2008年08月24日(日)

Thu 080821 梅ヶ丘「へちもんや」 パドヴァ紀行2

テーマ:アーカイブ
 東進・吉祥寺1号館で13時から17時半まで授業収録。収録内容は昨日一昨日と予告しておいた「志望校対策・早稲田大学文学部2008年」である。やはり今年6月からの絶好調は持続していて、全訳をつける余裕のないこの授業形態でも、受講生が確実に満足できるような内容にまで高めることが出来た。さすがベテラン超人気ウニャウニャ講師である。
 終了後、さすがに疲れたので、一杯飲みに出かける。新宿、渋谷、吉祥寺、下北沢、どこでもいいのだが、下北沢の駅の雑踏の中をうろついていたら、ちょっと下り電車に乗ってみたくなった。上り電車に乗って混雑した店で待たされたりするよりも、1駅か2駅ぐらい下りの電車に乗って、余り知らない小さな駅の飲み屋に入るのもいいものである。木曜日の夕暮れ、空にはきわめて怪しい黒雲が渦巻いていて、遠くで雷鳴も轟いている。真夏にしては蒸し暑い日だったから、これは確実に夕立が来る。丸一日働いた人々で満員の汗臭い小田急線各駅停車に乗って、人のいない静かな街の飲み屋に入って、雨宿りみたいに2時間ぐらいぶらぶらするのも悪くないだろう。
 世田谷代田の駅を過ぎて環状7号線をわたると(一昨日ここをパトカーが逆走して映画なみのカーチェイスがあったらしいが)、一瞬だけ地平線が見えた。一面黒雲に覆われた夕方の空の地平線が薄気味悪いオレンジ色に染まって、ところどころ既に夕立が始まっているようである。「余り人のいない小さな街」と言っても、もちろん小さすぎて飲み屋もない駅に降りたところを夕立に襲われて途方に暮れるようなことになっては困るのである。梅ヶ丘、経堂、成城学園前、まあそんなところか。準急や急行が止まる駅で、余り大学生だらけでないような、ちょっとだけ大人っぽい飲み屋があればいい。
 で、降りたのが梅ヶ丘。10年ぐらい前に映画にもなった「冷静と情熱のあいだ」で、男が住んでいたのが梅ヶ丘、女が住んでいたのが下北沢、そういう設定になっていたかと記憶する。映画はと言えば、まだものすごく若かった篠原涼子がフィレンツェの飲み屋で泥酔して、完全な日本語で「ワインー!! ワインー!!!」と叫んでねだって暴れたり、「10年後にフィレンツェのドゥオモで逢おう」などと誓い合ったり(あんな大混雑のドゥオモでどうやって相手をみつけるのか、10年も経過してすっかり変わってしまった相手を見つけるのか見当もつかない)、突っ込みどころ満載で笑いが止まらないような代物だったが、だからと言って梅ヶ丘という街がダメな街と言うことにはならないだろう。
 入ったのが、駅から歩いて1分の「へちもんや」。この店を選んだ理由は特になくて、他に2時間ぐらい雨宿りをするのによさそうな店がなかったからである。「美登里寿司」はデカいアナゴか何かで有名な店で、行列ができていてとても2時間も雨宿りをさせてくれそうにない。「梅ぞの」は見るからに昔ながらの「学生コンパ向け」の店でとても私のような年齢のオヤジが2時間も過ごせそうにない。「カドイ」という店は、ちょっとオシャレな外見で入ってみても悪くなさそうだったが、覗いてみたらとにかく誰一人として客の姿がない。ここまで誰もいないということは、それなりにワケがあるに違いなくて、2時間の雨宿りのためにはその「ワケ」について油断は禁物である。そのあたりまで迷ったところで、雷鳴が近づき、雨粒が道路をたたきはじめ、まわりではどっと傘が開いて、これ以上躊躇してはいられなくなった。写真下が「へちもんや」。

 店は雑居ビルの2階。1階はパン屋さん。一番奥のカウンターに座ったが、静かな落ち着いた雰囲気で、私にはちょうどいい店だった。他に客は地元のオジさんたち4人の会合と、ママとママに連れられた小学校低学年の子供2人。奥の座敷にもう1組いるようだったが、詳しくは分からない。入って、最初の注文をして、生ビールを飲み干したあたりで外はもう激しい雷雨になった。下の道路を傘のない人々が大慌てで走り去り、暗いアスファルトに白い水しぶきが上がり、音がするほど激しい稲光が続けざまに走り、稲妻とほとんど同時に「明らかに落雷」という雷鳴が轟いた。
 雨宿りは大成功である。私はこれ以上のものを求めない。外が雨で、中は穏やかな客が何だか楽しそうに低い声で話し合っており、雷が鳴って、雷はだんだん遠ざかっていくようであり、でもまだ雨が激しいから帰らなくてもよくて、注文した酒とつまみが少しずつ少しずつカウンターに出てくる。こういうふうであれば、出てくる料理が極端に旨い料理である必要は全くないのだ。頼んだ酒は「浦霞」。あとは枝豆、イワシ丸干し4匹、馬タンのスモーク、軟骨入りツクネ、肉味噌焼き豆腐、ほっけ。あとから、また枝豆。「へちもんや」という屋号から考えても九州料理をいろいろにアレンジして出す店らしかったが、他の客が穏やかに静かに話し合う人々で、店の人が優しく丁寧な応対をしてくれれば、私はそれ以上を望むことはない。店に2時間いて、生ビール2杯と「浦霞」4合を空けて、夜9時、小田急線で代々木上原に帰ってきた。予想通り、小田急線はさっきの雷雨で停電したりいろいろあって、ダイヤは大幅に乱れていた。

 4月21日、ヴィチェンツァから大いにむくれてパドヴァに帰ってきたのが夕方4時ぐらい。相変わらず駅前の雰囲気は悪いが、仕方がないからパドヴァの街を歩き回ることにした。もともとブレンタ運河からヴェネツィア入りする予定で、そのためにパドヴァ1泊を決めたのだから、パドヴァの街には何の予備知識もない。とりあえず街を南下する。トルコ系の人の経営する飲食店、同じくインド系移民の飲食店、駅前からしばらくはほぼ完全に移民の街であって、ボローニャやフィレンツェとは全く雰囲気が違う。
 まず、とりあえず「カフェ・ペドロッキCaffé Pedrocchi」(写真上)に入る。カフェ・ペドロッキは1830年頃からある老舗のカフェで、スタンダールの「パルムの僧院」にも登場するし、ボローニャ大学に次ぐ伝統をもつパドヴァ大学のすぐそばにあるということもあって、文化人や芸術家がたくさん集まっていた、ということになっている。ただし、それは昔の話。たいへん丁寧な中年のウェイターに導かれて店の中に入ってみれば、ちょっと高級な(というより相当高級な、というよりものすごく高級な)普通のカフェに過ぎなくて、別にスタンダールやガリレオが座っているわけでもないし、「文化人」などという恐るべき存在が渦巻いているわけでもない。ふん。何が「文化人や芸術家が集まっていた」だ。フンだ。プンだ。ヘンだ。このあたりまでは、私はむくれ放題にむくれていたのだ。

 私の印象が大きく変わったのは、エルベ広場のラッジョーネ宮(写真上)に入ってからである。私はこういう雑然とした市場が大好きである。ミュンヘンでもニューヨークでもパレルモでも、こういう「市民市場」みたいな場所にさえ連れて行ってもらえれば、俄然元気が出る変な男なのだ。まずラッジョーネ宮前の青果が並んだテント張りをみて、それから内部の店を見て歩く。オリーブ屋。

チーズ屋。

ハム&ソーセージ屋。

 こういう店がズラズラどこまでも並んでいて、まさに果てしがない。どの店も、こんなにめったやたらにいろいろな商品を並べて、本当に売れるのか。客はこれだけたくさんの種類のハムやチーズやソーセージの区別がつくのか。それとも店のオジサンたちの言いなりになるだけなのか。観察したところでは、少なくとも「言いなり」ではないのだ。店のオジサンたちと客との間では、品物の品質や種類についてしっかりと内容のある問答が激しく交わされている。客も店のオジサンもその問答に一切手を抜かず、何が食べたいのか、どんな料理に使うのか、どんなパーティーで使うのか、どんな料理の付け合わせにするのか、他のチーズなりオリーブなりとどこがどう違うのか、ケンカにも見えるぐらい激しい真剣な質疑応答があり、どんな長い質疑応答の後でも、お互い気に入らなければ商談は成立しない。これだけ激しい商談で、売買するのは結局20ユーロ程度のハムやソーセージに過ぎないのだが、それでも売る側も妥協しないし、買う側も真剣そのものであって、心から納得しない限りニヤニヤ笑ってごまかしたりしない。
 私はこういう商談の雰囲気が好きである。イタリア人のこういう手抜きのない様子が大好きである。日本人から見て「あれほど大雑把なくせに、なぜそういうところだけはそんなにこだわるの?」という不思議さがたまらない。変な男なのかもしれないが、こういう真剣さを見ていると心が温まりすぎて、写真を撮りながら涙さえ流れそうになる。こうやってこれほど真剣に売り真剣に買ったハムとチーズとオリーブが、たくさん盛られた夕食のテーブルを想像してみたまえ。その夕食のテーブルに集まった幸せな家族を想像してみたまえ。健康に太ったイタリア人のマンマが、今日の買い物の自慢を家族にする情景は、余りにも心温まるものがある。自分が店の人に何を要求し、店の人がいろいろに工夫して説明し、でもマンマは納得せず、さらにこう質問し、こう答え、こう値切り、拒絶され、こう懇願し、店の人がどう妥協し、ついに商談成立して、やっとのことでこの食卓の賑わいになったのだ。
 ただ、こんな雑然とした市場の真ん中で涙を流してオイオイ泣きはじめるわけにはいかないから、大いに心が温まったギリギリのところで外にでた。

1E(Cd) Holliger & Brendel:SCHUMANN/WORKS FOR OBOE AND PIANO
2E(Cd) Indjic:SCHUMANN/FANTAISIESTÜCKE CARNAVAL
3E(Cd) Argerich:SCHUMANN/KINDERSZENEN
4E(Cd) Rattle & Bournmouth:MAHLER/SYMPHONY No.10
5E(Cd) Goldberg & Lupu:SCHUBERT/MUSIC FOR VIOLIN & PIANO 1/2
6E(Cd) Goldberg & Lupu:SCHUBERT/MUSIC FOR VIOLIN & PIANO 2/2
7E(Cd) Wand & Berliner:SCHUBERT/SYMPHONY No.8 & No.9 1/2
8E(Cd) Wand & Berliner:SCHUBERT/SYMPHONY No.8 & No.9 2/2
11D(DvMv) SEX, LIES AND VIDEOTAPE
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