2011年10月11日(火)

Fri 110917 闘牛を見にいく 雄ウシは雌牛たちに連れられて帰る(リシュボア紀行29)

テーマ:ブログ
 5月20日夜9時、ポルトから帰って一休みしたクマ蔵は、まさに満を持して闘牛場に出かけることにした。闘牛場は宿泊中のシェラトンホテルから地下鉄で北に2駅。闘牛が深夜に及んで万が一地下鉄の運行が終わっていても、十分に徒歩で帰れる距離である。
 クマ蔵が闘牛場に出かけたりして、何だかクマとウシの決闘にでもなりそうだが、クマとウシでは、どうしてもクマの方が分が悪い。ちょっと経済学をやった人なら、bear marketとbull marketというコトバを聞いたことがあるはず。市場では、ウシの方がクマより遥かに優勢なのである。
 ごく単純に言えば、クマ市場とは弱気市場≒不景気のこと、雄ウシ市場とは強気市場≒好景気のこと。クマは腕を上から下に振り下ろして戦うから、景気グラフは下降。ウシは角を下から上に突き上げるから、景気グラフは上昇。そういうイメージである。
 クマ蔵どんはハヤる心を抑え、勇敢な雄ウシさんたちが、残酷なニンゲンたち相手に雄々しく戦うアリサマをじっと眺めることにした。ウシは1頭ずつ勇敢に戦い、卑怯なニンゲンたちは寄ってたかってウシを追いつめる。
 クマ蔵は、1人では戦えないヤツらが徒党を組み、多勢に無勢をいいことに乱暴狼藉を働くのは大キライだ。戦いは、本来1vs1で正々堂々と行うもの。戦いの武器も、平等を心がけるもの。一方が生まれついた肉体だけで戦うのに、相手が剣や槍を持ち出すんじゃ「卑怯、ここにきわまれり」だ。何が何でもウシさんの味方をするために、クマは勇んで闘牛場に駆けつけた。
リシュボア闘牛場
(リシュボア闘牛場)

 スペインでは、どうもこのごろ闘牛の旗色が悪いようだ。2011年10月、超人気闘牛士ホアン・ホセ・パディーヤが、転倒したところをウシの角で突き上げられ、下アゴから左目に角が貫通するという痛ましい事故が起こった。
 たいへんな激痛だっただろうに、闘牛士は雄々しく耐えた。彼の勇敢さには心から拍手を送りたいが、この血まみれの光景で、ヒトビトの足はますます闘牛場から遠ざかってしまうかもしれない。歴史も伝統も、現代のモラルの前ではたいへん脆いものである。
 バルセロナでは闘牛それ自体が廃止になって、ついこの間「最後の闘牛」が行われたばかり。マドリードに先駆けて闘牛の伝統はすべて消えてしまった。しかしバルセロナは、カタルーニャ語の文化圏。マドリードとは別の文化の中心地だ。「バルセロナの人がマドリードの人より現代的だ」とか「より動物愛護の精神に満ちている」とか、そういうことではない。
 マドリードへの対抗意識は強烈で、カタルーニャ分離独立運動もある。カタルーニャ語の響きは、フランス語やイタリア語の影響が強く感じられ、州の祝日には、黄色の地に赤い線が数本入ったカタルーニャ州旗が街を埋め尽くす。マドリード的な闘牛には、バルセロナのヒトビトはもともと愛着を感じていなかったのだ。
闘牛場駅
(闘牛場至近のカンポ・ペケーニョ駅)

 リシュボアの闘牛は、残酷な死の儀式の要素が(Macくんは「シノギ式の要素」だそうだ)薄い。戦うウシは、雄々しい戦いぶりを称賛される対象であって、衆人環視の闘牛場で殺戮or惨殺されることはない。激しい戦いの果てに、彼の命はあっけなく救われるのである。
 午後9時、闘牛場に到着すると、目の前にはすでに戦う準備のできた闘牛士たちが談笑している。チケット売り場も混雑していて、そのアリサマは、「混雑」というより「混乱」と呼ぶ方が正確である。列は乱れて、南欧の国独特のオダンゴを形成。普段のクマ蔵なら、この混乱を目にしただけで帰路につくところだが、どういうわけか、とてもいい席が買えた。
闘牛士たち
(闘牛士たちの談笑)

 戦いの始まるのは午後10時過ぎ、7頭ほどのウシが戦って、終わるのは午前1時近くなる。それなのに、観客の中には小学校低学年の男子もたくさん含まれている。殺さずに喝采する闘牛だから、子供が深夜に観戦するのも決して場違いではない。
 入場してみると、闘牛場は意外に狭い。入場直後は2割か3割の入りだったが、戦いが始まる直前には8割がた座席が埋まった。戦場の土の黄色が印象的である。
平社員
(まず、歩兵隊の入場)

 どの戦いでも、まず10名足らずの歩兵隊が横隊で入場。「ヒラ社員」というところかね。大きな拍手が沸き上がり、少し静まったところで、課長補佐格の闘牛士たちが華やかな衣装を身に着け、これも1列横隊で登場。さっき闘牛場前で談笑していた諸君である。
課長代理
(課長補佐たちの整列)

 スペインの闘牛なら、彼らの中にマタドールがいて、彼らこそが大スターなのだが、ポルトガルの闘牛はここからが違う。課長補佐の諸君が整列したところで、さらに大きな大喝采と大歓声の中、馬に乗った2名の美丈夫が颯爽と姿を現す。馬体は美しく照明に輝き、2名は18世紀貴族の青年将校の風情。ニンゲンの側の戦いの主役は、彼らなのである。
主役の登場
(主役の登場)

 ウシの体重と色、育てた牧場の名前が告げられると、ゲートが開かれ、筋肉隆々の雄ウシが戦いの場に突進してくる。何と言っても黒ウシの迫力は素晴らしくて、2重にも3重にも肉の盛り上がったたくましい背中を見せつけられれば、クマもトラもライオンも正直タジタジである。「こんな強烈なヤツと戦って、ケガする必要はなさそうだ」「退散するに、しくはなし」と、納得顔でブツブツ呟きながら退却しそうである。
 この強烈なウシに最初に対応するのは、徒手空拳の歩兵隊である。黒ウシは、闘牛場の壁や柵に体当たりして、こんなに離れて見物しているクマ蔵さえドキッとさせるほどの大音響を上げ、土を激しく蹴り、目標を定めている。その黒い筋肉のカタマリに、歩兵がさまざまな動作でチョッカイをかけるわけだ。
 ウシが彼らに突進すると、歩兵隊の1人がその角をつかんで、突進を阻止しようとする。もちろん、体重はニンゲンが80kg程度、ウシは500kgも600kgもあるわけだから、突進を阻止するどころか、一息に跳ねとばされるのがオチである。
 しかしやがて誰か一人が幸運にも突進を阻止し、そのスキに華やかな衣装の課長補佐が細い剣をウシの背中に突き刺して、「まあ緒戦は引き分け」みたいな結論に導いてしまう。
 ウシとしては、「そんな針みたいなの1つ刺されても痛くも痒くもない」。蚊に刺された程度のムズ痒い刺激に、むしろ「もっと正々堂々をやろうじゃないか」という顔でニンゲンたちを睨みつけるばかりである。
 そこで、馬に乗った青年将校2名の出番がくる。クマ蔵の見た感じでは、観客はむしろ、ニンゲンに従順に従ってウシと戦う馬たちに感動しているようである。将校は巧みに馬を操り、馬は驚くべき従順さで指揮に従う。間一髪でウシの角の一撃をかわし、角からわずか20cmか30cmの距離のところを走り抜ける。
 この場合、ウシと戦うにはウシから離れすぎてはならないし、恐怖と戦いながらウシの角を巧妙に避け続けなければならない。コトバが通じても困難なギリギリのコミュニケーションを、こんな美しい馬たちが見事に演じあげる光景なら、小学生男子を連れて深夜の観戦をさせるのも決して悪いことではない。
 ウシを応援する者、馬を讃える者、ニンゲンの応援団、みな入り混じって固唾を飲んで見つめる中、何度も訪れる青年将校のピンチを、歩兵団が身を挺して救う。中でもアフリカ系の歩兵1名が見事な働きで観衆の大喝采を浴びた。
シントラのお菓子
(観客席では、シントラのお菓子を売っている)

 しかし、やがて勝負はつかざるをえない。ウシは疲れ、ニンゲン集団は多勢に無勢の有利を生かしてウシを追いつめる。ウシは立ち尽くし、「オレ、ちょっと疲れた」「背中の剣が、ちょっと痛いかも」と、息を切らして立ち止まることが多くなる。背中から流れる赤い血液が、観衆にも「少し痛々しいな」と思わせるのである。
 すると、「戦いは、もうこれでいいだろう」という暖かい拍手が自然発生的に観衆から湧き起こる。その役割のサクラが、観衆の中に相当数まぎれ込んでいるのかもしれないが、とにかく「ウシも、人も、馬も、みんな雄々しく戦ったじゃないか」という拍手に闘牛場が包まれる一瞬があるのだ。
 そのとき、戦いは終わる。まず青年将校2名が傲然と勝利をアピールしながら闘牛場を後にする。ついで課長補佐団。最後に歩兵隊。観衆の暖かい拍手は、徒手空拳で戦ってみせた歩兵隊に最も大きく、最も暖かい。遠い東の果てからこの様子を見に来たクマが、思わず涙を流しそうになったのは、このシーンである。
 で、黄色い土の上に黒ウシ1頭が残されて、呆然と立ち尽くす。戦いの突然の終わりに、彼は納得がいかないのだ。その黒い目が訴えているのは、
「あれ、もう終わり?」
「痒いけど、痛くないよ」
「せっかく楽しかったのに、いきなり終わっちゃうの?」
「もっとやろうよ、楽しいよ」
である。観衆はその姿をみて穏やかに笑い、「よかったな、殺されなくて」「もう、大人しく帰りなよ」と、おそらく心の中で声をかけるのだ。
 そこへ、優しい雌牛たちが駆けつける。懐かしい牧場のウシの鈴音が響き、ママやお姉ちゃんや妹たちや、幼なじみの雌牛たちが、「さ、もう帰りましょ」と、いきりたつ彼を迎えにくるのだ。
 真っ黒い筋肉を波立たせ、「まだまだケンカしていたい」と駄々をこねる彼を、雌牛たちは優しくなだめながら、みんなで場内をゆっくり一周する。それを見て、観客も何だか懐かしさに感動し、「もういいだろ」「ケンカはまた明日。今日はもう大人しく帰りな」「ホントによかったな」と、思わず涙を流すのだ。
 雄ウシは、まだ駄々をこねて、帰っていく雌牛たちを呆然と眺めている。しかし一瞬の間があいた後、いかにも納得がいかない様子で、彼はトコトコ雌牛たちの後を追う。なになに、みんな帰っちゃうの? 帰ったら、ゴハンあるの? 今日はカレー?ハンバーグ?お腹空いた。タップリ暴れたしな。そういう風情である。
 やっと空腹を思い出して、今度はゴハンに向かって突進。その後ろ姿を見送りつつ、観衆は思わず「よかったな」「よかったな」と心で叫び、これからの彼の幸せを祈るのだ。
観客席
(休憩時間中の観客席)

 こうして、1つの闘牛が終わる。15分ほど休憩があって、また新しい歩兵隊、新しい闘牛士、新しい青年将校が登場し、新しい雄ウシが引き出されるのだが、同じシーンと同じ感動がこうして何度も繰り返されることになる。
 クマ蔵は、ウシを殺さないポルトガルの闘牛が大好きになった。もちろん「でも、結局ウシは陰でコッソリ殺されちゃうんじゃないの?」という疑問はあたりまえ。おそらく、傷ついて弱った雄牛は、どこかで殺されて食肉処理されるのだろう。しかし、クマさんは今そんな陳腐な話をしているのではない。第一、そんなこと言ってたら牛肉を食べる文化の全てを「ウシが、かわいそう」と否定することになっちゃうじゃないか。
 諸君、ポルトガルに行こう。リシュボアに滞在して、闘牛を見に出かけよう。これこそ、西の果てポルトガルの文化の精髄である。闘牛場は、地下鉄カンポ・ペケーニョ下車、駅の真上が闘牛場だ。
22じ15ふん
(カンポ・ペケーニョ、22時15分開始を告げる垂れ幕)


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