2008年08月16日(土)

Fri 080815 生徒たちからの手紙3 フィレンツェからの帰途

テーマ:生徒のお手紙と返事

 このところ毎日すっかり熱狂しつつ柔道を観戦していたら、とうとう目の前でニャゴロワどんとナデシコどんも柔道の寝技の練習を始めた。しかし、ネコの寝技などというものは、なかなか続かないものである。まずニャゴロワが眠りにおち、続いてナデシコが意識をなくして、練習は5分ももたずに終了。翌朝にはもう柔道の記憶も彼女たちには残っていないのだ。

 昨日と一昨日は、生徒たちから手紙をもらう嬉しさについて書いたけれども、手紙をくれる生徒諸君に少しだけ苦言を呈するとすれば、高校生として少々常識に欠ける手紙も少なくないということである。手紙のやりとりでは最低限の礼儀が必要。少なくとも「鉛筆書き」というのは許されるものではない。ノートを破った切れ端に鉛筆書きでは、とても真剣な相談とは思えないのである。ルーズリーフに汚い文字で殴り書き、という手紙も来る。正しくは、必ずキチンとした便箋を買って(別にイラストの入ったものでもかまわない)、姿勢を正して、ブルーか黒のペンを使って、一語一語真剣に考えて書き、書いては推敲して何度も書き直す。おお。おお。それでこそ、正しい手紙が書けるのである。
 授業の中でもよく紹介するが、手紙の宛名にも物凄いのがあって、代ゼミ時代にもらった手紙には「今井宏殿」「今井宏あて」などというのも来た。「殿」というのは、対等か目下の相手につける言葉。「あて」ではもう、私は完全に呼び捨てになっている。それを授業で紹介した翌週には「今井宏御中」が来た。私は法人や会社の部署ではないから、「今井宏様」でないと困るのだ。「御中」まできて呆れていたら、最後に「今井宏在中」というのが来て、とうとう私は写真かリーフレットよろしく封筒の中に詰め込まれてしまったようである。
 「殿」「あて」「御中」「在中」の手紙を苦笑しながら開封すると「今井先生、こんにちわ、ボクは大の今井ファン。ぜひ私の校舎に来てください」と鉛筆で殴り書きの文字。封筒の表書きも鉛筆。まず、正しく「こんにちは」「今井先生のファン」「いらしてください」程度は書けるようになって、そして必ずペン書きにすること。ご両親か、塾長先生か、せめて担任の先生かに、よく見てもらってから投函した方がいいかもしれない。
 これも東進に移籍する以前のことだが、いきなり予備校あてでドサッと日本酒の詰め合わせが届けられ、みんなで「何だこりゃ?」と言っていると包みの下の方から大量の英作文(ノートを破ったらしい紙50枚ほど)が出てきて「添削してください」とある。しかも「先生の授業には全く出ていないんですが、ボクは京都大学を受けるので、先生に添削してほしいんです。箱にお酒も同封しておきました」と、鉛筆のメモ書きも入っていた。「京大を受けるので、過去25年分の京大英作文を書いてみた」というのである。おお。私は一人で「通信添削の乙会(おっとかい・仮名)」でも経営しなければいけないのだろうか。しかも、無償である。「酒を送ったんだから、添削ぐらいするのが当然」というのであった。ま、東進に移ってからはここまで非常識なのはなくなったから、今はいくらか気も楽である。

 4月20日、夕暮れのアルノ河が余りにいい雰囲気なので「これでもか」と写真を撮り続け、最後にもう1度Duomo前に戻ったり、そういうことをしているうちにいつの間にか日もとっぷり暮れてしまった。

 この時間帯からのフィレンツェは少なからず治安が悪い。「地球の歩き方」ふうに言えば、「一人歩きは、ご用心を」「安全かどうか、ご確認を」「徒歩よりは、バスがオススメ」という感じ。街路はシエナに負けず劣らず狭く入り組んでいるし、入り組んだ街路には「物陰」「暗がり」「うす暗がり」など、危険な人物が隠れるにはうってつけの場所も多い。もちろんこちらも「さるモノ」であって、真夜中過ぎのフィレンツェを走り回ったこともあれば、明け方近いヴェネツィアの裏道で後をつけられたこともある。この程度でビクビクすることはないが、さすがに日の暮れた後のサンタ・マリア・ノヴェッラ駅周辺は好ましくない人物も多く集まる一角。明日午前中にはボローニャを発ってパドヴァに移動する予定でもある。早めに退散した方が良さそうである。

 夜遅いESは混雑している。座席を予約したからよかったが、車内はほぼ満席の状態。そして、いつもと同じように、何故か私の予約した席には誰か他の人間が既に腰を下ろしている。イタリアという国は、必ずこうなのだ。他の席が空いていても、こちらが予約した席にだけ、何故か既に他の客がいて、しかもその人物は、他人の席に座っているくせに完全にだらりとリラックスしきっており、本来の客が姿を現しても謝罪もしなければ席を離れる気配さえ見せない。とにかく何らかの言い訳をし、いろいろ頑張って理由を付け、何とかその席を離れまいとするのである。迷惑しているのは明らかにこっちなのだが、いつの間にか私の方がいけないことをしたかのような錯覚に陥る。
 この日も結局私が席を譲って、その人物が予約してあった席に座ることにする。要するに席を交換することになったのである。しかたなくその席に腰を下ろして、5分もしないうちに理由が分かった。交換の結果私が座ることになった席は、向かい側に韓国人のオバちゃんがいて、このオバちゃんがとにかくご機嫌が悪いのである。何でそんなにご機嫌ナナメなのかは全く不明だが、とにかくオバちゃんのご機嫌は、ナナメどころか直角という有り様。車内の客を一人一人睨みつけては、ほぼ30秒ごとに大きな深い溜め息をつく。この世の地獄に落とされた、そういう様子である。自分だけが潔白で、自分だけが無実の罪を着せられて、自分だけは何一つ悪いことはしていないのに、誰かの悪ダクミか、裁判官の過ちか、神の無慈悲か、何かその種の災難で、地獄ゆきの電車のこの席に閉じ込められた、そういう溜め息である。恨み、妬み、嫉妬し、訴え、両手を組み合わせ、天に叫び、地に伏し、そういうことを全てやってもまだ足りない、そういうご様子である。
 オバちゃんは、50歳代半ばぐらい。辛いキムチより酸っぱいキムチを好みそうな感じ。ダンナと息子と娘を1日中𠮟りとばしている感じ。近所のオバちゃんたちのリーダーだが、人のいない所でその人の悪口を言うのが得意そうな感じ。できれば一緒に焼き肉を焼きたくない感じ。相手が一番言われたくないことを熟知していて、その言われたくないことを一番イヤな言い方で指摘するのが得意そうな感じ。でも、それでもこのオバちゃんにも、かつて幸せな時代はあったはずである。誰でもいいから、オバちゃんに幸せだった頃を思い出させてあげて、こんなに周囲に当たり散らす人生をリセットさせてあげてほしい。ただし、「では、あなたがやってみたら」と言われても、私は御免である。
 オバちゃんは、床に布の袋(昔は「雑嚢」と呼んだ)を置き、靴を脱いで袋の上に両足をのせ、席の前のテーブルに腕をおいて突っ伏し、突っ伏したかと思うとガバと起き上がって溜め息をつき、余り大切に使っていないらしいハンドバッグをかき回し、何かを探し、何も見つからず、再び溜め息をつき、ESの狭いシートの中で腰の位置をかえ、またテーブルに突っ伏す。歯が痛いのか、頭が痛いのか、全てが気に入らないのか、イタリア人が嫌いなのか、高校生の息子と言い争いでもした直後なのか、奥歯に挟まったスルメがとれないのか、胸やけがするのか、口内炎と水虫と二日酔いに苦しんでいるのか、保険金をだまし取られたのか、医者の領収書をなくしたか、とにかく人生の不幸のすべてがこのオバちゃんを襲ったとしても、まだここまでひどい不機嫌になることはありえないだろう、そういうご様子である。
 なるほど、こういうオバちゃんと向かい合った席には座りたくなかったのだろう。席を交換したイタリア人は、もう完全に知らんぷりである。電車はヴェネツィア行き。しかも週末、満員なのも当たり前だ。これからヴェネツィアで楽しい週末を過ごしに行くというのに、このオバちゃんと一緒ではすべてが台無しという感じだったのだろう。ならば、構わない。私もアジア人である。この不機嫌な韓国人のオバちゃんとボローニャまで1時間ちょっと睨めっこをして、イタリア人の週末の幸せのためにむしろ進んで犠牲になろうではないか。
 しかも、ここまで徹底して不機嫌というのもなかなか見事である。私なんか、すこぶる飽きっぽい性格だから、こんなにいつまでも不機嫌を貫き通すことが出来ない。不機嫌になることはあっても、15分ぐらい経過すると「自分が不機嫌だった」ということを忘れてしまって、ゲハゲハ笑い出してしまう。周囲の人が「あの人は不機嫌だったはずだ」と思っているのが我慢できなくて、「不機嫌だった」という事実を忘れてもらうために懸命に努力するタイプ。オバちゃんの粘り強い不機嫌には、まさに脱帽である。わざわざフィレンツェからボローニャまでの電車に乗って、これほど対照的な性格のアジア人と同席するというのもまた貴重な体験であった。

1E(Cd) Solti & Chicago:MAHLER/SYMPHONY No.1
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