Isanan の駄文ブログ

… 自作小説(?)やら何やらの駄文を、気が向いたときにだらだらと書き連ねて行くブログです

< 作品紹介 >

[ 自作小説 ] 「森の秘密と二人の少女」
(連載中)

 不思議な森に迷い込んだアシュウィン達は、そこで謎の少女と出会う。…ファンタジー小説

[ 自作小説 ] 「風を連れた少年」


 忘れてしまった探しものを探す旅。”半身のジン使い”アシュウィンの冒険!…ファンタジー小説

[ AGB ] 「闇の森の秘宝」


 魔物の蠢く闇の森に、伝説の秘宝を求めてあなたは足を踏み入れた。そこで出会った二人の少女達。…ゲームブック形式ファンタジー小説

[ 自作小説 ] 「アマルナカムの魔女」


 生け贄の少女オレフィーナを救うため、掟を破りラシオンは魔女の棲む島アマルナカムへ向かった。…異世界冒険譚

テーマ:

「――その赤ん坊というのが、私のことです。ですから、私の中の母の姿は、あの階段の
ところに懸けられた父とともの肖像画、あれだけなんです」

 最後にそう付け加え、シャリーンは話を語り終えた。

「そうだったの……。あの森で、昔そんなことがあったなんて……」

「それから、父は私をこの館に連れ帰り、妻を亡くした悲しみを乗り越え、男手一つでこ
こまで育ててくれました。そのことには、とても感謝しています。でも……」

 今まで沈んだ調子だったシャリーンの声が、そこで急に大きさを増した。

「でも、父の森に対する態度は許せないんです! 父は、森のことを良く思っていません。
きっと母を、森に奪われたと感じているのでしょう。でもだからといって、緑篭館の主が
その使命に反し、森の守り役の任を放棄することなどあっては……!」

「シャリーン……」

 少し興奮する様子のシャリーンに、レナが穏やかに声をかけた。

「あなたがそんなに森にこだわるのは、森があなたにとって唯一の、お母様との思い出を
与えてくれる、とても大切な場所だから、なの?」

「え……。い、いえ、私はただ、緑篭館の主人のあるべき姿を……」

 シャリーンは少し動揺する様子を見せたが、構わずレナが続ける。

「あなたとお父様は、森に対する姿勢こそ反対になってしまったけど、でもそれはどちら
も亡き奥方、お母様に対する思慕の情の、強さから来たことなのじゃないかしら? だと
したら、形は違っていても二人の心は同じで、きっとお互いにもっと理解し合うこともで
きるはず。私はそう思うのだけど、違う?」

「…………」

 レナの問いかけには答えずに、シャリーンはうつむいた。しばらくはまた沈黙が続く。
すると急にシャリーンは立ち上がり、レナが止める間もなくドアに駆け寄って、そこでく
るりと向き直り頭を下げながら言った。

「あの、今日は、こんなに遅くまでごめんなさいっ! お客様のご迷惑も考えずに、私っ
たらすっかり話し込んでしまって……」

「え……、そんな、全然構わないのよ」

「いえ、本当は、ちょっとお詫びを申し上げるだけのつもりでお伺いしたのです。それが、
お二人ともお疲れのところを、こんな長居をしてしまい申し訳ありませんでした」

 そう言ってシャリーンはドアを開き部屋の外へ一歩踏み出し、そこでまた振り向いてこ
う付け加えた。

「……私がレナさん達をお招きしたのは、里には年の近い友人も少なくて、それに外の土
地の話も聞いてみたくって、それでお誘いしたんです。なのに、ずっと自分の話ばかりし
てしまって……。私って、本当に駄目ですね。でも、お蔭で今晩は久しぶりにとても楽し
かったです。ありがとうございました」

「うん。私も、こうやって同じ年頃の子と親しく話すことが今まであまりなかったから、
すごく楽しかったわ。だから、あの……」

 レナはなおも話を続けようとしたのだが、シャリーンは就寝の挨拶を述べ丁寧にお辞儀
をすると、引き止める間もなくドアを閉め、部屋を去って行った。レナは何とか挨拶を返
す他は、半ば呆然とそれを見送ることだけしかできなかった。



 その後もレナは、シャリーンの去ったあとのドアをしばらく見つめていたのだが、やが
て一つ息を吐き出すと、窓の方へ向き直りそこに立つアシュウィンへ厳しい視線を送った。
それを受けて、アシュウィンが口を開く。

「……大事なものなら、もっと大切にした方が良いんじゃないですか?」

 返事代わりにレナは勢い良くぬいぐるみを投げつけた。だがそれはアシュウィンに当た
る前に風の壁に受け止められ、またふわりと宙を飛んでレナの手元に戻った。

「もーおっ! あんたは何で、ずっと黙りっぱなしなのよ?」

「いやー、さっき黙ってろと言われたから、そっちの方が良いのかなー、って」

「くくっ……、ほんっとうに口の減らない奴ねっ!」

 レナはまたぬいぐるみを投げようかと構えたが、それはあきらめ代わりに膝の上におろ
しポカポカと叩き、それも思い直して、今度は抱きかかえて優しく撫ぜさすった。アシュ
ウィンは困ったような笑みを浮かべその様子を見ながら、話を続けた。

「シャリーンさんの話を聞いて、彼女のことやこの館の事情はいろいろわかりましたが、
謎を解く役にはあまり立ちませんでしたね」

「謎……、ああ、シャリーンが来る前に話してたこと?」

「そうです。話をそこに戻すと、僕の考えでは続発する怪事件の犯人は、やっぱりあの昆
虫人間に間違い無いと思いますね。それに、森での反応から見て彼等が闇の勢力の一派で
あることも、また間違い無いでしょう」

「うーん……」

「ただ、その目的となるとどうでしょうか? レナさんがあの隊長に言った通り、行方不
明はどこへ消えたかわからないから行方不明です。そしてそれがわからなければ、相手の
目的に見当を付けるのは、かなり難しいのではないかと……」

「ふーん……」

 アシュウィンは話を続けていたが、レナはベッドに横になって、毛布を引き上げてくる
まると、ぬいぐるみを抱き寄せ目を閉じた。

「……あのー、どうしましたか?」

「はあ? 見ての通り、もう寝るのよ。今日はもう遅いし、あたし疲れてるんだからっ!」

「……えーと、まだ何かと結論が出てないことがある気がしますが……」

「わかんないものはわかんないわ。おやすみ!」

 そう言ってレナは頭から毛布をかぶった。アシュウィンはしばらく呆れたようにレナを
見つめたが、どうやら本気でもう寝る気のようだと判断して、小さくため息を吐いてから
ドアに向かった。そこに後ろからレナの声が飛ぶ。

「ちょっとアッシュ!」

「は、はい?」

「明日は、いったいどうするつもりなのよ?」

「ええ? えーとあのー、今ここでそれを聞かれましても、話の流れからして何と言いま
しょうか……」

 アシュウィンは言葉に詰まりながら最善の解答を探したが、肝心の尋ねた方のレナとい
えば、長い黒髪だけ覗かせ毛布の中で丸くなって、もう聞いている風も無かった。アシュ
ウィンはまた一つため息を吐いた。そしてドアを開け部屋から出ながら、こう答えた。

「明日はまた、明日の風が吹きますよ。……ね? それじゃ、おやすみなさい」

 その言葉とともに部屋の中に風が吹き起こり、ランプの火を消した。アシュウィンがド
アを閉めると、部屋は暗闇に包まれた。あとはただ、規則正しくレナの寝息が響くだけだ
った。



(続く)
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テーマ:
 臨月を間もなくに控えたシャリーンの母は、近隣の集落にたまたま名医が逗留している
とのことで、伴を連れてその地を訪れていた。診察は問題なく済み、ナメアカ庄へ引き返
そうとしたのだが、そこで天候不順のせいで思わぬ長居を強いられることになった。

 そのまま出産の時までその地に留まることも考えられたが、件の名医はすでに他の土地
へと去っており、やはり住み慣れた緑篭館へ戻るのが最善と思われた。彼女の体調にも変
化は見られず、一行は天候が充分に回復したときを見計らって、ナメアカ庄に向け出発し
た。

 当初は順調に進むことができた。しかしまた徐々に空模様が怪しくなり出していた。一
行は可能な限り歩を速めたが、風は強まり、小雨が降り始めた。そして逆側から来た者か
ら、最近の悪天候により、この先の道の状態がかなり悪いとの情報がもたらされた。

 そこで一行が取った選択は、『生きとしの森』を抜けることだった。人里に出るには、
元の集落に戻るより、それが最短の径路となるはずだった。本来なら、そうすれば日が沈
む前にはナメアカ庄に着ける予定だった。

 伴の一人は森に入らずそのまま先へ行くこととなった。ナメアカ庄側から迎えが来る手
はずだったので、変更を伝え入れ違いを防ぐためだった。その迎えを呼ぶために先に発っ
ていた者や、急な体調不良で来られなかった者があり、シャリーンの母に付き従う伴はあ
と一人しかいなかった。その二人だけで森に入った。

 森に入ってからも、天候はますます悪くなった。普段でも暗い森の中は、いっそうその
影を濃くしていた。しかし付き従った伴は何度かこの森を抜けて集落間を行き来していた
ので、進む方向を間違えない自信はあった。にもかかわらず、彼等はいつの間にか森の中
で自分達の位置を見失ってしまっていた。それはまるで、森自身が突如巨大な迷宮とでも
化したかのようであった。

 風雨は強まり、いよいよ本格的な嵐となり始めていた。先を急ぐしかなかったが、見慣
れぬ風景のなか、いくら進んでもまた元の場所に戻されるようで、森が彼等を閉じ込めて
いるかにすら思えた。そのとき、シャリーンの母に異変が起こった。陣痛が始まったのだ。

 すでにもう夕刻押し迫ろうとしていた。止む無く、シャリーンの母を大木のうろに避難
させ、そこに置き去りにして伴は一人で里に向かった。少なくとも、元来た道にはすぐに
戻れる方へと進んでいるはずだった。嵐の吹き荒れ真っ暗な森の中を、危険を顧みず彼は
全力で進み続けた。だがそれでも、彼が疲労困憊ながらようやくナメアカ庄にたどり着い
たそのときには、もう夜が明けようとするほどに時間が経ってしまっていた。

 ナメアカ庄では、まず迎えに出た者達から予定の時間までには会えていないとの報せが
あり、さらに夜になってシャリーンの母と別れた使いから、すでに森を抜けて里に着いて
いるはずとの連絡がもたらされて、里中が大騒ぎとなっていた。そこに森を抜けてこの伴
が到着し、シャリーンの母が一人で森に残され、しかももう陣痛が始まっていることが伝
えられると、直ちに領主タボンを先頭にした大捜索隊が結成された。

 嵐はいまだにやんでいなかったが、一行は森に入り、懸命の捜索が始まった。だが、里
とシャリーンの母達が森に入った地点との間を隈なく探しても、彼女を見つけることはで
きなかった。二次遭難の可能性もあって闇雲に範囲も広げられず、手がかりもつかめない
まま、また日の落ちる時になろうとしてた。捜索活動も限界に近付いていたが、必死なタ
ボンの姿を見ると、誰も撤収を言い出せずにいた。

 その頃になってようやく、嵐が治まり出した。そして捜索隊の一人が、静寂を取り戻し
始めた森の奥深くから、風に乗って響く赤子の泣き声を耳にした。彼等はそれを頼りに、
その聞こえる方へと向かって進んだ。

 そこで彼等が目にしたのは、巨木のうろの中で、泣きじゃくる生まれたばかりの赤ん坊
と、それを抱くシャリーンの母親の姿だった。だが彼女は、――その胸に赤ん坊を抱き締
めたまま――、すでに事切れ、もう冷たくなっていた。



(続く)
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テーマ:
「良いわよ。どうぞ入って」

 レナが答えると、シャリーンはそっとドアを開けおずおずと部屋に足を踏み入れた。ア
シュウィンがいるのに気付き、少し驚いた顔をする。

「あ……、もしかして、お邪魔だったでしょうか?」

「いーえ、全然! それより、どうしたの?」

 シャリーンは無言のまま立ち尽くし、しばらくどう切り出せば良いものか悩んでいるよ
うだったが、やおら頭を深く下げ、彼女にしては大きな声を出した。

「あの、さっきはごめんなさい! 私ったら、お客様の前であんな態度をとってしまって
……」

「な……、何言ってるのよ。気にしないで」

 レナがそう声をかけたが、シャリーンはもう、まるで今にも泣き出しそうなほどに見え
た。

「こちらからお招きしたのに、せっかくの晩餐を台無しにしてしまって、本当に何とお詫
びをしたら良いものか、私、私……」

「もう、本当に気にしないでったら。悪いのは、全部そこにいるバカのせいなんだからっ!」

 そう言ってレナはアシュウィンを指差した。指されたアシュウィンは左右を見回して、
そして該当するのが自分しか見当たらないのを確認すると、今度は窓の外を覗いた。

「このっ……!」

 ぬいぐるみを投げつけようとレナが振りかぶる。そのときシャリーンは二人のそんな様
子を見て、しばし呆然とし、それから、くすりと小さく笑い声をもらした。

 レナは軽く息をつき、投げるのをやめた。そしてベッドの上で腰をずらして、自分の横
にも座れる場所を空ける。

「どう、シャリーン? せっかくだから、ここで少し話でもしていかない?」

 シャリーンはまた表情を固くし、この誘いにとまどう風を見せた。だがやがて遠慮がち
に歩み寄って、自分もレナの横に腰を下ろした。しかし顔を伏せ、黙ったままだ。レナの
方から声をかける。

「シャリーン、謝ったりなんかしないで。こっちは、こんな良いお屋敷に泊めてもらって
晩餐にまで呼んでもらって、もうあなたには、感謝の気持ちでいっぱいなんだからっ」

 だがシャリーンの沈黙は変わらない。レナは続けた。

「だって、本当だったらあたし達今ごろ、野宿してたはずなのよ? それがこうしてベッ
ドの上でのんびりくつろいでいられるのも、ぜーーんぶ、あなたがあのとき、わからず屋
のあの門番をとりなしてくれたお蔭で……」

 唐突に、そのときシャリーンが口を開いた。

「あのっ、……私がお二人をお通ししたのは、わけがあるんです。レナさん、わりと良い
ものを着てられるでしょう? それで、何か失礼があったらまずいのでは、と思って……」

 シャリーンはそう言って一瞬顔を上げレナを見つめ、またすぐに俯いた。

「ごめんなさい。……私、里の人達ほど純真じゃないんです」 

 そして再び無言に戻る。確かにレナが身につけているものは、一見すると地味で簡素に
見えたが、実際には素材も作りもかなり良く、手に入れようとすればそれなりに値が張る
ものだった。レナは、自分の素性を見透かされた気がした。

 ――このような辺境の地においては国境は密には接しておらず、ナメアカ庄は歴史的に
はラーナティアの支配下であったり、また別の隣国の領土だったこともあるが、現在はな
かば独立領の立場にあった。それは土地の規模の小ささと、政治的な重要さの無さの表れ
だったが、何にせよ今、ラーナティアの王族であるという、自らの身分を明らかにするの
はレナの本意ではなかった。

 そんな事情と、シャリーンの言葉が意外だったこともあって、レナはどう返事をすれば
良いかわからずにいた。部屋の中に、重苦しい沈黙だけが続く。必死に次の言葉を探した
が見つからなくて、レナは気まずさに耐えかね、ただ闇雲に膝の上に置いたぬいぐるみを
揉み潰した。

 沈黙を破ったのは、シャリーンの方だった。

「……そのぬいぐるみ、大事なものなんですね」

「え?」

 レナがシャリーンに目を向ける。彼女は相変わらず俯いたままだったが、その視線はレ
ナのぬいぐるみにそそがれていた。

「だって、そんなぼろぼろになっても取ってあるんですもの。レナさんにとって、大事な
ものなんでしょう?」

「う、うん……」

 レナも目を落とし、自分の手もとのぬいぐるみを見つめた。

「これは……、私には、お母様の形見みたいなものだから」

「え……。では、レナさんのお母様は……」

「うん……。まあ、亡くなったのは、もうずっと前のことなんだけどね。私がまだ小さか
った頃の話よ。……他にも形見になるものはたくさんあるし、もっと高価なものもあるん
だけど、これだけはどうしても手放せないのよね。不思議ね。何でだろう?」

 そこで一度言葉が途切れて、もの思いに沈み独り言のようにレナは続けた。

「……きっと、これには特別に思い出が詰まってるって。そう感じてるのかもしれない。
自分でもわからない、心のどこかで……」

「そうだったんですか……」

 またしばらく沈黙が続き、それから、シャリーンはつぶやくように言った。

「私も、母を亡くしてるんです。レナさんと、同じですね」

「……シャリーン、あなたのお母様って、あの肖像画の?」

 シャリーンは小さくうなずいた。

「そうです。あれが、私の知る唯一の母の顔です。私、母の思い出がないんです。私を生
むと同時に、母は亡くなりましたから。……嵐のなか迷い込んだ森の中で、母は息を引き
取ったんです。そこで一人で、私を産み落として」



(続く)

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 レナの部屋にノックの音が響き、ドアの向こうからアシュウィンの声がした。

「レナさん、入って良いですか?」

「良いわよ」

 戸を開けてアシュウィンが部屋に入ろうとすると、その顔目がけてぬいぐるみが猛然と
飛んできた。

「わわっ! 何するんですか?」

「もう、あんたのせいで、さっきは気まずくなっちゃったじゃないのっ! 何であんなこ
と言うのよ?」

「いや、黙ったきりじゃ、失礼かなと思って……」

「それなら、一生黙ってなさいっ!」

 怒るレナに杖を持たない右手でぬいぐるみを拾い渡すと、アシュウィンは横を通り過ぎ、
窓から外を覗いた。

「窓には鉄格子がかかってて、壁は手がかりも無く返し付き。確かに、危険はなさそうで
すね」

「そう。外はどう? 何か見えるの?」

 レナは立ち上がって、自分も窓のそばに行こうとした。

「いやー、暗闇の中に、あの森がどこまでも広がるばかりです。黒々としてこの館を取り
囲んで、中から歩いて見た以上に不気味な感じがします。レナさんも見ます?」

「良いわよ! カーテン閉めといて」

 きびすを返してレナは戻り、ベッドに腰掛けた。膝を立てて肘を置き、頬杖をつく。

「そんなことより、結局何もわからずじまいだったわね。どう、アッシュ? あんた、少
しくらい謎は解けたの?」

「謎? 何の謎、どの謎ですか?」

「うー、いろいろよ! まず、この地で続発する怪事件の犯人は何者なのか? そして、
それはあたし達を森で襲ったあの昆虫人間と関係あるのか? だとしたらその目的は?」

「ふーむ……」

「それに、まだあのとき、連中が突然退いた理由や、あの聞こえた音の正体も、不明のま
まよね」

「……そうですねぇ」

「でも、あたしが何より気になるのは、あの二人のこと。どういうことなの? 領主の娘
のシャリーンと、森の中で会ったユマが、同じ顔をしてるなんて! 二人の間には、いっ
たい……」

 レナは急に言葉を止めた。アシュウィンが口元に指を立てて、静かにするよう促してい
た。少しして、部屋にまたノックの音が響いた。

「あの、すみません。……入っても、よろしいですか?」

 そのか細い声は、シャリーンのものだった。



(続く)

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テーマ:
 晩餐が終わり、アシュウィンとレナの二人は使用人の案内で今晩泊まる客人用の部屋へ
と向かった。その途中、階段の踊り場に懸けられた肖像画がレナの目を引いた。

 それらは歴代領主を描いたもののようだった。そのうち真中の二枚は、他より大きくま
た新しかった。一枚はごく最近のもののようで、タボンとシャリーンが描かれている。そ
の隣りの一枚はもう少し古くて、若き日のタボンと思われる青年と、同じ年頃の女性が並
んで立つ絵だった。その女性には、シャリーンとよく似た面影があった。

「アシュウィン様、そちらではございませんよ」

 突然の使用人の声にレナが振り向くと、アシュウィンが階下で何やらごそごそとうろつ
いているところだった。

「アッシュ、あんた何やってんのよ?」

「いや、この辺の部屋は随分年期が入って見えるけど、いったい何の部屋なのかな~、と
思って……」

「おっしゃる通り、大変古いものでございますな。この館の一階部分などは創建当初より
ほとんど手が加えられてないと伝えられておりますが、ではいつ頃建てられたかと言えば、
記録が無いのでわからない、という程の古さですから。ただ古くていろいろ使い勝手も悪
いので、今では大抵物置代わりとなっております」

「へーえ。……地下もあるみたいですけど」

「地下となると内壁も崩れかけでいささか危ないので、立ち入り禁止でございます。古く
て危ないと申しましても、お客様の部屋は心配ございませんよ。見ての通り昔の土台の上
に増築を重ねてまして、上の方ほど新しくまた過ごしやすくなっておりますが、土台自体
はしっかりしていますし、客室は最上階にありますので」

「ふーん……」

 建て増しを繰り返したと言うだけに、館の構造はなかなか複雑そうだった。使用人に促
されて階段を上がりながらも、アシュウィンは質問を続けた。

「あの、さっきのゲックとか言う人は、ここには泊まってないんですか?」

「はい。今は宿屋が兵舎代わりになってまして、傭兵の方々は皆そちらにおられます。先
程は突然のことでこちらの対応も悪く、お客様を不愉快にさせ大変に失礼しました。申し
訳ございません」

「いえ、別に気にしてないので、どうかお構いなく。でもすると、タボンさん、シャリー
ンさん以外は、いるのは僕らだけですか?」

「ええ、そうなのですとも!」

 この問いかけに、思わぬほど強い調子で使用人は答えた。

「実は前に、最近いろいろと物騒なこともありましたので、『警備用に傭兵を何人か館に
置いては?』と申し上げたことがあるのです。ところがタボン様は、『あれは領主ではな
く、領民の安全を守るために雇ったのだ!』と拒否されましてな」

「へえ! 立派な人なんですねぇ、タボンさんは」

「全く、もったいないお言葉でございました。あのような方が領主で、我等はまことに恵
まれております」

 アシュウィンの言葉に、使用人は自分のことのように何度も誇らしげにうなずいた。だ
がその様子がふともの憂げに変わる。

「ただ本音を言えば、あの連中にうろつかれて里の者はかなり迷惑しておるのです。でき
れば早く立ち去ってもらえたらありがたいのですが。本当に、こんなことにさえならなけ
れば……」

「こんなこと……、怪事件、いや、連続誘拐事件のことですね?」

 こう聞かれて、使用人はすぐには返事をしなかった。しばらくアシュウィン達を様子を
窺うように見つめてから、彼は口篭もりつつまた口を開いた。

「むむ……。誘拐なのか失踪なのか、ともかくそのことです。何にせよ我等としては、一
刻も早く解決して、そしていなくなった者が無事に帰ってきてほしいと。元の平穏な生活
に戻りたいと。そう願い、祈るばかりです」

「誘拐ではない、可能性もあるんですか?」

 使用人は再び押し黙った。答えて良いものかどうか、躊躇しているようだった。先程よ
り長い沈黙の後、彼はもう一度話し出したが、やはり歯切れは悪く口振りは重たかった。

「さあ、何ぶん今度のことは、我等には窺い知れぬことが多くて……。ただ誘拐だとした
ら、いろいろと合点のいかぬ点があり過ぎるのです。金品の要求があるわけでなし、庄の
外に連れ去った様子もなし。となればそれでいったい、何が目的だと言うのか……」

 そこでいったん言葉を切ると、使用人は周囲に視線を巡らせた。目に見えぬ何かに対し
て、警戒をしているように見えた。そして声を潜めて続ける。

「……これは、里の者達が誰とは無しに口にしておることなのですが、最近起こった一連
のことは全て、森に棲む妖魔の仕業ではないか、と言うのです」

「森の……、妖魔ですか?」

「そうです。あの森で長く眠りに就いていた何かが、遂に目覚めたのではないかと――。
もちろん、ただの噂話です。賊徒が森に侵入したと考える方が、まあ妥当でしょう。ただ、
あの森が普通と違うのも、また事実なのです。何もいないはずなのに、確かに何かがいる
ような……。いや、むしろ、森自体がまるで生きてでもいるかのような……」

 そこまで言ったところで、使用人は足を止めた。客室に着いたのだった。

「さあ、ここがお客様用のお部屋でございます。こちらとあちらの、二部屋をお使いくだ
さい。それと、つい長々と喋ってお客様が不安になるようなくだらないことを申してしま
いましたが、この緑篭館が里で最も堅牢な建物であることはもう間違いありませんので、
安心してお休みになってくださいませ。では、私はこれで」

「あ、ちょっと待ってください。最後に一つだけ」

 立ち去ろうとする使用人をアシュウィンが呼び止めた。

「あの、さっき行方不明は全部森で起きたと聞いたのですけど、そんな森に、何で皆さん
近付くんでしょう? 何か事情でもあるんですか?」

「それは、近隣への用事を済ますのに森の中を抜けないと、どうしても不便なこともある
からです。それに何だかんだ言っても、ずっと慣れ親しんだ場所でもありますし。別にこ
れまでは、今回のように怪異が続発することもありませんでしたからな。我等にとって森
はまだ、やはり恐れとともに、敬いの対象でもあるのです。……たださすがに、好き好ん
でまで入ろうと言うのは庄の中でも、……そうですな、シャリーン様お一人だけですな」



(続く)

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