人だけですな」



(続く)

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「あー、もう、何なのよ、あいつはーっ! むーかーつーくーっ!」

 席に戻っても怒りが治まらない様子のレナに、タボンが弱り切った様子で声をかけた。

「いや、これは重ね重ね申し訳ありません。我等だけでは連続する怪事件の解決は困難と
判断して、あのような連中を雇ってみたのですが、どうも傭兵というのは柄の良くない性
質の輩が多いようでして。御怒りの程はごもっともですが、どうかここは私に免じてご容
赦ください」

「あ、いえそんな、別にタボンさんに謝ってもらうようなことではないですよ。それに怒っ
てなんか、ぜーんぜんいませんし。ぐぐっ!」

 指でフォークを捻じ曲げながらも、何とかレナは怒りを押し殺したようだ。だが今度は、
シャリーンがタボンに向かい声を挙げた。強い非難の調子が篭もっていた。

「ねえ、お父様、本気ですの? 里の者はまだしも、あんな人達を森に入れるなんて! 
どうか今からでも、考え直していただけませんか?」

 これを聞くとタボンは顔をしかめて唸るようなため息を一つ漏らした、だが無理して普
段の表情に戻ると、気を取り直したようにシャリーンを説き伏せ始めた。

「やれやれ、良いかね、シャリーン? わしとて、したくて許可したわけではないのだ。
だが事ここに至っては、こうする他に仕様があるまい。あの森が怪しいことにもはや疑い
の余地は無いし、敵の正体がわからぬ以上こちらも丸腰で対抗するわけにもいかぬ。とな
れば、ああいう連中の力を借りるしかないだろうが」

「でも怪しくはあっても、まだそうと決まったわけではありません。それにあの人達が森
に入れば、どのような振る舞いに出るかわかったものでないですわ! 私は、絶対に反対
です。緑篭館の主は、森を守るのがその務めではありませんか。それを、自ら森を荒らす
ようなことに許しを出すなど……」

 タボンの表情がまた険しくなり、声も厳しさを増した。

「また、その話か! 森ではなく、庄を守ること、領民の安全を保つこと。そこに、領主
の務めの第一があるのだ。これだけ消息を絶つ者が出て、今まさにそれが脅かされておる
というのに、まさか何もせぬまま黙って見過ごせとでも言う気なのか? シャリーン、森
に肩入れするのは勝手だ。別に古いしきたりを軽んじようとも思わぬ。だがそれにしても、
おまえは何かと森、森と、少し言い過ぎるのではないかね?」

「そんな……」

 タボンとシャリーンの言い合いが続くそのとき、アシュウィンが口を開いた。

「そういえばシャリーンさんは、今日も森に入ってたみたいですね」

 この言葉に場が静まり、シャリーンは恨みがましい視線をアシュウィンに向けた。次の
瞬間、激昂したタボンの怒鳴り声が響いた。

「な、何だとっ! おまえ、また森に行っていたのか? 普段ならいざ知らず、こんなと
きに何を考えておるのだ! 誰も森に近付くなと令を出して、領民一致で事態の解決に当
たろうというこのときに、領主の娘がそれでは示しが付かんだろうがっ。全くその年にも
なって、自覚というものが無いのか!」

 なおも続く叱責の言葉を、シャリーンは唇を噛み締めしばらく俯いて耐えていたが、や
おら席を蹴って立ち上がると、そのまま駆け出すように部屋を出て行ってしまった。タボ
ンは我に返り、息を落ち着けるとぎこちない作り笑いを浮かべた。

「これは……、つい興奮して、お客様に大変お見苦しいところをお見せしてしまいました。
何度も御不快な思いをさせて、真にお赦し願いたい。……いやしかし、どうもあの年頃に
なると、娘の考えることというのは、男親にはさっぱりわからないものでしてな……」

 そして自分も明朝の用意があるので失礼、と言い残し、タボンも部屋を後にした。二人
だけ部屋に残されると、レナはアシュウィンに思い切り肘打ちを食らわした。



(続く)
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