2012年02月29日(水)

Sun 120128 カレッジ群をめぐる 鳥たちと語る パブ「イーグル」で(ロンドン滞在記6)

テーマ:ブログ
 12月19日、ロンドンKING'S CROSSの駅から電車で1時間、冬の強風が吹き荒れるケンブリッジに着いた。ホテルを出たのが遅かったから到着は12時を過ぎていたが、12月もいよいよ冬至に近く、太陽はますます低い。真昼というのに、ケンブリッジはすでに夕暮れの雰囲気である。
 鉄道駅はケンブリッジの街から遠く離れている。徒歩で30分近くかかるから、ガイドブックはおなじみ「バスが便利」だが、クマ蔵の旅は「急ぐ」とか「時間に追われる」という概念とは全く無縁。たった30分ぐらい、ケンブリッジに合格したばかりの学部生のつもりになって、意気揚々と歩いてみるほうが楽しいはずだ。
ラウンド教会
(ケンブリッジ、ラウンド教会)

 大学町の駅の賑わいの中に降りて、徒歩でだんだん大学本部に近づいていく。このワクワク感は、18歳のとき以来のものである。本郷三丁目の駅から東大へ、高田馬場の駅から早稲田へ。今井君のときは入学式が4月1日だから、早稲田通りはどこも桜が満開だった。
 東大には拒絶されたけれども、それはあくまで自分の努力不足のせいなのだから「まあその責任は自分で一生かけて何とかするしかないね」とキッパリ決意していたのを思い出す。高田馬場から早稲田まで、徒歩で20分弱。高校入学から4年のバカバカしい歳月を思い返しつつ、無理やり肩をそびやかして歩いた。
カレッジ群1
(カレッジ群 1)

 ケンブリッジの新入生なら、ああいう悔しさとはおそらく無縁なのである。みんな前途洋々の昂った気持ちを抑えきれず、世界で5指に入る名門大学での4年ないし6年に胸を高鳴らせながら、この道を早足で歩いていくだろう。
 その意気揚々ぶりこそ「坂の上の雲」なのであって、「入るのは難しいが出るのは易しい」という日本の大学とは決定的に違っている。勝負の本番はまさに今日から始まるのだ。
 やがて、新入生の顔合わせになる。ケンブリッジに合格するほどの学部生だから、ほぼ例外なく頭脳の鋭利さが自慢。それを鼻にかけている新入生こそスタンダードで、第2のダーウィンのつもりだったり、第2のケインズになると宣言したり、「ウィトゲンシュタイン? もう過去のヒトでしょ?」と口走ったり、そういう恥ずかしい連中が早速オピニオンリーダーになっていく。
 軍人が自分のサーベルの鋭利さを誇ることにかけては一歩も引かないのと同じように、学部一年生が頭脳のシャープさを競うのは当たり前である。初顔合わせの教室には、ライバルの力量を測りあう緊張感が横溢していて当然なのだ。
冬のケンブリッジ
(冬至間近のケンブリッジ風景)

 いやはや、学部1年生には是非そうであってほしい。今井君が初めて早稲田政経の教室に入った時みたいに、ダメさ加減コンテストみたいなのは、さすがに願い下げである。
「自分がどれほど数学が出来ないか」
「自分が東大に落とされたのは、数学でどんなに哀れな答案を書いたからか」
「超有名高校で自分がどれほど落ちこぼれていたか」
「官僚になっても、大企業に入っても、私大卒がどれほど冷遇され続けるか」
そういう話を皆で競い合っても、前途はどこまでも暗く、大学そのものばかりか、大学をとりまく街のヒトビトまでキライになるばかりだ。
カレッジ群2
(カレッジ群 2)

 そういうことを思いつつ、ケンブリッジ・カレッジ群への長い道のりを歩いていくと、やがて目の前に名門カレッジが次々と姿を現す。
 トリニティカレッジ。キングズカレッジ。セントジョンズカレッジ。ウルサイ人がおっしゃるには「ケンブリッジ大学という大学は存在しない。独立したカレッジの集合体がケンブリッジを形成しているだけだ」であるが、だからこそ「街が大学でできている」のだし、各カレッジがピッタリ可愛く街に溶けこんでいる。
 クリスマス直前で大学も休みだから、どのカレッジもゆっくり見て回れる。キングズカレッジでは15世紀からの歴史ある礼拝堂に入れた。静寂の中でステンドグラスを見上げ、大きな溜め息が冷気で真っ白に濁るのにさえ感激する。
キングズカレッジ礼拝堂
(キングズカレッジ礼拝堂)

 カレッジの裏には広大な緑の芝生が広がり、その向こうを流れるケム川には観光客を乗せた小舟がいくつも浮かんでいる。この小舟をパントと呼ぶ。ヴェネツィアのゴンドラみたいに櫂で漕ぐのではなくて、浅い川底に竿をさし、竿で押して前進する。
 操作が余り難しくないので、船頭さんはケンブリッジの学部生のアルバイトが多い。同じようなパントは翌日出かけたカンタベリーの街でも見かけたが、学生アルバイトとして家庭教師や塾教師以外にこういう伝統が残っているのも、さすがにケンブリッジである。
パント
(パント、拡大図)

 川べりにはたくさんの家禽類が睦まじげに歩き回っている。「家禽類」と集合名詞でまとめてしまうのは些か乱暴なので、ガチョウにアヒルもいるが、カモをはじめとするさまざまな水鳥も混じっている。
 鳥たちが互いに話し合う声の響きは、人間のオバサマたちの立ち話にそっくり。鳥たちがそぞろ歩くスピードも、横目づかいの優しそうな瞳も、昼下がりのオバサマたちを思わせる。その声がイングランドの真冬の冷気をかきまぜ、夕闇に包まれはじめたケム川のほとりはたいへん穏やかな雰囲気である。
 こういう風景を目にして、「この街に住みたいな」とクマ蔵は思う。毎朝この大学街を散歩し、昼にはケム川の川辺まで足を伸ばして、川舟が行き来するのを眺めながらの昼食にしたい。バスケットにパンと赤ワインを入れて出かけ、日が傾くまで川辺に座って鳥たちをからかい、逆にからかわれて過ごす日々は楽しそうである。
鳥たちと語り合う
(鳥たちと語り合う)

 もしこの大学に憧れる諸君がいるなら、学部在学中の秋休みか春休みに、ぜひ一度ケンブリッジの街を訪れてみたまえ。「ランキング」などという薄っぺらいものとは別格の憧れが、おそらく不動のものとして定着するだろう。そうしたら、遠慮なく留学を決意すればいい。語学力ぐらい、この街で生活するうちに何とでもなるはずだ。
 ケンブリッジの街と家々と川を眺め、冷たい爽快な空気を呼吸し、ちょっと皮肉な笑顔で学生を眺めるオトナたちに親しめば、一生心の底から大学を愛し続けることになる。オックスフォードについては明後日書くけれども、学生たちがそれぞれの街を深く愛していることはどちらの大学でも同じことである。
夕焼け
(ケンブリッジの夕焼け)

 夕暮れ、クマ蔵はケンブリッジで最も有名なパブ「EAGLE」に寄っていくことにした。ロンドンのレストランでは、クリスマスパーティーの混雑のせいで次々と入店を断られ、イヤな思いを味わった。しかしさすがに大学街のパブではそんなことは心配しなくてよさそうだ。
 もちろん、入店時の緊張はなかなかのものである。相手は16世紀から400年営業を続けているという歴史ある店。400年間の馴染み客には、ダーウィン/ケインズ/ニュートンなど、ケンブリッジが輩出した世界史級のヒトビトが並ぶ。「など」の一言の中に、ミルトンやバイロンやウィトゲンシュタインがジッパヒトカラゲにされてしまう。そういう店である。
イーグル1
(イーグル)

 さすがに店内は「こりゃ中世ですか?」と叫びたくなるほど暗く古ぼけているが、いったん腰を落ち着けてしまえば、これはまさに今井君の世界。ビールもワインもフィッシュ&チップスも、誰でも平等にカウンターに並んで注文し、そのカウンターで現品を手渡ししてもらう。どんなに待たされても、客はみんな嬉しそうである。
 フィッシュ&チップスは「何度揚げ直しました?」なレベルの油まみれだが、何と言ってもこの大きさが嬉しい。ポテトも山盛り、グリーンピースも山盛り。こんなの一皿食べたら、日本人なら「4~5日は何もいりません」と絶叫しそうな量である。
F&C
(フィッシュ&チップス)

 クマ蔵がカウンターで選んだのは、まずラガービア1パイント。次に、別の銘柄のラガービアもう1パイント。3回目にギネスビア1パイント。仕上げに安い白ワインボトル1本。イギリスのカウンターで「ワイン」と言うと「オマエ、大丈夫か? そんな変なもの、ホントに飲むのか?」みたいに店員の表情が歪むけれども、そんなのクマの知ったことではない。
 同じようにカウンターでオーダーしたフードは、フィッシュ&チップスと、フライしたイカ山盛り。油まみれの1皿目をみて「これ以上はとても食べられない」と気分はゲッソリだったが、あんまり店の雰囲気がいいので、つい調子に乗った。
イーグル2
(午後9時のイーグル)

 こうして午後9時を過ぎ、そろそろロンドンに戻らなければならない。しかし駅は遥かな彼方である。だって、酔っぱらっていない状況でも「徒歩30分」。道もよく記憶していない。
 ついでに、あれだけ液体を飲めば、出るものもしっかりと出る。Natureどんがcalling meである。EAGLEの中でどんなに水分を排泄しても、排泄すべき水分はまだいくらでも体内に蓄積している。「オレも外に出たい!!」「いつまでもクマの腹の中はイヤだ!!」のシュプレヒコールが始まる。
 駅まで30分、今井君は水分の排泄をひたすら欲し、液体どもの要求をひたすら抑圧しながら、必死の形相で歩き続けた。もちろん「排泄のために♡もう1軒」という選択肢もあった。しかしその選択肢を選べば、ロンドンへは最終電車になる。つい昨日まであれほど鬱屈していたクマさんが、いきなりそんなに爆発していいのか、それを考えて自重。排泄は駅まで耐え忍ぶことにした。
ケンブリッジ駅で
(帰りのキングズクロス行き)

 こういうふうで、ケンブリッジがやたらに好きになった1日を、おかしな必死の形相で締めくくることになった。この時のロンドン滞在は、この日を境に一気に最高潮に達していく。名門大学には、実はこんな力も潜んでいるのだ。

1E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER④
2E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER④
3E(Cd) Preston:BACH/ORGAN WORKS③
4E(Cd) Preston:BACH/ORGAN WORKS④
5E(Cd) CHOPIN FAVORITE PIANO PIECES
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