2015年10月24日(土)

Wed 150930 号泣 障子に映ったなでしこの影 ノラや(なでしこ ラストデイズ 4)

テーマ:ブログ
 さて、そろそろ元気を出さなきゃいけない。通夜が過ぎ、お葬式も終わって、こうして遺骨と一緒にオウチに帰ってきたら、いつまでもねこ一匹のことで号泣ばかりしているわけにはいかない。大の中年男なんだし、大のクマ助なんだから、なでしこの死から4日、もうシャキッと仕事にでかけなきゃいけない。

 実際、クマ助は10月23日、まだなでしこの写真を眺めながらシクシク泣いていたいのであるが、それでもタクシーを予約して、昼過ぎの羽田空港に向かったのである。週末は、23日が四国・徳島、24日が静岡。新刊書「さあ、音読だ」の広告活動も含め、また全国を飛び回る日々が始まるのである。

 ただし、頭の中も心の中も、まだ99%はなでしこの思い出でいっぱいだ。それはまさに「いかんともしがたい」ので、羽田のラウンジで昨日の記事を書きながら、クマ助の目からは熱い涙がとどまることなく流れ続けた。誰が見ても異様な光景だったと思うが、涙を拭うことさえせずに、お葬式のことを書き続けた。

 ヒコーキで徳島に向かう最中も、やっぱりグッとこみあげてくる涙をこらえることができない。プレミアムクラスのお弁当が配られても、そのお弁当を丁重に断って、眼下の渥美半島や大阪湾を眺めながら、やっぱりなでしこのことを思い続けた。
窓のなでしこ
(窓辺のなでしこ。ここから外を眺めるのが好きだった)

 死の6日前、なでしこを病院に連れていった。あんまり嘔吐の回数が増えてしまったので、「入院が必要でしょうか?」と尋ねに行ったのである。獣医さんは落ち着いた口調で、「血液検査の数値は悪くありません。毛玉が胃腸にたまっているせいでしょう」と言って、吐き気止めの注射をうってくれた。

 容態が急変する直前のことである。しかし注射の効果なのか、なでしこのご機嫌はぐっとよくなり、いったんオウチに連れ帰ることに決まった。久しぶりに「ナー」「ナー」「ナー」とたくさんオシャベリをして、2階の端から端まで、何度も往復してみせた。

 むかしから小説やエッセイに繰り返し書かれているが、ろうそくは燃え尽きる直前の一瞬、ハッとするぐらい明るく輝くものである。あの日のなでしこが、まさにそれだったのかもしれない。

 いつも強烈に拒絶する通院用のバッグに、自分から何度も出たり入ったりした。しばらく食欲が全くなくて、出してあげても知らんぷりを続けていた缶詰も、久しぶりに美味しそうに食べてみせた。かつての大好物「焼きかつお」の缶詰である。
小さななでしこ
(ホントに優しい小さなねこだった)

「なんだ、やっぱり獣医さんの言うとおり、毛玉がつまって不快なだけだったんだ」と、すっかり安心したクマ助も、コブシを天に突き上げる思いだった。まだこれから2~3年は、なでしこと一緒に生活できそうじゃないか。

 その日の午後、なでしこは大好きな日向ぼっこを始めた。南向きの窓、障子をちょっと開け、障子とガラス窓の間の狭い空間に入り込んで、午後の日光を全身に浴びる。キジトラの毛皮に、10月の陽光はさぞかし暖かかっただろう。

 障子なら、小さななでしこでも開けられるのである。5.5kg、大きなカラダのニャゴロワ姉さんは、ズッシリ重い板戸でも軽々と開けてヒト同様にノシ歩くのであるが、さすがになでしこにはそれは無理。七分袖の両手で軽い障子をそっと開けて、ここで日向ぼっこするのが大好きだった。

 その姿が嬉しかった。長く吐き気に苦しんで、ゴハンも水もみんな吐いてしまい、動作も緩慢で日向ぼっこの気持ちよささえ思い出せない様子。そういう日々のあと、吐き気止めの注射1本でこんなに元気になるとは、まさか思いもよらなかった。

 なでしこの小さな影が白い障子に映って、あの夕暮れのクマ助は幸せに浸っていた。ポカポカ、さぞかし気持ちいいだろう。もっとあったまれ、もっとあったまれ。ポカポカあったまって、病気なんかサッサと治しちゃえ。キジトラのシッポを奮い立たせて、また元気に飛び回る姿が心に浮かんだ。
新聞
(新聞を読むのも大好きだった)

 しかしどうやらあれは、なでしこなりの別れの告げ方だったように思う。瀕死の午後に懐かしいオウチの空気を何度も吸ったり吐いたりしたのと同じように、懐かしい日向ぼっこの思い出を反芻しながら、障子に映った影絵の姿で、「ではクマ蔵どん、そろそろ旅に出ますよ」と告げていたのだ。

 内田百閒が大好きだったのは、もう30年も前のことである。文庫本で30冊あまり、内田百閒の全ての作品を文庫本で買いあさり、1行たりとも残さずに読破したけれども、ねことの別れを綴った「ノラや」は、やっぱり百閒の代表作である。

 30年前に中公文庫で出ていた「ノラや」の表紙こそ、今井君の人生の理想であった。秋の夕暮れ、悲しそうに庭を眺めるボーズ頭の百閒先生。その傍らに寄り添い、一緒に秋の深まりを感じている小さなねこ。その表紙を見るたび、ふと号泣したくなるのである。

 障子に映ったなでしこの、ほのかに黒い影を眺めながら、温かい安堵の思いにホッとしていたとしても不思議はない。「この一瞬を写真におさめたい」と思ったが、カメラはあいにく半地下の書斎に置いてきた。「しかしこれからも、何度でもチャンスはあるじゃないか」と思い、しかしそれが最後のチャンスになった。
障子
(障子と窓の間に入って、なでしこは日向ぼっこを楽しんだ)

 その5日後、なでしこは瀕死の床でかすかな息をつないでいた。夕暮れの部屋はどんどん翳っていったが、なでしこを見守りながら、クマ助は身の入らない読書を続けた。読んでいたのは、太宰治「虚構の春」と、チェーホフ「中2階のある家」である。

 読書の順番は偶然であって他意は一切ないが、チェーホフ「中2階のある家」は、ある夏に出会った美しい姉妹との別れの物語。派手な行動派の姉リーダと、素直でおとなしい妹ジェーニャの2人が描かれ、結末ではジェーニャがフッと姿を消してしまう。最後の1行は「ジェーニャ、君はどこへ行ってしまったんだ」であった。

 百閒先生の「ノラ」は、生きたままどこへ行ったのかわからなくなった。夕暮れに庭のトクサの茂みを掻き分けて出て行ったまま、どうしても帰ってこなかった。ジェーニャではないが、「ノラや、君はいったいどこへ行ってしまったんだ」である。

 百閒先生がそれから1年も2年も泣いて暮らした顛末は、是非とも「ノラや」を読んでいただきたい。先生は海軍機関学校や法政大学の教授としてドイツ語を教えていたから、恩師の悲嘆を慰めようとたくさんの弟子たちが集まった。ノラとソックリなねこが現れて、先生は「クルツ」と名づけて可愛がった。

「クルツ」とは、ドイツ語で「短い」という形容詞。どこかへ行ってしまったノラとソックリのねこだが、ノラではない証拠にシッポが短かったのである。そのクルツもやがて姿を消してしまう。
ノラや
(中公文庫「ノラや」の表紙より)

 今井君の場合、何しろ映像の上の人間だし、元生徒諸君との付き合いも淡交にとどめるようにしているから「弟子たちが集まってくる」ということは考えられない。ひたすら一人で熱い涙をゴシゴシ拭いつづけるだけである。

 しかし「クルツ」に該当するねこがさっそく姿を現した。玄関の脇の植え込みに、なでしこと同じ白いソックスを履いた黒ネコが住みついた。ニャゴロワがいるから、ソックス君を家にあげることはしないが、住みついたものを追い払うつもりもない。

 優しいなでしこは、「君はどこへ行ってしまったんだ?」とヒトを嘆かせるようなことはしない。小さなリュックを背負い、麦わら帽子をかぶって、天国を探険に出かけたことはしっかり分かっている。
 
 途中で道草をくって、リスボンやマルセイユのねこたちに挨拶ぐらいしているにしても、何しろもう白い骨壺の中に、背骨もシマシマのシッポもみんな収まって、大人しくナーナー呼びかけてくれる。ウィンクの写真も飾ってある。どうやらなでしこのおかげで、これからも心穏やかに暮らしていけそうなのである。

1E(Cd) Maazel & Wiener:TCHAIKOVSKY/SUITE No.3  R.STRAUSS/TOD UND VERKLÄRUNG
2E(Cd) Dorati & Washington D.C.:TCHAIKOVSKY/SYMPHONY No.4
3E(Cd) Barenboim & Chicago:TCHAIKOVSKY/SYMPHONY No.5
4E(Cd) Gergiev & Kirov:TCHAIKOVSKY/SYMPHONY No.6
5E(Cd) Argerich, Chailly & RSO Berlin:TCHAIKOVSKY/PIANO CONCERTO No.1 & RACHMANINOV/PIANO CONCERTO No.3
145 Stay Marseille 150828 150910
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