Fri 080613 江ノ島で クレモナ市街 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 080613 江ノ島で クレモナ市街

 また徹夜して、何だかヘトヘトだが充実感の方は増していくばかりである。朝から晴れて、気温は28℃まで上がった。鎌倉に出かけて、美術館とアジサイを見てこようと考え、小田急線に乗った。下北沢から快速急行に乗り換えて、藤沢まで。藤沢から片瀬江ノ島行きの各駅停車に乗りかえた。快速急行、というのはたいへん恐ろしい電車で、下北沢から新百合ケ丘まで止まらない。有料の特急電車ならそれなりの覚悟で乗るからいいが、「ごく普通の小田急電車です」という、いかにもしらばくれた顔でやってきて、いったん下北沢を出てしまえば、もういくら乗客が泣いても騒いでも、意地でも降ろしてくれないのである。成城学園、登戸、向ヶ丘遊園、そういう「急行停車駅」の誇りと伝統をすべて無視して、どこまでもダイヤに忠実に、冷静に冷徹に走り去ってしまう。
 

 江ノ島からは江の電に乗って、鎌倉と葉山の美術館を訪れるつもりだったのだが、緑の濃い江ノ島が大きくどっしり構え、海も穏やかで、中高年の観光客は一斉に江ノ島に向かう。私もその行列についていき、昼飯時でもあり、サザエのつぼ焼きを肴に一杯飲むのも悪くなさそうだと考えて「天海」に入った。有名店でもなければ、きれいな店でもない。従業員のオバちゃんたちが、客のいる店内で談笑しながら平気で賄いを食べているような店である。別に料理が旨いわけでもなければ、名物もなし、テレビで紹介されることはいままでもこれからもないだろうと断言できるような、ごくありふれた観光地の食堂にすぎない。こういう店が私にはベストなのだ。
 

 食べたのは、釜揚げシラス、サザエつぼ焼き、金目鯛の煮付け、アジたたき、カマス。従業員のオバちゃんのうちの一人がきわめて積極的に料理をすすめてくれるので、断りきれずによく食べ、よく食べれば、結果として酒もどんどん空いていく。ネコがなめたかと思うぐらいに、次々に魚も平らげて、1時間ちょっと。
 

 気がつくと日本酒4合が胃袋に消え、泥酔というのではないが、徹夜直後の頭はフラフラし、美術館どころではなくなっていた。道ばたで見つけた巨大な干物のようなアカトラ猫を撫で、再び小田急に乗って東京に戻った。

 

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 帰りの小田急で熟睡して、体調はすっかり元に戻った。夜7時から、前から約束のあった飲み会があり、新宿。新宿から六本木に移動して、六本木ヒルズ近くの寿司屋「きらく」で23時まで。初めての店だが、殻を割ったままで出てくるウニが旨かった。映画好きの店主とTHE BOURNE IDENTITYなどの話で盛り上がり、盛り上がれば、またまた酒がすすんで、6合ほど。こうして1日で1升の日本酒が簡単に空になって、結局1日は無為に終わったのである。帰れば、ニャゴロワは呆れ顔で新聞を読んでいる。「ほお、他の猫を撫でてきたんですか。そうですか」と言って、そっぽを向いてすぐに寝てしまった。

 

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 5月11日、クレモナの塔を降りて、もう1度Duomoを正面から眺め、その端正な美しさを堪能する。パルマのものとそっくりなバッティステロには入れなかったが、昼を過ぎてDuomo前にはたくさんの人が出てきた。レストランやカフェも本格的にテーブルを並べ、蜜蝋細工の店やチーズを切り売りする屋台も繁盛し始めて、日曜日の楽しみはこれから、という感じ。絵画教室の子供たちなのだろうか、Duomo前広場にイーゼルを立てて、盛んに水彩画を描いている。覗いて見ると、どの子も驚くほど上手である。

 

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 せっかくクレモナに来たのだから、ストラディバリウスを見ていきたい。ストラディバリウス博物館というのがあるから、それがいいだろうと考えた。しかしこれがなかなか見つからない。ガイドブックにも大きく紹介されているのに、それらしき通りを歩き回っても、赤ん坊の泣き声が響き、洗濯物が薄曇りの空にはためき、バイクが石畳の道を走り過ぎ、通行人も見当たらず、窓からイタリアのオジさんがうさんくさげに見下ろしているばかりで、「ストラディバリウス」「博物館」という華やいだ雰囲気は全く感じられない。
 

 結局、それは見学者のほとんど訪れない「市立美術館」の、そのまた奥の奥に隠れた一画にひっそりと存在していた。市立美術館の係員に質問して初めて「ああ、あなたはそんな珍しいものをわざわざ見に来たんですか」という驚きの表情とともに、ありかを告げられる、という感じ。他に見学者がいないわけではなかったが(5~6組)、ストラディバリウスの実物はなし。さまざまな部品、さまざまな製作工具、20世紀のヴァイオリンの名器、彼の手紙の断片などが展示されているばかりだった。
 

 13時の電車で、クレモナからマントヴァへ。クレモナ駅で念のためトイレを利用する。最近のイタリアで最大の変化は、何と言ってもトイレだろう。つい2~3年までのイタリアで一番苦労したのは、トイレ探しだった。マックを探せば何とかなるフランスなんかとは違って、イタリアだとバールの主人に頼んでトイレの鍵を開けてもらわなければならなかったし、やっとのことで鍵を開けてもらっても、便座なし、トイレットペーパーなし、水は流れず、手も洗えない、まあこれをトイレと名付けていいものかというような有様だった。それが、最近はほとんどの駅できれいなトイレを利用できるし、チップもいらないところが多い。日本人だらけのヴェネツィアなど「トイレはこちら」の黄色い表示が「リアルト橋はあちら」「サンマルコはあちら」の掲示に負けないほど、町中に溢れている。進歩なのか、日本人観光客が激増してイタリアの人々が面倒くさくなったのか。まあ、とにかく便利になってよかったことは間違いない。

1E(Cd) Richard Tee:THE BOTTOM LINE
2E(Cd) RUSSIAN MEDIEVAL CHANT
3E(Cd) Philip Cave:CONONATION OF THE FIRST ELIZABETH
4E(Cd) Rachel Podger:TELEMANN/12 FANTASIES FOR SOLO VIOLON
5E(Cd) Sirinu:STUART AGE MUSIC
6E(Cd) Rampal:VIVALDI/THE FLUTE CONCERTOS 1/2
7E(Cd) Rampal:VIVALDI/THE FLUTE CONCERTOS 2/2
8E(Cd) Anne-Sophie Mutter:VIVALDI/DIE VIER JAHRESZEITEN
11F(Rr) 世界美術大全集20 ロマン主義:小学館
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