2012年02月04日(土)

Sat 120104 ローランの歌/解説 その舞台ジローナを訪れる(バルセロナ滞在記25)

テーマ:ブログ
 「ローランの歌」を知っているだろうか。短く「ロランの歌」と発音してもいい。岩波文庫にはそのままのタイトルで入っている。「採用条件:コネのあるヒト」という、シューカツ生の敵とも呼ぶべき岩波書店だが、会社として憎むべき求人を行っていても、さすがに出版する本は一流である。
 実は今井君は岩波文庫がキライ。活字についての好き嫌いがあって、高校生の頃から岩波文庫の活字はどうも今井テイストに合わない。活字の好みでいうと今井君はずっと新潮文庫派であり、「新潮文庫が好きだからこそ、三島由紀夫と安部公房が好き」という歪んだ少年時代を過ごした。
怪しい男
(ローランの時代、立派なヒゲは強いオトナの男の象徴であった)

 しかし諸君、こういうデリケートさ=気難しさを大切にしないと、読書はだんだんチープになっていく。明治から昭和に至る日本の黄金時代、書評を書く評論家は、まず本の体裁について語ったものである。
 表紙、製本、デザイン、活字と挿絵。そういう読書の周辺部分にこだわりをもたないと、読書はいつの間にかビジネス書やHow toモノの天下。つまり必然的に貧弱なものになる。酒を飲むのもありふれたチェーン店、着るものはみんなユニクロ。メシはファミレス、書棚の本は○○出版のビジネス本ばかり。何だか寂しい人生ではないか。
筑摩全集
(筑摩世界文学大系第10巻「中世文学集」)

 今井君にとって「ローランの歌」は、筑摩世界文学大系「中世文学集」の中の大切な一編である。この1冊に収録されているのは、他に「エッダ」「グレティルのサガ」「狐物語」「アーサー王物語」など。ヨーロッパの人々がみんな獣の皮を着て、獣の肉を貪り食い、ユーロ圏統合はおろか、平気で殺しあいに励んでいたころの叙事詩と英雄物語ばかりである。
 唯一彼らがお互いの憎しみを忘れて結束するのは、「対イスラム教徒」がテーマの時だけ。1000年前のヨーロッパは、東からも西からもイスラム教徒の激しい攻撃を受け、西はピレネー山脈・現フランス/スペイン国境で防戦一方。東はバルカン半島あたりで一進一退の状況だった。
 スペインもハンガリーもギリシャも、古代ローマ世界とイスラム世界の間で「とるか、orとられるか」の乾坤一擲の戦いが続いていたわけである。「ローランの歌」は、十字軍の戦いが始まる寸前の11世紀後半の成立。すでにスペイン全域がイスラムに征服された後の時代で、対イスラム・レコンキスタの初期の戦いを描いた英雄叙事詩である。
大聖堂1
(ジローナはローランの歌の舞台。ゴシック期の大聖堂も美しい)

 うぉ♡うぉ。何と今井君は知的なのだろう♡♡♨ とてもタダの英語講師とは思えない。来年から世界史の講師も兼ねようと思うぐらいである(もちろんウソです)。舞台は、8世紀後半のスペイン。シャルルマーニュのフランク王国と、イスラム王マルシルが治めるイベリア半島・後ウマイヤ朝の戦いがテーマになる。
アラブ人の浴場
(ジローナ大聖堂の前には、10世紀「アラブ人の浴場」が残る)

 ごくカンタンにストーリーを紹介しましょうかね。ローランは、帝王シャルルマーニュに従う十二勇士の1人。キリスト教国vsイスラム帝国の戦いで、ほぼ勝利を手にしたシャルルマーニュは、敗北を認め降伏を申し込んだマルシルと講和交渉を開始。しかし、シャルルマーニュの信頼篤い重臣ローランを快く思わない人も多い。
 中でもローランの義父ガヌロンは、イスラム側の重臣ブランカンドラン(何を噛んどらんって?)と結託してローラン暗殺を画策。フランス帰国のためピレネー山脈を越えるシャルルマーニュ軍のシンガリを務めるローランを、イスラムの大軍が背後から不意打ちする手はずを整える。
 大軍の不意打ちに対して、猛将ローランは奮戦。知らせの角笛さえ吹けば、主君シャルルマーニュの軍が引き返してイスラム軍を粉砕してくれるのだが、ローランのプライドがそれを許さない。
 十二勇士全員がローランとともに残って、イスラムの勇将ブランカンドラン(何を噛んどらんって?)の猛攻撃に応戦するが、次々に壮絶な憤死を遂げ、気がつけば、残るはわずか60騎になっている。
 トライデントで攻めるエチオピアの2万だったか3万だったかの兵に対し、いくら何でも多勢に無勢。トライデントって? まさか虫歯予防のチューインガムじゃありません。三叉の戈、カーク・ダグラス主演の大昔の映画「スパルタカス」を見れば、その威力が理解できるはずだ。
大聖堂2
(ジローナ大聖堂 2)

 しかしローランの奮戦は続く。やがて、ついに持ちこたえきれなくなったローランは、止むなく合図の角笛を吹き鳴らしてシャルルマーニュの援軍を求める。一気にピレネーを走り下ったシャルルマーニュ軍は、イスラム軍を粉砕する。
 憎っくき裏切り者ガヌロン(ローランの義父)は八つ裂きの死刑になるが、時すでに遅し。重傷を負ったローランは、勇士の誇りを胸にいだきつつ、ついに息絶える。史実からは相当ズレているが、こうしてローランはここから300年も400年にもわたって、キリスト教十字軍の兵士たちを天国から鼓舞し続けることになった。
大聖堂3
(ジローナ大聖堂 3)

 諸君、感動するのじゃ!! まずローランの勇猛ぶりに感動し、次に今井君の知性に感動するのじゃ!!! 単なる予備校の英語講師に、これほどの知性を期待できるなんて♨、日本という国はつくづく知のレベルが高いのであるよ♨ 
 もちろん、この程度の博覧強記に感動してもらっても困るので、感じてほしいのは、この見事な要約能力、見事なStorytellerぶりである♡
 あと、感激すべきはヒゲですかね。シャルルマーニュもマルシルも、ブランカンドランもローランも、みんな残らずヒゲ自慢だ。ただの自慢の域を超え、知性より腕力より、知略や智謀よりも、おヒゲが大事。「そんな王様でいいんですか?」と尋ねたくなるヒゲ中毒だ。
立派なヒゲ
(オトナの男性が自慢すべきヒゲとは、このようなものである)

 この物語は、ヒゲがないと一人前の男として認められない時代であり世界であって、シャルルマーニュなんか40歳前なのに、胸まで伸びた白ヒゲを軍勢にひけらかすのに夢中。そのヒゲがあんまり見事なので、感激した兵士たちも皆ヒゲをヨロイの外に引っ張りだして、みんなでヒゲ自慢を始める。
 キリスト教徒もイスラム教徒も、ヒゲ自慢にかけては共通。諸君、ヒゲこそ、1000年以上にわたる文明の衝突を終わりにする最終手段なのかもしれない。ヒゲをはやしたまえ。ただし、「口ひげ」「ちょびヒゲ」というものは、この時代には誰も自慢にしないようなので、必要なのは頬ヒゲwhiskersと顎ヒゲbeardであるよ。
川縁の風景1
(ジローナ、オニャー川の風景 1)

 この話が、執筆中の「バルセロナ滞在記」第24回を構成するというのだから、まさに驚嘆すべし。さがれさがれ、このオカタをドナタと心得る。畏れ多くも先の河合塾→駿台→代ゼミ超人気講師、中納言&東進CMで超人気講師・今井クマ蔵であらせられる。「ズが高い!! ちっ、ヒカエオロー!!!」でござる。
橋
(ジローナ、オニャー川にかかる橋)

 この日クマ蔵が訪ねたジローナの街は、実は「ローランの歌」の舞台でもある。「オニャー川」というフザケた響きの名前の清流が流れ、500年前まで続いたイスラム支配の影響が今も色濃く残っている。バルセロナ・サンツ駅から、準急でも各駅停車でも1時間半ほど。バルセロナで余裕があったら、ぜひ立ち寄ってみるといい。
 ジローナ。ガイドブックでも扱いはきわめて小さい。掲載さえしていない本だってあるだろう。今井君もホントはこの街に立ち寄ることは予定していなかった。しかし3日前にダリの街フィゲラスを訪ね、途中で電車の窓から見たジローナの街の美しさに感激して、丸一日をジローナ訪問にあてることにした。
川縁の風景2
(ジローナ、オニャー川の風景 2)

 例えば欧米人が日本に旅行して、超有名観光地・熱海を訪ねるとする。電車の車窓から、湘南の街々が見える。「いいじゃないか、ヒラツカとか、ツジドウとか、チガサキとか。プランにはなかったけれども、ショーナンで1日つぶしてみるか?」と心を決める。そういうことである。
 この種の訪問は、成功しないこともある。ミラノに滞在した今井君は、日本なら鎌倉に該当する定番観光地・ベルガモを訪ね、途中で電車の窓から見たブレシアの街の美しさに感激。翌々日にブレシアを訪ねてみたが、うにゃにゃ、移民労働者の中国人オバサンに敵意マンマンのイヤな目でニラまれただけで終わった。面白かったのは、カップケーキみたいな形の旧市庁舎ぐらいである。
ブレシア
(北イタリア、ブレシアの旧市庁舎)

 ちょうど日曜日だったので、ジローナの街は閑散としていた。鉄道の駅からオニャー川を渡るところまで、出会ったヒトはほぼ皆無である。川を渡ると、いきなり狭く入り組んだ路地が多くなって、おお、これぞ中世の面影。今日もまたイスラムvsキリスト教の長い文明の衝突の現場に、今井君は立ち尽くしていたのである。
路地
(中世の面影の残る狭い路地)

 見るべきスポットは多くない。ゴシック様式の大聖堂、その前の大掛かりな階段、アラブ人の浴場。数え上げてもそのぐらいだから、名所旧跡でポーズをとって写真を撮るだけが目的の旅行なら、訪れないほうが身のためだ。
 しかし、中世の陰影の残る街を無目的にさまよい、ボローニャのものとは全く雰囲気の違うカマボコ型のポルティコを散歩するのは楽しい。ポルティコの下に偶然見つけた地元民専用のレストランに座って、半分居眠りしながらランチを楽しむことが出来れば、ジローナで過ごす日曜日は、おそらくバルセロナ旅行で最高の1日になるだろう。
ポルティコ
(このポルティコの下に、たくさんの飲食店が集まっている)

 大聖堂の博物館には、ローランの叙事詩が完成した11世紀のタピストリーもあって、1000年前の女性が織ったタピストリーが天地創造のアリサマをクマ蔵に見せてくれた。しかし、ハエを手で払いながらロゼワイン1本をガブ飲みした感じでは、ローランもシャルルマーニュももうここにはいない。
 ジローナの空気に残っていたのは英雄たちの活躍の余韻ではなくて、川を泳ぐ魚たちの水しぶきの音、魚を狙って集まる水鳥の羽音、洗濯物をたたむ夕方の主婦たちの声、ママに叱られても知らんぷりでハシャぎ続ける子供たちの笑い声、そういう穏やかなものばかりなのであった。

1E(Cd) Kempe & Münchner:BEETHOVEN/SYMPHONY No.6
2E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN①
3E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN②
4E(Cd) Peter & Patrik Jablonski:2 PIANOS
5E(Cd) Andrea Bocelli:SOGNO
total m23 y23 d7917
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