2015-03-21 09:52:34

テキトーな予断

テーマ:ACSのこと
リノベーションという言葉は90%以上の人々が認知していて、半分以上の人々がその内容まで理解しているのだそうです。これは2012年の調査。
もし、もう少しACSが儲かっていて、潤沢な調査費用を掛けられるなら、私はまずリノベーションに関するもっとタイムリーな調査をやりたいと思っています。それくらい、鮮度の高い体系立てられた情報がないのがこの業界です。

逆に言えば、それだけ未成熟だということですから、大いにやりがいもあります。でも、最初に中古マンションのリノベーション事業をスタートした頃には、産業の未成熟性を表面的なチャンスとしてしか捉えていませんでした。つまり、「どうせテキトーな事業者しかいないのだから、自分たちが少ししっかりやれば、あっという間に大きくできる」といった傲慢な態度です。

どうせテキトーな事業者しかいないはずという実にテキトーは予断は、自分たちの行動をテキトーにしていきました。振り返ると、2010年頃、私はリノベーションに高額の予算を投じることは愚の骨頂と考えていました。

これは、根拠の薄弱な人づてに聞いた話を基にしていました。「リフォームは現状復帰レベルでいいですよ。それよりも大事なのは再販価格です。安いことが大事なんです」と私は教わり、とても合点がいったのです。
その当時見た調査資料では、消費者がリノベーションを選ぶ最大の理由が「新築と比較してリーズナブルな価格」でした。ですから、リフォームの質よりも提供価格だという話にすっかり納得したわけです。

そうしてできた商品は、後から思えばとんでもないものばかりでした。コンセントもTV端子もない部屋。しかもそこには窓も収納すらもない。凸凹のままのフロア、しかもフローリングと称して木目調のクッションフロア(カッティングシートのようなものです)を貼っているだけ……お客様がどのように暮らすかなど全く考えず、単に現状復帰だけして「暮らせない家」を次々に作ったのです。

もちろん、マンションですから躯体を変えることができません。躯体という不変要素によって、最初からできないこともあるわけです。だからこそ、お客様の暮らしを考えて、投資不適格のマンションというものが存在します。しかし、その当時はそんなチェック機能もなかった。
果ては、ペットのための洗い場にしか見えない小さな風呂場、給排気がうまくいかずキーキーと金切音を出す部屋など、およそ住宅供給者として恥としか思えない商品が生まれました。

そして、売れないと悩む。今思えば、アホか! と自分を怒鳴りつけたくなる心境ですが、ここにも業界経験者から教わったあるアドバイスが潜んでいました。
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)
最近の画像つき記事
 もっと見る >>
2015-03-17 07:46:50

なぜいまブログか?

テーマ:ACSのこと
なんでブログでACSのことを書き始めたのか?
それは、最近、ACSの物件を購入いただくお客様が色々とお調べになって、なるほど鎌田という人間が経営しているんだなと。
どんな考え方なのか知りたいというお話をいただき始めたことが大きいのです。

当初、ACSでリノベーションマンションを手がけることにした時、この業を投資と位置付けていました。
(間違った考え方ではありませんが、本質を射抜いてはいませんでした)
いまは小売業だと考えています。
したがって、お客様の声を率直に聞かなくてはいけませんし、また、供給者としてどんな考えを持っているのかについても積極的に表明する必要があります。

前回・前々回と、3/11に絡めて少し情緒的に書き過ぎました。もうすこし、現実的で具体的な事業上の「反省」や「改善」「気付き」について書きたいと思います。
その上でもう一度だけ、3/11の話に戻らせてもらいます。

2011年当時、昭和40年代、50年代に建てられたマンションをリノベーションして再販していました。そこに震災がやってきた。それでずいぶんと手痛い損失を被ったのですが、そこで角度の異なる学習をしたのです。

ひとつには、当然のことかもしれませんが、現在の耐震基準を満たしていない物件は、いくら安い価格で提供できたとしても再販対象とすべきではないということでした。
いい格好するつもりはないのですが、これは単に従来の耐震基準で建てられた物件で損をしたからではないのです。
そうではなくて、自分たちが提供している価値はなんだろうと考えた時に、やはり安心して住めるということを除外するわけにはいかないからです。
あの震災を契機に、ACSでは耐震性について厳格なルールを運用しています。旧来の耐震基準で建てられたマンションは原則として手がけないことにしました。(耐震診断を受け耐震性が確認できている場合は例外的に取り扱い対象としています)

そして、もう一つの気付きは、その後の戦略に影響を与えることになったわけですが、漠然と購入者を見るのではなく、どんな方が買われたのかを注意深く見るということです。
それまでは、恥ずかしながら、お客様を真剣に見ようとはしていませんでした。どんな方が買われたのか形式的にアンケートを収集するといった、さも顧客を知ろうとするかのような表面的な態度だけはありました。でも、本当にお客様の実態に迫ろうなどとはしていなかった。

ところが、あの震災で、どんな方が買ってくれるだろうかと願うような日々を過ごしました。どんな方がどのように暮らすのかを真剣に考えるようになりました。これまた、恥ずかしながら、どんなお客様が買ってくれるか表面的には仮説立てもしていたのですが、それも上辺だけの誰でも考え付くような中身でした。
いま、ACSでは1年前に物件をご購入いただいたお客様への直接ヒアリングを行っています。定期的に実際のお客様の暮らしを直接見せていただき、意見を伺うことで商品開発が具体的に変化していきました。
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)
2015-03-14 10:20:30

中古マンション屋の3・11

テーマ:ACSのこと
自己改革せよなどと左翼のセクトみたいなことをよく言っていました。
いざ、自分が具体的な改革を迫られると、なかなかそれに対応できないというのに。

変な話、地下鉄に乗るのが嫌でした。マンションを売っているわけですからいろんなところに出向く必要があります。儲かっていないんだから運転手をつけている場合でもない。
効率を考えれば、当然公共交通機関を使うべきなんですが、恥ずかしながらそれを受け入れるのも大変でした。

土日に働くというのもハードルの高いものでした。中古マンションは小売業です。いまははっきりそう定義できます。でも、当時、小売というベタな捉え方ができず、投資という性格の違う定義を当てはめていました。
(小売だというのも、投資だというのも両方正解です。いまはバランス良く見方を区分できています)

それでもようやっと行動を変革して、震災前には土日に仕事をすることが定着していました。投資という考え方から小売業として消費者を理解しようと努力を始めていました。直接、顧客に会うために現地販売会も行い、知り合いが来たら嫌だななどと思いながら自分もそこに立ちました。

そんなちょっとした努力もあって、私はACSの事業がようやく軌道にのる感触を得ていました。
色んな失敗があって、それによってずいぶん学習したと。
授業料をずいぶん払ったよねなどと言いながら2010年の年末に浮かれた忘年会を開いた記憶があります。

そして、2011年3月11日。
あの震災によって、事業状態は振り出しに戻るどころか、以前よりもさらに悪くなりました。
まさか、こんなことがあるのかと、その時はずいぶん恨みました。
恨む相手がいないから、自分を恨むしかないですね。
とにかくできることからやろうと、どうにか気持ちを上げて取り組むしかありませんでした。

前回、城東地区の昭和築マンションについて触れました。
実は、昭和築のいわゆる「旧耐震」マンションを当時ACSはずいぶん抱えていたのです。
そういう物件たちが売れなくなることが見えていた私の脳裏に、あるおばあちゃんのことが思い浮かんでいました。

そのマンションに、ACSは在庫を持っていました。
さきほど触れた現地販売会をその物件でも開催していました。
そんな折、そのマンションの上層階に住む高齢の女性が相談にいらしたのです。
「自宅を売りたい」
そのお話を営業マンが聞いて、とんとん拍子で買取せてもらう話が進んでいきました。

なぜ、高齢にもかかわらず、おばあちゃんがご自宅を売ることにしたのか。
それは、体を悪くしたご主人を入院先から老人施設に移すためということでした。
もう、ご主人はこのマンションには戻れない。どこかしっかりした施設に移ってもらうほうがいい。
老人施設に入所するためにはまとまったお金が要る。だからこの部屋を手放すしかないと。
そういう切実な売り事情でした。

私も営業マンと一緒におばあちゃんの話を聞きました。
ああなるほど、こういう貢献もあるんだな、私はそんな風に思って、この事業への気付かぬ役割を見出し密かに嬉しく思ったものです。
そんな中、震災が起きました。
そのマンションにも震災の影響は色濃く出ていて、まだ売れていない在庫は相当な損失を覚悟しなければならない状態でした。

買うことは約束したものの、あのおばあちゃんの部屋を買うことはできない。
経営としては、やはりお断りするしかなかった。
営業マンだけで行かせるわけにはいきませんから、私も一緒に断りに行きました。

おばあちゃんは震災の時、逃げようとして玄関ドアに手を挟まれて、指が千切れかけたというので手に包帯をぐるぐる巻きにしておられた。
近所の人たちがいい人ばかりで助かった。たまたま行った病院に指の専門医がいたから縫合がうまくいった。
そんな話を聞きながら、ようやくタイミングを見つけて買えなくなりましたと切り出しました。

帰り道。
営業マンとトボトボと駅に向かいながら、自分がすごくホッとしてることに気づきました。
なんのことはない。
私はおばあちゃんがすんなり合意してくれたことに胸をなで下ろしていた。
困っているお年寄りを助けるどころか、話を断ってホッとしているこの様。
なんとも情けなく、それでもそれが自分なんだと受け入れるしかありませんでした。

あの時、震災を理由にいくつか進んでいたお話を断りました。
偉そうなことは言えない。全てを見直して出直すしかありませんでした。
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)
2015-03-10 09:21:01

中古マンション業者として迎えた3月11日

テーマ:ACSのこと
それぞれの3・11があるのだと思います。
私ごときが語るべきではないかもしれませんが、ある中小事業者としてどんな風にあの震災を迎えたかを書こうと思います。

あの日、少人数で運営するACSは早々に帰宅することを決め、それぞれがそれぞれの方法で帰途につきました。
翌日、オフィスには出社せず、ある事柄を手分けして行うことにしました。

それは販売中物件に重大な問題が発生していないかの確認でした。
あの当時、4-5名のメンバーで一人当たり5-6物件を回ることにしたように思います。
私はとりわけ気になる城東地区(江東区・江戸川区といったエリア)を担当し見て回りました。

ここで背景を一つ語る必要を感じます。
当初、中古マンション再生・再販事業を手がける上で、「どのエリアを選択するか」という大変重要なテーマを随分と議論しました。
とても簡単に言うと、ACSは当初「(住むにおいて)人気のエリア」に投資していました。
(これが見事な失敗を生み出すわけですが、今日は端折ります)
この「人気エリア」仮説失敗のほぼ唯一の例外が城東地区でした。

厳密に言えば、城東地区は必ずしも人気ではありません。
しかし、東西線沿線にせよ、総武線沿線にせよ、都心距離が近い割に城西・城南よりも安い価格で物件を供給できるという強みは確かでした。
そんなことで、各不動産会社とも一様に「城東は売れ行きがいい」と発言していましたので、これは人気エリアなんだろうと投資対象に選んだわけです。
(その後、不動産業界で通説的に言われていることは、本当に全く当てにならないということを骨の髄まで知ることになるのですが、当時はまだ少しは信じていました)

こうしたことから、震災前、城東地区への投資を加速していました。
城東地区は東京の中でも歴史の長いマンション供給エリアです。
そこで、「築古」と呼ばれる昭和世代に作られたマンションに積極投資し、そこに質の高いリノベーションを施すことでバリューアップを目指していました。

話を戻します。
こうして積極的に投資していた城東地区の昭和世代マンションたちが、果たして無事だろうかと、私は震災当日から気を揉んでいました。
不動産に投資して回収する事業というのは(賃貸運用はまだしも、ACSがやっている再販・開発型ビジネスモデルは)つくづく大変だと思います。一つの仕事で二つ分、三つ分の利益が簡単に吹き飛ぶのです。
その額も大きい。しかも大概の場合、それを借金して運営するという尋常ではないビジネスモデルなのです。
(なんでやってるの? とここでは聞かないでください。どこかでお答えしますので)

その損失の恐怖が一挙にやってきて、いったいどのくらいまでいくんだろうか……最悪を想定していくと、途中で考えたくなくなりました。
だから、各物件がどれだけの被害状況なのかこの目で確かめたかった。物件がしっかり立っているのを確認して、迫ってくる恐怖を緩和したかったのでしょう。

震災翌日、静かな、でも明らかに雰囲気の違う江東区内に車を走らせました。
都心から一番近くにある物件。その外観を見たとき、ゾワッと血が逆流するのを感じました。
壁一面に何本ものひび割れが走り、一部はぱっくりと歪な穴が空いていて鉄骨も見えている。道路に散らばったコンクリの破片は痛々しいばかりでした。
エレベーターは使えなくなったと知らせる手書きの張り紙。住民の方々は室内の片付けに追われ忙しなく行き来します。
階段を登りながら、上層に向かえば向かうほど、揺れが激しかったことがわかります。普段なら感じないはずの階段のコンクリの厚み。それがどうも薄く感じられて壁に手を付かずにはいれませんでした。
大量の荷物を廊下に運びだしている住人から、まいったなぁ、こりゃダメだというような呟きが聞こえてくる。いや、聞こえた気がしたのかもしれません。

8階にあった保有物件のドアは軋む音こそすれ、すんなりと開いてくれました。室内にはさんさんと陽光が降り注いでいて、建物の惨状とは不釣り合いな平穏が流れていました。そこにできた大きな亀裂。明るいはずの室内なのに、どういうわけか目の前は真っ暗でした。

時間切れで、本当に書きたいことまで書けませんでした。もう一回だけ、この件、書かせてください。一週間以内で。

いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)
2015-03-07 08:05:57

中古マンションを500戸超販売して感じたこと

テーマ:ACSのこと
久しぶりにブログを更新することにしました。
理由については、この後半で触れることになるかもしれません。

タイトルにあるようにインテリジェンスを離れてから、取り組み始めた中古マンション再生再販事業は絶えることなく継続し約6年が経とうとしています。

時が経つのは早いものです。見込み違い、遠回り、判断ミス、戦略ミス、とにかく失敗ばかり、よくもこれだけ積み重ねたものだと驚いています。

先日ですが、これだけ苦労しながら事業を育ててきて、そろそろ1000戸供給しているのではないかと思いつき、一緒に事業をやっている鈴木美紀子さん(財務管理系一式を担当してくれています)に「何戸?」と聞いてみましたら、なんとまだ571戸しか供給していませんでした。
なんということか。これだけ苦労してやってきてまだ1000戸もいってなかったのか!
そして、そんな基礎的な数値すら頭に入っていないのか、俺は!

そんな風に自分を責めましたが、つまりはそれだけ蛇行運転をしてきただけに振り返る余裕もなかったということでしょう。
1000戸に強い意味はありません。しかし、せめて「多くの家庭に良質な住まいを提供してきた」ということで胸を張りたいなと。それくらいはできているだろうという「自分を持ち上げる」意図で、ふと1000戸くらいやっているのではと考えたわけです。

さて、本題ですが、ずいぶんと自分は傲慢だったのだなと思っています。
自分の実力をもってすれば、どんな事業でもすぐに成果を上げられると思っていました。
でも、そんなわけはないのです。

一番の実感は、知らない場所で知らないことをスクラッチでやるのは、やはりとても大変だということです。
事業を作るということはそんなにたやすいことじゃない。
そんなごく当たり前のことを自分は忘れていたのか、あるいは、見ようとしなかったのか、あるいは、もう十分すぎるほどわかっているので乗り越えられると思っていたのか。
これは、もう完全に3番目だと思います(いまのところ)。

苦労や試練に慣れているはずのタフな自分を信じていました。
実際、メゲずにやれる人間だとは思います。
しかし、一番くらったのは、そういうタフネスをこの年になってまた使う羽目になってるよ!という起こった事態よりも、それに向き合っている自分にガッカリしていました。
感情としては情けなさというか歯がゆさというか、まさに不甲斐ないというやつでしょう。

20代・30代で経験済みであり、克服済みである事態にまた再会して、もちろん過去の経験が大いに役に立ちました。
それでも間違ったんです。いろんなことを。

これは誰に書いているというわけじゃないのです。
が、一種のコミットのためです。
自分のコミットをさらけ出すことで強化しようという。
外に宣言して自分を強化するという、ごく基本的な自己鍛錬をやりたくなりました。
もう少し、書くことにした理由があるのですが、それは幾つかの具体的失敗事例とともに次回書こうと思います。
(いずれにせよ、こうして書く場があったことは自分にとって幸いでした。ありがとう、アメブロ)
いいね!した人  |  コメント(2)  |  リブログ(0)
2013-10-14 11:45:00

昇給

テーマ:ブログ
「物価は上がるは、消費税は上がるはで、先行き不安ですよ。ったく、給料はちっとも上がる見通しがないってのに」
てな具合の映像が最近ずいぶん流れております。
ロケ地はだいたい新橋の汽車ぽっぽ広場。
(世のお父さんたちが嘆く姿を繰り返し流すマスコミは「不幸大国」日本を盛り上げたいのでしょうか?
つい1年ほど前の選挙で「日本はインフレにする!」という宰相候補に何の文句も言わなかったくせに。
実際インフレになったら、物価上昇と言い換えるんだから始末が悪いです)


さて、この先、みんなの給料は上がるでしょうか?
即答ですが「上がります」!
私は経済学者でもなければ評論家でもありません。
でも、給料についてはそこそこ詳しい方だと思います。
加えて、自分なりに世の中の方向を見る感度はある方だと思います。
で、端折って見解を言わせてもらえれば、みんなの給料は上がるよ。
(すごく簡単に言えば、インフレって給与の上昇のことでしょ!
あとは、同じ意見の識者に聞いてください)


一方、平均所得が404万円とか、そのうち、非正規雇用については170万円とかそういう報道もあって、悪いムードが漂いました。
「やっぱな……もう、オレたちの給料上がんねえし」みたいな。
「ずっと下がりっ放しだし。老人多いし。年金上がるし。消費税上がるし。むりっ」みたいな。
そんな感じになってるのが、よくないと思っておるんです。


そもそも給料がどのように決定されるのかを考えないといけません。
思わず図を作っちゃいましたよ。

給与の構造KK

このようにですね、会社というのは自分が支払える以上にあなたに給料を払うことはできないのです。
そりゃそうですよね。儲かってないんだから払えない。
ところが、儲かってるからって払ってくれるとは限らないし、実際払わない。
で、意外なことに働いているあなたも文句を言わなかったりする。
つまり、あなたの給与はあなたが決めている。


ちょっと話が飛んだ感じなで、別の整理の仕方をしましょう。
会社が作っている評価制度なんて所詮みんなを納得させる道具に過ぎません。
公平性だのなんだのとゴタクを並べても、結局はあなたが納得する水準に給料を落着させる装置なんです。
もしですよ、あなたの納得できる半分の給与しか会社が払わない(「払えない」ではない)と言ってきたらどうします?
辞めるんじゃないかな。たぶん。でしょ?
だから、会社はさすがにあなたが得られると期待している給与の半分を提示するってことはしません(これ、理論上の話ね。いきなり給料を半分にしたら労基署が黙ってないとか、10%以上の減給はできないはずとか、そういうのはやめておいてください)。


で、あなたが得られると期待している給与額はどうやって決まりました?
もしかして、会社が決めてませんか?
知らず知らずのうちに「私はだいたいこんな稼ぎ」って思い込んでませんか?
歴史的に給与額の安い業界というのが存在します。
言いにくいけど(言っちゃうんだけど)、旅行業界、流通業界ね。典型例です。
ここにもたくさん優秀な人がいますが、ずいぶん安い給料で納得しています。
それが悪いとは言いません。
たとえば、旅行業界は競争が厳しいですし、あまり儲かっていない。
だから会社としての支払能力が低い=だから給料が安い。これは仕方ないですね。
でも、それが果たしてあなたの市場価値かというと、そうじゃないかもしれないわけです。


話が趣旨からズレました。軌道修正しましょう。
要は、あなたの給与は実はあなたが決めている。
会社に支払能力がある=儲かっている(いま、会社は結構儲かってますよ)のに、あなたは給料が上がらないことに納得してしまっている。
それはダメです。(経営には好都合です)
長いことデフレが続いて、みんなは給料が上がることを忘れてしまった。
っていうか、それぞれの能力を「売り込む」ことを忘れてしまっています。
「オレはこれだけ稼いで、会社に貢献してる」「オレの売上上昇は年率20%以上だ!」「だから給料を上げてくれ!」
そう言えばいいんです。
えっ、そんなに活躍していない?
いやいや大丈夫。そんなもの、言ったもの勝ちなんですよ。黙っていたら損をするんです。
「私は目には見えない貢献をしている」「地味かもしれないが、人知れずコツコツと実績を積んでいる」
見えなくて、人知れずの貢献を誰がわかります? わからないんだからドンドン主張すればいい。
主張しているうちに、自分が役に立っている部分が見えてくることもありますよ。
つまり、自分で主張すべきポイントを探して、会社にぶつけていくべきなんです。


そんなことで、給料は「上がる」ものではなく「上げる」ものなんだということで今日は終えておきます。
次回、もしかしたら、昇給を獲得するコツを例示しちゃうかもしれません。
(しないかもしれません)
いいね!した人  |  コメント(7)  |  リブログ(0)
2013-08-18 14:39:18

直貼

テーマ:ブログ
体調について語るようになったら年だと思えと言う。
その通り過ぎて反論のしようがない。
だから、体調だとか健康だとかについては語らないようにしようと思っている。

同じように「俺も年だからさぁ」とか「40を過ぎたあたりでガタっときてさ……」
(私はこれに該当していない、例に過ぎない)とか「なんか白髪増えてね?」とか「ちょっと薄くなってきちゃってさぁ」みたいな話をできるだけ遠ざけている。
これを現実を直視しない逃避姿勢と受け取ってもらいたくない。
そうではなく、意識的に遠ざけることでの攻めの姿勢なのだ。

だから、一瞬の反応にも気を遣う。
さすがに、立ち上がりながら「よっこらしょ」はない。
しかし、柔軟性の乏しさによる筋肉の引き吊りなどで「あたっ」「あぐっ」「うぐっ」といった唸りはつい出てしまうものだ。
それでも、注意すれば抑制はできる。
気付かぬうちに発する唸り声で加齢を見てとられてはかなわんのだ。

何が言いたいか?
聞きたくないなら読まないでくれ。もう。
もうどうせ、行き当たりばったりに書いているだけなんだから。
要は、体調うんぬんを書きたいわけじゃないのだが、書こうと思っているという前置きなのだ。
(この前のブログでも体調の話だったからね……ネタないのかよ、他に……)

そろそろ、本論に入ろう。
私が長年悩み続けてきたすごく軽い疾病(?)というか症状(?)がある。
これはもう子供の頃からだから相当に長い間悩んでいる。
(ここから気持ち悪くなる可能性が高いから気を付けてもらいたい、読まない方がいいかもよ)

それは口内炎だ。
どいうわけか3ヵ月程度の周期で現れるこの厄介な軽い疾病は、まさに私にとって小さな大問題。
いや大きな小問題か! まあ、それはいい。
それはいいとして、とにかく周期的にやってくるこの口内炎が毎度毎度痛いのなんのって。
出来たら最後1週間2週間痛いまんまで、好きなコーヒーもマズイ、ワインもマズイ、何を食べてもうまくない。
その上、打ち合わせの間も痛い。発言をするにも痛い。
仕方なく、大事なこと以外発言しなくなったりする(場合によっては大事なことまでどうでもよくなる)。

こんなことを考えたこともある。
この忌々しい患部をいっそ焼いてしまったらどうだ!(余計ヤバいでしょ)
そうだ、痛いんだから何も食べなきゃいい!(腹減るし)
病院に行こう!(薬を処方されるだけで即効性はない)
チョコラBBの大量摂取だ、まとめて一瓶飲めばどうだ!(全然ムリ)
なんでもいいから、すぐに効く対処法はないのかよ! クソっ! といつもこういうぐるぐるとした思考循環を繰り返すばかりだったのだ。つい昨日まで。

いや、マジでたまには薬局にも行くもんである。
ありました。新しいテクノロジーがあった。
ケナログじゃなくアフタッチ(これ出た時はすごいと思ったけど、結局そんなに使えなかった)でもなく、「トラフルダイレクト」ってのがあったんです。
口内炎で悩んだことない人は全く関係ない話だけど、このトラフルダイレクトは良い!

一見すれば円形の紙ですね。
いわば薬効成分が沁みたハイテクの紙ですよ。
まあ、成分は昔からあるケナログと同じなんで、そこはシラケるんだけど。
患部にきれいに貼りついてしかも剥がれない!
簡単には剥がれないから患部がガードされて気分晴れ晴れ。
不自由なく……とまでは言えないけれど、大げさに言うと、患者のQOLは相当上がります。
だって、食べたり飲んだり話したりがすごく楽なんですもの。うふん。

ただまあ、成分は「トリアムシノロンアルデヒト」ってやつ。
名前だけ聞くと毒としか思えない。
実際、ステロイド成分らしいからあんまり使っちゃいけないのかな。
このあたり、名前のおどろおどろしさ以上に副作用の知識なんてゼロだからただ怖がっているだけだけど、とにかくこれは便利。
それが言いたくてこれだけ書きました。
所要時間35分。長いっつうの。

いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)
2013-07-20 13:20:26

異臭

テーマ:ブログ
(内容が気持ち悪いので読まないほうがいいかもしれません)

一人異臭騒ぎである。
つまり、誰も騒いでいないのに、一人だけ異臭がすると騒いでいるというわけだ。
私の嗅覚はそこまで敏感ではない。
ところが、今週立て続けに異臭問題が発生した。
(これを個人的には異臭イシューと呼んでいる)


最初に感じた異臭は異臭というよりも悪臭だった。
夏場だけに仕方ないだろうが、狭い会議室の場合、どうしても換気が悪くなる。

その場は「若い男子がいるから部室っぽいのは仕方ない」とうことですませた。
犯人にされた男子はたまったものではなかろうが、まあ、その程度で終わったわけだ。


ところが、間もなく本当に堪え難い臭気に襲われた。
それはMくんが運転する社用車(作業車)で起きた。
ある場所まで便乗を決め込んだ私が助手席のドアを開ける。
マックス状態のエアコンが、うなりを上げ勢いよく冷気を吹き出していた。
乗り込みぎわ前屈みになった私の鼻腔に、その人工風が直接ぶち当たった。


この瞬間、堪え難い異臭が鼻腔内に広がった。
臭気について言葉で表現するというのはなかなか難易度が高い。
難易度は高いがこれも訓練だと思って綴ろう。

まず、はじめに鼻が受け止めるには明らかに大きい粒子が鼻腔の奥ではじけた。
はじけた直後、ツンと頭の奥にまで突き上げる刺激があり、刹那軽いめまいを覚える。
それから芋焼酎を極限まで蒸留してムンムンさせたような強烈な臭気が鼻腔内に充満した。
臭いは静かに腔内に沈殿していく。古い醤油を凝縮した重い香り。そこに、シンナーのような化学材料を混ぜたような匂いが加わった。

化学臭と芋焼酎をムンムンさせた臭いの由来は同じかもしれない。
ワインで言えば、一次アタックと二次アタックの原因物質が同じというケースだろう。
分析するに、古い醤油の臭いに頭がガンガンする化学臭を混ぜたような臭いということになる。


すぐにエアコンの吹き出し口を閉じ、車が動き出すと同時に窓を全開にした。
鼻を塞ぐ手を緩めず、運転するMに考えられる原因を尋ねる。
尋常ではない異臭だというのに、なんとMは半笑いである。

「昼に食べたラーメンのせいですかね?」
Mは薄笑いを浮かべたまま答える。
しかも、的外れとしか思えない回答だ。
この男が食べたラーメンの臭いが、車のエアコンから、こんなに勢いよく吹き出すわけがない。

「ニンニク入れたんで」
就業中だというのに生ニンニクをラーメンに入れて美味しく食べたことを臆面もなく告白するM。
しかし、ニンニクくらいでこれだけの異臭が生まれるわけがない。


言うまでもなく、異常であるか正常であるかは相対的に判断される。
どうやら、この異臭は私にだけ感じられるものなのだ。
つまり、異常なのは臭いではなく私かもしれないわけだ。


この事態を共有した身近なスタッフがポツリ。
「脳梗塞で倒れた祖父が同じようなこと言ってたんですよねぇ」


異臭イシューなどとふざけている場合ではない。
病院、行こうかな……
人知れず弱気になる週末である。
いいね!した人  |  コメント(1)  |  リブログ(0)
2013-07-02 11:41:05

入力

テーマ:ブログ
仕事において、少しでも効率を上げたいとか、有意義な結果を得たいとか、そう考えるのはごく当たり前のこと。
私も常にカイゼンと思って自分の仕事の仕方を変え続けております。




最近、私が取り組んだ結果、有意義な結果を得られた代表例は「フリック入力」です。
えっ? とお思いの方もおいででしょう。
しかし、これが私のモバイル生活を劇的に変化させたといっても過言ではありません。(ちなみに、この文章もフリック入力で作りました)
つまり、iPhoneでかなりの文章を(ストレスなく)打つことができてしまう。
(自分の中で)これはなかなか大きな変革でした。



最初にフリック入力の存在を聞かされた時には、誰がそんな面倒なことをするかい! とまあそう思ったものです。
しかし、ある時、滅多に会わない血縁者(娘)から便利だよと勧められ、チャレンジ精神が沸き起こりました。
彼女いわく「丸1日、死にそうになりながらでもやり続ければOK。すぐに慣れるから」とのこと。
一度覚えれば、それはもう劇的に早打ちができるということでした。




それから丸一日格闘しましたが、全くインプルーフメントはありませんでした。
さらに我慢すること1週間。それでも、「ふ」と「ひ」と「へ」を間違う始末(それはつまり「う」と「い」と「え」を間違うといういことであり、すなはちそれは、ほぼ毎回打ち間違うということ)。
それでもあきらめないのが私の偉いところです。もはや意地とばかり効率を無視してフリックし続け、ようやっとマスターしました。
(娘が丸一日でできたことを私は丸1カ月要してようやく身につけたということであります)




それでも、その苦労による収穫は大きなものがありました。
私がひそかに目指したのは「ペーパレス」と「脱PC」です。
PCは確かに便利ですが、いくら軽量化されたとはいえそうそう持ち運ぶ気にはなりません。
そこでスマホとタブレットでできてしまうことはできるだけやろうと。
さらに、紙によるメモやら何やらをなくそうというチャレンジには、思い浮かんだ瞬間にその内容を記録するデバイスが必要になるわけです。




たとえば、あるアイデアが浮かびます。
(私の場合)それをすぐに忘れてしまうので、どうにか記録に取る必要があります。

蛇足ですが、私はこれまですごく良いアイデアが何度も浮かんだことがあります。
ところが、それらの相当程度を実現できていない。なぜなら、それを忘れてしまったからなんです。
あの時、メモさえ取っていれば、今頃スゴイことになっていたかも知れんわけです。

話を戻しますと、そんなことで、私は何とかアイデアを記録したい。
過去で言うと、ボイスレコーダーを常備したり、iPhoneのボイスレコーダーを無理に使ったり(同じですみません)。
そういう苦労をしてきましたが、結局、手帳にメモを取るのが一番間違いがありませんでした(当たり前です)。
今や、手帳へのメモを上回る効率をフリックを駆使したメモ入力によって実現しています。




これをやり始めて便利なのは、スタッフとの共有もすごく楽だということ。
思い浮かんだアイデアをメモに入力してすぐにメール送信という一連の動作になります(まあ、そんなもんを受け取るスタッフ側は迷惑かもしれませんが……)。




さらに、リマインダーにペーストすれば、納期管理も可能になります。
実は、このリマインダーがまた、私にとって病的に馴染んでます。
リマインダー自体はいろんなツールで実現可能でしょうが、私がなついてしまったのはiPhone、iPadに標準装備されているヤツ。
そもそもはソフトバンクショップのお姉さんに勧められたのがきっかけです。
何かの締め切りを忘れないようにと、得意のフリックで入力すると、なんだか使いやすい。
それ以来、何かとリマインダーで行動管理するようになった次第です。





さて、これによる問題点ですが、どこにいても何か気付いたときにiPhoneをいじり始める失礼なヤツになってしまう点でしょうか。
まあ、とにかくも着実にペーパレスと脱PCを目指しております。

いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)
2013-06-25 16:15:59

頭蓋

テーマ:ブログ
 目の前にいる男の二十年前を思い出していた。目はくりくりとして可愛らしくさえあった。天然巻の長髪とすっきりしたアゴのラインが女性たちを虜にしたものだ。
 それが今はどうだ。どこにアゴのラインがあるのかもわからない。額はすっかり広がって、あれだけ澄んでいた瞳は黄色く濁り、目の玉がクリクリではなくギョロギョロ動いている。この男の妻を思うと、ただ気の毒でしかない。

「……ですからね。いっそのこと消してしまったら楽になると思って。それで手術っていうんですかね。受けようかどうか。まあ迷ってるわけですよ」
 えっ? 手術? 後輩の変わり果てた風采に気を取られるばかりで、話をまともに聞いていなかった私は、捨て置けないその語感に反応した。
 手術って、おまえ、なんか悪いの? 夢からようやく覚めたような素振りの私を軽く睨んでから後輩は続けた。
「ですからね、嫌なことばっかりなんですよ。ここのところ毎日。まあ、仕事もそうだし、家でもそうです。最近、スタートしたプロジェクトは何が目的なのかもはっきりしないし、いつ予算が打ち切られるかもわからない。おまけに、上役なんてまともに説明も求めてこないですから」

 後輩は誰でも知っている大手企業の管理セクションに身を置いている。大学を卒業して以来、辞めずに務まっているのだから、きっとそれなりに評価されているのだろう。ところが、久しぶりの再会から1時間というもの、ほとんど愚痴ばかりだ。いわゆる中間管理職として板挟みに苦悶しているのだろうが、こちらが聞き流したくなる愚痴っぷりなのだ。
「だいたい先が見えないことばっかりですよ」
 投げやったように後輩が言う。しかし、どこの世界で先が見えるというのか? それを返しても無駄であろうから、ただ黙して聞くしかなかった。
「ところがですよ。いつ打ち切られるかわからないプロジェクトなのに、人だけは何だかアサインしてくるわけですよ。もしかしたら、これはリストラ用のプロジェクトを偽装してるんじゃないかと思うんすよ」

 いよいよ、後輩の目つきがあやしい。いくら企業が巧妙にリストラを画策しようとて、わざわざ偽のプロジェクトを仕立てるなど考えにくい。ましてや、後輩が属する企業は、私が知る限りイギリス貴公子並みに上品なのだ。
「まったく先を考えると、嫌なことばっかりですよ。最近、プロジェクトに加わった社員は組織に要求するばかりでロクな働きもしない。たぶん、上司は僕にヤツのマネジメントを押し付けて、うまく辞めさせたら評価して、働きが悪ければ僕のせいにするつもりなんだ。そうじゃなきゃ、あんなヤツを……」
 あんなヤツがどんなヤツなのか、こちらには見当もつかないが、とにかく後輩にとっては耐え難いことなのだろう。上司が部下の手柄を取り上げ、失敗をなすりつけることはどんな会社でも起こりうることだ。これについては、妄想だと断じるわけにはいかなかった。

 でもな、お前、そんなに思い詰めなくっても、どうせプロジェクトはなくなるんだからテキトーにやっておけばいいじゃないかと差し挟んだ。
「いいですねえ、経営者は」
 すっかり全部をあきらめたように吐き捨てる後輩。思い直したように向き直って話を続けた。
「テキトーになんてできるわけないじゃないですか。こっちはサラリーマンですよ。いくら組織がリストラのために仕立てたプロジェクトでも、一生懸命やらなきゃ、いつ飛ばされるかわからないんですよ。地方にでも飛ばされたら、もう立ち直れないっすよ。営業なんか二度とやりたくないし」
 後輩の会社は伝統的大企業だが、確かに前線はなかなか競争的だ。営業の最前線で経験を積み、やがて本社勤めになり楽をするというのが、この会社における憧れのジョブローテなのだ。目の前の男はどうにかそのローテに乗っている。
「ですからね。プロジェクトが失敗ってことで終了になったら、僕の次はないんすよ。だから、それを考えると、もう気分が滅入って……毎日を過ごしていく自信がなくるんすよ」

 おまえ、うつ? 言いかけた言葉を何とか飲み込んだ。もしも後輩がウツなら、これ以上の反論は余計でしかない。私はただ耳を傾けるだけに集中しようと努めた。
「それで、あの先生に診てもらったってわけですよ。そうしたら、結構、言うことに筋が通ってる。人間の心配事のほとんどは実現しないって。それなのに悩むのは遺伝子的にプログラムされちゃってるからだって、そう説明されましてね」

 虚ろだった男の瞳に少しばかり生気が戻っている。どうやら、その先生とやらは、この男に希望らしきものを提示したようだ。
「扁桃体ってところに心配事が記録されてるらしいんですよ。そこは一時的な記憶の保存場所なんですけどね。要は当面する課題が多い時に、扁桃体がしっかり働くわけですけど、こいつがどんどん危機感を煽るらしいんです。つまり、人間が捕食されてた当時のプログラムが動くんですよ。周囲の環境が不穏な状態だと、それに反応して脳が危ないぞ、危ないぞって知らせるわけです。そりゃ、捕食されちゃう当時は、そうでなきゃ実際食われちゃったわけだから、正しいプログラムだったんでしょうねぇ。でも、人間が捕食されなくなった現代では、起きることもない心配事で人類は悩んでるってわけです」
 なるほど、確かに我々人間は出もしないお化けに怯えるということがよくある。だいたい不確実性の時代などと言うが、一体いつ確実な時代があったというのか? 人間、おかしなことを言うものだが、これも前史時代の遺伝子ゆえかもしれない。危機意識という名の強迫観念は人類共通に植え付けられたプログラムなのだ。
「それでまあ、治療を勧められたんすけど。どうも、最後の最後にビビっちゃって」

  彼が勧められた治療とは扁桃体の活性化を妨げ、逆に右脳の側頭頭頂接合部の活動を高める処置だ。それには、脳の特定部位に直接パルスを当てることのできるTMSー経頭蓋磁気刺激ーなるものが使われるという。
「扁桃体の動きを抑制すると余計なことを忘れられるらしいんですよ。でもって、右脳の側頭頭頂接合部を刺激すると、自他の区分が活性化して、自分勝手になれる。それで、先行きをいちいち考えなくなるってわけです。まあ、自分を騙すみたいなもんなんすかねえ」
  いい話じゃないか。それで、お前の気分が楽になるなら最高だ。そう、後輩に返すのだが、本人は今一つ浮かない。
「扁桃体は一時保存の場所ですけど、記憶とも蜜に連携してるんですよ。となると、もしかしたら、僕にとって大事な記憶も飛んじゃうかもしれない……そう思うと躊躇するんすよ」
  何を今更たわけたことを。無い物ねだりも大概にせえよと言いたくなった。
「いやぁ、怖いんすよ。子供たちのこととか、やっぱり大事だし。そういう思い出まで奪われるのは辛いじゃないですか」
 おまえ、一体どっちがいいんだ? つまり、先行きに怯え、出もしないお化けにヒビって生きるのと、お前のそのチンケな記憶とやらを持ち続けるのと? これは未来に生きるか、過去に生きるのかの選択だよ! 自分の指摘がはまり過ぎていることに酔った。後輩は黙ったまま俯いている。
 おい、しっかりしろよ! そのなんチャラいう先生を信頼したらいいじゃないか? その治療をやったからって、記憶が飛ぶとは限らないだろう? 後輩は何やら不満を抱えた様子のまま憮然としている。やがて、向き直るとギョロッとした目でこちらを見つめた。わずかだが、後輩の唇が震えている。

「だけど……あの先生、あなたが紹介してくれたんすよ」

いいね!した人  |  コメント(2)  |  リブログ(0)

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。

Ameba芸能人・有名人ブログ 健全運営のための取り組み
芸能ブログニュース