子供染みた方法

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 テレビの中で、また悲しいニュースが流れていた。
 外国でテロが起きた。数人の無関係な人が巻き込まれて死んだ。
 誰かが誰かを殺した。僕の知らない誰かが、僕の知らない誰かを。
 飲食店の窓が、市民の手に投げられる石によって割られた。あの店が何か悪いことをしたのか? 僕には分からないけれど。
 「どうしてこんなふうに誰かを傷つけるんだろう。まるでいじめみたいだ」
 「いじめ?」
 僕に寄り添って目を瞑っていた彼女が、僕の独り言に返事をした。眠ってるのかと思ってた。僕はかまわず独り言を続ける。
 「小学校のとき、クラスにいつも教科書を隠されている女の子がいたんだ。誰がやったのか、どうしてやってるのか、僕は知らなかったんだけど」
 「それで?」
 「彼女はいつも授業の前に手を上げて、先生に『教科書を忘れました』って言った。どうして隠されたって言わないのかなって、僕は不思議だった」
 「あなた、それを止めなかったの?」
 「止めなかった」
 彼女は、非難する目で僕を見た。
 「隠される彼女にも、理由があるのかなって、思ったし」
 言い訳しながら、それは嘘だと思う。僕はただ巻き込まれるのが怖かっただけだ。 
 「理由があったとしたって、傷つけていい理由にはならないわ。嫌なところがあるなら、そう言えば良かったのよ。子供染みてる」
 「子供だったから」
 「テレビの中の人たちも、子供染みてる」
 僕たちは四角い電気の箱に映し出される映像を見た。どこかのビルが煙を出して燃えていた。その前で、その煙を見ながら笑っている人たちがいた。たくさんの人が、こぶしをあげ、興奮して大声を出した。
 彼らは彼らの気持ちを伝えるために、あんなことをする。力なき者たちが思想を伝えるための手段は少ない。暴力に走るのは、彼らの弱さの証明だ。だけど。
 もっと違う方法があるはずだ。
 どんな方法か、子供染みた僕にはまだ分からないけど。

セレブ風。

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 4月某日


 連載をさせていただいている、


 ananの35周年記念パーティに行って来た。


 六本木ヒルトンにて。

 

 なんだかとってもセレブの匂いがする。

 

 風邪をひいていたのに「セレブといえば肩出し」だ、との思い込みから、

 

 肩の出た洋服を着てゆく。

 

 しかし、鏡の中のわたしはセレブとは程遠く、所詮七五三レベルであった。

 



 会場の中にはおびただしい数の人々がいて、

 

 スーツ姿の偉い人、と、

 

 ドレスや和服の美人(男女とも)、

 

 ばかりだった。

 

 卒倒しそうに可愛い人、圧倒的オーラを出している人など、

 

 普段目にしないスペシャルなものを見すぎて、お酒がすすみ、酔う。

 


 某有名女性のスーツは、国産車一台買える値段だったそうです。


 




つらい。

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 4月某日

 

 久しぶりに風邪をひいて寝込んでいます。

 

 恋人が薬を買ってきてくれました。

 

 薬の箱には、

 

 確かに「熱が下がる」と書いてありましたが、

  

 「頭痛、歯痛、生理痛」用

 

 の、

 

 薬でした。

 

 これは風邪には効きません。

 

 

 

 

 

 

すごいもの。

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 4月某日

 

 

 ゆえあって、

 

 アニメのアフレコを見学に行く。

 

 映画の撮影現場は何度か見学させてもらっているけれど、

 

 アフレコは、まったく別物。

 

 まだ鉛筆の線画みたいな動く絵に、

 

 声優さんたちが、何秒、と決められた秒数ぴったりに台詞を載せる。

 

 まさに職人技。

 

 すごいものを見た。

 

 

 その帰り、

 

 御飯を食べに行ったお店で、

 

 一粒五百五十円の梅干を食す。

 

 すごいものを食べた。

 

 

 

 

 

 

幸せな世界

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 生きるために食べる。当たり前かもしれない。でもそれは食べるほうの論理で、食べられるほうはそれで良いんだろうか? 猫を食べる生き物っているのかな。犬とか? テレビで見たことしかないけど、ライオンとか、豹とかチータとか? カラスやカモメが子猫を食べるって話は聞いたことある。
 食物連鎖のチェーンの中に、大人猫は組み込まれていないのかも。そういえばわたしだって、ときどき鳥を食べる。
 ちらり、と隣にいる鳥を眺めた。
 大丈夫。わたしが食べるのはササミになってる鳥だけだ。この鳥のことは食べないし、この鳥も猫を食べない。
 わたしは振り返って家の中を覗いた。ご主人が恋人と寄り添っているのが見えた。
 ササミじゃないから、って理由を抜かしても、わたしは鳥を食べない。ご主人がササミになっていたとしても、それだって食べない。ご主人は恋人を食べない。恋人もご主人を食べない。
 たとえば、世界のみんなが知り合って話し合って好きになったりし合うことができたら、誰もみんなを食べないだろう。誰も誰かを殺さないだろう。それは幸福な世界かも。
 そのうちにみんなお腹がすいて死んじゃうかもしれないけど、みんながみんなを好きなんだもの。
 きっと、それはそれで幸せな世界なんだ。

「阿修羅城の瞳」

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 現在公開中の映画、

 

 「阿修羅城の瞳」のパンフレットに、

 

 文章を書かせていただいております。

 

 劇団☆新感線の代表作の映画化です。

 

 

 かつて、劇場でアルバイトしていたわたしとしては、

 

 不思議な気分であります。 

 

 

 

漫画みたいな出来事。

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4月某日

 

 ファミリーレストランで仕事をして、店の外に出たら、

 

 突風が吹き、鞄の中に入れていた紙が飛ばされた。

 

 その飛ばされた紙こそ、わたしが数時間かけて書いた、

 

 長編小説の続きであった。

 

 慌てふためくわたしをよそに、紙は、

 

 店の前にあった人口池の中へ。

 

 しかも、わたしはペンで文字を書いていたのだった。

 

 まさか、ぜんぶ無駄に?

 

 と思ったら卒倒しそうになる。

 

 

 

 が、風はまだ吹き続き、

 

 紙は、人工池の風下のほうへ流れ着いた。

 

 びしょ濡れの紙を拾い上げ、ノートに挟む。

 

 文字は少しにじんでいたが、無事だった。

 

 泣くかと思った。

 

 

 

 漫画みたいなことって、本当におこるんだなあ、と思った。

 

 

ともだち

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 ひとしきり泣くと、なんだかお腹が空いてきた。
 どんなに悲しくっても、生きているとお腹は空く。
 泣くってきっと、すごいエネルギーを消費するんだな。それに、そういえば僕、今日は朝から何にも食べてなかった。
 僕は庭の土の中から顔を出していたミミズを、くちばしでついばんだ。
 「あ」
 隣にいた猫が小さく声を上げた。
 「ミミズ食べるの」
 「食べるよ」
 猫は、へえ、と唸ったあとに、
 「変ね、花が死んだのは泣くのに、ミミズや木の実を食べても泣かないの?」
 と言った。意地悪な質問だ。
 「だって食べなきゃ死んじゃうよ。猫だって何かを食べるでしょう?」
 猫は、ふうっとため息をつく。
 「猫缶とか、お魚とかね。わたしたちって、何かを殺しながら生きていくのね。花のためにしか泣かないのは変だわ」
 「殺すのと食べるのは同じことかな」
 「違うの?」
 「よく分からない」
 よく分からなかった。じゃあ、何も食べず飢え死にすれば「良い生き物」だってこと?
 じゃあ、世界には悪い生き物しかいないってことだ。
 難しすぎてよく分からない。
 ただ僕は、友達には生きていて欲しいって思ってるだけだ。
 だから僕は、どんなにお腹が空いたって、花のことは食べなかったと思う。

 今、発売中の、

 

 野生時代 5月号 「世界で一番甘い失恋」

 

 という特集で、短編小説書いています。

 

 「もっともうつくしいもの」

 

 というタイトルです。

 

 去年の11月号にも、短編を書いています。

 

 バックナンバーともども、読んでいただけたら嬉しいです。