【タイトル】『用心棒』
【評価】☆☆☆☆☆(☆5つが最高)
【監督】黒澤明
【主演】三船敏郎
【製作年】1961年
【あらすじ】
対立する二つのヤクザが抗争を続ける宿場町にやって来た凄腕の浪人は、疲弊する町と困窮する住民たちを目撃する。浪人は、双方のヤクザに自分を用心棒として雇うよう働きかける。そして敵対するヤクザ同士を相討ちさせようと画策した。だが頭の切れる一人のヤクザが町に戻ってきたことで、浪人の立てた計画はもう一歩のところで潰されてしまう。
【感想】
黒澤作品の中で一番好きなのがこの「用心棒」。何度観ても心が沸き立つような感覚に浸れる。これぞ時代劇の決定版であり、またアクション映画のお手本のようでもある。流れ者の主人公が、たまたま立ち寄った宿場町で一波乱を起こす。主人公は凄腕の浪人で、無類の酒好きでもある。大きな正義を語ることはなく、どちらかといえば目の前にいる人間のために一肌脱ぐといった感じ。
いつもながら主人公を演じる三船敏郎の立ち姿が決まっていた。自由気ままに生きているような旅姿には強く惹かれる。類希な剣の腕を持ちながらも、堅苦しい仕官の道を選ばない。サラリーマンの憧れの存在といってもよさそう。そして映画には滑稽味が強く流れている。オーソドックスなドタバタが基本で、万人ウケしそうな大らかさがあり明るさを失わない。「用心棒」は正真正銘陽気な映画である。
そしてアクションシーンのキレ味がいい。主人公の正義は相対的で、ヤクザに比べればマシといったもの。なので、いきなり何のためらいも見せずにチンピラをぶった斬る。その姿は痛快でもある。良識派の人にとっては眉をひそめるシーンなのだろうが、清々しいくらいに斬って捨てていく殺陣が気持ちいい。ピストルを持った男と対峙する姿もなかなか絵になっていた。
痛快さを楽しめる映画としては、他に「七人の侍」や「用心棒」の続編ともいえる「椿三十郎」がある。ゴチャゴチャ考えずに観ていられる骨太の娯楽大作で、何度観ても飽きることはない。また「用心棒」と同じくらいに好きなのが「生きる」。同じ監督が撮ったとは思えないほど正反対の味わいを見せているが、共に心に響いてくる映画だと思う。
逆にあまり好きではない黒澤作品は「羅生門」。海外で絶賛された映画だが、正直何が何だかさっぱり分からなかった。きっと考えながら観るべき映画なのだろう。口をポカンと開けているうちに映画が終わってしまった記憶がある。それから晩年の映画も観ているのが辛かった。「乱」の腐りかけた美しさは良かったが、「影武者」や「八月の狂詩曲」は目を覆いたくなった。監督一人の問題ではないのだろうけど、「用心棒」と比べると隔世の感がある。