猫の見る夢

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 7月某日

 

 昨夜、


 近所の家の塀の上で、

 

 猫が眠っていた。


 そっとさわったらうっすらと目をあけて、

 

 ぼんやりとわたしを見た。

 

 寝ぼけているのか、そのまま猫はじっとわたしを見ている。


 きっと猫はさっきまで夢を見ていて、


 目の前のわたしが、夢なのかそうじゃないのか、

 

 分かりかねているのだろう、


 と思った。



 

 

つつじ色の人生

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 7月25日に発売の、

 

 「東京 19歳の物語」という10人の作家によるアンソロジーに、

 

 短編小説を一本書かせていただいています。

 

 わたしのお話のタイトルは、「つつじ色の人生」です。

 

 どぎついピンク色の表紙が目印です。

 




陸亀日記 

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 7月某日

 

 台風の夜、


 飼い陸亀が、

 

 目を凝らしてベランダの外を見ていた。

 

 いつもは眠っている時間なのに、

 

 開いている窓の網戸越しに、


 じっと動かず外を見ている。


 聞こえる雨の音や風が木々を揺らす音や、

 

 その匂い、不穏な空気に、彼は何を思うのだろう。

 

 まあるい背中が、

 

 どこかに帰りたがってるように見えて、

 

 すこし寂しくなる。

 

 

 

 

地震は怖い。

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 7月某日

 

 先日の、関東地方に大きな地震のあったとき、

 

 わたしは劇場にいました。

 

 ちょうどお芝居が終わって、

 

 舞台の上に役者さんたちが勢ぞろいをしていて、

 

 観客席が拍手に沸いていたところでした。

 

 みな席を立ったりせず、拍手を続けていたので、

 

 これは地震ではなく、

 

 もしや拍手で揺れているのか?

 

 と、思ってしまいました。

 

 そうしたら、

 

 激しい揺れも、あんまり怖くありませんでした。

 

 

 

 



僕が死んだら

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 なんだか酷く疲れた。いろいろなことのあった一日だった。
 お腹空いたな、ミミズでもいないかな。僕は地面に降り、土を突いた。
 すると、突いた先の地面がにょろりと動いた。僕は慌てて飛び上がる。
 「慌てるな、俺は食いもんじゃない」
 そこには、猫がいた。野良猫だ。少しすえた臭いがしたし、闇夜でも体が汚れているのが分かった。でも、餌だと思って突いちゃったりして悪いのは僕だから、「ごめんなさい」とひとまず謝る。すると野良猫は、
 「構わんよ、別に本当に食ったっていい」
 と、言った。思わず「え?」と聞き返す。
 「もうすぐ俺は死ぬんだ。そうしたら、誰かに食って欲しいなあってちょうど思っていたんだよ」
 変なことを言う猫だ。
 「でも鳥は猫を食べないよ。カラスは子猫とか襲うらしいけど、僕は違う」
 「分かってる。どっちかって言うと俺をお前が食べるよりお前を俺が食べたほうが簡単だろう」
 驚いて僕はまた飛びのく。すると猫はからからと渇いた声で笑った。
 「でも、俺は生きている鳥を襲わん。信念だからな」
 「信念?」
 「誰かにとって大切な生き物は、殺さないんだ。そいつの不在を悲しむような誰か、家族とか恋人とか友達とか、そういうもののある生き物はいくら腹が減っても食わん」
 「ミミズも?」
 「ミミズも。そのかわり、誰も悲しまないやつは食うけどな」
 野良猫は、「ま、だから大抵俺は腹を空かしてるって訳さ」と付け足して笑った。
 「僕が死んだら悲しむやつはいるのかな」
 「いるさ」
 野良猫は当たり前の事実みたいに、即答した。
 僕のことなんか何にも知らないのに、野良猫に何が分かるっていうんだろう。
 でもそう断定してもらえたことが、僕にはなんだか救いみたいに思えたんだ。
 野良猫はかぎしっぽを揺らし、もう一度からからと笑った。

渇きじゃなくて孤独

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 風は強く、目の前の雲がスピードを上げて流されていく。
 南へ行くなんて簡単に言っちゃったけれど、思ったよりも大変だ。僕の翼は小さいし、第一僕は、鳥は鳥でも渡り鳥ではない。
 どこかで休もう、そう思ったけれど、この辺りの雲たちはみなせっかちで、僕の声なんか聞いてくれなそうだ。太陽もすっかりと顔を隠してしまった。夜の中を飛ぶのは、少し骨が折れる。なんせ、僕は鳥目だ。
 仕方ない。
 地上へとゆっくり下降してゆく。
 木が何本か立っている場所を見つけ、その中の一本の枝に腰を下ろした。
 なんだか疲れたな。ずっと高いところを飛んでいたから喉が渇いた。鳴いてみようかと思ったけれど、喉の奥に何かが張り付いたみたいに、上手く声が出なかった。
 水が飲みたかったけれど、これ以上動くのは億劫だった。お腹が空いたけれど、探しに行くくらいなら我慢したほうがマシだった。
 なんだか柔らかい毛玉を間違えて飲み込んだときみたいに、胸の奥が詰まっていた。
 このまま眠ってしまおう。そう思って目を瞑っても、まぶたの裏に浮かぶのは、なんだか悲しい記憶ばかりだった。
 空を見上げてみた。
 葉と葉のあいだから、黒い夜の闇が覗いて見えた。
 ああ、そうか。
 僕、寂しいんだなあ。と、ようやく僕は気づいた。
 喉に張り付いていたものは、渇きじゃなくて孤独なんだ。

思い出して泣く

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 7月某日

 

 敬愛するY監督や映画のスタッフさんがたとお酒を飲む。

 

 監督が、

 

 「(映画上映の)2時間の間に泣いてくれなくてもいい。

 

 あとで何日か経って、思い出して泣いてくれればいい」

 

 というようなことをおっしゃっていた。深く染みる。

 

 わたしも、

 

 読んでいる途中ではなく、

 

 読み終わってしばらくして、

 

 ふと、

 

 思い出して泣いちゃうような、

 

 そんなお話が書きたい。