2012年03月03日(土)

Wed 120131 今度こそ、私のカンタベリー物語 分からず屋とゴリヤク(ロンドン滞在記8)

テーマ:ブログ
 世の中には「分からず屋」という呼び名が実にピッタリ当てはまるヒトがいて、ヒトの言ったことや書いたことを意地でも理解しないのを、人生のほぼ唯一の喜びにして生きていらっしゃる。
 おでん屋がおでんを売り、まんじゅう屋がまんじゅうを売って生計を立てるのと同じことで、「分からず屋」の専売特許はもちろん「分からず」の一言である。「何のことか分からん」であり「ワケがわからない」であって、21世紀の青年なら「意味ワカンネ」「イミフー!!」と叫んでソッポを向く。
到着した電車
(カンタベリー東駅に到着)

 本来「わからない」のは恥ずかしいことであって、抽象絵画の前で首をかしげ、ジャズを聴いて「わからない」と呟くのは、あまりセンスがよろしくない証拠。ましてや相手の悩みや苦しみや心や気持ちを理解できないのは、何の自慢にもならない。
 「理解できない」とは、理解力の欠如、想像力の欠如、さらには優しさの欠如である場合が多い。優しさは柔軟な想像力を不可欠の条件とするし、むしろ想像力そのものであるとさえ言っていい。理解を放棄して肩をすくめてしまうのは、優しさを放棄したのと同じことである。
もう一度大聖堂
(カンタベリー大聖堂)

 右肩下がりの四半世紀を経て、日本に分からず屋が激増したのは大いに嘆かわしい。オバサマの立ち話でも、国会中継でも、会社にかかってくるクレームの電話でも、「理解できません」「意味がわかりません」の一言が一種のキメ台詞になった感がある。
 「分かってやろう」「理解しよう」と相手の懐に一歩踏み込むことこそ優しさの始まりだと思うのだが、21世紀の日本ではその第1歩を拒絶して「イミフー!!」「まったく理解できません」と突き放すのが、何だかカッコよく見られるらしいのだ。要するに、「わかってあげたい」という優しさの崩壊である。
大聖堂の拡大図
(大聖堂 拡大図)

 さて、「今度こそ私のカンタベリー物語」と張り切ってつけたタイトルから、早くもクマ蔵は逸脱しようとしている。しかも残念なことに、こういう逸脱を理解し楽しもうとする余裕や包容力を、今の日本で期待することは出来そうにない。
 「何が言いたいんだ?」「要するにどういうことなんだ」「結局、カンタベリーで何をしてきたんだ」という、「要するに」派や「結局」派が幅を利かせているので、雑談とか脱線とか逸脱はなかなか許容されることがない。
カンタベリー到着
(カンタベリー東駅)

 オヤツをノンビリ楽しむより、サプリで手っ取り早く必要な栄養だけ摂取すれば、もう食卓には見向きもしない。食卓で暖かい会話を楽しみながらの食事などというものは「イミフ!!」、「要するに栄養さえ摂ればいいんだろ!!」というヒトが圧倒的に多いという状況だ。
 こういうふうだから、物を書くヒトも何だか焦り気味。脇目も振らず要点に突き進み、早く5W1Hを書かないと「理解できない」の鉄槌が振り下ろされる。こうして、本来デザートや食前酒と同様な余裕の産物であるはずのブログも、掲載した写真について説明するだけの紙芝居みたいなものが主流になる。
城壁
(町を囲む城壁)

 この潮流の中では、チョーサー「カンタベリー物語」なんかが生き残れる可能性はほとんどない。カンタベリー物語というタイトルを付けた瞬間、現代の読者はカンタベリーの町の描写を求め、カンタベリー大聖堂のご利益がどんなものかを知りたがり、カンタベリー大司教さまのありがたいお説教だけを聞きたがる。
 しかしチョーサーはその要求のほぼ全てをハグらかし放題にハグらかし続ける。840円払えば岩波文庫で買えるから、チョイと買ってみたまえ。タイトルは「カンタベリー物語」なのに、物語の出発点はロンドンの宿屋。チョーサーと宿屋の主人と、その他さまざまな巡礼のヒトビトが、カンタベリーまでの巡礼の途中で1人1話ずつ面白い話をみんなに語って聞かせる説話オムニバス。いつまで経っても、カンタベリーに着く気配すらない。
 デカメロンと同じ形式、アラビアンナイトみたいなものである。「カンタベリーについて知りたいな」と思って読みはじめた読者の切実な期待を、すべて裏切って延々と無駄話とバカ話が続く。そのとき短気に腹を立てて「意味ねぐね?」と絶叫するようなのは、チョーサーともカンタベリー物語とも無縁のヒトなのである。
大聖堂
(もう1度、大聖堂)

 気がついたかもしれないが、クマ蔵は昨日と今日の記事でチョーサーと同じことをやってみようとしているのである。要点と情報と利益を求めて読むヒトをじらしながら、ひたすら無駄話に明け暮れる。オヤツとかお酒とかブログとか、旅行とか小説とか、その種のものの本質はこれである。
 チョーサーの物語は、カンタベリー大聖堂そのものとは結局ほぼ無関係。騎士とその従者、粉屋、僧侶、商人、船乗り、修道士、
医者、機織り女など、身分も職業もさまざまなヒトビトのバカ話の連鎖が、岩波文庫3冊分、果てしなく続く。
「結局何が言いたいの?」な読者をウンザリさせること、今井ブログの比ではない。
 ロンドン/ビクトリア駅からカンタベリーまで、クマ蔵は以上のようなことを考えながら車窓を眺めていた。どこまでも田園地帯が広がっているが、フランスやイタリアで見る田園とは異質。青々と作物の実る豊かな畑より、羊の群れが走り牛たちが草を噛んでいる光景が目立つ。
イルミネーション
(カンタベリーのクリスマス・イルミネーション)

 さすがにチョーサーの時代とは違って、ビクトリア駅から電車でたった1時間半、カンタベリー・イースト駅に到着してしまった。こんなに短い旅では、説話の1つも結末まで行かないで終わってしまいそうだ。
 ロンドンのチャリングクロス駅からでも行けるが、その場合はカンタベリー・ウェスト駅に着く。どちらを利用しても、カンタベリー行きは別の行き先の電車と連結されていて、途中のファバーシャム駅で2つに切り離されるから、注意が必要だ。おお、役に立つことも書けるじゃないか。
 カンタベリー大聖堂は、イギリス国教会の総本山。597年に聖アウグスティヌスによって建立された修道院から始まる。諸君、大化の改新より半世紀も前、平城京遷都より100年以上前から始まった大聖堂である。ほとんど神話中の人物と思っていたアウグスティヌスが、目の前にスックと立ち上がったような感激に包まれる。
 目の前のゴシック建築は11世紀に建築開始、15世紀に完成。は? 平清盛のころ始まって、室町幕府が崩壊するころに完成。何とも気長な話だけれども、トマス・ベケット、ヘンリー2世、黒太子エドワードなど、歴史というよりむしろオトギ話の登場人物が次々とカンタベリー大聖堂に絡んで姿を現す。
アウグスティヌス
(アウグスティヌスの修道院跡)

 今井君もチョーサーに倣って、カンタベリーそのものの説明はこの程度にとどめようと思う。城壁に丸く囲まれた町の外側には、6世紀のアウグスティヌス修道院跡も残っているが、午後3時、夕暮れが近づくと吹きさらしはさすがに寒すぎる。余りの寒さに早くメシ&ワインが恋しくなった。
 街の西の外れをStour川が流れ、その橋のたもとに「オールドウィーバーズハウス The Old Weavers’ House」という名のヨサゲなレストランがある。15世紀の家を改装したという店で、雰囲気も悪くない。
お店
(オールドウィーバーズハウス)

 クリスマス間近の店内は、家族連れとカップルでほぼ満員。入り口付近の狭いテーブルだったが、席を確保できただけでも十分に幸運。これもカンタベリー大聖堂にお参りしてきたご利益かもしれない。よく分からないメトメトしたソースの肉料理を貪り食い、ワインもがぶ飲みして、この夜も大いに楽しく暮れた。
若者たち
(「この店、ケッコいいんじゃね?」なイギリスの青年たち)

 ご利益ついでに、この夜ロンドンに戻ってから今井君を訪れた大きな幸運についても、ここに記しておかなければならない。
 宿泊先のホテルに戻ってドアを開けようとすると、カードキーを差し込んでもピクリとも動かない。フロントに降りて「ドアが開かないんですけど」と申し出ると、
「実は、事情があってMr.Imaiの部屋は今日から使えなくなった。マコトに申し訳ないが、今夜これから部屋を移動していただきたい。ホテル側の事情だから、当然アップグレードして、残った6泊分はジュニアスイートを提供させていただく。もちろん部屋代の追加は不要だ」
と言う。諸君、これがカンタベリー大聖堂のご利益でなくて何だというのだ。
帰りの電車
(こういう電車でロンドンに戻った)

 思えばつい2日前、冷たい雨の降りつづくロンドンの水浸しの風景に気が滅入って、あの狭い部屋で1日中ムクれて過ごしたばかりだ。それがたった2日で、状況は一変したのである。
 荷物をまとめるのが面倒だったにせよ、ホテルの従業員が2人もついて手伝ってくれた。最上階のジュニアスイートに移動してふんぞり返ってみると、こりゃ最高の気分で笑いが止まらない。長かった「私のカンタベリー物語」は、こうして見事なハッピーエンド、マコトに結構なありがたいゴリヤクの話で締めくくられることに相成った次第である。

1E(Cd) Jan Garbarek:IN PRAISE OF DREAMS
2E(Cd) Harbie Hancock:MAIDEN VOYAGE
3E(Cd) Miles Davis:KIND OF BLUE
4E(Cd) Weather Report:HEAVY WEATHER
5E(Cd) Sonny Clark:COOL STRUTTIN’
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