2013年01月24日(木)

Mon 121231 何でアミーゴ? ヴェルレーヌとランボー 講師の苦労(ベルギー冬物語7)

テーマ:ブログ
 ブリュッセルで今井君が滞在しているのは、ホテル・アミーゴである。「何だって? ホテル・アミーゴ?」「オメエ、フザけてんのか?」であるが、ちっともフザけてなんかいない。ここはたいへんな由緒あるホテルであって、建物は16世紀のもの、モトモトは重要な政治犯を投獄した監獄であった。
 政治犯ではないが、詩人ヴェルレーヌもここに投獄された。若い恋人のランボーを銃で撃ったカドである。ヴェルレーヌも男子、ランボーも男子、男子と男子で熱い恋人同士だったわけだから、まあ何ともお熱いことであるが、こっそりランボーが裏切っていると感じたヴェルちゃんは、現ホテル・アミーゴの前でランボーを銃撃する。
アミーゴ
(夜のホテル・アミーゴ)

 ランボーを銃撃なんかしたら、重装備のスタローン君が報復に現れそうであるが、それは全く別のランボー。危うく死を免れたランボーは、ヴェルちゃんがアミーゴに投獄されている間に、驚くべき名作「地獄の季節」を書き上げた。
 「じゃ、何でアミーゴなの?」であるが、ベルギーのコトバで「監獄」を意味する単語と「友達」を意味する単語の発音がソックリだったため。アミーゴはスペイン語の「友達」である。16世紀、スペインの勢力はベルギーまで及んでいた。
小便小僧1
(ブリュッセル名物「小便小憎」はホテル・アミーゴから至近)

 いやはや、ヴェルレーヌやランボーが話に登場すると、つくづく「現代文の先生はたいへんだ」と感じる。18歳の青年たちにヴェルレーヌを論じてみせるのは、至難のワザだろう。今井君みたいな英語の講師なんかとワケが違う。日々のご苦労は察するにあまりある。
 今井君の浪人時代、駿台で教わった現代文の教材の1問目にヴェルレーヌを論じた文章があって、それをロマンスグレーのカッコいいオジサマの先生が「記号読解」で解説してみせた。昔の駿台現代文は、この「記号読解」花盛りだったのだが、生意気盛りのサトイモ君は、「コイツはアホか」とホザき、それから現代文の授業は全部パスすることにした。
小便小僧2
(小便小憎、拡大図)

 英語の講師なら、目の前の生徒たちに向かって「どうだ!!」「参ったか!!」と自らの実力を誇示し、まさにグーの音も出ないようにしちゃうのはカンタンだ。何しろ語学は努力の積み重ねだから、高校生や浪人生より10年も20年も長く努力を重ねてきた教師の能力は、滅多なことで生徒にヒケをとったりはしないのだ。
 英語の実力の示し方も様々。「TOEICで何年も続けて満点獲得」というマコトに堂々とした正攻法が最も素晴らしいが、「これはアメリカ人だって知らないんだ」という英語トリビアを次々と開示して生徒たちを感動させ、憧れさせちゃうヒトもいる。色とりどり、よりどりみどり、考えただけでウットリしてしまうほどである。
 発音を目いっぱい鍛え、ネイティブのニュースキャスター顔負けの流暢な発音で20行も30行も滔々と読み上げるのもヨシ。何の根拠もなく「オレは英語の天才だ」「実は英語の神様なんだ」と一方的に宣言しても、生徒がその聖域に土足で踏み込むのは困難だ。
自分撮り
(クマどんと小便小憎)

 「たった1行か2行の英文を材料に、50分語りまくる」という手法だってある。教室に入るや、100行近くある長文問題の最初の定冠詞Theについて語りはじめた先生がいた。Theに関するあらゆる知識を縦横無尽に披露、やがてチャイムが鳴って、彼は意気揚々と講師室に引き上げた。
 200名教室を埋め尽くした4月の浪人生たちは、まさに呆気にとられるのである。予備校なんだから、いろいろ怪しいテクニックをギャグを交えながら伝授してくれるものと考えていた。まあ「小馬鹿にしていた」のである。ところが先生はテクニックや爆笑ギャグとかではなくて、theの真髄を50分語り尽くして、ニコリともせずに姿を消したのである。
 17歳とか18歳とかの青年が、これに憧れを居抱かないはずはない。だって、誰が何と言おうとカッコいいのだ。100行の長文を全て無視して、theの真髄に触れさせてくれた。何だか分からないが、学問の「が」の字に初めて触ったような感激を感じるのである。海外生活経験の長い半ネイティブの生徒だって、このタイプの先生にはヒトコトも返せない。
お店
(マグリットが通ったビールの店)

 英語の講師なら、以上のように生徒を「アッと言わせる」「感激を味わわせる」あの手この手が存在する。どの先生も、自分では意識しないうちに、あれかこれかの手法で瞬時に生徒を引きつけようとする。それもダメなら、「ルックス」という最終手段だってないわけではない。
 同じようなことは、数学の先生だってカンタンにできる。もちろん生徒の中には天才的に数学のできる諸君が若干名は存在するが、数学科の修士課程や博士課程で研究する高等数学の一端でも示しさえすれば、教室にチラホラする天才君だって、やっぱりどうしても敵わない。
 物理や化学もいっしょ。高校物理とホンモノの物理の隔たりを語られれば、天才君はグーの音も出ない。そういう先生を一堂に集めて講師陣を形成し、「ウチでは受験で終わらないホンモノの数学や物理を扱います。受験をはるかに超えた学問の世界を体験してください」と広告コピーに書いただけで、東京中の天才君が我先に押し寄せたりする。
教会1
(1月13日朝、雪が積もったノートルダム・ド・ラ・シャペル教会)

 ところが現代文となると、そうは問屋が卸さない。今井君が受験生の頃は、現代文と言わずに現代国語(略して現国)と呼んだが、「現国」は何よりもまずサボリの対象になる。まず、恥ずかしい。18歳の青年にとって、先生と面と向かって三好達治の詩の解説を聞くのは、どうしてもコソバユイ。
 当時は、何と言っても小林秀雄。あと、「僕って何?」で芥川賞をとった三田誠広の言う「柄桶駿二」(柄谷行人/桶谷秀昭/秋山駿/上田三四二)も現国の定番になりかけていたが、カラオケでも小林秀雄でも、やっぱり面と向かって解説されると、どうしても、何が何でも、意地でもコソバユイ。
 そのあと現代文で流行ったのは、中村雄二郎? 山口昌男? もしかして吉田秀和? 1990年以降は全くフォローしていないからよく分からないが、時代は変わり、流行は変わっても、やっぱり現代文の時間の生徒たちは、どことなくコソバユイんじゃなかろうか。
教会2
(ノートルダム・デュ・サブロン教会)

 しかも諸君、18歳の女子が2人揃って芥川賞をもらったのは、もう10年も前のことだ。すると、予備校なんかで暢気に文学論を語ろうものなら、まかり間違えば目の前に芥川賞受賞者や候補者だって座っているかもしれない。先生だって十分にコソバユくて、滅多なことでは文学論の一席もブテなってくる。
 別に、作家だから現代文が得意とは限らないんだから、そういうコソバユサを感じる必要はないんだけれども、話はそういう場合に限定されない。東大文系クラスなんかに出講すれば、目の前に並んだ生徒諸君の現代文に関する自信はたいへんなもの。今すぐにでも司法試験に合格できるほどの論文力を誇るヤツがゴロゴロしている。
 早慶文系クラスでも同じことだ。「ボクは数学がパーでねえ」「アタシは、数学さえなければ東大に行くんだけど」というイヤらしい諸君が、ズラッと目の前に200人鎮座している。英語の先生たちは、上記のさまざまな手法で感動や感激をまき散らして帰るから、鬱憤は一斉に現代文の先生に向く。
ステンドグラス
(サブロン教会のステンドグラス)

 じゃあ、理系クラスや医系クラスの現代文ならオッケーかというと、話はもっとマズくなる。諸君、加藤周一は東大医学部卒、専門は血液学だ。「加藤周一2世」をもって自ら任じているような生徒、読書量は年間300冊、理系や医系にも、実はその種の猛者がやっぱりゴロゴロしている。
 もちろん、「そんな生徒の自信はホンモノではない」「いい気になっているだけだ」「オメエが加藤周一2世なワケねえだろ」と言って言えないことはない。しかし、そういう青年たちは、意外なほどホンキで「僕は加藤周一2世なのだ!!」と信じて疑わない。
 彼ら彼女らの耳をこちらに向けさせるのは、ちょっとやそっとの実力では無理である。現代文の先生がたは、さぞかし日々厳しい研鑽を重ねて授業に望んでいらっしゃるはず。マコトにマコトに、深く深く頭の下がる思いである。
 かくいう今井君も、駆け出しの予備校講師だったころ、ホンの一瞬だけだが、現代文の講師を目指した時期があった。「日本語なんだから、教えるのはカンタンだっぺ」と思ったのであるが、あっという間に撤退。だって、講師としてこんなに厳しい予習の必要な科目は、他にちょっと考えられないじゃないか。
マリアさま1
(サブロン教会のマリアさま 1)

 話を元に戻せば、ランボーは19歳で「地獄の季節」を書いた。ラディゲが「肉体の悪魔」「ドルジェル伯の舞踏会」を書いたのは16歳だか17歳だかである。三島由紀夫の小説家デビューだって、16歳だったような気がする。
 だから、東大早慶文系クラス諸君や、理系&医系クラスの諸君の中にも、すでに焦りに焦りまくっている青年がタップリ隠れている。どのぐらい焦っているか、今井君にもかつて身に覚えのあることだから、ハッキリ分かる。
 しかも、こんなに焦っているのに、センター試験なんかに立ちふさがられて、「パスタソースにキムチを入れる」とか、そんな間抜けな問題のせいで四苦八苦しなきゃいけない。実際にそんなソースを作ったら、マズくて食べらんないじゃないか♨
マリアさま2
(サブロン教会のマリアさま 2)

 以上のようなことをツラツラ考えながら、1月13日の今井君はブリュッセルの街を歩き回った。ブリュッセルは、ブリューゲルの街であり、マグリットの街であり、フランドル絵画の街であって、中世から近代の作家と画家がトロトロ溶け合って築いた文化の街である。
 1月13日早朝から降り出した雪は、午前中いっぱい降り続いて、教会の屋根や、公園の草地に白く降り積もった。この日からベルギーは寒波に襲われ、大雪は滞在10日目まで続いた。
 ブリュッセル一の名所:小便小憎も、衣装を着せてもらってようやく寒さに耐えている感じ。怠け者の今井君はひたすら火の燃えさかる場所を求め、湯気の立つムールの鍋と、多種多様なベルギービアを求めて、ブルージュの街、アントワープの街、リエージュの街を徘徊することになった。
小便小僧3
(服を着せてもらった小便小憎)


1E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/SYMPHONY No.2
2E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/SYMPHONY No.3
3E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/SYMPHONY No.4
83 Stay8 Paris 121222 121229
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