2008年10月03日(金)

Wed 081001 コートを着た人々との遭遇 原稿の進み方 マッジョーレ紀行10

テーマ:アーカイブ
 今日から10月になって、それでもめげすにサンダルに半袖のポロシャツで街を歩いていると、さすがに変人に見えるかもしれない。確かに涼しくはなったけれども、それは大汗をかかなくなったりクーラーが恋しくはなくなったり熱中症の心配がなくなったり、その程度のことであって、まだまだサンダルにTシャツが一番気持ちがいいのだから仕方がないのである。
 鈍感なツキノワグマのような生き物である私などは、人々の服装が余りにも敏感に変化するのには驚異の目を見張らずにはいられない。昨日は下北沢を歩いていて「コートにマフラーにブーツ」という女性を見たのにはさすがに驚いた。もちろん何を着ても自由だし、10月に入った、衣替えだ、さあ今日からは気持ちを入れ替えて、そういう張り切った気持ちは理解しないでもない。しかし目の前でコートの襟を掻きあわせ、マフラーをぎゅっと首に巻き付けられてしまっては、サンダルにポロシャツのオジさんは、いったいどうすればいいのだ。

(写真上:今日もまた、知的な表情で迫るナデシコ)

 しかも、多勢に無勢である。コートにマフラー軍団がブーツの足音も高く行進してきたのでは、サンダル熊はさっさと冬眠の準備でも始めるしかない。しかも温暖化した山のネグラは、10月でもまだ暑くて冬眠するのに扇風機が必要である。風呂上がりなんか、まだネグラにクーラーを入れビールをグビグビ&コキュコキュやって涼んでいる。しかもその風呂が大好きで、本を読みながら(いま読んでいるのはフィールディング「ジョウゼフ・アンドリュース」であるが)1時間以上入っているのだから、風呂上がりのビールはたまらない。そうやって大汗をかいた直後にコート軍団に遭遇したりすると、「もう鍋に熱燗の季節なのに、扇風機にビールだなんて何て非常識なの」と追及されているようなミジメな気持ちになる。
 読んでいる本もまた古すぎる。フィールディングとは18世紀半ばのイギリス人作家。日本で言えば井原西鶴に該当する。この間までは同じ18世紀の作家スウィフトを読んでいて、江戸時代の最盛期で鎖国の真っ最中のはずの日本がやたらに登場するのにビックリしていたが、こういうのを今時マジメに読んでいるなどというのは、まさに浦島太郎グマなのかもしれない。おお、遅れている。遅れすぎなのである。

(写真上:相変わらずナデシコは賢そうである。その向こうに見えている白い雲は、ニャゴロワ。こういう顔で昼寝するのが飼い主の理想でもある)

 原稿の提出が遅れ、生徒たちからもらった手紙への返事が遅れ、スペイン語の勉強が予定の1/10も進んでいない。何もかも遅れ放題に遅れている中で、そうやって季節にもせかされ、季節を先取りした人々にもせかされると、酒を飲んでも旨くない。というのはもちろんウソで、酒は十分に旨いのであるが、「早くしなくちゃ」という意識が、腰やお腹の辺りでいつでもモゾモゾ動いているので、落ち着かないことは確かである。頭だけ、涼しい穴の中に突っ込んで、背中を秋の暖かい太陽に照らされてうつぶせで昼寝をしたいのであるが、原稿と鍋物と熱燗とファッションと、そういうものが声をそろえて早く早くとせかし立てるようなイヤな夢を見そうだから、しかたなく昼寝はあきらめてパソコンに向かう。
 しかし面白いもので、せかされて落ち着かなくなって仕方なくPCに向かった時に限って、妙に興がのり、文体も踊りだして、抑えが利かなくなる。いくら書いても止まらないし、自分一人で楽しくて笑い出し、歌いだす。冬眠の準備に忙しいクマさんが、柿の実や栗の実を集めながら楽しくなって歌いだしている様子を想像してみたまえ。柿も栗も大好物だから、集めて、穴の中にどっさり積み上げて、その旨そうな豊かな山を見上げれば、それはもうクマさんは踊りだしたくなるに決まっている。踊り、歌い、穴の前でグルグル回っては、今これを食べてしまってはいけない理由がわからなくなって(本当は冬眠の準備なのに)お魚も木の実もむしゃむしゃみんな食べてしまっている様子を想像してみたまえ。

(写真上:昼寝するナデシコ。睡眠中も地図帳の学習を忘れない)

 PCの前の私も同じようなものである。参考書の原稿や「はしがき」や「本書の使い方」や、そういう本来なら謹厳実直な表情で、姿勢を正し背筋を伸ばして書かなければならないようなものでも、書いているうちにどんどん楽しくなってどうしようもないのだ。「まじめに」「格調高く」「先生っぽく」と心に念じながら、出来れば「ちょっと偉そうに」書こうと決めた参考書だったのだが、5ページに1回ぐらい、いつもの授業の調子がにゅうっと顔を出して、もう止めどなく楽しくなる。後から読んでみると、これはいつもの授業の私とほぼ同じである。静かに、おとなしめに、落ち着いたオジさんの雰囲気で始まった授業は、20分30分と経過するうち知らず識らずに盛り上がり、最高潮に達し、激流は一気に終了のチャイムまで続いていく。ならば、参考書にしても同じように展開しても何の不思議もない。
 幸いにして、年内の「上巻」出版は不可能ではなさそうである。私が怠けたせいで12月中旬以降になりそうであるが、詳しくて、親切で、楽しくて、ぶっきらぼうな感じのない、しかもよくまとまっていて、読みやすい、いい文法書が出来そうである。ここへ来て、本のタイトルを変更することになりそうであるが、決まり次第このブログにも掲載しようと考えている。たった1冊の本の出版をこれほど丁寧に進めてくださる出版部に、大いに感謝しているところである。


 9月6日、標高1400mのモッタローネ山からマッジョーレ湖畔を目指した徒歩の旅は、いよいよ大詰めを迎えた。どれほどの距離を歩いたか、数学に強い方は是非計算してみていただきたい。三角定規の細長い方のような直角三角形を書き、短い方の1辺を1400mとする。この辺の対角θは20°程度。スキーのできる人ならθ=30°まではないと即座に判断されることと思う。30°などというのは、上級者向きの急斜面であって、上から覗き込むとほとんど垂直のカベに見えるものである。こんな軽装で、こんな安物の靴をはいてホイホイ降りて来られたのだから、まあ20°、常識的には15°程度か。しかし、その分距離は長くなる。sinだったかcosだったかを使えば、高1で習う三角比で簡単に計算できるはずだし、計算して出てきた距離の長さには驚くだろう。それほどの距離の山道を、途中ほとんど休憩することもなく降りてきて、しかもほとんど疲労というものを感じていない。このあたりに棲息するヨーロッパグマだって、十分に一目置きそうなものである。

(写真上:山道の途中で顔をのぞかせたアルプス)

 ところが、そこに出てきたのはヨーロッパグマではなくて、「変なジイサマ」だったのである。身体は非常にデカイ。明らかにひどく酔っ払っていて、遠くからみても顔が真っ赤である。両手を広げて何だか怒鳴っている。唸っている、と言ってもいい。よく聞き取れないが、両手を広げて「バベーネ」または「バベーノ」と発音している。「バベーネ」ならVa bene?であり、Is it all right?であって「それでいいですか?」ということになるが、こんな夕暮れの道ばたで「それでいいですか?」「いいのかい、そんなんで?」と絶叫しているジイサマというのは考えられないから、残る可能性は2つである。1つは酒を飲みすぎて、ワケが分からなくなったジイサマだという可能性。もう一つは「バベーノ」と発音している可能性。このあたりの地理は全く知らずに山から下りてきたわけだが、「バベーノ」という町か村か集落が近くにあって「バベーノに行きたいんだが、あんたバベーノへの道を知らんか」と聞いている可能性。おそらくは後者であろうが、後者だとすると「バベーノへようこそ」かもしれないし「バベーノに何の用件で来たのだ」とか「バベーノに近寄るな」とか「バベーノにお前のようなクマがやってくることはこのワシが許さん」とか、そういう拒否の身振りなのかもしれない。全く、厄介なジイサマが立ちふさがってくれたものである。

(写真上:変わったジイサマと遭遇したあたり)

 思い切って「ストレーザに行きたいんだが」と聞いてみた。「ストレーザか」とジイサマは機嫌を取り直して、「ストレーザなら、そっちの道だ。今来た道を引き返して、その先の細い道を降りていけ」と言う。地図の上では私は間違っていなくて、確かに案内版に記された通りの道を降りてきたのだ。目の前には、目印になるマッジョーレ湖も、湖に浮かぶペスカトーリ島も間近に見えている。しかしジイサマは「このまま前進すればバベーノ(バベーネ)。引き返してから下ればストレーザ」と頑固に主張した。「このまま前進すればバベーネ(Va bene)」の可能性も否定できない。それなら「このまま前進してOK」ということである。おお、これは難しい。
 10秒ほど、微妙な睨み合いがつづいたあと、ジイサマの忠告をやむを得ず受け入れていったん引き返すことにした。まず、ジイサマの自尊心を大切にしたかったこと。親切心で東洋のクマに道案内してくれたのに、そのジイサマの親切な自尊心を踏みにじるようなことは人間の道にもクマの道にも悖る行動である。第2に、ジイサマを正面突破するのが困難に思われたこと。地図を信じて猪突猛進するには、酔っ払って真っ赤な顔をしたデカイ身体にデカイだみ声のジイサマを突破しなければならない。しかも「バベーノに近づくな」という拒絶の心を秘めている可能性もあるのだ。10秒の沈黙の中で、高性能を誇る東洋人の脳はこのような情報を超高速で処理し、その後の行動に直結させたのである。

(写真上:だんだん、陽が傾いていく)

 今来た道を引き返してみると、確かに10分ほど戻ったところに3叉路があって、そこから細い薄暗い気味の悪い道が別の方向に下っている。「ええっ、この道?こんな道でいいの?」という感じ。一気にジイサマへの不信感が吹き出してきたが、まあ、やむを得ないものはやむを得ない。陽が傾いて少なからず心細くなりながら「細くて薄暗くて気味が悪い」山道を進む。もちろん、そうは言っても近くにはクルマが高速で走る大きな自動車道が走っているし、とにかく湖はもう間近に見えている。「遭難」とか、それほどのことではないが、ありがたくないものとの遭遇についての不安感はある。これこそ3年前のエズ「ニーチェの道」の残したトラウマである。

(写真上:「細くて薄暗くて気味が悪い」山道。こういう小さな祠だかお堂だかが、またこわい)


1E(Cd) David Sanborn:TIME AGAIN
2E(Cd) David Sanborn:LOVE SONGS
3E(Cd) David Sanborn:HIDEAWAY
4E(Cd) Jaco Pastorios:WORD OF MOUTH
5E(Cd) Anita Baker:RAPTURE
6E(Cd) Anita Baker:THE SONGSTRESS
7E(Cd) Anita Baker:RHYTHM OF LOVE
8E(Cd) THE BEST OF ERIC CLAPTON
9E(Cd) Michael McDonald:SWEET FREEDOM
10E(Cd) THE BEST OF JAMES INGRAM
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15D(DvMv) DANGEROUS BEAUTY
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