Isanan の駄文ブログ

… 自作小説(?)やら何やらの駄文を、気が向いたときにだらだらと書き連ねて行くブログです


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 二人が通されたのは客人用の部屋のようだった。最近になって使われた形跡もあり、全く
少女一人きりの生活と言うわけでも無さそうだ。レナはベッドに腰かけて、さっさともう片
方の床に入ったアシュウィンに向けて問いかけた。

「ねえ、アッシュ。あんな繊細そうな女の子が一人でこんな場所に住んでいるなんて、やっ
ぱりおかしいと思わない?」

「うーん、どうでしょう。どう見ても図太そうなのに野宿を嫌がる人もいますからね」

 レナは殴りかかろうとしたが、距離が開いていたので手近にあったぬいぐるみを手に取り
投げつけた。それはアシュウィンの顔に当たってぽふっとはねたが、あまり痛手は負わせら
れなかったようだ。

「……そんなことに使うから、ぼろぼろになってこんな熊だか猫だか分からない代物になっ
ちゃうんですよ」

「うるさいわね! さっさと返してよ。それが無いとあたし寝られないんだから!」

 確かにぬいぐるみはいろいろな種類の布が不器用につぎはぎされて、熊にも猫にも、はた
また狸にも見えた。口の部分が大きく開くところを見ると元は手を入れて動かす型の人形だ
ったのかもしれない。アシュウィンはすでに寝床に深く潜り込んでおり手を伸ばすのも面倒
そうだった。彼は口の中でむにゃむにゃと何事か呟いた。するとぬいぐるみがすーっと浮き
上がり、そのままレナの手元まで運ばれて来て落ちた。レナは目を丸くした。

「ええっ! 今の何? 何をしたの?」

「スサクですよ。スサクにやってもらったんです」

 アシュウィンは眠そうに答えた。レナはむしろ興奮気味だった。

「スサクって、風を起こすだけじゃ無くてこう言うこともできるの?」

「小さい物を動かすくらいなら、ね。お金が無くなると、これで見世物をやって路銀を稼い
だりしているんです。種も仕掛けも無いから割と受けますよ」

「へーえ。 ねえ、今やって!」

「もう眠いし、レナさんは何もくれないから駄目です」

 レナは再びぬいぐるみを投げつけようとしたが、結局それは止めて自分もベッドに横にな
った。沈黙が続き、じりじりとランプの芯が焦げる音だけが響いた。しばらくしてまたレナ
が口を開いた。

「……アッシュ。私も、スサクと話をすることって、できないのかな?」

「それは僕に聞いても無駄ですよ。自分でもどうやってスサクと友達になったのか覚えてな
いんですから」

「そうだったわね。あんたは自分が何を探して旅をしているのかも忘れた、おバカさんだっ
たわね。……でも、私の言葉はスサクに通じているの?」

「どうでしょうか。ただ普通は、ジンに願いを聞き届けてもらおうとするのなら、それ相応
の犠牲を払う必要が……」

 アシュウィンはそのまま無言になった。レナは続きを待ったが、何も無いのでぬいぐるみ
を抱き寄せ毛布を肩まで引き上げた。だいぶ経ってからアシュウィンが言った。

「……試しに、やってみたらどうですか。スサクはそこにいます」

 それを聞くと、レナは中空を見つめた。何も無い一点に向けてじっと視線を集中する。そ
して深く息を吐いてから、ゆっくりと紡ぎ出すようにして言葉を続けた。

「……ねえ、スサク、私の声が聞こえてる? もし聞こえているのなら……」

レナの声が部屋の中に広がったが、空気は静まりかえっていた。ただそれは次の言葉を待っ
ているようでもあった。

「……私、もう寝たいから、そこのランプ消しといてくれないかな?」

 ランプの炎はそよぎともせず、何も起こらなかった。しばらく待ってもそのままだ。

「駄目みたいね、残念。ふぁーあ。じゃあ、おやすみ!」

 そう言うとレナは毛布をかぶってしまった。アシュウィンが寝床から体を起こした。

「……ランプは僕が消しておきますよ。おやすみなさい、レナさん」


 夜、アシュウィンは外で木々がざわめくのを聞いた。それは無数の大木が根元から揺さぶ
られているかのような、非常に激しいざわめきだった。まるで猛烈な嵐が森に襲いかかって
でもいるようだ。闇の中で、アシュウィンは窓の方へ目をやった。窓は閉じられ厚い帳が下
ろされている。そこに風の気配は無かった。少女との約束を思い出して、彼は再び目を閉じ
た。


続く
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 しばらく行くと薮は抜けたが、森は深まるばかりだった。日が落ちつつあることもあって
辺りの暗さもまた増していた。しかし風は止むことなく進路を示し続けた。それに従い起伏
を乗り越え進んでいると、出し抜けにアシュウィンとレナは拓けた場所へとたどり着いた。
その一画だけは木が生えておらず中心には丸太で造られた小屋が建っている。もう夕暮れが
押し迫ろうとしていた。

「偉いわ、スサク! よく見つけたわね」

「でも不思議だな、こんな奥深くに小屋があるなんて。誰が住んでいるんでしょう?」

「誰もいなきゃ好都合。入り口を破って占拠するまでよ!」

 その声を聞きつけてか小屋の扉が少し開き、中からアシュウィンとレナの様子を窺う人影
が見えた。

「あら、人がいたのね。あの、すみません。旅の者ですが道に迷ってしまい困っています。
一晩泊めていただくわけにはいかないでしょうか?」

「おとなしく従わないと、この人にどんな目に会わされるか分かったもんじゃ無いですよ」

「ちょっと、何を人聞きの悪いこと言ってるのよ!」

「うわー! お願いです、人助けだと思って泊めてください。じゃないと僕が殺され……」

 レナはアシュウィンにつかみかかり締め上げた。そのとき小屋の扉が完全に開いた。そこ
に立っていたのは、一人の少女だった。少女は驚きと困惑の表情を浮かべて二人を見つめた。

 ***

「……こんなあり合わせの急ごしらえの物しかできなくて、お二人のお口に合うか分かりま
せんけど……」

「わーい。いただきまーす」

「悪いわね。宿ばかりか食事までご馳走になっちゃって」

それは山菜やキノコの入ったスープだった。旺盛な食欲を見せるアシュウィンとレナの姿を
見て、少女は少し微笑んだ。

 二人の頼みを少女は、――年の頃はアシュウィン達よりも少し下だろう、ユマと名乗った
――、快く了承してくれた。別にアシュウィンの脅迫が効いたわけではなく、見知らぬ訪問
者を歓迎してくれている様子だった。ただし泊めるために少女が出した条件は、いささか奇
妙なものだった。

「夜、何があっても、決して気になさらないでください。そして外は覗かないこと」

アシュウィンとレナがこの条件を飲まない理由も無かった。

「ねえ、ユマはこの小屋で一人で生活しているの?」

 食事も終わった頃になって、レナが尋ねた。小屋には他に人の気配は無かった。こんな人
里離れた森の奥深くに少女が一人でいるのは、確かに何とも不思議だった。だがその質問に
対してユマは困ったように下を向いて黙り込んでしまった。

「あ、いや良いのよ、別に。人にはそれぞれ事情があるでしょうし……」

 レナは慌てて取り消した。自身もラーナティアの姫君だと言う、自分の身分を隠しての旅
だ。あまり人のことを詮索する立場でも無かった。

「あの、床の仕度もできましたし、皆さんお疲れでしょうから今日はもうお休みになられた
ら……」

「そうね、そうさせてもらうわ。何から何まで本当に悪いわね」

実際にかなり疲れていたので、結局その日はそれで終わりと言うことになった。


続く
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 深い森の中で少女が一人、大木に身を寄せていた。丈高き木々が鬱蒼と繁って日の光を遮
り、夜かと見まごうほどに暗く影を落とし付けた。湿り気を帯びた空気がそこに満ちて、少
女の体を冷やりと包み込んでいた。

「……もう少し、だから……」

 少女は呟いた。苔むした樹皮に全身を添わせて、あたかも体中で木々の声を聞き言葉を通
じ合わせているようであった。

「もう少ししたら、自由の身に……」

 応えは無く、微かな風のざわめきと遠くの鳥のさえずりだけが響いた。少女の声はただそ
のまま、森の奥底に飲み込まれていくように見えた。だがそれでも、まるで自身が幹と一つ
になるのを望むかのように、少女はいつまでも巨木にか細いその身を委ね続けていた。

 ***

 森の中を薮をかき分けて進む二つの人影があった。一人は少年で左手に杖をつき灰色のフ
ードをかぶり、もう一人は少女で白いマントに長い黒髪を垂らしていた。薮に覆われた道無
き道を難儀しながら進んでいたのだが、少年は立ち止まって少女の方を振り向き一息ついて
から言った。

「これは……、完全に迷いましたね」

「……どう言うこと?」

 少女の返事の声には押し殺した怒りの響きがこもっていた。

「つまり、このままだと今夜は野宿です」

 少女の正拳突きが顔面にめり込み、少年は薮の中に倒れ伏した。フードがはずれ露わにな
った少年の髪は、右側だけ白髪と化していた。

「……い、いきなりいったい何を?」

「冗談じゃないわよ! どうしてあたしが、こんなところで野宿なんかしなきゃならないの?
絶対に嫌っ!」

少年はアシュウィン、少女はレナだった。ラーナティアを出発してから数日が過ぎていた。


 すでに日はだいぶ傾いていた。背丈ほどもある薮で視界も効かず、どこを目指すにしても
進む方向の見当すらつかない。アシュウィンは杖を頼りに立ち上がった。

「レナさんのこの、僕の背中の荷物には、そのための用意もちゃんとしてあるんでしょう?」

「用意はあるけど、心の準備ができてないのよ!」

「そんな身勝手な……」

「うるさいわね! いったい何でこんなことになったと思っているのよ?」

「喉が渇いたから沢に下りたいって、街道をはずれる道を選んだのは誰でしたっけ?」

 レナはぐっと言葉に詰まった。

「い、良いわよ! それならあたしが、意地でも街道へ戻る道を見つけ出してやる!」

そう言ってずんずんと薮の中を突き進み出した。

「ああ、そっちは危ないですよ!」

 いきなり前の薮が切れて、急峻な斜面が現れた。勢いの付いていたレナは止まることがで
きず、足を踏み外した体が中に浮いた。アシュウィンの鋭い声が響いた。

「スサクッ!」

声に呼応するように、突如として風が轟と吹き上げた。それはレナの体を押し戻し、転落を
免れてレナは薮の中に尻餅をついた。

「大丈夫でしたか?」

「……あ、ありがとう」

「いえいえそんな、どういたしまして」

 レナの拳が走り、顎を打ち抜かれてアシュウィンはまた薮の中に倒れ込んだ。

「あんたじゃ無くて、スサクに言ったのよ!」

 スサクは風の属性を持つジンである。ジンとは精霊や魔神とも呼ばれる目には見えない意
思ある存在のことで、人知を超えた力で様々な自然現象を起こし崇拝の対象にも、また畏怖
の的にもなっていた。そしてスサクは、アシュウィンの使役するジンだった。

 レナは腰をおろしたままうつむき深く息を吐いた。

「はーあ、あきらめて覚悟を決めるしか無さそうね」

「それが良いですよ。じゃないと僕の体が……、ん?」

顔を上げてレナが見ると、アシュウィンは中空に視線を向けていた。その目は風の動きを追
っている。かさかさと薮を鳴らして、風が一筋の道を描いていた。

「スサクが何か見つけたようですね。行ってみましょう」


続く
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(あらすじ)

 森の奥深くに迷い込んだアシュウィンとレナはそこで謎の少女と出会う。一方森を抜け出
て着いた集落では、人々が行方不明になる怪事件が相次いでいた。森に潜む妖魔の仕業だと
言う。伝承に逆らい傭兵を雇って森に踏み込もうとする領主。それに反対するその娘は、森
の少女と同じ顔をしていた。……「半身のジン使い」アシュウィンの活躍を描く第二段!


(登場人物)

アシュウィン……忘れてしまった何かを探し、旅を続ける少年。半身のジン使い
レナ……アシュウィンとともに旅をする少女。ラーナティアの姫君
スサク……アシュウィンが使役する風の属性のジン
ユマ……アシュウィンとレナが「生きとしの森」で出会った少女
シャリーン……「緑篭館」の少女。タボンの娘
タボン……「緑篭館」の主。ナメアカ庄の領主
ゲック……タボンに雇われた傭兵達の隊長


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