2015年04月28日(火)

Sat 150404 モーパッサン 死の如く強し モンマルトル徘徊(2497回 またまたパリ6)

テーマ:ブログ
 人の一生はマコトに短いので、歴史に残るような偉人であればあるほど、命は夏のゼラチンのようにはかなく融けて崩れ去る。今みたいに医学が進歩していればまだマシだが、18世紀とか19世紀には、世間も家族も手をこまねいているうちに、命は肉体の内側から真っ黒な死に染まっていった。

 その辺の事情は、1850年生まれの作家ギ・ド・モーパッサンも同じことであって、彼が世の中に認められるのと、死の最初の兆候が現れるのと、悲しいことに全く同じ1880年、彼が30歳の時のことである。

 この年、ゾラ編集の同人誌は普仏戦争に関わる特集。モーパッサンはこの雑誌に準デビュー作の「脂肪の塊」を寄稿、作家としての地位を確立した。しかしほぼ同時期に、神経系の眼疾が悪化。勤務していた文部省を休職せざるを得なくなる。

 1882年、文部省を正式に退職。翌年、33歳で「女の一生」を書く。まだ33歳の青年のクセに「女の一生」とはマコトに生意気な気がするが、原作タイトルは、Une Vie「ある一生」であって、諸君、もっと生意気だ。この作品をトルストイが絶讃、単なる作家は「文豪」に変わる。
サクレクール
(12月28日、モンマルトル散策はサクレクール寺院の坂道から)

 文豪の地位に昇れば、別荘ぐらい持たないとカッコ悪い。モーパッサンが購入した別荘は、エトルタ。ルアーブルから近い有名な海の景勝地で、「女の一生」の不幸な主人公ジャンヌが、長い人生でたった2度だけ幸福を感じたのが、エトルタの海岸とコルシカ島ということになっている。

 そのコルシカから地中海を隔てて大陸側 ☞ アンティーブにも、別荘を購入。35歳、得意の絶頂であるが、ついでにヨットも購入して、ラ・シオタやらカシスやらで高名な画家たちとの交流も続けた。

 こうして得意の絶頂に立つうちに、「死の影」のほうもどんどんその濃密さを増していく。別荘ラッシュの3年後、38歳の1888年には、目の病気に加えて不眠症も患うようになる。

 彼の変人ぶりを示すエピソードがグンと増えてくるのはこの頃であって、当時の短編を読むと、病気の進行がハッキリ分かってまさに痛々しいほど。新潮文庫「モーパッサン短編集」は全3巻あるが、夜明け前のパリの闇を彷徨して不気味な人物に出会う恐怖を描いた作品は、似たパターンで何度も繰り返し現れる。

 諸君、整数も無限にあるけれども、実数も無限に存在する。無限と無限で比較しても仕方がないが、ハイパー文系アタマの今井君なんかには、この場合「実数の無限」のほうが「整数の無限」よりずっと濃密に思える。モーパッサンの死の気配は、このころから実数の無限なみの濃密さで迫ってくる。
モンマルトル
(モンマルトル風景。平凡な坂道の散策がクセになる)

 39歳のころから、睡眠薬を乱用。睡眠薬はやがて麻酔薬に代わり、有名な「エフェッル塔が大キライ」「エッフェル塔がコワい」という状況に陥る。美意識の高さを匂わせようと無理してそんな発言をする難しいオカタは少なくないが、彼の場合、ホンキでエッフェル塔を嫌悪しているのである。

 すると諸君、パリの街でエッフェル塔を見ないで済む唯一の場所があって、それはまさにそのエッフェル塔の上である。食事をエッフェル塔のレストランでとるようになったのが、この頃のことであった。

 1891年、41歳でついに「発狂」と診断され、パッシーの精神病院に収容される。43歳、パッシーの病院で死去。いまやパリで最も注目されるファッションストリートであるが、19世紀のパリで「パッシー」と言えば、この病院のことを指していたらしい。

 肉体の内部から死の浸蝕が急速に進行していた1889年、睡眠薬を麻酔薬に切り替えたちょうど39歳の頃、彼が書いたのが「死の如く強し」、原題は「Fort comme la mort」。33歳で「女の一生」を描いてみせた男は、わずか39歳で男の老いと死を描ききって、4年後にモンパルナス墓地に埋葬された。
ケーキ
(雨上がりのケーキ屋。意地でも食べたくなるほど旨そうだ)

 12月28日、今回の滞在の最終日であるが、パリは快晴。一昨日から昨日にかけての疲労からほぼ回復したクマ助は、「モンマルトル一周コース」を散策してこようと決めた。

 ここまでの文脈から言えば、本来ならモンパルナス墓地に行かなきゃいけないはずであるが、モンパルナスは南、モンマルトルは北、方向は全く逆である。しかしモーパッサン「死の如く強し」は、パリの北の一角が舞台なのだ。

 主人公は、老境を迎えた画家ベルタン。パリの画壇でも名声が定着、公募展覧会でも、選ばれる側より選ぶ側に立っている。モーパッサンと同じように生涯独身であるが、40歳を過ぎた美しい女性と、すでに10年以上の交際が続いている。少し疲れたこの美女には、夫もあり、娘もある。若い諸君には、ちょっと紹介しにくいストーリーである。

 さすがに高名な画家であって、10年前、ヒトメボレした彼女の肖像画を描くことになった。交際の端緒になったのはこの肖像画であって、彼のアトリエに毎日モデルとして通う彼女と、まあ「なるようになって」しまった。これが画家の「第1の恋」となる。

 そのころ幼かった彼女の娘とも、もちろんすっかりお馴染み。娘はその後しばらく遠い街で祖母とともに暮らしていたが、10年ほど経過して、16歳だったか17歳だったか、久しぶりにパリに帰ってくる。
ギャレット
(多くの名画の題材になったムーラン・ド・ラ・ギャレット)

 もちろんこういう小説の常で、「見違えるほど美しく成長し」「10年前の母親に生き写し」という困ったことになっている。その後、母と娘はいつもそっくりな服装で姿を現し、同じ表情、同じしぐさ、同じ声音、同じ目の色と表情。画家と3人で午後の長い時間を過ごしたりする。

 ここから彼の「第2の恋」が始まってしまうのだから、クマ助なんかは恐れ入って声も出ない。娘のほうは知らん顔でいられるが、ママの悩みと嫉妬と絶望は深い。鏡を眺めながら、40歳を過ぎた自らの容貌の衰えに気づき、しかし自分に対してはその衰えに気づかないフリを続ける。

 そのうちに、画家のオジサマは、「ママの時と同じように、娘の肖像画を描きたい」と申し出る。おやおや、マコトに困ったオジサマだ。完全にイカレちゃっているのであるが、諸君、「この恋は死の如く強いのだ」と、何とママのほうに告白するシーンがあって、それがこの小説のタイトルになっている。

 そこから先は、もう読んでもらうしかない。最後まで今井君が紹介するより、トチ狂ったこのオジサマの激しい告白を読んで、ぜひオジサマと言ふものの困り果てた老境の心を味わってくれたまえ。

 ただし諸君、今井君はオジサマではあるが「困ったオジサマ」ではないので、その辺の心配は無用である。ではなぜモーパッサンの主人公・困ったオジサマ ☞ 画家ベルタンのことを書いたのか、それについては明日の記事に譲ろうと思う。
ルージュ
(散策の終わりはムーラン・ルージュ)

 クマ助が泊まっている「ル・ロワイヤル・モンソー」は、娘のほうへの恋を最初に認識する舞台・モンソー公園から至近。小説中に何度か登場するモンマルトルの丘へは、凱旋門の下から地下鉄2号線に乗って9駅目・Anversで下りるのが一番近い。

 Anversからサクレ・クール寺院、サクレ・クールからモンマルトルの坂道を降りて、2つの風車まで。2つの風車とは、ムーラン・ド・ラ・ギャレットと、ムーラン・ルージュであるが、この散策ルートが、クマ助はパリで一番気に入っている。やっぱり、クマには山であるらしい。昨年は1回、一昨年は4回、この道の散策を繰り返した。

 パリほどに作家や作品の逸話に満ちている街は、さすがに世界でも他に考えられない。今井君のアタマの中は、今日述べたような逸話があふれていて、ほとんどムセかえるほど。その濃度が最も高まるのがこのモンマルトルであって、その辺の角を曲がるたびに、いろんな逸話がムックリ身を起こす。

 しかも諸君、このルートには、魚やケーキや、お菓子やお惣菜をふんだんに並べた、マコトにおいしそうな店が目白押しだ。映画「アメリ」の舞台でもあって、ランチにピッタリなカフェもズラリと並んでいる。

 こんなに楽しいんじゃ、思わず「このままここに住んじゃいたい」と口走りそうになるが、もしそんなことをしたら、それこそ「困ったオジサマ」の標本になる運命を避けられない。ここはたいへん危険な街であることを思い出して、「早く東京に帰ろう」とギュッと気を引き締めるクマ助であった。

1E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/SYMPHONY No.4
2E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/SYMPHONY No.4
3E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/SYMPHONY No.4
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