2008年08月04日(月)

Sat 080802 高校野球開幕 ラヴェンナ紀行1

テーマ:スポーツ
 あっけなく甲子園の高校野球が始まって、少し季節感がずれてしまった。やはり高校野球というものは8月8日ごろに始まらなければならない。「夏休みも半分終わってしまった」という寂しさの芽生えとともに入場行進を見るのがいいのだ。あとはお盆に田舎に帰り、帰京するころには郷土の代表は3回戦ぐらいでもう敗退していて、興味の薄れた準々決勝や準決勝を悔しさとともにぼんやり眺めているうちに秋の気配が立つ。そういう寂寥感が高校野球のよさである。8月2日では余りにも夏の盛りすぎて「これで高校生活も終わり、豊かだが寂しい秋がはじまる」という悲しさが、入場行進する選手たちに寄り添ってこない。「敗退すれば夏が終わる」という潔さが大事なのに、負けても背中にギラギラ太陽が照りつけていたのでは悲壮感が生まれないのだ。まあ、今年は第90回の記念大会でお祭りの一種。イベント的な要素もいろいろ加わっている。オリンピックもあるし、これはこれで仕方がない。第一、時代が違うのだ。今の高校生に悲壮感などあるわけはないし、彼らの晴れやかな入場行進に寂しさが寄り添うはずもない。
 私が小中学生で甲子園の高校野球に夢中だった頃は、昭和40年代から50年代。改めて考えると、これは取り返しのつかないほどの大昔である。戦後の焼け跡の匂いはさすがに消えていたにしても、父母の昔話には太平洋戦争の悲劇が溢れ、そういう昔話の背景は決まってギラギラ太陽の輝く真夏なのだった。児童疎開、広島、長崎、ソ連軍に急襲された満州、終戦、飢え、渇き、超満員の汽車での買い出し、すべて暑い夏の話として聞かされた。盆に田舎に遊びにいき、顔もよく区別できない親戚の大人たちに囲まれ、そういう夏の悲惨な経験を聞かされる。その向こうのテレビでは高校野球が中継されており、広島商、中京商、平安、浪商、高松商、県岐阜商、箕島、津久見、大鉄、銚子商、今では滅多に出場することもなくなってしまった、あるいは校名さえ変わってしまった名門校の選手たちのプレーが映し出され、北海道代表は必ず1回戦で敗退し、沖縄代表は沖縄代表であるということだけで大きな拍手を受けていた。
 だから、私の世代の人間にとっては、親たちに聞かされる太平洋戦争の話と甲子園の高校野球とは、ある意味で一対のものになっている。寂しさ、悲しさ、厳しい運命の予感、そうした悲壮感なしに高校野球を見ることはできない。あの頃は「負けて悔いなし」「相手にとって不足なし」など、ほとんど武士の死生観のような表現で高校野球を語ったのである。高校生たちは郷土の誇りと名誉を賭け、死を賭して戦っていたのであり、屈託なく「甲子園を楽しめた」などと言いながら、負けてもニコニコ笑っている今の選手たちとは全く異質の存在だった。どちらがいいというのではなくて、甲子園大会の性質も性格も完全に別物に変質してしまったのである。

 「おや、つきのわさん。ずいぶん難しいことをいいながら、結局野球観戦ですか。参考書は、いったいいつになったら書き始めるんですか。70章のうち、30章目までで止まってるの、知ってますよ」と言ってナデシコどんが睨んでいる。「仕方ないだろ。講演会の連続。合宿の連続。細々した原稿。取材。ナデシコどんにはわからない、いろんなことがあるの。」「ほお、逆ギレねえ。ま、しっかり。お酒はほどほどに。ニャゴ姉さんなんか、もう呆れて向こう向いちゃってますよ。」

 4月18日、フェラーラから1時間半ほどでラヴェンナに到着する頃には、お腹の調子もすっかり治って、「ついにマックの世話になった」という、やるせない精神的なショックを除けばほぼ全快。ラヴェンナには4時間程度しかいられないから、とにかく早くショックから立ち直って見るべきものをどんどん見て回らなければならない。
 ラヴェンナはアドリア海に近い。カエサルが自らの運命とローマの運命を賭けて渡ったルビコン川もすぐ近くである。しかし、海の匂いも川の水音も近くには感じられない。そういうものよりも、ラヴェンナはまず第一にモザイクの街であり、観光客が何より真剣に見て回らなければならないのはこの街全体を飾る壮大なモザイクの美しさである。
 しかも、ラヴェンナが最も輝いたのは西暦500年前後。ルネサンスより1000年も昔である。その点についても、心の準備が必要である。ローマなら古代ローマとルネサンスを、ヴェネツィアやフィレンツェならルネサンスを、フェラーラやマントヴァでもルネサンスを見ようというだけで十分だけれども、ラヴェンナで見なければならないのは中世初期である。中世初期という時代は、日本人はちゃんと勉強していない。大学入試ではあまり出題されないし、テレビの歴史番組や旅行番組で特集されることも少ない。
 しかし、ラヴェンナは西暦402年に西ローマ帝国の首都になったり、476年に東ゴート帝国の支配下になったり、540年にビザンティン帝国の総督府が置かれたり、ユスティニアヌスだの皇后テオドラだの、日本人にとって一番馴染みのない、エキゾティックな時代と人物がテーマの街である。それを4時間で見て回ろうというのだから、よほど心構えをキチンとしていないと、訳が分からないうちに終わってしまう。

 駅を出てすぐに、ひどく傾いた丸い塔が目に飛び込んでくる。ガイドブックによれば「サンタポリナーレ・ヌオーヴォ教会」。今回の旅行は「ひどく傾いた塔」との遭遇に満ちていた。後日改めて取り上げるが、とりあえず写真だけでも列挙しておこう。上がラヴェンナ「サンタポリナーレ・ヌオーヴォ教会」の塔。下は順番にボローニャとヴェネツィア・ブラーノ島のもの。ピサの斜塔にしてもそうだが、これだけ続けざまに激しく傾いた塔ばかり見せられると、イタリア人の性格について、どうしてもニヤニヤせざるを得なくなる。特にブラーノ島のものは、今すぐこちらに崩壊してきそうで、「もうちょっと、マトモに真っすぐ作れないの?」と思うと、笑いをこらえるのに苦労するほどである。しかし、それでも壊してしまわないところがイタリア人の真骨頂。作った張本人まで含めて、みんなでニヤニヤ笑いながら「こりゃたいへんなもの作っちゃったよ」とつつき合っているイタズラな様子が見えるようである。


 教会は修理中だったが、遠足の小中学生に混じってとにかく中を見学する。6世紀初め、東ゴートのテオドリック王時代の建造。うお。そりゃ一体なんですか。余りにも中途半端でさっぱり分からない(実は知っているが)、変な古さである。高校で世界史を習いはじめて、ギリシャ・ローマまでは生徒も教師も大いに張り切って頑張って、5月の中間テストが終わった瞬間にみんな怠けはじめて、生徒ばかりか先生まで気が抜けて「もうどうでもいいか」と思いはじめたころに出てくる「よく知らない人たち」ばかりなのだ。アレクサンダーとかカエサルとかカリグラとかネロとかまでなら、居眠りしていても弁当を食べていても、まあ何とかなる。しかしローマ帝国が崩壊し、何とか宗教会議がそこいら中で開催され、アリウス派だの異端だの、ゲルマン民族の何とかゴート族だの、そのあたりになると先生の話さえ曖昧になってよくわからない。しかも、この辺まできて世界史の教科書は何故か突然中国史とインド史に切り替わり、周だの漢だの隋だの唐だのアショカ王だの期末テストだの体育祭だの、そんなことを言っているうちに世界史すべてに対する興味を失ってしまう。ラヴェンナは、そうした睡魔の境界線上に位置しているのである。
 というわけで、世界史の教科書で写真を見たことがあるようなないような、知っているような知らないような、微妙きわまりないモザイクが頭上の教会の壁一面に広がった。私の回りには、遠足で訪れたイタリア人小中学生の集団が大量にいて、おそらく同じような思いでつまらなそうにモザイクを見上げている。殉教者と聖女と聖人、モザイクは激しい拷問で命を落とした1500年前の人々の姿ばかりであり、その静かな微笑みで、東洋からやってきた無知な酒飲みクマさんを静かに許してくれているのであった。


1E(Cd) Bernstein:HAYDN/PAUKENMESSE
2E(Cd) Fischer & Budapest:MENDELSSOHN/A MIDSUMMER NIGHT’S DREAM
3E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE 1/2
4E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE 2/2
5E(Cd) Coombs & Munro:MENDELSSOHN/THE CONCERTOS FOR 2 PIANOS
6E(Cd) Barenboim & Chicago:SCHUMANN/4 SYMPHONIEN 2/2
7E(Cd) Barenboim & Chicago:SCHUMANN/4 SYMPHONIEN 2/2
8E(Cd) Holliger & Brendel:SCHUMANN/WORKS FOR OBOE AND PIANO
11D(DvMv) CUBE

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