吉田裕子BLOG「国語で人生に輝きと潤いを!」 国語講師、古典講座、日本語本

国語を学ぶことで感受性と対話力を磨いたら、人生はもっと楽しいと思う。国語の先生を始めて14年目。(予備校講師、高校教師、カルチャースクール講師(大人向け古典入門講座)、著述家) 東大教養学部・慶應通信(文学部第1類・教職)卒。放送大大学院在学中。


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2月25日は、国公立大学の前期試験です。東京大学の一日目の国語、第二問では、文理共通の文章として『あさぎり』という物語が出題されました。

取り急ぎ、現代語訳(現代日本語訳)を作成しましたので、受験生・同日模試を受けた高2生の振り返りにお役に立てば、と思い、公開いたします。手もとに研究書などの参考資料がなく、訳に悩んだ箇所もありまして、お気づきの点などございましたら、どうか、お気軽にご指摘くださいましたら幸いです。

なお、東大の付しているリード文は以下の通りです。


次の文章は、鎌倉時代成立とされる物語『あさぎり』の一節である。これを読んで、後の設問に答えよ。なお、本文中の「宰相」は姫君の「御乳母」と同一人物であり、「少将」はその娘で、姫君の侍女である。



 (尼上は)本当に死が迫ったのだと悟りなさると、姫君の御乳母をお呼びになって、
「いよいよ最期だと思われる中、この姫君のことばかりが心配なのですが、私の死後にも、必ず(姫君のことを)軽々しくなく、きちんと扱い申し上げよ。もはや、あなたを除いては、姫君は誰をあてになさりましょうか、いや、誰もあてにできなさらないのです。私が死んだとしても、もし父親が生きていらっしゃったら、そうはいっても(大丈夫だ)と安心できるだろうに、誰に世話を託すというわけでもなく、自分が今にも死んでしまったら、その後、気がかりなことです」
と(言うが)何度も何度も繰り返してはおっしゃることが叶わず、尼君は涙もとどめ難い状態である。

 まして(尼上の話を聞いていた)御乳母は、涙をこらえかねている様子で、しばらくは何も申し上げない。少しためらって、
「どうしていい加減に扱いましょうか、いや、そんなはずがありません。あなた様が生きていらっしゃる間こそ、私がたまたま姫君のもとを不在にすることもあるでしょうが、(亡き後は)誰をあてにして、片時でも世の中に生きていらっしゃることができるだろうか、いや、おできにならないはずです。(だから、私はしっかりとお姫様を支え申し上げます)」
と言って、袖を顔に押し当て、耐え難そうな様子である。まして姫君は、ただ(御乳母と)同じ(ように嘆く)様子である中でも、このように母 尼上の嘆きをかすかに聞くと、「まだ意識がおありなのか」と感じ、悲しさを晴らしようもない。本当に、今こそ臨終であるとお思いになって、念仏を声高に申し上げなさって、「(尼上は)眠りなさるのであろうか」と周囲の見ているうちに、早くも命が絶えてしまった。

 姫君は「ただ母尼上と同じように、死んでしまいたい」と思い焦がれなさるけれど、甲斐のないことである。誰もみな正気ではないようすではあるけれど、そのままにしてもいられないので、尼上の葬送の準備をしなさるけれど、「自分が(尼上よりも)先に」と気を失いつついらっしゃる姫君に対し、
「何事も、前世からの因縁がおありでいらっしゃるのだろう。尼上が亡くなってしまったのは、どうすることができましょうか、いやどうしようもありません」
と言って、御乳母は、また、この姫君のご様子を嘆いている。(尼上の兄弟である)大殿も、姫君を様々に慰め申し上げなさるけれど、姫君は生きている人だとも見えなさらない。

 その夜、そのまま、阿弥陀の峰という所に尼君を埋葬し申し上げる。虚しき煙として空に立ち昇りなさった。悲しいというのも、世間のありふれた言い方で、この悲しみには追い付かない。大殿は(自分が)こまごまと物事をおっしゃっていることが(現実でなく)夢のように思われて、姫君のご様子がきっと大変であろうと推し量らずにはいられず、御乳母をお呼びになって、
「必ず慰め申し上げよ。尼上の喪が明けたら、すぐに姫君をこちらにお迎え申し上げるつもりだ。(姫君におかれましては)心細くお思いにならないでいらっしゃって」など、頼りになるような感じで言い残しなさって、お帰りになった。

 (姫君のもとに密かに通っていた)中将は、このような出来事をお聞きになって、姫君の嘆き悲しみに思いを馳せ、心苦しく思い、「母を葬った鳥辺野の草と(なりたい)などとも、さぞかし思い嘆いていらっしゃるだろう」と、しみじみ悲しい。夜な夜なの姫君への通い路も、当分は無理であろうかとお思いになる様は、誰の嘆きにも劣らないほどだった。姫君に仕える侍女のもとに、

鳥辺野の夜半の煙(火葬されるあなたの母君)に死に遅れて、さぞかしあなたは悲しく思っているだろう。

と和歌を届けるけれど、姫君はご覧になることさえなさらないので、侍女は甲斐なく思って、その手紙を置いておいた。

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