2013年02月05日(火)

Sat 130112 「フランダースの犬」雑感 ブチとハヤヨ オトナの世界(ベルギー冬物語14)

テーマ:ブログ
 1月16日、5日連続となるムール貝に満腹し、お隣のお店を占拠した団体ツアー客のカラオケの大音響に腹を立てつつ(昨日の記事参照)、いよいよサトイモ君はアントワープ旧市街の散策に出た。快晴なのに、言語道断に寒い。こんなに寒いんじゃ、「フランダースの犬」の主人公が大聖堂でうちひしがれて死んじゃうのも無理はない。
 「まだ昼間だし」「まだ観光も全然してないし」と、ちょっと遠慮してワインをボトル半分のデキャンタで我慢したせいで、今井君はすっかり欲求不満である。そもそも、クマに我慢などというのは似合わない。飲みたいだけ飲み、食べたいだけ食べ、働きたいだけ働くんじゃなきゃ、生まれてきたカイがない。
夕暮れの大聖堂
(アントワープ 夕陽に染まるノートルダム大聖堂)

 日本人の大好きな悲しい物語だから、「フランダースの犬」はいろんなヒトが翻訳している。訳者の中には、菊池寛の名前も見える。「放浪記」の原作者・林芙美子も訳している。新潮文庫は、村岡花子。角川文庫は、矢崎源九郎。昭和中期の翻訳の大家がズラリと並ぶ。岩波少年文庫は、畠中尚志である。
 幼い今井君は、誰の翻訳で読んだのだろう。記憶力の鬼であるサトイモ閣下のはずが、「フランダースの犬」の記憶はキレイに抜け落ちている。岩波少年文庫の可能性が一番高いが、小学校の教科書かもしれない。いや、これだけ記憶が欠落しているところをみると、読まなかった可能性もある。あらすじを覚えているのは、テレビアニメのせいかもしれない。
ルーベンス1
(主人公ネロが死の直前に見るルーベンス「キリストの昇架」。アントワープ大聖堂にて)

 不幸にうちひしがれ、どこまでも連続する不幸に絶望して死んでいくネロ。厳しい運命に抵抗することもなく従順に命を落とす飼い主の傍らで、やっぱり眠るように死んでいくパトラッシュ。確かに可哀そうであり、確かに哀れである。コドモの頃にチャンと読んだなら、ネロとパトラッシュに深い思い入れがあるはずだ。
 しかしどうも、「何でもっと強く生きなかったんだ?」「原作者が、もっと強く生きる少年を描くべきだったんじゃないか?」「なぜそうしなかったんだ?」という疑問が断ち切れない。愛する祖父の死をきっかけに、幸せだった少年は一転して悲劇の主人公に転落していく。
 15歳にもなった男子なら、大逆転の努力ができるはず。「ルーベンスの絵を見せてもらえない」「展覧会で落選した」「大人たちが自分を受け入れてくれない」「みんな冷たい」と、ありゃりゃ、一人でクヨクヨ悩みながら、あっけなく死んでしまう。この弱々しさを100%受け入れて涙する気には、なかなかなれないのである。
ルーベンス2
(ルーベンスの名作とステンドグラス)

 もちろん、うちひしがれた少年ネロは哀れだが、道連れにされる犬だって可哀そうだ。もしももっと強い飼い主だったら、残り物の肉でも、冷えたソーセージでも、犬のために手に入れてくれたんじゃないか。
 飼い犬として、飼い主のだらしなさを難じるわけにもいかないだろうが、犬でもネコでもいったん飼い主になったら、「何としてでもコイツを死なせるわけにはいかない」という強烈な覚悟が必要。なぜ作者は「犬やネコを意地でも死なせない」というタイプの友情を描かなかったのか。欧米でこの物語にあまり人気がないのも、何となく「ムベなるかな」なのである。
ルーベンス3
(死の直前のネロが夢うつつに見る「聖母被昇天」 1)

 ま、欧米では人気がなくても、昔から日本人はこの物語を心から愛して、ほとんど自分たちの物語のように受け入れてきた。日本人の団体ツアーは、ネロとパトラッシュが息絶えた大聖堂を見るためだけにアントワープを訪れ、ネロが最後に見たルーベンスの3枚の絵を前に涙する。
 地元の人たちもよく分かっていて、大聖堂のパンフレットは、英語・フランス語・オランダ語・ドイツ語・スペイン語と一緒に、堂々と日本語のものが並んでいる。大聖堂前にチャンと記念板を建て、日本語で「永遠に語り継がれる私達の宝物なのです」と記してくれる。アントワープのお隣のホーボーケンにはネロとパトラッシュの銅像まで立っている。
記念碑
(大聖堂前の記念版)

 最初に日本語に翻訳したヒトは、ネロを何故か日本人名にして「清」、犬のパトラッシュも「斑」と書いて「ブチ」と読ませている。おお、ブチ。今井君が初めて飼ったネコの名前と同じである。「乳牛柄のブチ猫だから、ブチにした」といつか書いたが、「何でパトラッシュがブチ?」という疑問にも、なかなか答えが見つからない。
ルーベンス4
(死の直前のネロが夢うつつに見る「聖母被昇天」 2)

 最近になって、この物語から翻案した日本映画「スノープリンス」も制作された。映画では、ネロは「草太」、彼が思いを寄せる少女が「早代」、パトラッシュは秋田犬である。「早代」って、まさか「はやよ」じゃあるまいね。「はやよ」なんていう女の子がそこいら中を疾駆するのはイヤでござる。もちろん「はやよ」じゃなくて、「さよ」でござんした。
 すると今度は「何で、秋田犬?」であるが、考えてみればベルギーの気候も地勢も、秋田や山形とソックリだ。目の前の日本海は、ベルギーなら北海。冬の気温もずっと氷点下で、 河は凍りつき、厚い氷の上に積もった白い雪はいつまでも真っ白なまま。吹きつける北西の季節風に、地吹雪が舞い上がる。
金色のネコ
(グローテマルクトを見おろす、金色ネコどんの像)

 すると、秋田出身の今井君なんかは、もっともっと「フランダースの犬」の大ファンであっていいはずだ。ボクチンだって15歳のころはもっとずっと繊細で、読書好き&文学好き♡、クラシック音楽好きで、絵は書かなかったにしても、見るのは大好き。親に頼んで安い画集を買いそろえてもらったほどでござった。
 しかしボクチンには、篤い友情で応えてくれる犬がいなかった。憧れの少女「はやよ」もいなかった。ブチとハヤヨさえいてくれたら、ボクチンもきっとネロみたいなガラス細工の少年になれたのかもしれないが、ハヤヨもサヨも不在の結果として、こういうネットリした中年サトイモ男爵に成長してしまった。
駅舎
(宮殿のように豪華なアントワープ中央駅)

 うにゃにゃ、どっちがよかったのかねえ。大聖堂の名画のまえで息絶える美しいガラス細工の少年か。どんな運命だろうと意地でも生き延びようとする、毛むくじゃらの強烈サトイモ里之丞か。789歳にしてハッキリと言えることは
「後者でホントによかったな」
「ハヤヨもブチもいなくても、ニャゴロワとナデシコがいるしな」
「ルーベンスなんか見なくたって、ムール貝5連勝中だしな」
「いくぞ、13日で13連勝。達成まであと8戦!!」
など。要するに、クマ蔵はどこまでも幸福であり、この幸福は留まるところを知らず、どこまでもどこまでも上り坂で、この上り坂を意地でも貪欲に登りつづけたい、そういうことである。
近郊列車
(さつまいも電車。ローカル線ではこの電車が大活躍していた)

 まあ、さっきまでの今井君は「ワインを半分で我慢」のせいでムカついていて、そのせいで気難しくなっていたのである。気を鎮めるためにも、ひとまずグローテ・マルクトを出て、シュヘルド河の川縁まで行ってみた。
 河はすっかり凍りついて、厚く張った氷の上に白く雪が積もっている。河を下って北海に向かう船が接岸して出航を待つ横に、ステーン城が立つ。10世紀から16世紀まで使われた要塞の一部分で、牢獄として、刑場として、700年にわたるオドロオドロしい歴史を秘めている。
ステーン城
(ステーン城と、巨人の像)

 そのすぐそばには「肉屋のギルドハウス」。これは1503年の建築。19世紀までギルドハウスとして使用されていた。犬とともにはかなく死んでいった少年の周囲では、少年の運命など全く意に介さない力強いオトナの世界が、その夜も、翌日も、休むことなくエネルギッシュに躍動していたのである。
ギルドハウス
(肉屋のギルドハウス)


1E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE②
2E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE①
3E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE②
4E(Cd) Kempe & Müncher:BEETHOVEN/SYMPHONY No.6
5E(Cd) Kempe & Müncher:BEETHOVEN/SYMPHONY No.6
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