2013年02月04日(月)

Fri 130111 アントワープ、グローテマルクト 5連勝 団十郎のこと(ベルギー冬物語13)

テーマ:昭和の人々の記憶
 1月16日、サトイモ男爵は昨日の記事に書いた通りの判然としない気持ちで、アントワープの繁華街をノートルダム大聖堂に向かって早足で歩いた。早足の理由は他に、①夕暮れがどんどん迫っていること ②腹が減ってきたこと ③あんまり寒くて、早足でもしていなければ凍え死にそうだったこと、以上3点に要約できる。
アントワープ1
(グローテマルクト ノートルダム大聖堂とブラボーの像)

 アントワープの街は、それほど広くない。中央駅から15分も早足で歩けば、中世から続く旧市街の真ん中「グローテマルクト」に出る。14世紀の街の中心なんだから、そこにあるのはまず大聖堂、市庁舎、ギルドハウス群である。つまり、中世の宗教と政治と経済の中枢が、グローテマルクトを囲んでギッシリ身を寄せあっていたわけだ。
 宗教と政治と経済についてのマジメなお話はひとまず置いて、サトイモ閣下はまず何としても空腹を満たしたい。思想や哲学や権威や金儲けを論ずる前に、今井君はまず何と言ってもお腹が空いた。メシ食って、酒飲んで、ダラダラ時間を過ごしたい。大学入学以来、今井君を動かす衝動は常にそれである。
アントワープ2
(グローテマルクトのギルドハウス群)

 入学式の翌々日だったか、早稲田大学政経学部のクラス顔合わせがあった。早稲田大隈通りの外れに錦城庵(きんじょうあん)という老舗の蕎麦屋だか中華料理屋だかがあって、その2階の一室を借り切って「コンパ」というものをやってみたのである。
 今考えてみても、あのクラス初コンパほど惨めなものはなかった。「ここが第一志望だった」と明言するヒトは、誰一人として現れない。みんな「東京大学にフラれた」という苦々しい経験を語り、この4年間でどうリベンジしていくかの決意を述べるのだった。
 「4年間で」というのはまだ甘いので、「一生かけてリベンジ」という恐るべき決意さえ語られた。リベンジの場は、政治、経済、行政、法律。さすがに政経学部政治学科であって、スタンダールの世界とは違うのだから、「宗教でリベンジ」「大司教まで、いや、枢機卿にまで昇りつめてみせる」という執念を述べるものは、さすがにいなかった。
アントワープ3
(市庁舎とブラボーの像)

 いま、目の前のグローテマルクトを囲む壮麗な建築群は、14世紀ヨーロッパ経済の中心。毛織物産業と貿易で繁栄したフランドル地方の象徴である。経済の中枢であれば、もちろん政治と宗教の中心でもあって、この大聖堂こそ、当時のヨーロッパの聖職者の憧れだったわけだ。
 今井君のクラスコンパで熱く語られたリベンジとは、ホンの5世紀ほど遡れば、この広場の周囲にトグロを巻くドス黒い欲望(Mac君によれば「どすグロい」欲望であるが)のことだったのである。
 あれから数百年、早大政経1年5組の諸君のリベンジは、着々と進んでいるようである。みんな、偉くなった。ホントにたいへん偉くなった。学界、官界、マスコミ、ありゃりゃ、30代前半までは何だかみんなパッとしなかったのに、今ふと気がついてみると、どすグロいリベンジの欲望をどうやらみんな達成して、静かに穏やかに勝利の笑みを漏らしているようである。
アントワープ4
(ブラボーの像 拡大図)

 では、今井君は18歳のあの夜、初対面のクラスの諸君にどんなリベンジの欲望を語ったのであろうか。それは秘密である。それはあんまり恥ずかしすぎて、若い諸君に明かすことは出来ない。こんなところでコッソリ明かされたら、諸君のほうだって恥ずかしくて、みんなその場にひっくり返るはずだ。
 カンタンに言えば、18歳のボクチンは「政治、法律、経済、そういう地道な努力の果てのリベンジって、地味すぎんじゃね?」「メンドクね?」「ツラすぎんじゃね?」と、まずクラスの諸君を一蹴してしまいたかったのである。
 そんなマジメな努力より、一発逆転というか、驚天動地というか、回天というか、誰も一言も文句を言えないような、そういう道があるじゃないか。子役タレントが突如として彗星のように現れ、彗星のように消えていく、それと同じようなオイシイ話を探すほうがいいんじゃね? 18歳の今井君は、真顔でそういう夢を述べてみせた。
自分撮り1
(自分撮りテクの極致 ブラボーを頭にのっけてみせるクマ蔵)

 その傾向は、789歳になった今もなお、クマ蔵の脊髄に染み込んでいる。マジメに地道に努力する才能の欠如。軽薄な才能はいくらでもあるが、人間にとって最も大切なはずの「努力を継続する才能」は、サトイモ君には完全に欠如している。
 せっかく中世フランドル経済と北方ルネサンスの中心地を訪ねても、努力の才能の欠如があっという間に顔を出す。ノートルダム大聖堂より、ギルドハウスの見学より、港湾地区の散策より、何よりもメシとビールとワインを求め、デレデレ&ニカニカ笑いながら、ダラしなく雪道を進んだ。
アントワープ5
(手頃なお店を発見したあたり)

 市庁舎前では、今もなお人類の英雄が躍動している。「ブラボーの噴水」である。人類の敵である巨人の手(アント)を切断し、はるか彼方にその手を放り投げて(ワープ)、人類の安寧を約束し続ける。こうしてこの街は「アントワープ」と名づけられた。大聖堂に向かい、市庁舎に向かって、マコトに誇らしげな躍動で人間の勝利を謳いあげている。
 諸君、間違ってはイケナイ。この躍動は、例えば100年/200年/1000年にわたる地道な努力とヒトビトの協力の象徴であって、誰か一人の一瞬の英雄的躍動で平和と安寧が得られるなどと言っているのではない。「1000年に及ぶヒトビトの尊い努力を一瞬に凝縮すれば、こんな感じかもね」という、そういう銅像なのである。
本日のムール1
(湯気を上げるムール白ワイン蒸し。鍋のフタを殻入れになる)

 怠惰の象徴:今井クマ蔵は、何だか恥ずかしくなって、大聖堂前の一軒のレストランに入った。何故か周囲にはイタリアンレストランが多くて、広場には「ブオンジョルノ!!」「アリヴェデルチ!!」の叫びが響いていたが、さすがにわざわざアントワープでイタリアンを選ぶのは奇妙だろう。サトイモどんは、ごく平凡なベルギー料理の店を選んだ。
 この店のメニューが、全部オランダ語。さすがにアントワープは、ベルギーでもオランダ国境に最も近い。ヒトビトのコトバを聞くかぎり、ドイツ語とオランダ語の固い響きが支配する街である。「Do you speak English?」という問いに対し、「Yes, of course」でもなく「A little」でもなくて、「I’ll try」という名文句を聞かせてくれたのは、この店の若いウェイターであった。
ビア
(今日のチェリービア)

 注文したのは、チェリービアと、ロゼワインと、ムール貝の白ワイン蒸し。「2週間、毎日ムール貝を食べて生きていく」という1月11日の決意を、サトイモ閣下はまだ忠実に守りつづけている。肉体の30%ぐらいは、ムール貝由来のタンパク質にして帰国したい。
 ベルギー滞在5日目、大関:クマの里はまだ5戦全勝である。このまま全勝街道を驀進してクマの里の初優勝を目指したい。「クマの里」とは? もちろん、長年使ってきた今井君の愛称「クマ蔵」と、最近の愛称「サトイモ里之丞」を一緒にした、大相撲ベルギー場所のためのシコ名である。
スモークフリー
(禁煙と「Smoke Free」のステッカー。タバコの煙で料理は台無しになる。煙にジャマされず、料理を美味しく食べたい今井君としては、ぜひSmoke Freeステッカーを日本にも普及させてほしい)

 この店のムールは、①セロリとタマネギの量が多い ②白ワインのアルコールがほとんど飛んでいない ③鍋が深いので、見た目よりずっと分量が多い の3点が特徴。腹を減らしたクマどんには、まさにピッタリの誤解な食べ物である。
 特に②は強烈であって、スープをジュルジュル吸っているかぎり、「温めた白ワインをグビグビやっているのとほぼ同じ」であり、「おお、こりゃ酒蒸しだ!!」と狂喜乱舞したくなる香りであった。
本日のムール2
(ムールの鍋。他の店より深かった)

 食事が半分ほど終わった頃、お隣のレストランから大音量の歌声が響きはじめた。おお、この響きは明らかにカラオケだ。ヨーロッパにも急速にカラオケが普及して、ウィーンでもパリでもミュンヘンでも「KARAOKE」またはちょっと訛って「KARAOKI」の看板を見つけるが、こんな田舎町までカラオケが浸透しているとは思わなかった。
 大音響の中でムールを咀嚼しながら、団体ツアーの傍若無人を苦々しく思った。日本人の団体ツアーはずいぶん減ったが、今や田舎町まで中国人ツアーが席巻している。なぜこんな静かな北の街でカラオケを熱唱しなければならないのか、また熱唱したくなるのか、宴会好きのサトイモ君にもなかなか理解できない。
自分撮り2
(店内風景と、自分撮りクマ蔵)

 なお、2月4日、市川団十郎死去の知らせが日本を駆け巡った。今井君はコドモのころから彼のファン。NHKで歌舞伎中継があるたびに、当時まだ市川海老蔵だった彼の甲高い声をマネして、友人たちの喝采を受けた。
 4年前、一時このブログで市川カニ蔵を名乗ったものの、その直後フジテレビでSMAPのメンバーがカニ蔵をネタにするに至ってカニ蔵を諦めた。「クマ蔵」に撤退を余儀なくされたわけだが、あのころ今井君の頭にあったのは、現・海老蔵じゃなくて、元の海老蔵、つまり惜しまれつつ世を去った市川団十郎のことであった。
 2007年、パリのオペラ・ガルニエで公演。フランス語で舞台挨拶もした。そのガルニエのボックス席を、今井クマ蔵はホンの1ヶ月前に2度も訪れた。「ははあ、彼が5年前にフランスのヒトビトを脱帽させたのは、この空間だったのか」。そう思うと、クマの感慨もたいへん深かったものである。

1E(Cd) Perlea & Bamberg:RIMSKY-KORSAKOV/SCHEHERAZADE
2E(Cd) Perlea & Bamberg:RIMSKY-KORSAKOV/SCHEHERAZADE
3E(Cd) Alirio Diaz:RODRIGO/CONCIERTO DE ARANJUEZ
4E(Cd) Alirio Diaz:RODRIGO/CONCIERTO DE ARANJUEZ
5E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE②
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