2012年07月06日(金)

Tue 120612 キチンとターゲットをしぼるということ (イスタンブール紀行 序章1)

テーマ:ブログ
 「ターゲットをしぼる」と言った時、普通の人はどのぐらいまでしぼりこむのだろうか。「ターゲットはズバリ、『女性』です!!」「若い女性がターゲット!!」などというテレビのレポートがよくあるが、一般にはまあその程度のものなのだろうか。
ブルーモスク
(イスタンブール ブルーモスク)

 むかしむかし、広告代理店・電通の新人研修で、「新製品のビールの広告プランを作成せよ」という課題が出た。新入社員100人を8班に分け、コンペ形式で競わせるのである。
 早稲田や慶応の「広告研究会」の出身者が多く、東大卒でも一橋大卒でも、新入社員は強烈なコネありばかり。当然プライドは異様なほど高いから、新人研修の段階でお互いに濃密な火花が飛び交っている。
 コンペは熾烈を極め、みんな「これは研修に過ぎない」という想定を忘れてしまう。何が何でも、コンペは我々の班が優勝しなければならない。各班の指導担当の先輩社員が、巧みに新入社員たちを焚きつけ、火花はやがて大きな炎になり、炎は当時の電通築地本社13階ホールに、大きく赤くメラメラと燃え上がった。
 我々の班の指導担当A氏は、営業局20年目の敏腕社員であって、某酒造メーカーの広告担当である。新入社員に与えられた素材が「新発売のビール」だったから、「絶対に負けるな」という彼のコトバには、いっそう力が入った。
ブルーモスク内部
(ブルーモスク内部)

 学部を出たばかりの我々12名は、みんな噛みつきあわんばかりの獰猛な顔で討論に入り、「まず、ターゲットをしぼらなきゃ!!」という余りにも当然の結論が出るまでに3時間もかかった。さらにほぼ徹夜で討論が続き、夜明け前にようやくまとまった結論は「ターゲットは、若い女性」であった。
 いま思えばまさに噴飯ものだが、我々としてはやっぱり獰猛なほどに真剣。出社してきたA氏のところへ、大マジメで結論を伝えに走った。
「ターゲットは、『若い女性』ということになりました」。
社内で徹夜した直後だから、12名全員が興奮の絶頂である。A氏が手放しで称賛してくれるものと期待して、みんなじっとA氏の表情を見守った。
 ところが、驚くなかれ、「お前たちなぁ、バカもいい加減にしろよ」というのがA氏のご託宣なのであった。
「世の中を男女の2つに分け、そのうち女を『若い』と『若くない』の2つのカテゴリーに分けて、それでターゲットをしぼったつもりかい? 1/2×1/2=1/4じゃないか。全人口の1/4を「ターゲット」とは呼ばないだろ? そんなの『手当たり次第』に過ぎない」
とおっしゃるのである。
 諸君、ボクチンたちがどれほど甘かったか、あまりのことに、少なくとも今井君は衝撃を受け、うちのめされた思いがした。確かに、1億2千万の日本人のうち1/4なら、3000万人のヒトビトをつかまえて「キミたちが、ターゲットに選ばれました」と絶叫することになる。選ばれたほうだって、嬉しくも面白くもないだろう。
スレイマンモスク1
(イスタンブール スレイマンモスク 1)

 あの衝撃以来、今井君はテレビのレポーターがかわいそうでならない。新開店のレストランや、お客が集まらずに切羽詰まった居酒屋や、コンセプトを変えて新装オープンの百貨店なんかをレポートして、
「ターゲットはズバリ、『女性』です」
とか、放送作家のバカバカしい原稿を、平気な顔で棒読みにしなきゃいけないのだ。
 「ズバリ『女性』」って、それって日本の全人口の1/2、人口にすれば6000万だ。それを「ターゲット」と呼んで、恥ずかしいとも何とも思わない。予備校や塾をレポートして「ターゲットはズバリ、『受験生』です」とか、ビジネスホテルのレポートで「ターゲットはズバリ、『サラリーマン』です」とか、そういうのとちっとも変わらない。
 ついでに、「女性に大人気!!」「女性が絶賛のお店!!」などというのも、ちょっと考えれば分かることだが、ほとんど女性蔑視と言っていいフレーズである。
 6000万人を一緒くたにし、年齢も職業も趣味も一切無視して「女性」でジッパヒトカラゲ。それを何とも思わずに「いま、女性に人気なのが、コレ!!」と叫んでキメのポーズをとる。そういうCMが画面に溢れ、「女性」とはどんな存在なのか、ちっとも見えてこない。諸君、これは恥ずかしい。こんなんじゃ、ものが売れないのも当たり前なのだ。
 放送作家でもレポーターでも、あまり世の中を経験せずにいきなりそういう職業について、よく分からないままに原稿を書きまくるから「ズバリ、女性」「女性に人気」みたいなことしか書けない。ものを書く商売は、七転八倒しつつ世の中で恥をかきまくり、40歳か50歳を過ぎてから始めるほうがいいと、クマ蔵は確信する。
スレイマンモスク2
(イスタンブール スレイマンモスク 2)

 あの時の電通A氏によれば、「ターゲットをしぼるとは、まるで1篇の小説を書くような仕事である」とのことであった。
 例えば新発売のビール飲料を、どんな人物が、どんなシチュエーションで購入するのか。買うのはどんな店なのか。何曜日の何時に、何の帰りにその店に立ち寄るのか。その辺のことから詳細に組み立てていく。
 「若い女性」と言っても、新婚の若妻が平日の午後に友人とお茶した後、馴染みの古い酒屋さんで買うのか。それとも独身OLが会社帰りのコンビニでお弁当と一緒に買うのか。それで話は全く違ってくる。
 若妻は大人しく家でダンナの帰りを待っているのか、OLがこれから向かうのは仲間うちのパーティーなのか。そうなるとダンナや彼氏の職業だって、大工さんなのか、公務員なのか、まだ就職前の年下男か、それでまた話は違う。
 パーティーに集まる仲間はどういう顔ぶれか。テーブルの上の料理は? 狭いマンションの一室で鍋物か、戸外のBBQか。合コンか、家族パーティーか。犬はいるのか、それともネコか。犬の名前は、ミカンかモモか、慎太郎かゴン太か、ムッシュかオトーサンか。そういうすべてが、ターゲット像を大きく変え、CMだって全く違ったものが出来上がる。
ハギアソフィア
(イスタンブール ハギアソフィア近景)

 こうして、「1篇の小説」の肉付けがだんだん出来てくる。それをもっともっと煮詰めて、やっとターゲットの全体像がまとまってくる。もちろんマーケティングも必要だろうし、どんなタレントをつかって、どんなストーリー展開を作るのか、ストーリーは連続して3作4作と続くのか。そういうことも、そこから必然的に決まってくる。
 こうして新入社員たちは「さすが20年目の大ベテラン」「さすがプロ」「ボクチンたちはマコトにアサハカでございました」と絶句。「ターゲットは、若い女性!!」と、夜明けの薄明かりの中でレポートに書いた、その感激のビックリマークが恥ずかしくてたまらなかった。あのときのA氏のホントにイヤらしいニヤニヤ笑いを、クマ蔵は数百年経過してまだ忘れられない。
チャイ
(イスタンブール 「何かと言えばチャイ」な街であった)

 あれれ、今井君は何のためにこんな昔話を始めたんだろう。しかも掲載された写真を見るに、どうやら今日から「イスタンブール紀行」が開始されているらしい。タイトルを見ても「イスタンブール紀行・序章1」のサブタイトルがついている。電通の新人研修との関連はいかに?
イスティクラール通り
(イスティクラール通り たいへんな雑踏の街だった)

 諸君、まあ慌てなさんな。諸君の人生も、クマ蔵の人生も、まだまだこれから数百年は続くのだ。クマ蔵なんか、22世紀を目撃し、できれば25世紀の日本の姿まで見届けてからでなければ、まだまだ死にたくない。ならば、慌てないことだ。性急に結論を求めないことだ。
 速ければいい、早ければいい、そうやってけたたましく生きるのは、ただただみっともない。大学入試も外国旅行も、英語の長文読解もシューカツも、とにかくやたらにけたたましくてイカン。けたたましい生き方は、英語でmessとかfiascoとか呼ぶ状況に陥りやすいものである。
お魚の街
(イスタンブールは、お魚だらけの街だった)

 京都は、1200年。奈良は、1300年。「1300年も昔は、もしかして未来?」という奈良のキャッチフレーズ通り、悠然と、泰然自若として生きれば、ふと気がつくと、けたたましい人々よりもずっと先に行っているものである。
 ましてイスタンブールは世界を代表する古都である。バグダッドは都になって5000年。アテネは3000年、ローマは2700年。アレクサンドリアやアンティオキアだって、京都や奈良より500年も古い古都である。我々はこれから、世界で5本の指に入る古都に入っていくのだ。けたたましいのは、とにかくヤメたほうがいい。
マルマラ海
(マルマラ海からボスフォラス海峡を望む。海の色の特徴的な街だった)

 イスタンブールは、コンスタンティヌス大帝により330年にローマ帝国の首都と定められ、その名もビザンティウムからコンスタンティンノープルへ。1453年、オスマントルコのメフメット2世によって1000年の都コンスタンティノープルは陥落。以降イスタンブールとなって今日に至る。
 1700年も都をやってきた。しかもそのうち1000年以上は、ヨーロッパ世界全体の首都だったのだ。「1700年も昔は、もしかして未来?」である。性急に結論を急ぎなさんな。
 「オススメの店は?」「お土産は?」「どのホテルがお得?」など、what情報なら、ガイドブックでOK。今井ブログには「どうすればイスタンブールを満喫できるの?」というhow情報を求めたまえ。以上、なぜか「ターゲットをしぼること」を論じて、序章1を終わりにしたい。

1E(Rc) Rozhdestvensky & Moscow Radio:BARTOK/DER WUNDERBARE MANDARIN & TWO RHAPSODIES FOR VIOLIN & ORCHESTRA
2E(Rc) Darati & Detroit:STRAVINSKY/THE RITE OF SPRING
3E(Cd) 東京交響楽団:芥川也寸志/交響管弦楽のための音楽・エローラ交響曲
4E(Cd) デュトワ&モントリオール:ロッシーニ序曲集
5E(Cd) S.フランソワ& クリュイタンス・パリ音楽院:ラヴェル/ピアノ協奏曲
total m79 y1028 d8923
最近の画像つき記事
 もっと見る >>

Ameba芸能人・有名人ブログ

芸能ブログニュース

    ブログをはじめる

    たくさんの芸能人・有名人が
    書いているAmebaブログを
    無料で簡単にはじめることができます。

    公式トップブロガーへ応募

    多くの方にご紹介したいブログを
    執筆する方を「公式トップブロガー」
    として認定しております。

    芸能人・有名人ブログを開設

    Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
    ご希望される著名人の方/事務所様を
    随時募集しております。

    Ameba芸能人・有名人ブログ 健全運営のための取り組み
    芸能ブログニュース