Isanan の駄文ブログ

… 自作小説(?)やら何やらの駄文を、気が向いたときにだらだらと書き連ねて行くブログです


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 狭い洞窟の中を地下水脈が流れていた。その水面から奇妙な生き物が上がって来た。後に続いて少年も顔を出した。

「もうすぐウパ。」

ウパは言った。ラシオンは大きく息をつきながらそれを聞いた。潜水は得意だったがそれでも限界に近い長さの水路だった。水から出ると疑り深い眼差しでラシオンはウパを見た。ここに来るまでに何度もこの生き物を罠からはずしたり、迷って行ったり来たりを繰り返さねばならなかったからだ。それでも道中は確かに危険であり、信用ならない案内ではあったが助けにはなっていた。

「その先ウパー。」

洞窟はそこで終わり水脈だけが壁に開いた穴から流れ出ていた。その向こうはこちらよりも明るくなっているようだ。ラシオンはぎりぎり通れるくらいのその穴から外に首を覗かせた。

 そこには竪穴、というにはあまりに広大な空間がひろがっていた。高さ、広さからすると島の中心部がすっかり空洞と化しているかのようだった。壁面からは地下水脈が幾つも流れ出し、細い滝となって底に広がる巨大な地底湖に落ち込んでいる。壁はこれまでと同じように木の根のようなものが絡み合うことで作られ、全体にぼんやりと発光していた。その一部に半円形に大きく張り出した所があった。壁側はえぐれ合わせてちょうど丸い広間を構成している。そこからは人が一人通れるほどの幅の一本橋が伸びていて、反対側の壁面につながっていた。その部分に開いている洞窟がこの空間の本来ただ一つの出入り口のようだった。ラシオンの顔を出した穴はその真上に位置していた。

「あなたのような娘が来るのを、もう本当に長いこと待ち続けてきた。」

 その声は空間中に響きわたった。

「大丈夫、あなたならうまくいくわ。そう、私よりもずっと…。」

声の主はアマルナカムの魔女だった。壁に反響し合って増幅されて聞こえているようだ。魔女は広間のようになった所にいた。橋のたもとにはパオトンが番人のように立っている。その広間の中心には壁と同じようにして作られた、卵形の構造物があった。大きさは人の背丈を越えている。中からは不思議な青い光が放たれていた。それに向かって魔女は話しかけているようだった。

「儀式の時が幾度巡ってきても、適格者は現れなかった。」

ラシオンは目を凝らして見つめた。卵形の構造物の中に、木の根状のものの隙間を通して人影が見えた。液体が満たしてあるのか、その人影は浮かんでいるようだった。だが動きは確認できない。眠っているのか、または死んでいるかとも思えた。

「だが遂にあなたが来た。このアマルナカムに。ファラトの崇めし所、ファルーマの聖地、神の島アマルナカムに!全てがそろい、時は満ちた。もはや誰にも止めることはできない。さあ今こそ、最後の儀式を執り行おうぞ!」

声とともに青い光が強く明滅を始めた。そのとき、中の人影が痙攣するように大きく動いた。ラシオンには見えた。人影はオレフィーナだった。

「オレフィーナ!」

 ラシオンは穴から飛び降りた。着地するとすぐさま橋を広間に向かい走った。向こうからパオトンが走って来る。両者は橋の中央で対峙した。魔女は言った。

「もうすぐ何もかも終わる。それまで邪魔をせずにおとなしくしているが良い。」

パオトンは武器を振り上げた。ラシオンは銛を構えた。再び戦いが始まろうとしていた。

(続く)

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 ラシオンは突きつけていた銛を再び引込めかたわらに置いた。時間は惜しかったが、この洞窟を一人でさまよってオレフィーナの所までたどり着くのは無理そうに思えた。今はこの生き物に頼るしかなかった。生き物は言葉を続けた。

「そもそもラシオンは何であの娘を助けに行くウパ。いったいどういう関係なのかウパー?」

「オレフィーナとは…、幼い時から家族同然にして一緒に育った。」

ラシオンが生まれた頃、ファラト族の住む一帯を猛烈な嵐が繰り返し襲った。部族の中からも多数の死者が出て、結果として多くの孤児が生じることになった。このうち里親の決まらなかった子供たちは何人かに分けられて共同で育てられた。その一つにラシオンとオレフィーナがいた。オレフィーナは集団の中でも年長であり面倒見も良く他の孤児達に慕われていた。その聡明で快活な性格から村の者の評判も良かった。

「なるほど。それが運悪く生け贄に選ばれてしまって、ラシオンや孤児仲間達が助け出そうとしたと言うわけウパーね?」

「ああ。だが選ばれたんじゃない。オレフィーナは、自分から言い出したんだ。」

 掟により生け贄には部族の中の若い娘が差し出されると決まっている。それはくじ引きで選ばれる段取りになっていた。そこにオレフィーナは自ら名乗りを挙げたのだった。前例の無いことであり部族の指導者達は戸惑った。だが掟で決められているのは生け贄を捧げるということだけであって、選出方法自体は単なる習慣に過ぎないという結論に達しあっさりと了承された。反対の声をあげる者はいなかった。

「そうなのかウパー。でも何で、オレフィーナはそんなことを言い出したんだウパー?」

「………。」

「むむむ…。掟とはいえ、望んで生け贄になりたがるはずが無いウパ。選ばれた本人や身近な人がどれだけつらい思いをするか、想像もできないほどウパー。もしかしてオレフィーナはそれが嫌だったのかウパ?他人が犠牲になることで、自分は助かって平気だというのが。」

「そうかもな。」

「でも、そしたら孤児仲間が悲しむことになるウパ。もしかして村の中に何かあったのかウパ?選ばれないと、その後の立場がまずくなるというような雰囲気が。」

ラシオンは答えなかった。若い娘を持つ親達にとって自分の子どもが生け贄になるかもしれないというのは耐え難い恐怖であったろう。そして我が子可愛さから、身寄りの無い者から選ばれれば、と独善的な思いにとらわれたとしても何か不思議があるだろうか。そしてこの親の年代が村の中心世代であった。一方孤児達は確たる後見人も無く村民の好意によって扶養されているような状況に置かれていた。オレフィーナはこうした空気を察することができ、またそのことに心を痛めるそういう少女だった。

「ラシオンは何か理由を聞いたのかウパー?」

「決まった後にな。」

 オレフィーナが生け贄に立候補したときにラシオンは漁へ出ていて村にいなかった。そして戻ってきたのはすべてが決まった後になってからだった。事の次第を聞いたラシオンはすぐにオレフィーナの所に向かった。このときオレフィーナは儀式の日まで人との接触を制限されて過ごすため、場所を移されていた。それをラシオンは警備を無理矢理に突破し、オレフィーナに詰め寄ったのだった。

「何と言っていたウパ?」

「掟だからとか、皆のためだからとか。」

「やっぱりそうウパ。きっと自分のことよりも周囲のことを、残される者のことを優先したんだウパー。なかなかできることでは無いウパ。」

「最後は『分からず屋、自分のことなんだから勝手でしょう!』と言われた。」

「…ラシオンは全然納得していないみたいウパー。」

 ラシオンは手に持った銛の柄を指で軽く叩きはじめた。焦燥感が募っているのは明らかだった。生き物の質問は続いた。

「仮に立候補しなくても結局は生け贄に選ばれてしまったかもしれないウパ。どちらにしろオレフィーナを助けようとしたら、掟に逆らうことになってしまうウパ。ラシオンはそれはどう考えているんだウパー?」

ラシオンは少しの沈黙のあと答えた。

「俺は、漁に出ていて自然の掟は感じる。それは守らねばならないし破ることもできない。だが生け贄は、あれは人の掟だ。そう感じる。」

「…なるほど。でもこれはオレフィーナ本人が決断したことウパ。さっきも言っていたウパ、村の皆が平和で暮らせれば良いと。残される者を、ラシオンのことも考えた上で決めた結論ウパー。その気持ちを無視することになっても、ラシオンは良いのかウパ?」

「向こうが勝手にするなら、こっちも勝手にするさ。」

今度は生き物の方が黙り込んだ。だがすぐに質問を再開した。

「うーん、分かったウパ。でも、魔女もパオトンも恐ろしい敵ウパ。特にパオトンはさっき見た通り攻撃の通じない特殊な体をしているウパ。まさに魔女を守るアマルナカムの不死身の番人ウパー。重要な儀式の最中に一人だけ目覚めているのも、逆に言えば一人で充分ということウパ。行けば今度こそラシオンのやられる可能性が断然高いし、そのときは救出も失敗に終わるウパ。多分それこそオレフィーナが一番望んでいないことウパー。だとしてもやっぱりラシオンは行こうと言うのかウパ?」

今度は即答だった。

「このままならオレフィーナは二度と帰って来ない。何もできなくても何もしないよりは、俺は良い。」

 ラシオンは銛を握り立ち上がった。こうしていたら話が続くにも構わず一人で行ってしまいそうな様子だった。

「分かったウパ。オレフィーナのいる場所まで案内するウパ。」

「本当か!?」

「このウパにまかせるウパ!そこまで行く道は迷路のように入り組み様々な罠が張り巡らしてあるウパ。とても生きては行き着かない所ウパー。でも、ウパしか知らない裏道、抜け道を使えば何とかたどり着けるウパ。ただ、その先のことは責任持てないウパ。そこでオレフィーナや魔女を見つけても、それでどうするかはラシオン次第ウパ。それでも良いかウパ?」

「頼む。」

ラシオンは出発を促した。その先に希望があるかは分からなかったが、進むべき道は決まった。ラシオンは前を行く生き物の後を追った。そのとき生き物は突然振り返りラシオンに質問してきた。

「ラシオンが、そこまでしてオレフィーナを助けに行きたい理由は何ウパー?」

返事は無かった。一人と一匹は暗く狭い洞窟の中を、可能な限りの速さをもって先へと進んで行った。

(続く)

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 小部屋のように広がった穴の中にいたのは今まで見たことも無い奇妙な生き物だった。それは幼い子どもくらいの大きさをしていて二本の足で立って歩いていた。だが外見は両棲類に似ている。ラシオンが知るものの中では大きさを別にすれば水溜まりにいるイモリの幼生が一番近かったろう。不格好に大きな頭と短い手足は嬰児の姿を連想させた。肌の色は真白で尻尾がひれのように変形している。頚の横からは鰓であろう、三対の羽毛のような器官が生えていた。黒いくりくりとした目と笑みを浮かべるように湾曲した大きな口をしていて、ちょこちょこと動く様子には愛敬が感じられた。そしてこの生き物は人間の言葉をしゃべっていた。

「もう少しでやられるとこだったウパ。でもここまで来れば大丈夫、落ち着いて休んでいくウパー。」

小部屋の中心に上が平らになってちょうどテーブルのように地面が盛り上がった部分があった。謎の生き物はここに食器を用意し何か飲み物を入れようとしていた。

「今まで生きた心地もしなかったと思うウパー。まあ、お口に合うか分かりませんが、お茶でもどうぞウパ。」

返事の代わりにラシオンは銛を構えた。

「お前は何者だ?」

生き物は怒ったようだった。

「い、命の恩人に対してそれはあんまりと言うものウパー!」

ラシオンは銛を引込めた。そして大きくため息をつくとテーブルの横に腰を下ろした。

 ラシオンが座ると生き物はとめどなく話し始めた。自分もあの魔女やパオトンに見つかると退治されそうになること、それに対して毎回どのような妙計を立てて逃げ延びているかということ、話し相手がおらず暇でしょうがないことなどを聞かれもせずにラシオンにしゃべった。自身の出自については本人もよく理解していないようだったが、まだおたまじゃくしの頃にこのアマルナカムの地下水脈に住み着き、年月を経るうちに姿形も変わり知性を身に付けたとのことだった。その内容の真偽はラシオンには分かり得なかったが、是とも非とも言えなく思えた。今まで神話や伝説としてまるで絵空事のように捉えていたような現象を、この一晩で何度も経験することになったからだ。アマルナカムに不思議な力が存在することは間違いなかった。

 まだ話は続いていたがラシオンはもう聞いていなかった。そのときふと自分の持っている椀が非常に高価なものであるのに気づいた。中に入っている飲み物も他の部族との交易によってしか手に入れられない貴重な品だった。ラシオンの様子に気付き生き物が声をかけてきた。

「そんなのがいっぱいある所を知ってるウパー。この洞窟の中のことで知らないことなんて無いウパよ。」

ファラト族はアマルナカムに長い年月にわたって生け贄以外にも供物を捧げ続けてきた。それはその時々に高価、貴重とされる物品であった。この習慣が財宝伝説を生む原因の一つになっていた。ラシオンは初めて話に興味を示す様子を見せた。生き物は言葉を続けた。

「普段はそこも厳重に警備されているウパ。でも今晩は特別な儀式の夜、魔女はそのために力を集中しているウパー。だから今、島で目覚めているのは魔女とパオトンだけ。他の番人やら番獣やらはお休みウパ。だから何の心配も無くのんびりしていられるウパー。何ならそこに行ってみるウパ?」

 ラシオンは急に立ち上がると生き物に詰め寄った。

「おまえ、オレフィーナの連れて行かれた場所も分かるのか!?」

「く、苦しいウパー。」

勢い余ってラシオンは締め上げていた。手を放すと生き物は咳き込みながら答えた。

「た、多分ここだと言う場所は分かるウパ。でもそこには魔女もパオトンもいるはず、行っても返り討ちに遭うだけウパー。」

「場所を教えてくれっ!」

「さっきよりもずっと危険なところウパー。今度こそは命も助からないウパ。あの娘の言うとおり、おとなしく帰るのが身のためウパ。」

ラシオンは銛を突きつけた。

「わ、分かったウパ。教えるウパ。でもその前に少し冷静になって話を聞かせてほしいウパー。」

(続く)

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 仮面の大男はラシオンのいたすぐ後ろに立つ石柱の陰から現れた。いつの間にそこまで近寄られたのか全然気が付かなかった。大男は鮫皮をつなぎ合わせて作った衣に全身をつつみ、フードのようなものを頭に深く被って魔女と同じような仮面を付けていた。そのため年齢や表情などは全く窺い知ることができない。手には巨大な獣の牙を長い棍棒の先にくくりつけた特殊な武器を持っていた。牙の長さは大人が腕をひろげたほどもある。ラシオンを攻撃してきたのはこの武器だ。その破壊力は先ほどの攻撃からも明らかだった。捕えよ、とのことだったが当たればラシオンの体は一発で吹き飛んでしまうだろう。オレフィーナと魔女の声が同時に響いた。

「ラシオン、逃げて!お願いです、あの子は見逃してください!」

「パオトン、後はまかせたぞ。」

 魔女がオレフィーナを連れてさらに先の洞窟に進もうとするのが見えた。だが今のラシオンには何もできなかった。目の前にいるパオトンと呼ばれた大男を何とかしないことには。パオトンはラシオンとオレフィーナ達の間を遮るように立ちふさがった。そして重厚な武器を苦も無く振り回してどんどん攻撃を仕掛けてくる。ラシオンも応戦して銛を繰り出した。パオトンの武器はかすっただけでも肉を削ぎ落とすほどの威力がありそうだったが、ラシオンの銛は鮫皮の衣に阻まれて相手を傷付けることができなかった。それどころかよけるだけで精一杯だ。その巨体にも関わらずパオトンは驚くほど敏捷な動きをしていた。ラシオンが徐々に後退していく。だが紙一重で攻撃を避けつつ隙ができるのを窺っていた。背中が石柱に当たった。これ以上は下がれない。パオトンの武器がうなった。轟音を立てて武器は柱にめり込んだ。間一髪かわしたのだ。ラシオンは柱の後ろに回り込んだ。パオトンは武器を抜き、ラシオンを追って柱の陰に出た。その瞬間ラシオンの手から銛が投げ放たれた。銛はパオトンの腿に深々と突き刺さった。パオトンは倒れた。

 ラシオンは銛を抜こうと皮紐を引張った。その紐をパオトンが凄い力で引き返してきた。予想外の行動にラシオンは引き込まれて前に崩れた。パオトンは銛を引き抜き放り捨てると、何事も無かったかの様に立ち上がりすぐさまラシオンめがけて武器を振り下ろしてきた。ラシオンはこの攻撃を辛くも地面を転がって避け、銛の方に走った。パオトンもすぐ後を追ってくる。銛を拾い上げた瞬間パオトンの一撃が来た。ラシオンは何とか銛の柄で受けたが吹き飛ばされ壁に体を打ち付けられた。壁際に追いつめられていた。もう逃げ場は無かった。

「やめてー!」

突如オレフィーナが走り込みパオトンにしがみついた。魔女が声を上げた。

「その者は傷つけるな!」

そのときである。ラシオンの後ろの壁に突然穴がぽっかりと口を開けた。中から声がした。

「ここへ逃げ込め!はやくっ!」

パオトンがオレフィーナを振り払い再び向かってきた。先ほどの攻撃を受けたせいで腕全体が痺れていた。ラシオンは穴に飛び込んだ。

 すぐ後ろでもの凄い音を立ててパオトンの武器が打ち込まれた。しかしパオトン自身はその巨体ゆえ中に入れないようだった。ラシオンも這うようにしか先へ進めない。

「こっち、こっち。」

声のする方にラシオンは急いだ。後ろでは壁自体を壊す勢いでパオトンの攻撃の音が響いてくる。進むにつれ穴は広くなり速度も上がった。それとともに音は遠く小さくなりやがて聞こえなくなった。今、穴の高さはラシオンが立てるくらいになり、幅も広がって小部屋のようになっていた。

「いやー、危ないとこだったウパー。」

ラシオンは声の主を見た。奇妙な生き物がそこに立っていた。

(続く)

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「オレフィーナ!」

ラシオンは叫んだ。少女は驚きの表情を浮かべた。背の高い女の方は仮面で顔は分からなかった。少女は声を上げた。

「ラシオン!?…来ては駄目、帰って!」

その言葉が耳に入らないかのようにラシオンは足を速めた。二人との距離がたちまち縮まった。少女はさらに声を上げた。

「止まりなさいっ!ここはあなたのいる場所ではないのよ!」

 ラシオンは止まった。三人の立つ場所は洞窟が幾つも分岐する所でちょうど広間のようになっており、石柱状のものが何本も立っていた。ラシオンは少女を見つめた。祭礼用の衣装を身にまとい多くの装身具に身を飾られてはいたが、オレフィーナに間違いなかった。壁の放つ不思議な光に照らされたその姿はどこかこの世の者で無いような雰囲気を漂わせ、幼い頃から一緒に育った仲のラシオンの目も惑わせた。

「ラシオン、何故来てしまったの…。お願い、村に戻って。魔女様、この子は関係無いのです。どうか無事に帰してあげてください。」

 ラシオンはオレフィーナの隣に立つ仮面の女を見た。止まったのは制止されたからでは無くこの人物を警戒したからだ。ファラト族の着る長衣を身につけ黒髪が床に届くかというほど長く伸びている。仮面には目の部分だけに穴が開き全体に幾何学的な文様が細工されていた。ラーケロンやこの洞窟の壁にあるのと同じ物だ。オレフィーナは言葉を続けた。

「ラシオン、ありがとう、来てくれて。嬉しい、もう一度会えるなんて思っていなかったから。でも、来ては駄目。ここは聖地アマルナカム、人間は生け贄以外は立ち入ることの許されない場所。あなたはここにいるべき人ではないわ。」

「………。」

「私だって生け贄になりたいわけではない。でも、誰かが選ばれねばならなかった。それなら一人だけで充分。もう、これ以上犠牲になる人を増やしたくはないの。だからお願い、危険を冒すのはやめて。今ならまだ間に合うわ。村に帰って。私はファラトもファルーマのことも好き。皆が平和に暮らせるのならそれで構わない。…こんな所まで来させてしまってごめんなさい。けれど、私は戻れない。さようなら、ラシオン。私のことは良いから。あなたさえ無事でいてくれれば…。」

「オレフィーナ、君は俺が守る。一緒に行こう。」

 オレフィーナは無言だった。ラシオンはオレフィーナの方に歩み寄った。そのとき魔女と呼ばれた女が仮面に手をかけ、ゆっくりとそれをはずした。ラシオンは立ち止まって見た。若い、美しい女だった。だが冷たく厳しい顔をしていた。そしてその額には血のように赤い色をした玉石が埋め込まれていた。それはあたかも第三の目のように見えた。鋭い視線がラシオンを貫いた。女は口を開いた。張り詰めた声が洞窟の中に反響した。

「わらわこそはアマルナカムの魔女と呼ばれし者である。ラシオンとやらよ。それでもそなたはわらわに逆らい、儀式の進行を妨げようと言うのか?」

ラシオンは銛を構えた。それが返事だった。魔女の声が再び響いた。

「パオトン、この者を捕えよ。」

ラシオンは危険を感じ反射的に身をかがめた。その瞬間何かがうなりをあげて頭上をかすめた。ラシオンは飛びずさった。直後今いた場所に何かが打ち下ろされ床が砕け散った。距離を取りながらラシオンは攻撃してきた者を見た。石柱の陰から姿を現したのは、鮫皮の衣に全身をつつみ武器を持った仮面の大男だった。

(続く)

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