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2007-10-06 23:27:52

ガラスを隔てた関係性

テーマ:おもいでとか
夜の駅前

交差点の信号待ち。

仕事帰りの人たちが歩いていく。

電光掲示板に流れる要約されたニュースを見るようだ。


僕にとって彼らは人でありながら人でなく

左から右へ一定の速度で流れる文字、記号でしかない。


そう、「人でありながら」

僕は最近になって

ようやく彼らを、同じように想い、喜び、悩む 

人であることを意識できるようになった。


子供の頃は完全に記号だった。

スーツを着た人、若い男性、中年の女性、はげたおじさん


その違いは、たぶん関係性だろうと思う。

同じ社会人であり、同世代もいる。

共有できるものが人だと意識させる。



子供の世界は彼らとほぼ無関係だからね。

記号であって当然なんだと思う。

だから、僕も1つの記号として見られているのだろう。

寂しいとか切ないとか思わないよ。

そういうものなんだと思う。



給油したばかりの車だから

フロントガラスは存在すら忘れてしまうほど透明で

だけど、そのガラス一枚の厚みが

僕と彼らとが別にしてしまう。

時間や場所を切り離してしまうように感じる。

まるで映画を見ているみたいだ。



無名の俳優さんを使った映画で

1人でも知ってる人が出てくると、急になぜか安心する。

映像が身近に感じる。

それもきっと関係性が作用しているんだと思う。

もしエキストラでも友達が出演していたら

もっと身近に感じるんだろう。

映画と僕の距離が縮まるんだ。



だから、交差点を流れる人たちのなかに

同級生を見かけた瞬間

もう映画じゃなくなった。

ガラスは本来の役割を取り戻して、ガラス以外の何ものでもなくなった。



無表情だったよ。

交差点を歩く彼女は、まったくの記号で

仕事帰りの人で、僕の知る彼女とは違った。



僕が彼女を見つけたことで

信号で停車中の運転する人、という記号から

本来の僕を取り戻したように、彼女もまた僕を発見すれば

交差点を歩く人から

幼稚園から中学校まで一緒だった同級生を取り戻すのかな。



でも、彼女は僕に気がつかず

交差点を歩く人のまま

僕も声をかけず

少しだけ彼女との思い出を振り返り

車を運転する人という記号になる。



僕はたくさんのことを覚えている。

だけどあの頃のまま話ができるだろうか?


幼稚園の帰り、母親と買い物中に追い掛け回され

僕は必死に逃げたこと。


小学校の低学年のとき、通学路の途中にあるテニスコートを眺めていたら

テニスをしている女の人のスカートを見ているのだと思われ

エッチのレッテルを貼られたこと。


高学年になってようやく彼女の身長を追い抜いた頃

もう完全にただの同級生になって

幼稚園の頃からの関係がどこかに行ってしまったこと。

彼女はとても美人になって、寄り付けなくなったこと。



中学生でまた同じクラスになって

塾も同じになって

僕は異性を意識しすぎて、意識しすぎたためにニュートラルになって

とても仲良くなれたこと。

雪の日に、積もった雪を背中に入れあって遊んだこと。

自転車で二人乗りして、コンビニに買い物に行ったこと。

部活に行かない僕に、寂しいと言ってくれたこと。

塾のクラス替えも、学校のクラス替えでも

手を握って惜しんでくれたこと。


僕が塾をやめて少しずつ距離がひらいて

彼女に彼ができて、別れて泣いていたとき

僕に何も言ってくれなかったこと。


高校生になって駅ですれ違ったとき

声をうまくかけられなかったこと。



久々に連絡があって飲み屋で再開すれば

短いスカートをはいて、年上の彼がいたこと。


僕がとても複雑に迷っていた時期で

昔みたいに話をすることができなかったこと。



僕はなんとか自分を取り戻して

今なら昔のように話をすることができるけど

彼女もまた僕と同じように、様々な経験をして

様々な悩みに向き合って

彼女が僕の知る彼女である保障はどこにもない。



僕は彼女に落胆し

迷っていたときと同じように、また彼女を落胆させるかもしれない。

僕たちの持つ秤が永遠だったらよかったのに。



運転する人という記号になった僕の前にある一枚のガラスが

今度は想い出を映すスクリーンになって

切り離された時間の寂しさを感じた。

もう彼女は僕にとって、知っている俳優さん程度でしかなかった。


タバコに火をつけて、少し窓を開けてみれば

二人乗りでコンビニに行ったときと同じ風

僕の鼻は冬のにおいを嗅ぎ取った。

アクセルを踏むことも、ブレーキをかけることもなく

ただそれを無意識に吸い込む空気と変えずのみこむ。

右手にセブンイレブンが見えても追わない。

僕はもう慣れたんだ。




2007-08-13 22:09:55

虫が怖い。

テーマ:おもいでとか

前回、お化けの類が怖いと書いたから

矛盾するように思えるだろうけれども

実は僕、心の強さだけは自信がある。


どんな逆境でも

理不尽なことがあっても

たとえ命の危機であっても

冷静じゃいられないかもしれない。

だけど、僕は笑うことができる。


僕ほど陸軍の歩兵が向いている人間はいないかもしれない。

そう思うくらい自信がある。


誰かを助けられるのなら

いつだって命を投げ出す準備はできている。

自分を突き放す訓練は十分に積んでいるんだ。


格好をつけるわけじゃない。

命の重みや、家族や友人の想いを理解しない

中学生の気分でもない。


たしかに想像でしかないけれども

とてつもなく怖いことだけれども

僕は必ずできると信じている。

男の価値はそこにあると信じているんだ。



ただ、それは人間関係の中でしか発揮されない。

暗闇に脅えるのも

お化けの類を怖がるのも

僕が1人だからだ。


もし、隣に誰かがいたら

どんな闇でも歩いていくし

お化けの類に襲われても、平然と笑える。


なにしろ、誰かがいてくれさえすれば

僕は誰よりも強い心を持てるんだ。



「どうせ土壇場では‥」と、誰もが疑うだろう。

自分がそうであるからと言って

僕がそうであるとは限らない。

特別妙な人間はいるし、

一々書くことはしないけれども

ドラマのような展開で連れていた女性を守った実績がある。

そうすることで美しくなれる。

いや、そうしないことで醜くなってしまう。

その気持ちだけで、僕は恐怖を乗り越えることができてしまうんだ。




そんな自信満々な僕だけれども

1つだけ例外がある。

大好きな人が側にいても、大切な友人の前でも

泣きそうになるほど脅えることがある。

それは虫だ。


僕はなにより虫が苦手なんだ。


今日もまた、肩に乗ったカナブンに気絶しそうになった。

パニックほど醜いものはないけれども

僕は大パニックを起こして

弟の部屋に駆け込んだ。

すると、弟は僕を追い出した。

弟も虫が苦手なんだ。


一度部屋を追い出されたけど

パニックになった僕は、なにをどうしたらよいのかわからず

家の中を叫びながら駆け回った。

そして、また弟の部屋へ。


でも弟は酷いんだ。

僕を入れないようにと、ドアノブをつかんで入れないようにする。

ドアノブの引っ張り合い。


まるで浮気相手との情事の最中

彼女が晩ご飯を作りにやってきた時みたいだ。

人生を賭けて弟はドアノブをはなさない。

僕も全身全霊の力でドアノブを引っ張る。


まぁ、あまりのパニックに弟は途中で折れて

スリッパで叩いてくれたけれども

情けない兄弟だよ。



虫だけは誰と一緒でもダメだ。


サンダルを履いて犬の散歩中

たくさんの人のいる前でも騒いだことがある。


酷いんだよ。

かかとを上げた瞬間

浮いた足の裏と、サンダルの間に蝉が入ってきたんだ。

当然、潰してしまった。

じかに踏みつけてしまった。

こんな偶然、ありえないでしょ?

下駄で天気を占うように、サンダルを飛ばしたよ。

そんな穏やかなもんじゃない。

懇親の力でサンダルを吹っ飛ばした。

サンダルはそのまま変電所の高い壁の向こうに消えていった。


周りの人は僕を見ていないようで見ていた。

たぶん、病気の人だと思われたに違いない。

ぎゃーぎゃー騒ぐものだから

井戸端会議のおばさんも声もなく解散していた。

僕は半分泣きながら、グッタリした体を引きずるように

片方裸足で家に帰った。


蜘蛛が手の甲に突然落ちてきて気絶しそうになったこともある。

彼女に土下座して背中に止まった蛾を払ってもらったこともある。


たぶん一生克服できない弱点だ。











2007-08-12 10:55:09

勝手に想像して怖がること。

テーマ:おもいでとか

恐怖心は無知と想像から生まれると思う。

僕はそれを理解したうえで

幽霊が怖い。

かなりいい歳だけど、幽霊が怖いんだ。


だから、1人暮らしなんて考えられない。

ひとり旅も大変なんだよ。

旅館やホテルでは、夜中も電気をつけっぱなし。

テレビもつけっぱなしで、眠くなる寸前まで本を読むことにしている。



幽霊話は好きなんだ。

稲川淳二の怪談が大好き。

稲川さんの怪談の素晴らしさは、現実と想像の比率にある。

数字にすることはできないけれども奇跡の比率だと思う。

ホラー映画のようなものは嫌いだ。

映像化は恐怖のバランスを壊してしまう。

想像の比重が抑えられてしまうんだ。




昼よりも夜が怖いのと理屈は同じだと思う。

視覚に頼る人間は

見えてしまう昼には想像の余地がなくなる。

夜の闇は、視覚を奪うから想像に頼らざるを得ない。



僕の場合も、厳密に言えば

幽霊、それ自体が怖いわけじゃなくて

闇の想像が怖いんだ。



真っ暗な夜の公園は怖くない。

だから山に取り残されても、それほど怖くはないのだと思う。

だけど、夜の幼稚園を外側から眺めるだけで怖くなる。

その建物内を想像するだけで寒気がする。

廃墟よりも、騒がしい昼間の世界がある場所の方が怖い。




もうね、トラウマなんだ。

たぶん、これがPTSDって奴なんだと思う。


原因は警備会社で深夜のパトロールのバイトをしたこと。

深夜の学校や会社や工場

ものすごく怖いんだよ。


たしかにね、強盗に出くわす可能性があるわけだから

そういう恐怖心もある。

だけど、そんなことよりも

僕の防衛本能がさ、研ぎ澄まされちゃって大変なんだよ。


体中が敏感なアンテナになる。

閉切りの建物は空気が重くてね

だから逆に、少しの動きを感じてしまうものなんだ。




張り詰めた空気を「ピーンとした」って表現するけどさ

本当に「ピーン」って音が聴こえるんだよ。

それ以外は僕の動く音と

水槽の電気音。

そんな状況で僅かに違う音が混じる。

全身アンテナになってる僕は、確実にその音を捉えてしまうんだ。



音だけじゃないよ

カーテンの揺れを一々捉えてくれるし

自分の影の動きも捉えてくれる。


そういう現実的な恐怖だけじゃない。


あきらかにね、視線と気配を感じるんだよ。

長居は絶対にできない。

だって彼らは、僕の侵入に気がつくと

集まってきて包囲をはじめる。

僕が動くたびに、彼らも動くんだ。

そして、その包囲は少しずつ狭められていく。

僕はそれを感じて焦る。


そういう時、僕はできるだけ動く。

体の位置を変えるんだ。

そうじゃないと背後から襲われかねない。


最も危険なのは、扉を開けて建物から出る瞬間。

彼らは二度と入れないように、一斉に襲い掛かろうとして脅してくる。

一度締めた扉を、すぐにもう一度開けてごらんよ。

きっと彼らは開いたドアの一面に顔を押し付けてるはずさ。



もちろんね、本当にそんなことがあるとは思えない。

すべては僕の想像だと思うよ。

それに昼間は騒いだ子供がたくさんいたわけだし

残留するものがあってもおかしくなくて

それを気配と感じてるだけなのかもしれない。


だけど、そのときの想像はさ

そのときの僕にとって現実なんだよ。

実際にあったとか、なかったとか、そういう話じゃなくて

僕の中では、現実にあったこと以上に恐怖なんだ。


僕はその仮想現実を何度も繰り返してね

トラウマになった。



それはね、実際に聞いた変な声とか

鍵が突然曲がってしまう現象とか

エレベーターの閉じる速度がはやすぎて

あやうく閉じ込められそうになったとか

そういうことよりも、ずっと怖いんだ。


生身の人間なんて可愛いものさ。


あるとき、大田区の多摩川沿いにある工場に行った時

深夜の2時くらいかな

土手をこえて河川敷にある建物なんだけどさ

車を土手に止めてね、歩いて建物に向かった。


車を降りたときから、視線のようなものを感じてはいたんだ。

でも、建物の外側なら僕は怖くならないからさ。


工場は小さくて、壁も薄くて外との隔たりをあまり感じなかったからさ

怖がらずに点検を終えることはできた。


僕は安心して車のある土手に歩いた。

そして、階段を登ろうとしたときね

なんとなく人の気配を感じて、

気配の来る方向を見たんだよ。


そしたらね、土手から人間の顔だけが出てるの。

一瞬、何がなんだかわからなくなった。

うまく声も出せない。

全身が凍りついたよ。


男だったよ。

結構若い男の人。

目が合うと、「ヒッ!」と言って

変な叫び声をあげながら、走って行ってしまった。



瞬間的にはすごい怖かったけどさ

「なんだよ、おい‥」と、その程度さ。

すぐにどうやって面白く話そうか悩んだ。



同僚に話をしたらね

その辺りは結構そういうこと多いらしくてね

なんていうか、歴史的な闇の地域らしい。


僕はそういうの屈折した差別意識が生んだ迷信だと思ってたけど

どうなんだろうね。

まぁ、僕は人間なら平気さ。


















2007-08-01 22:56:02

みー

テーマ:おもいでとか
たぶん50そこそこ。

定年にはもう少し時間がありそうな人。

身長160センチくらいの痩せ型

貧弱な感じ。


犬の散歩中、公園内の木に

なぜか、そんなおじさんがよじ登っていた。

「みー みー」と、鳴いていた?たぶん泣いていた。


枝の上で足をプルプルさせながら

幹にしがみついて「みー、みー」って泣いてる。

まっすぐ上を見上げて「みー、みー」って。

たぶん、もっと上に登りたいんだろう。



はじめは蝉かと思った。

でも、「みーん」じゃないから違うと思った。

ずいぶん大きかったし

蝉の寿命を考えても、年をとりすぎてるし。


いや、僕、そんな馬鹿じゃない。

「なんとなく蝉の真似をしてみたかった」

そんなシュールなおじさんなんだろうと思った。


でもね、「みーん」じゃないんだよ。

どう聞いても「みー、みー」なんだ。

調子をかえることもなく、同じ間隔で「みー、みー」なんだ。

途中で唾液にむせることもない。

ものすごく言い慣れてる感じの「みー、みー」なんだ。


だからね、

僕も下から「みー、みー」って言ってみようかと思った。

そしたら、おじさんも僕に「みー、みー」って答えてくれそうでしょ?

でもね、答えられても困るしね

僕の予想だと「みー、みみみみ、みー」みたいなね

みー語を使われそうだったから

バイリンガルってわけじゃないからさ、僕には対処できない。


隣の木に僕もよじ登って、同じように「みー、みー」言ってみようかとも思ったよ。

きっと、それを見た他の人も、僕に習って隣の木に登ってね

「みー、みー」泣くんじゃないかなぁと、また一人、また一人と増えてね。

でも、だいぶ危ない橋でしょ?

総合的に考えて、渡れないと判断した。




もちろん、おじさんに立ち止まって

こんなこと悩んだわけじゃないよ。

おじさんを視野に入れながら歩いた、ほんの数秒のことさ。

ただね、途中でおじさんへっぴり腰なことに気がついてね。

もしかすると、降りられなくなった人なんじゃないかと思ったのさ。

だから、助けてあげようと

通り過ぎた後振り返ったんだよ。

そしたらね、おじさんの灰色のスラックス

腰がゴムのでベルトをしてなかったのが見えて

その腰のゴムのグネグネ具合が、ものすごく不快に思えて

助けてあげるのを遠慮してしまった。



すぐに僕は忘れたよ。

今日の夕方は、あんまりにも綺麗だったからね。

夕日に染められた雲が、ほんとうに綺麗だったんだ。


僕はゆっくり夕方の終わりまで

ベンチで眺めていたんだけどさ


その帰り道、同じ順路を歩いたんだ。

「そういえば、おじさんが木の上にいたな‥」

僕は軽く思い出した。


遠くからおじさんの木の下に人影が見えた、気がした。

僕はずんずん進んだよ。

もう夜で暗いし、僕ちょっとした鳥目だからさ

近くまでいかないと見えないんだ。


するとね、やっぱり人がいた。

おじさんの木の下で、幹にしがみつくようにして立ってた。

80歳くらいのお婆ちゃんだった。

もちろんまっすぐ上を見て「みー、みー」泣いてた。

僕も上を見上げると、やっぱりおじさんがしがみついてた。

さっきとは体が反対になってるだけで

「みー、みー」ないてるのは変わりがない。


僕は少し怖くなった。

みー語で会話してるのかと思った。

でも、二人して上を見上げて「みー、みー」と言ってる。


通り過ぎようとした瞬間

おじさんが一際大きな声で「みー!」と叫んだ。

おばあちゃんも「みー あっ! みー!」って叫んだ。

バサッと音がして、上からネコが落ちてきた。

ネコが着地した瞬間、うちの犬が反応して吠えた。

ミーというネコは、驚いて隣の木に登ってしまった。


おじさんとお婆ちゃんに、ものすごい目で睨まれた。

リストラされて泣いてるわけじゃなくてよかった。









2007-07-13 20:56:23

いじめ調査

テーマ:おもいでとか
台風が気になって

朝のワイドショーを見てたんだけど

ダンボール入り肉まん

すごいね、さすが中国だね。


でもさ、

最近、テレビがこぞって中国を取り上げるじゃない?

しかも、バッシング的に

どうも、オリンピックが理由だとは思えないんだよね。

これまでの沈黙がどこえやら

なにか大きな力が働いているのかね

見ていて気持ちが悪いんだよなぁ。




そんなことよりもさ

「いじめ」

いじめの証拠集めに探偵を雇うってやつ。

僕がしてた頃も何件か依頼があってね

たぶん、今はもっと多いんだと思う。


担当したのは中学三年生の女の子と

中学二年生の男の子だったんだけど

お金と性っていうのは本当だよ。



性が関係するいじめは

本気で隠そうとするからね

いじめる側もいじめられる側も


たいがいの「いじめ」はさ

遊び半分だから

足を出すのははやいんだ。

もう当日に現場を押さえることができる。


でもね、

性、たとえば強姦的な

そこまでいかなくても

性器で遊ぶようないじめはね

いじめる側も一線を越えてしまってることを認識してるから

かなり入念にやらないと

見えてこないんだ。


もちろん、いじめらてる子も

時間をかけてゆっくり信用させないと

話してくれないし。



担当の女の子は

お父さんと二人で暮らしててね

そのお父さんからの依頼だったんだけど

「いじめ」が確実に存在するのかもわからない。


僕は完全にコマだったから

疑う理由も根拠も聞いてなかったんだけど

結局、見つからなくて時間切れ。



男の子は

いじめられてることを母親に訴えて

その証拠を押さえるのが仕事


だけど、調査して3日目に

その男の子

いじめっ子に僕たちの存在を

ばらしやがってね



脅されたわけでも

疑われたわけでもないんだ。

自分からあっさり話しちゃってるの。

進んで話してる。


いや、わかるんだその気持ち。

彼は彼なりに考えたんだよ。

そうやってばらして

親が勝手にやったことにして

いじめっ子を守る側にまわる。


いじめっ子の仲間に入ることで

自分を守ろうとしたんだね。


だから、とりあえず中止にしてね

様子を見ることになったんだけど

忘れた頃に母親がやってきて

また、いじめが始まったんだって。


もうそのときには

僕、お買い物係りになってたから

どうなったかはわからない。




いじめの初期段階で共通するのはさ

「学校を休まなくなる」

僕が思うに、これだね。


普通、いじめられるのは嫌だから

「行きたくない!」なんて言いそうでしょ?

でも、むしろ行くようになるんだ。

特に中学生くらいになるとね。





理由は何だろうか?

たぶん、本人も漠然としていてわからないんじゃないかな。

でも、行かなきゃいけないと思ってる。とても強く。


「負けたくない!」とか、そういう気持ちじゃないと思う。

まだ、初期の頃だから

「たまたま偶然、いじめのようなものに出会ってしまった」

そういう気分なんだと思うんだ。

いや、そうだと信じたいんだ。

だから、完璧な「いじめ」を想像して怖れるんだ。


いじめられる彼らにとって

いじめの被害は殴る力だとか、取られるお金の金額じゃなかったりする。

「いじめ」を受けていることを知っている人数

クラス全員が関与するような「いじめ」が最悪の状態

知られる範囲なんだと思う。



いじめる子と自分の関係だけに留めておきたいんだよ。

だからね、自分のいない間に

範囲が広がってしまうことを怖れるんだ。

クラス公然の秘密なんて状態にはしたくない。



彼らの努力はさ

いじめを止めさせる努力じゃなく

いじめをクラスの人に知られないための努力なんだよね


だから、言い方は変だけど

賢いいじめっ子はね

クラスのみんなに知られる恐怖心を揺さぶって

たとえば、お金を取ったり

性を強要したりするんだ。


憂さ晴らしが目的じゃない「いじめ」

もう恐喝とか強制わいせつなんだけどさ

こういうことする奴は

ちゃんと捕まえないとね

先生の注意なんかは無意味だよ。

たぶん、そうやっていじめる子の心理は

犯罪者のものなんだよ。



まぁ、僕の知ってる範囲の「いじめ」だからさ

一概には言えないけど。





2007-07-10 22:05:32

死んだら家族の次に会いに行こう。

テーマ:おもいでとか
小学校の頃の野球のコーチが

亡くなったって聞かされた。

57歳

やっぱりガンだった。



僕は小学校の6年間

野球をしていたんだけど

そのコーチは4年生から卒業まで見てくれたんだ。


試合に出れば負けてばかりの僕たちを見て

あまりに不甲斐なかったんだろうね

もう子供は卒業したのに

コーチを買って出てくれたんだ。


正直、僕は嫌だったんだ。

練習が厳しくなると聞いてたし

もともと勝負事に興味がないタイプだからさ


でも、「勝ちたいか?」と聞かれたら

僕も含めてみんな「はい!」と答えた。

小学生の僕たちに、それ以外の答えなんてないでしょ?


そういうことで、厳しい練習がはじまったんだ。

日曜祝日だけじゃなく、土曜の午後も月水金の放課後も

基礎練習の宿題もあった。


体力のない僕は

吐いたり、怪我をしたり

本当に辛かったよ。


コーチたちはとても厳しくて怖かった。

だけど、僕たちを強くすることに一生懸命だったし

野球に対して、とても誠実だった。

だからね、僕は嫌いになったりはしなかったんだ。


でもさ、

体力がなくて、足は遅いし

負けん気はないし

努力もしないしね

ただ、従順なだけ

少しだけみんなよりコツを知ってて

感覚的な動きが良かっただけ



そういう奴を、スポーツをする人間は嫌うでしょ?

それだけでレギュラーで

投手をしてるわけだから

勝負にかけてるコーチからは好かれないんだよ。

特に、負けん気のなさが嫌われたんだろうな。

それに夢もなかった。

他のレギュラーの友達は高校野球でプロになるなんて話してたのに

僕は中学で野球を続けるかどうかも考えてなかったし。


いつも僕は置いてきぼりだった。

みんなが走り終わっても

僕だけまだ走ってた。

「気持ちが悪い‥」って訴えかければ

もちろん休ませてくれるけど

僕を見てくれてないんだ。

「お前なんか勝手にすればいい」

そんな雰囲気がね。

もともと嫌われることに慣れてないからさ。

試合に出ても「なんでお前が?」っていう眼差し。

レギュラーの発表のとき

いやいや僕の名前を呼ぶ

そんな雰囲気も感じてたんだ。

僕は見てみぬ振りを続けるしかなくて

苦しかったよ。





でも、そのコーチだけは

僕を褒めてくれたんだ。

そんな性格の僕なのに

野球をやるにはもってこいだってね。

素直で、いつも冷静でいられる

人の気持ちのわかる子だって

子供だったからさ

よくわかんなかったけど、嬉しかったんだ。



もちろん、褒めてくれるけど厳しかったよ

僕には特に厳しかった。

人より多く走らされたし

多く投げされられた。

どうにか認めさせたかったのかもしれない。

僕はそんなこと気がつかないけどね。




僕は褒めてくれたことよりも

試合をしてるとき、練習をしてるとき

僕を見るコーチの目が

とても優しかったんだ。

特別、優しかったんだ。

ちゃんと僕は気がついてたんだよ

それが嬉しくてさ、

僕を見てくれているって、安心したんだ。

父親のように

僕はコーチを信頼してたし

コーチは愛情を持ってくれていた。

どうしてなんだろうね、僕は信じきれたんだ。




もし、厳しくて怖い

たぶん僕のようなドンくさい奴を

好きじゃないコーチだけだったらね

僕は辞めていたかもしれない。

続けていたとしても

こんなに素敵な思い出にはなってなかったと思うんだ。




そのコーチの酷くキツイ言葉や

ノルマをこなせず苦しんでる僕を

守ってくれていたことも知ってるよ。

子供の僕だって

薄々と感じてたよ。

もちろん、全然気がつかないふりをしたけどさ。





だけど、卒業したら

会わなくなっしまった。

中学の生活も大変だったけど

きっと、コーチを続けてるだろうと

久しぶりに日曜のグランドに向かえば

違う色のユニフォームを着た野球少年がいたんだ。


どうもね

僕らが卒業した後

練習に厳しさにクレームが入ったらしく

チームは解散していたんだ。


だから、もうどこに行っても

コーチには会えなかったんだよ。




10年くらいは経った日曜日

僕は大人になって

彼女と犬を連れて近所の公園に行った。


すると、おじさんたちが集まって野球をしてた。

僕はなんとなく眺めてたんだけど

楽しそうな声の中に

よく聞いたコーチの声も混ざってたんだ。


僕は目で探したよ

もちろん、すぐに見つけられた。

あの頃と同じ、サウスポーで黄色いグローブ

だけどね、

その日は声をかけられなかったんだ。

「元気なんだ‥」と、嬉しかったけど

それだけで家に戻ったんだ。


それからも、ときどきね

日曜日の公園で野球をしてるコーチを見かけた。

コーチも僕に気がついてたと思うんだ。

だって、目が合うと

あの頃と同じ優しい目をしてくれるんだ。

まったくあの頃と同じだったんだよ。



なのにね、なのにだよ

僕は声をかけられなかった。

ただ、照れた笑顔を見せるだけだった。

きっとね、あの頃みたいに

優しい目で僕に声をかけてくれることを期待したのかもしれない。



なぜなんだろうね

僕はあの頃も、あの時も

今だってさ、大好きなんだよ。

なのに、僕は声がかけられなかったんだ。



たしかにね、人は変わってしまうものでしょ?

あの頃僕は子供で、コーチは大人

あの時僕は大人で、コーチも大人


やっぱり僕が声をかけなきゃいけなかったんだ。


だけどさ、

僕は子供に戻ってしまうんだよ。

あの優しい目をされてしまうとね

従順で素直で、とても恥ずかしがりやだった子供にね



男同士だからさ

そういうのも仕方ないのかもしれないけど

僕はあの頃のままの笑顔を見せられたのかな。

そしたら少しは救われるんだけどさ。





僕の時間は

まだ、たくさんあると思ってた。

いつか、なんかの拍子にね

偶然、話すことができて

僕は泣きそうな顔で感謝の言葉を伝えて

コーチはきっと喜んでくれると思ってた。


なのに

死んじゃったんだって。



悔しいとか、悲しいとか

そういう気持ちよりも

なんだかね

気がつかないうちに、ずっと時間は流れてたんだ。

誰かが生きて死ぬほどの違いがあるくらい流れてた。

情けない。

僕は情けないよ。















2007-07-03 23:28:31

ちょっと不思議な話

テーマ:おもいでとか
JR三鷹駅~国分寺駅までの高架線事業

やっと半分の下り線が高架化した。

僕の家からも中央線が走ってるのが見える。

なんか変な感じだよ。


最初気がつかなくてさ

踏み切りを渡ろうとしたら

ものすごい音がしてね

はじめて聞く音だから、いったい何があったんだと驚いた。

そしたら真上を電車が走ってるのね。



高架線の工事はJRが負担してるらしいけど

駅は市の負担なんだってさ

だからなんだろうね

他の駅は完成してるのに

僕の最寄の駅は、まだ途中。

しかも、下り線を降りると

僕の住んでる方向と逆の改札にしか出れない。

すごく不便なんだ。

新しい駅も、どこかで見たような

微妙な作り出しさ

せっかくお金かけるなら、もう少し考えて欲しいよ。





ところでね

うちのお墓のあるお寺から

棚経の案内が送られてきた。

歩いて2分ほどの距離にある寺なんだけど

毎年お盆は家に来て仏壇にお経をあげてくれる。


そこのお寺はね

何年か前に住職が亡くなって

息子が後を継ぐことになったんだけど

今年、修行を終えて住職を継げたんだそうだ。



実は

中央線の高架線事業と

亡くなった前の住職には

不思議な関係がある。

高架線事業に関係して亡くなったんだと言われてる。




最寄の駅は人身事故がやたら多いの。

特別快速や特急列車が止まらないからね

かなりの速度で通過する。

それが理由らしいんだ。


僕もね、何度か遭遇したことがある。

朝、通学で駅に向かう途中

駅の階段の側にある銀行の窓ガラスが

バリバリに割れてるのね

強盗でも遭ったのかと思ったら

飛び込み自殺した男性の腕が

列車に衝突した衝撃で飛んできたんだと。

僕はびっくりしたよ

もし、そんな腕が飛んできて僕の顔面を殴ったら

傷害罪で問えるのか、ずっと悩んだ。


いや、なにしろ列車に衝突すると

部位が飛ぶことがあるらしい。


でね、高架線事業

工事がはじまったの。

古い線路をどかしたり

生茂ってた草を刈ったり

施設を建てるために穴を掘ったりね。


すると

やっぱり飛んでたんだね

白骨が見つかる。

穴を掘ったら、古い骨がたくさん出てきたんだって。

で、予想外の量に驚いて

供養してもらおうとお坊さんを呼ぶことにした。

で、白羽の矢が立ったのが

その亡くなった住職だったの。


で、供養のため呼ばれた住職は

穴の前で、お経を唱えたんだけど

最中に穴に落ちてしまった。

驚いて、工事の関係者が救い上げようとしたら

住職はもう亡くなってたんだって。


死因は脳梗塞だったかな。

落ちたことが直接の死因じゃないらしい。




お酒が大好きな人でさ

僕の父の葬儀の後も、やたら飲んでたしね

近所の知り合いのおじさんが飲み友達で

毎晩飲み歩いてたらしい。

前にも脳梗塞で倒れて入院したことがあって

やっとリハビリも終わって退院した後だったから

偶然が重なっただけかもしれないけどね。



結構、近所では知られた話なんだ。

こんなことが身近に起きるとは思わなかったから

最初聞いたときは、ちょっと怖かったんだ。

やっぱり背中を押されたのかな。

ホームでの飛び込み事故の供養だけにさ。


いや、ふざけてない。

全然ふざけてないんだ。

すごく怖いんだよ、僕はそういうの。








2007-06-25 20:34:12

つづきになってない続き

テーマ:おもいでとか
彼は優しい人だ。

彼を知っている誰に聞いても

たぶん、そう答える。

大人は優しい子の前に

「穏やかな」をつける


誰からも見方が一致するってことは

比べて特別に「優しい」か

「優しい」以外に形容できない

それだけの人

どちらかなんだと思う。



僕も彼を優しい人だと思う。

だけども、

たぶん、みんなが優しいと感じたひとつひとつの事柄を捉えれば

そのほとんどが、優しくせざるを得なかった

そうする以外になかったのだと思うんだ。


実を言えば、僕は彼を見続けて

「優しい」という言葉と

「優しい」という行為が、どういうものであるのか

よくわからなくなってしまった。


なんとなく、「優しい」の99%は「臆病」だと思ってしまう。

残った1%は、「そうじゃないかもしれない」という可能性。



なにしろ、彼の過去を思い返せば

すべてが、自分よりも強い人から身を守るため

処世術としての「優しさ」だったような気がする。


強い人に好かれるための優しさ

彼は優しい人として、誰にでも好かれることで

ただ、生きやすく

学校、クラスに安心して通うために

そうしていたに過ぎないと、僕は思う。



もちろん、僕たちはとても親密だから

そんなことも話したりしたよ。

すると、彼は少しだけ嫌な顔をしたけれども

「そうなのかもしれないなぁ‥」と

そして、今では

そうだったんだと思ってる。


僕はそんなことで彼を嫌いにならないし

彼もそんなことで僕に嫌われるわけがないと信じてる。

と、いうよりも

それのどこが悪いんだ?と

むしろ誇るべきじゃないかと

共通の見解を持ってる。

だって、彼はそれでずいぶん自由になれたからね




そういう彼の行動が身につけさせたのか

それとも、特異体質なのか

僕もよくはわからないのだけど

彼の一番の特徴は

彼の存在そのものが

人に愛されやすくできていることだ。


世の中には、「憎めない奴」というのがいるようだけど

そういうのとは、少し違う

彼はオチャメでもないし、お調子者でもない。

なのに、なぜか人に嫌われないようにできてる。

こればかりは、どうも不思議なんだよね。


ただね、たしかに可愛くはあるんだ。

もしかすると、僕の知る人間で最も可愛いかもしれない。

そう評価されないのは

間違いなく、彼の見た目で

可愛いとはかけ離れた容姿だからさ。


どうも、彼自身

自分は相当可愛いと思ってるみたいで

ときどき、「可愛くやってみようか?」と

一々の行動に、彼なりの可愛らしさを見せてくれるんだけど

彼はとてもサービス精神が旺盛だからさ

だいぶ、デフォルメして笑わせてくれるのだけど

そのエッセンスは、たしかに納得できるんだ。


もし彼に才能があるとすれば

たぶん、構造や本質を見極める目だと思うんだ。

そして、それを現実に表現する演技力



僕たちは二人でさ

いろいろなことを考えて

いろいろな表現を探して

そうしなければ

とても生きることが難しくなると

本当に必死だったからさ


高校生になるとね

彼はただの「優しい人」ではなくなって

「変な人」とか、「頭のおかしな人」とか

人によっては「優しい」なんて、まったく思わない人もでてきてね

でも、それは彼にとって十分な褒め言葉だった。

「変な人」と言われれば、

勝手に「神秘的な人」だと解釈していたし

僕はそう仕向けたわけだけど

なにしろ、相手を驚かせることが大好きで


まぁ、そういう風になったのは

中学校のときの失敗が原因なんだけど

やっぱり失敗は様々なことを学べるんだね

僕も彼もさ、たしかに賢くはなったよ。


そのときの失敗のことは

あまり思い出したくないんだけどさ

いや、いまだに後悔してるから

ときどき思い出しては悔しい気持ちにもなるんだけどね



あと、僕たちは

ものすごく親密だけど

そういう関係じゃないよ。

僕は彼を可愛いと思うこともあるけれど

なにがあっても抱き合うことなんかないし

肩を組んだことも、背中をさすったことも

辛いときも嬉しいときもさ

触れ合ってなにかするなんてまったく無いんだ。

総合的に気持ち悪いしね

いや、そういう問題じゃないか‥


今、はじめて想像してみたけど

気持ち悪くてたまらないな。












2007-06-23 17:57:34

彼と彼のソネット

テーマ:おもいでとか
彼と出会ったときのことは覚えていない。

だけど、ずっとずっと前だ。

10年以上も前にマンションになってしまった

幼稚園のさくら組で

彼が先生に憧れてた頃かもしれないし

日曜日の朝に親に連れて行かれて

無理やり少年野球に入れられた頃かもしれない。



たぶん僕の方が彼を知るのは早かった。

彼はずいぶん後になって僕を知った。

僕たちは、いつからだかは覚えてないけど

少しずつ親密になっていったんだ。



僕はとても臆病だしね

だから、彼が僕を知ってくれるまでは

話しかけるようなことはなかった。

臆病だけじゃない

自信もなかった。

自信がどういうものかもわからなかったし

ただ、ひっそりと学んでいた時期だったんだ。



中学生になってからかな

僕たちがたくさん話をするようになったのは。

彼が初恋をしたんだ。

その気持ちを持ち倦ねてた。

それまでもね

たとえば、幼稚園の先生のこともそうだし

小学校3年生くらいから、なんとなく気になる女の子もいた。

心を痛めてることも知ってたよ。

だけど、今度はなにかが違う。


だからね

これまでのは憧れで

今度のは初恋

きっと、そうなんだって

僕が言葉にかえてあげた。


彼はとても納得してくれてね

それからかな

僕たちがたくさん話をするようになったのは。


まぁ、そのほとんどがね

彼女の行動の理由を僕に尋ねることだったけど

期待に答えるために一生懸命考えたよ。


彼は僕の説明を必死に聞いてくれた

ときどき「そんなわけあるか!」と

聞き捨てられてしまうこともあったけど

そういうときの説明は

必ず、彼にとってとても嬉しい

喜ばしい説明をしたときだった。


でも、そのあと「ほんとう?」って

小さな声で聞き返してくる。


だから僕は「そうだ!」って力強く言う。


彼を喜ばせようとしたことはないんだ。

僕は考えられる限りの説明をしたけど

彼を喜ばせようと思って言ったことなんかない。




だけど、僕の正しさが証明されることは

彼女とのことに限ってはほとんどなかった。


だって、彼は僕の話を聞いても

なんの行動もせず

見てるだけなんだもの。


僕の話に一喜一憂して

彼女本人のことよりも、

その喜びや憂いに心のほとんどを費やしてた。


僕も臆病だけど

彼もじゅうぶん臆病だったんだ。

まぁ、初恋だからしかたがないよね。



それでもね

彼女以外の問題

たとえば、クラスでの立場とか

自分を守る術とか

人に好かれる方法なんかは

彼の性格が受け入れてくれさえすれば

僕の意見を尊重してくれた。


最初はものすごく疲れたみたいだ。

彼は少し太っていたけど

あまりの心労に痩せてしまったよ。

僕は心配もしなかった。

彼は痩せた自分に喜んでたしね

それに、この彼の努力は

とてもうまくいったんだ。



なんていうか、

彼は敵を作りたくない

争いごとの嫌いな人だしね

だから、誰彼かまわずみんなに好かれたがってた。

それが結果的に、初恋の彼女へのアプローチになると

僕たちの意見は一致してたしね

なにしろ、当時の彼は情熱的だったね。


彼の努力の結果が見えてきた頃には

もう無理なく、疲れもなく

最初は意図的だった思いやりがね

彼の性格の一部になった。


もう、みんなから愛されてたよ

それは本当にすごいことだった。

なにせ、彼の顔や学力や運動神経や経済力じゃ

到底手が届かない数のチョコレートを貰ってたし

初恋の彼女からは

たぶん、クリスマスや誕生日にプレゼントをあげていたこともあると思うけど

他の人とは違う、ちょっと大きなチョコを貰ってた。


中学一年生の終わりには

小学生の頃じゃ想像もできないほどの

立場を得ていたよ。


僕もさ

ことごとくはね返ってくる結果にね

とても満足してたし

僕の正しさも証明されたことになるからね

やたら自信を持っちゃった。


なにしろ、そういうことで

僕たちはとても親密になったし

思った以上の結果に

深い信頼関係を持ったわけだ。


うん。でも盛者必衰

そこまで盛ってたわけじゃないと思うんだけど

なにしろ必ず衰えるもんだ。

僕たちはやっぱり子供だったから

たくさんの欠陥に気がつかなかった。

おごりもあったんだね。

今思えば

その責任のほとんどは僕にあるんだろうな。










2007-06-14 20:34:13

変わった人

テーマ:おもいでとか

久しぶりに生で音楽を聴いたんだ。

やっぱり迫力が違うんだよね

スピーカーから流れたなら

たぶん、無視してしまう曲なんだろうけど

体にズシズシ音を感じるから

僕の足も止まってしまうんだ。



曲よりも、音の方が好きだからさ

メロディーよりも、なんていうの?

バンドだったら、ベースやドラムの音の方が

気になっちゃうんだよね

アレンジが違うだけでCDをホイホイ買ってしまうし。



そういう仕事はしないのにさ

昔、バイトしてた音楽関係の会社の人が

もうね、クドクドだよ

音楽の良し悪しについて語ってくれたんだ。

音楽好きってそういうものでしょ

ほんとうにウンザリするくらい。



たぶんね

いろいろ話しても、

良し悪しについては何も言わないことを

気に入ってくれたみたいで

好き嫌いと、良し悪しをごっちゃにする人は

この仕事はできないと、

それで、僕をライブハウスや会場に連れて行くんだ。



ほんとはさ、

ただ勇気がないだけなんだけどね

好き嫌いで話した方が、責任取らなくて済むからさ

間違ったときに、恥ずかしくないからね。

向こうは、それを謙虚だと言って褒めてくれたけど

それに、公平がモットーの僕だからさ

たとえば、曲と音とを公平に聴きたいし

ドラムとギターの音も公平でいたい。

なにしろ、なにかを決めるのは大変なことなんだよ。


はじめに言われたのが

生の迫力についてで、

バンド経験なんかがないと、惑わされたりするらしい。

どうしてもデモテープで聴くより

生で聴いた方が良く思えてしまうんだと。


結局、ついてまわってたときは

その人が興味を持つ音楽家もバンドもなくてさ

いつも帰りがけの喫茶店で

「インテリジェンスが無い」と言ってた。


音楽は耳で聴くものじゃなく

知性で聴くものだと

その人はクセナキスを知らなかったけど

たぶん、そう思ってたみたいだ。


小説は読むものじゃなく

観るものだと僕も思うしね

なにしろ、芸術の鑑賞は

芸術家と鑑賞家の協力なんだね

もちろん自由な解釈があるわけじゃなく、

多面性を備えていると。

たしか芥川龍之介も言っていた。


ただ、売れるかどうかは別だと

もっと別な要因があって

それはあるようで無いんだとも。

なにしろ、意地で無視し続けてるんだと。

そして、その意地や売れる要因とも別に

この業界は動いてるんだって。


やっぱ、真剣に取り組まないとね

目に見えないものの良し悪しを決めるのは大変だよ

良し悪しと好悪の違いを明確にするのも

一致させるのも大変だ。


その人は言うんだ。

ある所までくると、好悪と良し悪しが一致した気になる。

でも、本当にそうなのか

一生懸命、学んで考えたつもりだけれど

いつも不安なんだって。


あのときは、僕も子供だったからわからなかったけど

とても責任感の強く、謙虚で誠実な

尊敬できる人だったんだね。

僕は人見知りすぎたからなぁ

もっと一緒にいるべきだったんだよ。



話はいつも抽象的過ぎて

それに試されてるみたいで

気が休まらなくてね


たとえば、

好きな音への想いと

好きな人への想いは

同じ「好き」という想いなのかどうか?

そんなようなことを僕に問うんだよ。


質と量の問題を言ってたのかもしれないけどさ

よくわからないけど

肌触りが違うと答えておいた。

その人とても褒めてくれたけど

僕もなんとなく満足したのを憶えてる。


まったく変わった人だったな。

同じ類の人には、まだ会ってない。





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