2014年05月07日(水)

Sun 140413 鷲の巣村エズ ニーチェの道で途方に暮れる(ヨーロッパ40日の旅 拡張編2)

テーマ:ブログ
 考えてみればあの頃の旅はずいぶんオッカナビックリだったので、ニースの街のバスターミナルを探すにも「付近の治安は悪くないか」「現金を多めに持ち歩くのは危なくないか」「腕時計をしてて大丈夫か」など、ほぼ無用と思われる気遣いに汲々としていたものだった。
 中南米の大都市の裏町なら、今もなおそういう用心は必要かもしれない。サンパウロ、リオデジャネイロ、ブエノスアイレス、この2年で旅したこの3都市なら、確かにバスターミナル付近はお世辞にも雰囲気がいいとは言えなかったし、現金もキラキラ光る腕時計も禁物だろう。
 しかしこの時の滞在都市は、ヨーロッパのオカネ持ちが集中する夏の終わりのニース。夏の終わりが寂しくて悲しくて今にも泣き出しそうな欧米人ばかりである。盗難とかひったくりとか強盗とか、そんなスッタモンダで夏の思い出を台無しにしたくない思いが、街のそこここに渦巻いていた。
 クマ蔵がバスターミナルに出かけたのは、「エズに行ってみよう」と思い立ったからである。「鷲の巣村」として人気急上昇中だったエズは、鉄道でも行けるけれども、その場合はNICE VILLE駅から25分、エズ駅でバスに乗り換えてまた20分かかる。
 それなら最初からバスに乗って、ニースのバスターミナルから直行したほうがいい。112番のバスに乗れば、20分ちょいでエズの真ん中に連れて行ってくれる。一日7往復しかないけれども、直行バスのほうがずっと楽である。
エズ1
(エズの村から地中海を望む 1)

 「鷲の巣村」というのは、地中海岸の険しい岩山の上に貼りついた村のこと。コートダジュールには、中世からの鷲の巣村が100以上も残っている。頻繁に襲ってくるアラブの海賊から身を守るために、断崖絶壁の上に堅固な城壁を作り、ヒトビトはその陰に身を隠して生活した。エズはその代表格である。
 諸君、海賊は恐ろしい。我々のイメージとしては、遠い海の上に浮かんでドクロの旗を立て、暗い闇や濃霧の中から他のお船に突然襲いかかる。狙われるのは宝物をたくさん積んだ無防備な商船。どういうわけかキレイなお姫さまなんかも乗っていて、船長以下の奮戦も空しく、お姫さまは賊にさらわれてしまう。
 何しろ野蛮な海賊だから、お姫さまはたちまち「ふふふふ」「ひひひひ」みたいな危機一髪の状況に陥る。コドモ向きの童話や絵本でも、そのあたりの描写はケッコ危ないものがあって、もし正義の味方が助けに来なかったら、どんな落花狼藉が始まるか分かったものではない。
エズ2
(エズ、絶壁の風景)

 しかし海賊が一番恐ろしいのは、海の上で商船を襲っているときではない。海から直接、海岸の町を略奪しに大挙して現れる海賊は、町としても村としても防御のしようがないのだ。
 防御のために軍隊を駐屯させるにしても、何しろ海岸線は果てしなく長い。防御ラインはついつい間延びしてしまう。海賊だってバカじゃないから、防御ラインの手薄になった町だけを襲うわけである。
 ゲルマンの蛮族のイメージが強いゴート族だって、海賊行為で有名である。「あんな大陸の奥地にいて、どうやって海賊行為に及んだのだろう」と思うのだが、何と彼らはまず黒海に出て、黒海からボスフォラス海峡を通過、マルモラ海からエーゲ海に出て、ギリシャの海岸を襲った。
 略奪・放火・誘拐・殺戮、やりたいことはみんなやって、家畜と人間と財宝を大陸に持ち帰る。後には何にも残らない。海岸の村も町も全てを失って、下手をすればそのまま消滅の憂き目をみた。「ゲルマン民族の大移動」には、そういう行為も含まれていたわけである。
 中世となれば、ヨーロッパ地中海岸を襲う海賊はアラブ世界からやってきた。逆にアラブ世界を襲う海賊は、ヨーロッパ世界からやってくる。マコトに乱暴な「お互いさま」であるが、どちらも一方的に自分のほうが乱暴狼藉の被害者であると言い張って譲らない。
エズ3
(エズ、「ニーチェの道」の入口)

 終わらない乱暴狼藉に対処する方策として、ヨーロッパサイドでは断崖絶壁の上に城塞を設け、その奥の「鷲の巣村」でひっそりと暮らすようになる。きっとアラブサイドでも同じようなことをしたと思うが、残念ながら今井君はまだリビアやアルジェリアの海岸を旅したことがないから、詳細は分からない。
 そういう村であるから、海岸から登っていくのは至難のワザだ。もともと、登るのが至難のワザであることに意味のある村なのだから、21世紀のノッソリしたクマ蔵がカンタンに登れるわけがない。海岸の鉄道駅から徒歩で登るなんてのは、特に9月上旬の焼けつく陽光の中では、至難中の至難。避けて通るに越したことはない。
 クマ蔵がバスで直行したのは、以上のような理由である。たどり着いてみれば、エズは快晴。断崖絶壁の頂上だけあって、吹きわたる風も海岸よりヒンヤリ感じられ、マコトに爽やかである。
 もちろん風景も素晴らしい。赤い瓦屋根の向こうに真っ青な海が広がり、ニース付近のいくつかの岬が、地中海に向かって長い腕を伸ばしている。こういう場所でビールなどを飲み始めてしまえば、もうすっかり椅子に根が生えて、クマ蔵はやがてクマ草と化し、草はやがて樹木となって、「もう意地でもここから動かない」とダダをこねるようになる。
エズ4
(エズの村から地中海を望む 2)

 しかし諸君、エズには「ニーチェの道」といふものがある。断崖絶壁の頂上に築いた村から、深い山道をうねうね海岸まで降りていく散歩道である。かつてニーチェがこの村に滞在し、滞在中にこの散歩道を往復しながら「ツァラトゥストラかく語りき」の構想を練った。
 今井君は中3生の時、中央公論社の文庫版「ツァラトゥストラ」を大いに背伸びして購入。頑張って最後まで活字を追ってみたけれども、分かったんだか分からなかったんだか、要するに「活字を追った」という記憶しかない。
 「かく語りき」のところの訳は、「こう言った」「かく語れり」「こう語った」など、翻訳者もいろいろ工夫しなきゃいけなくて大変だが、ま、Also sprach Zarathustraであるね。エズの今井君は、せめてニーチェの足跡だけでもたどろうと、海岸めざして険しい山道を降りはじめた。
 時計は14時。太陽は相変わらず焼けつくようだが、登りなら殺人的な山道でも、下りなら重力に任せて勢いをつけて行けばいいだけだ。くまトゥストラは「ケッコ好調じゃん」と鼻歌気分で、調子良く一気に3合目あたりまで突き進んだ。
 ところが諸君、驚くなかれ、「ニーチェの道」はそこでフッツリと消えてしまった。ホントに夢ではないか、悪夢ではないか、悪い冗談ではないか。ここまで快調に続いてきた道が、どこをどう探しても続きが見当たらず、突如としてヤブの中に消えてしまった。
エズ5
(ニーチェの道3合目あたりからエズを振りあおぐ。あの山頂まで登らなければならない)

 どうしても突き進もうとすれば、このジャングルみたいなヤブの中に入り込んでいくしかない。南国の真夏のヤブだ、ハチもいれば、いろいろなイヤな虫やクモもいれば、ケムシもヘビもウジャウジャいるに違いない。そこを突っ切って下へ下へと突進する勇気があるのか。
 そこが、今井君がホンモノのクマではない悲しさである。3合目付近まで断崖の道を降りてきたのだ、本グマなら、構わずこの道を切り開いていくだろう。しかし諸君、今井君は文明社会の中ですっかり堕落した疑似グマに過ぎない。
 「ヤムを得ない」と吐き捨てるように絶叫した疑似グマは、いま来た道を山頂めざして登りはじめたのである。図らずもホンのちょっと前に「殺人的」と考えていた「夏の絶壁を徒歩でよじのぼる」を実行することになってしまった。
 汗まみれになって登坂を終えたのは、すでに午後4時。熱中症の一歩手前で、ほうほうの態でエズの村にたどり着いた。余りの悔しさにいろいろ探してみたが、「ニーチェの道、閉鎖中」の看板も掲示も一切見当たらなかった。
 結局、素直にまたバスに乗ってニースまで直行。帰りもやっぱりあっけなく20分でニースに到着した。諸君、夏の山道を下るときにも、熱中症にはくれぐれも注意。例え下山の道でも、ミネラルウォーターだけは持参するようにしようではないか。

付記:何となく「ニーチェの道のことは一度書いたことがあるな」という気がして調べてみたら、何と5年半前、2008年10月1日に書いた記事が見つかった。いやはや、今とは文体も言葉遣いも違う。一人称はキチンと「私は...」を連発。段落分けも少なくて、今井君も昔はずいぶんマジメだったのだ。
 同じ事柄について5年の歳月を経て再び書けば、こうも雰囲気が変わるのである。これもまた楽しいではないか。関心のある読者は「アーカイブ」から2008年10月をクリック、次に一番上の「カレンダー」で10月1日をクリックして、ぜひ比較して読んでくみてれたまえ。

1E(Cd) Ashkenazy(p) Maazel & London:SCRIABIN/PROMETHEUS + PIANO CONCERTO
2E(Cd) Ashkenazy(p) Müller & Berlin:SCRIABIN SYMPHONIES 1/3
3E(Cd) Ashkenazy(p) Müller & Berlin:SCRIABIN SYMPHONIES 2/3
4E(Cd) Schreier:BACH/MASS IN B MINOR②
5E(Cd) Schreier:BACH/MASS IN B MINOR①
total m65 y531 d13461
最近の画像つき記事
 もっと見る >>

Ameba芸能人・有名人ブログ

芸能ブログニュース

    ブログをはじめる

    たくさんの芸能人・有名人が
    書いているAmebaブログを
    無料で簡単にはじめることができます。

    公式トップブロガーへ応募

    多くの方にご紹介したいブログを
    執筆する方を「公式トップブロガー」
    として認定しております。

    芸能人・有名人ブログを開設

    Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
    ご希望される著名人の方/事務所様を
    随時募集しております。

    Ameba芸能人・有名人ブログ 健全運営のための取り組み
    芸能ブログニュース