吉田裕子BLOG「国語で人生に輝きと潤いを!」 国語講師、古典講座、日本語本

国語を学ぶことで感受性と対話力を磨いたら、人生はもっと楽しいと思う。国語の先生を始めて14年目。(予備校講師、高校教師、カルチャースクール講師(大人向け古典入門講座)、著述家) 東大教養学部・慶應通信(文学部第1類・教職)卒。放送大大学院在学中。


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2月25日・2月26日、国公立大学の前期試験ですね。昨日、東京大学の一日目は国語と数学でした。古文では『夜の寝覚』が出題されました。

出題箇所は、作品中の巻二。本文は「さすがに姨捨山の月は、夜更くるままに澄みまさるを、めづらしく、つくづく見いだしたまひて……」と始まります。

なお、東大の付しているリード文は以下の通りです。


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次の文章は、平安後期の物語『夜の寝覚』の一節である。女君は、不本意にも男君(大納言)と一夜の契りを結んで懐妊したが、男君は女君の素性を誤解したまま、女君の姉(大納言の上)と結婚してしまった。その後、女君は出産し、妹が夫の子を生んだことを知った姉との間に深刻な溝が生じてしまう。いたたまれなくなった女君は、広沢の地(平安京の西で、嵐山にも近い)に隠棲する父入道のもとに身を寄せ、何とか連絡を取ろうとする男君をかたくなに拒絶し、ひっそりと暮らしている。

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取り急ぎ作成した拙訳ですが、振り返り等の役に立てばと思い、公開いたします。(訳に悩んだ箇所は、『完訳 日本の古典』(小学館)を参考にいたしました。) お気づきの点などございましたら、気軽にご指摘くださいませ。


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 姨捨山(姥捨山)のように俗世を離れたこの広沢の地の月は(中の君の心が晴れない中でも)やはり、夜が更けるにつれてますます澄んでゆくのを、新鮮で心惹かれるように思い、つくづく外を眺めなさって、ぼんやりと物思いにふけっていらっしゃる。

《 ありしにも…(和歌) 》
(平穏で幸福な)昔とはうって変わり、辛いこの世に住む私だけれど、澄む月の光こそは昔見たのと変わらないのだなぁ

(大納言との一件から)久しくそのままにして、手も触れずにいらっしゃった筝の琴を近くに引き寄せなさってかき鳴らしていらっしゃると、その場の雰囲気もあって、しみじみとした情感が募り、松風(松林に打ち付ける風の音)も見事に音色と重なり合っているのに心誘われて、しみじみとお思いにならずにはいられないのにまかせて、「どうせこの音色を聞く人もいないだろう」とお思いになるため気安く、手のおもむくままに弾きなさっていたところ、父親の入道殿が、仏の前にいらっしゃったのだが、聞きなさって、
「ああ、称賛の言葉が追い付かないほどに素晴らしい琴の音色だなぁ」
と、見事さに聞いているだけではいられなくなって、仏の前でのお勤めも中断なさって中の君のところに移っていらっしゃったので、中の君は弾くのをおやめになってしまったのだが、入道殿は、
「もっとご演奏なさいませ。私が念仏をしておりましたところ、(素晴らしい音色に、この世のものとは思えず)『極楽のお迎えが近付いてくるのか』と心ときめかずにはいられなくて、お訪ね申し上げたのですよ」
と言って、少将(中の君の乳母をつとめた女性の娘)に和琴をお渡しになり、入道殿自身も二人に合わせるなどして弾いていらっしゃるうちに、あっけなく夜も明けてしまった。中の君はこのような感じで心を慰めながら、日々をお過ごしになっている。


 普段よりも時雨が降って夜が明けた翌朝、都の大納言から、

《 つらけれど思ひやるかな…(和歌) 》
(あなたはそっけないけれど、私はそちらのことを考えているのだなぁ。山里の夜中の時雨の音はどれほど(心細い)でしょうか、と)


 雪の降り続いた日、(良い)思い出などない旧居(前に暮らしていた平安京の家)ではあるものの、そちらに通じる空までもが閉じてしまったような感じがして、やはり心細く思うので、家の端近くにいざり出て、白いお着物を複数重ね、かえってさまざまな色を重ねるよりも素敵な風に、心惹かれる風情で着こなしなさって、ぼんやりとお過ごしになる。先年、このような季節であったときに、姉(大納言の上)と端近で過ごし、(下仕えの者に)雪山を作らせて見たことなどを思い出し、普段よりもさらにこぼれる涙を、かわいらしい仕草でぬぐいなさって、

「《 思ひいではあらしの山に…(和歌) 》
(お姉さまが思い出すこともないでしょう、この嵐山で私の気持ちは慰められないで、雪の降る旧居がやはり恋しい)
※「思ひいではあらしの山」に「嵐の山(広沢の近所である嵐山)」と「思ひいではあらじ(思い出すことはないでしょう)をかけ、「雪ふるさと」に「雪降る」と「古里」をかけている

お姉さまは、私をこんな風に思い出すこともないでしょうね」と推し量ることでも涙を留めがたい中の君の姿を、(彼女を見守る)対の君は、とても胸を痛めなが拝見し、
「苦しくも、こんな時間までお悩みになっていたのですねぇ。皆さん、中の君の前にお集まりください」
などと、努めて明るく振舞い、中の君のことを慰め申し上げる。


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ところで、『夜の寝覚』は昨年、欠けていた本文の一部が新しく見つかっています。そうした話題性もあり、私大などで『夜の寝覚』の出題が増えるのではないかと考えていましたが、こうして東大で出てきたわけです。

まずは受験生の皆さん、お疲れ様でした。


★ホームページはこちら。著書(『美しい女性(ひと)をつくる 言葉のお作法』(かんき出版)、『頭をよくする整理のしかた』、『人生が変わる読書術』、『正しい日本語の使い方』、『大人の文章術』、『源氏物語を知りたい』、『東大生の超勉強法』(枻出版社)など)でも情報を発信しております。

都内の大学受験塾に勤務する他、隔週月曜13時に東急セミナーBE古典入門講座を担当しています。また、吉祥寺 古典を読む会も主宰しております(3月15日(日)14時「枕草子に読む定子の輝き」)。
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