2014年05月03日(土)

Wed 140409 コンポステ テルミニ疾走 その先に○○などない(ヨーロッパ40日の旅26)

テーマ:ブログ
 3月4日、朝早く起きて慌てて荷物をまとめ、9時にホテルをチェックインする。10時前の列車で、ローマからジェノバに移動するのである。ローマ・テルミニ発9時46分のICに乗り込んだ。
 しかし諸君、「乗り込んだ」と書くといかにも威勢がいいが、乗り込んではみたものの、いやはや、またまた面倒なことになった。予約して指定席をとっていた「13号車」がどうしても見当たらない。
 テルミニ駅は、Terminiというスペルを見れば誰でも分かるように、この国のターミナル駅である。何しろ「全ての道はローマに通ず」であり「全ての道はローマから始まる」であって、ローマ中央駅にTerminiという名前をつけた意気込みだけは素晴らしいと言ってあげていい。
 古式ゆかしい行き止まりタイプの終着駅は、日本では長崎駅と北海道の函館駅などに残っている他はあまり見かけなくなったが、ヨーロッパ大都市の中央駅は、多くがこのタイプのままである。
 パリなんか、東駅も北駅も、リヨン駅もオーステルリッツ駅も「中央駅の風格は、行き止まりであってこそ生まれるのだ」と言わんばかりに、かたくなにこの方式を守り続けている。だから、ローマのテルミニ駅だけが「すべての道はローマに通ず」と言ってふんぞり返っているのではない。
 そこへ、日本人なら多くの人が「古くさいな」と感じる客車タイプの列車が、列の前と後ろにゴツい機関車をくっつけて、重々しく入線してくる。それがヨーロッパのスタンダード。「列車の旅は重々しいものじゃなきゃダメ」と、ヒトビトがみんな信じきっているみたいである。
ローマ1
(ローマ風景 1)

 乗車前に、キップに「コンポステ」をしなければならない。改札機というものが存在しないから、キップなんか持っていなくてもホームには誰でも出入りできるのであるが、そのぶんキップに「コンポステ」していないと、不正乗車と見做されて高額の罰金を請求される。
 罰金を請求する検札係は、車両の前と後ろから挟み撃ちするようにやってくる。男子でも女子でも、検札係の表情はマコトに四角四面な毅然としたものであって、万が一不正乗車が発覚すれば、近くで見ている人も震え上がりそうな剣幕で叱られる。
 つい2週間前にも、クマ蔵はオランダのデルフト駅でその光景を目撃した。アフリカ系の、まだ中学生になるかならないかぐらいのコドモだったが、検札係2人に激しく叱られて、確かに悪いことをしたのではあるが、思わず加勢してやりたくなるぐらいであった。
ローマ2
(ローマ風景 2)

 それでも「罰金を払うのはイヤでござるよ」と開き直るオトナも存在する。すると諸君、検札係のオジサマはまず肩をすくめ、続いてごく冷静に彼(または彼女)の説得を始める。
「われわれにはアナタを拘束する権利はないけれども、社会常識を持つようにアナタを説得する義務がある」
「ケイサツに通報することもできるが、同じ民主社会に生きるオトナとして、アナタがこれから正しく生きていけるように、これから説得を試みる」
というわけである。
 この説得は、彼(または彼女)がキチンと納得するまで辛抱強く続けられる。今井君が目撃したのは、2008年5月、ミラノからコモ湖に向かう急行列車の中だったが、ミラノから1時間近く経過して「コモ湖が見えてきた」という頃まで続けられた。
 そしてめでたし&めでたし、とうとう彼は笑顔で50ユーロ紙幣を検札係に手渡した。お互いに満面の笑みで肩を叩き合い、「オマエの説得力は凄いな」「いや、オマエの理解力も凄い。よく納得してくれた」と讃えあうのであった。
ジェノバ1
(ジェノバ・プリンチペ駅に到着)

 さて、では「コンポステ」とは何であろうか。キップに乗車の日時と時刻を刻印することである。ホーム入口に1辺25cmほどの立方体のような黄色い箱の装置があって、この箱にキップを差し込めば、ムラサキ色のインクで小さく必要事項が刻印される。
 もっとも、今やヨーロッパ全域で、長く続いたこの伝統が消滅しつつある。日本と同じようなICカード方式が次第に浸透し、ロンドンならオイスターカード、イスタンブールはイスタンブールカード、オランダは全域でOVチップカードが普及。いちいち刻印機にキップを差し込む手間がなくなった。
 「チリチリチリ」という刻印機の音を懐かしむジーチャン&バーチャンは多いだろうけれども、諸君、伝統を重んずるヨーロッパのヒトビトだって、やっぱり便利さ優先は当たり前だ。4日前までいたアムステルダムの中央駅では、使われることのなくなった黄色い刻印機が寂しそうにホコリをかぶっていた。
ジェノバ2
(ジェノバ・プリンチペ駅前に立つコロンの像。コロンとは、コロンブス君でござるよ)

 ヨーロッパ疑似放浪も25日が経過して「何だかこの旅も終盤に入ってきたな」と泣きそうな気分だった3月4日のクマ蔵は、まずホームで刻印機を「チリチリチリ」と言わせて、ムラサキインクのニオイを懐かしく吸い込んだのである。
 この日の移動先をミラノではなくジェノバを選んだのは、その後マルセイユへの移動を楽にするためだったが、ローマからジェノバまで、急行ICを利用しても5時間半の長丁場。ユーレイルパスなら1等車で行けるから、事前に指定席を予約しておいた。
 それが13号車である。終着駅タイプのホームの手前のほうから、1号車☞2号車☞3号車と客車が行儀よく並んで、予約した13号車はホームの一番ハシッこ。テルミニは始発駅だが、さすがにここはノンビリしたイタリアだ、入線は発車時間ギリギリになった。
 ホームのどこにどの車両が来るかは、実際に入線してみないと分からない。列車が到着するなり、乗客は自分の車両に向かってスーツケースを引きずりながら我れ先に疾走することになっている。ドイツでもフランスでもスペインでも、今のところそれがヨーロッパの常識なので、鉄道の旅はほぼ例外なしにホームでの疾走から始まる。
 疾走の後には、おしくらまんじゅうのダンゴの中で押し合いへし合いが待っている。「1列になって整然と乗車」だなんてのは、異様に民度の高い日本というオトギの国での常識でしかない。
 あんなに几帳面そうなドイツでだって、「1列で整然と」なんてのは普通見かけない。丸いダンゴが当たり前。イタリアなんかだと「遠慮してて乗り遅れたらドンクサイじゃないか」と笑われるのがオチである。
ジェノバ3
(ホテル・サヴォイア9階から夜のジェノバ・プリンチペ駅を望む。手前はコロンの像)

 13号車がホームの一番ハシっこと分かった瞬間、クマ蔵の疾走が始まった。そして諸君、クマどんはこの足に自信を持っている。史上マレに見る短足ではあるが、その回転の速さは群を抜く。回転する扇風機のハネよろしく一つの渦に融けあって、左右の足の区別がつかないほどである。
 しかしどんなに疾風怒濤の疾走を続けても、もしもゴールが存在なければ、走れメロスも途方に暮れるしかない。走れメロスが成立するのは、キチンとしたゴールを設定し、「邪智奸佞の徒から友を救って正義の存在を示さなければならぬ」という熱情があるからであって、もしそのゴールがなければ、メロスは絶望の中で息絶えるしかない。
 しかし諸君、「走れクマ蔵」に提示されたのは、「13号車は存在しない」という恐るべき事実であった。発車時間が迫る中、10号車を通過。11号車を通過。12号車を通過すると、その先にあったのは、13号車ではない。出発を控えていきり立つ豪放磊落な機関車クンだけなのであった。
 この危機にあたってクマ蔵の脳裏に去来していたのは、ビックリしなさんな、森鴎外「青年」の、以下のような絶望的な一節であった。

「日本人は、生きるということを知っているのだろうか。小学校の門をくぐってからというものは、一生懸命にこの学校時代を駆け抜けようとする。その先には生活があると思うのである。学校というものを離れて職業にありつくと、その職業を為し遂げてしまおうとする。その先には生活があると思うのである。そして、その先には、生活はないのである」

 全く同じように今井君は、10号車の先にはきっとある、11号車の先にはきっとある、12号車を駈け抜けてしまえば、そこには13号車があると信じた。しかし諸君、その先には13号車などないのであった。

1E(Cd) Boz Scaggs:BOZ THE BALLADE
2E(Cd) The Doobie Brothers:MINUTE BY MINUTE
3E(Cd) Grover Washington Jr.:WINELIGHT
4E(Cd) Kenny Wheeler:GNU HIGH
5E(Cd) Jan Garbarek:IN PRAISE OF DREAMS
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