2008年08月10日(日)

Fri 080808 奥井潔先生のこと パルマ紀行2

テーマ:アーカイブ
 北京でオリンピックが始まって、TVも新聞もオリンピック一色である。私はと言えば、今回のオリンピックにはあまり興味がないので、この期間を利用してちょっと生活の立て直しをはかろうと考えている。6月下旬から、講演会旅行と河口湖合宿とでマトモに自宅で過ごす時間がなくなっていて、生活はすっかり乱れてしまった。それでも音楽と映画は何とかいつものペースで楽しんできたけれども、読書の方が完全にストップ。特にこの1ヶ月間はほとんど何も読めていないのである。
 インプットの極端に少ない生活をしていると、執筆する原稿の質も下がるし、授業の質も簡単に低下する。亡くなった駿台の奥井先生は、「キミ、そんな生活をしていると、痩せてしまうよ」とおっしゃっていた。私が代ゼミに移籍する直前、西新宿「センチュリーハイアットホテル」の和食「加賀屋」で食事をした時であった。もう12年も以前のことである。当時駿台で親しくしていただいていた太(ふとり)先生と大島先生も同席されていた。奥井先生はあの後すぐに亡くなられたので、私としては非常に貴重な経験である。
 当時の私は日々授業にばかり明け暮れていて、1週間に50分授業38コマ。「1日9コマ」などという常軌を逸したスケジュールもあったし、福岡に出張して1日8コマ、最終便で東京に帰り、自宅到着午前1時、それでも翌日朝から9コマ、そういう日々だった。インプットには全く関心をなくしていた私の状況をお聞きになり、奥井先生は即座に「キミ、それじゃあ、痩せてしまうよ」とおっしゃったのである。苦いというか、渋いというか、本当に悲しそうに顔を歪められ、ぬる燗の酒をグイッと一杯飲み干してから「うん」と頷かれたのを記憶している。私はバカだから「いや、最近は返って太り気味でして」と言って太鼓持ちのように頭を掻いてみせた。すると先生は「愚か者。痩せるとは、精神のことである」と、テーブルをコン、と軽く叩きながらおっしゃった。
 「だいたい、キミにはメッチエというものがない。キミのメッチエは何かね。言ってみたまえ」と、どうやら奥井先生お得意の「奥井節」が始まった。駿台で学んだ経験のある者なら、誰でも慣れ親しんだ「奥井節」だが、まさか面と向かって、しかも自分についての強い叱責として始まるとは予測もしていなかった。あの日もダラシなく飲みふけっていた日本酒を、口に含んだまま飲み下すに飲み下せない有り様で、思わず「メッチエって、何ですか」とバカなことを言ってしまった。奥井先生が呆れ返ってしまい、その後は「奥井節」も披露せずにサッサと帰ってしまわれたのはいうまでもない。
 あれから、12年。「メッチエ」はいまだにハッキリしていない。その後代ゼミで過ごした8年間は、まあ今までの私の経験の中では最も華やかで最も苦々しく最も激しい日々だったけれども、「メッチエ」どころかインプットさえほぼ完全に怠った8年だった。1週間に90分授業を30コマもこなし続け、夢の中でも授業をしている状況、同時進行で参考書を4年で9冊出版する状況は、やはり常軌を逸していた。奥井先生が言い残されたとおりに私は「痩せてしまった」のである。
 だから、全く興味をもてない北京オリンピックで世間が夢中になっている間に、「インプット」と「メッチエ」を立て直さなければならない。毎日ページの一番下にアマゾンのアフィリエイトで「私がまあ面白いかなと思った映画」のDVDパッケージが紹介されているが、元来こういう部分には「私が今日読んだ本」が毎日数冊紹介されていなければならないのだろうし、奥井先生なら「それ以外は、何の価値もないのである」と厳かに断言されると考える。「メッチエのない人間には、その存在の価値さえ、皆無である」。駿台伝統のテキスト「CHOICE」を片手に、奥井先生が朗々と奥井節で語る授業にもう一度出席してみたいと同時に、先生のおっしゃった通りに「何歳になっても痩せない努力」を続けるべきなのである。
 4月19日、パルマのDuomoでも「痩せない努力」を続けようと思った。Duomoに入る直前の大惨事寸前のピンチについて、確かにショックは残っていたけれども、Duomo内部の想像もしなかった美しさに十分癒されることはできた。あとでDuomoを一周して裏側からもよく見てみたが、やはりこの建物は内部に入ってみない限りその価値は分からない。

 外に出たときも空はどんより曇っていたが、少しだけ雲が薄くなる気配があり、どうやら雨になることはなさそうである。すると、まるで薄日の射すのを待ちかねたように、どこからか「遠足の中高生」が湧き上がってきた。どこから現れるのか全く見当もつかないが、15世紀後半の「山城の国一揆」「加賀の一向一揆」というのは、こういう状況だったのではないか、そう思わせるだけの迫力は間違いなく感じられる。
 Duomoの内部を満喫し、Duomoを一周し終わって「さあ、これからバッティステッロの内部を見学しよう」と、バラ色の大理石が美しいバッティステッロを振り返った瞬間の写真が、下である。

 美しいその洗礼堂の前には、集団1が控えている。集団1の後ろには、集団2が既に待ち受けている。こういうとき、間違っても「じゃ、集団が去ってから、静かに落ち着いてゆっくり見学しよう」などと考えてはならない。待てば待っただけ、躊躇すれば躊躇しただけ、その時間に比例して(というよりその時間の2乗に比例して)集団は膨張し、膨れ上がり、巨大な塊になって、こちらの行く手を阻むことになる。
 「明確なメッチエを保持し、いかなる時もインプットを怠らない人間」としては、ここで建築家アンテラーミの作品である美しいバッティステッロに思い切って踏み込むことはほとんど義務に等しいのである。というわけで、踏み込んだ洗礼堂の内部写真が下。

 ここでも昨日のラヴェンナ「ガッラ・プラチディアの霊廟」でと同じように、係員が私に気を遣ってくれて「君たちだけが見学者じゃないんだ、静かにしたまえ」と言ってくれたけれども、効果は昨日以下。ほとんどの中高生は注意も警告も無視。もともと弱々しい私の「メッチエ」はこの有り様にたちまちにして萎えてしまい、15分ほど内部で粘ったけれども、次々に襲ってくる一向一揆の激しさに耐えきれず、タジタジとなって堂の外に押し出された。

 外に押し出されてしまえば、「パルマは食の街」とうそぶきながら、中高生の入れない高級なレストランに入り、高級生ハムとトルテリーニをサカナに高級ワインまたはシャンペンを2本でも3本でも空けて、そういうことで仇を取るのも悪くない。しかし残念ながら、今回の旅行はダイエット旅行も兼ねているし、何よりついさっき胃腸系大惨事を免れたばかりで、まだ胃腸は不満そうにグルグル言い続けている。こういう形の仇討ちは断念せざるを得ない。
 「パルマは芸術の街」とうそぶく手も残っている。トスカニーニが生まれた街でもあり、ファルネーゼ劇場だってあるし、すぐ近くにはテアトロ・レージョTeatro Regioの黄色い建物があって、中高生のお小遣いでは入れない高いオペラを見ることで仇を討ってもいいのだ。この仇討ちなら「メッチエ」もしっかりと保持できそうである。しかし、時間帯から見てこの仇討ちも不可能。まだお昼をちょっと回ったぐらいで、オペラなんかまだ半日以上先のことである。

 結局、レージョ劇場のトイレが開いていたのをいいことに、それを利用して劇場の内部をチラッと覗き、ついでに胃腸の一揆を最終的に収拾することを決意。この決意は状況を考慮すると非常に合理的なものであって、トイレを覗いただけでもこの劇場の雰囲気を十分に知ることができた。ま、こういうのも決して悪くないのである。
 この頃から、明るい春の陽光がパルマの街を照らしはじめ、汗ばむほどに暑くなった。パルマ河の橋を渡ってドゥカーレ宮殿前に出ると、その一面の白い砂に直射日光が反射して、目も開けていられないぐらいの眩しさである。

 宮殿前はドゥカーレ公園であり、この眩しい真っ白な光の中で、人々は非常に和やかに非常に穏やかに春の日を楽しんでいるようである。

 私のパルマ紀行は、きわめて大袈裟に言えば「危機と挫折と断念の連続」だったのであるが、しかしまあ、彼らのこういう様子を眺めただけでもよかったということにして、スタンダール「パルムの僧院」の舞台を去ることに決めた。13時半ごろの電車に乗り、ボローニャ到着14時過ぎ。

1E(Cd) COMPLETE MOZART/THEATRE & BALLET MUSIC 1/5
2E(Cd) COMPLETE MOZART/THEATRE & BALLET MUSIC 2/5
3E(Cd) COMPLETE MOZART/THEATRE & BALLET MUSIC 3/5
4E(Cd) COMPLETE MOZART/THEATRE & BALLET MUSIC 4/5
5E(Cd) COMPLETE MOZART/THEATRE & BALLET MUSIC 5/5
8D(DvMv) CAPOTE
11D(DvMv) KINGDOM OF HEAVEN

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