2004-06-01 00:00:00

探偵ファイナル!?

テーマ:過去ログ移行
画像:左から「東洋軒」「いちげん」「池田屋」




「2004年6月1日、12時20分。バイクで勤務先から外出。尾行開始」

ボイスレコーダーに記録を残し、私もバイクで対象者の後を追う。

私は探偵である。地味で低収入な、しがない探偵である。
マーロウやスペンサーのように、ハードボイルドでもなければ、
工藤ちゃんや濱マイクのようにストイックでもない。
目の前の仕事を単純にこなし、日々の糧を得るだけだ。

仕事の主なものは浮気調査や家出人の捜索。
最近では、ストーカーや結婚詐欺師と思われる人物の身元調査も増えてきた。
長い張り込み時間の地味さに比例して、収入も地味だ。
宝くじやトトで大金をゲットすれば、今にでも辞めてしまいたい職業である。


今回の依頼人はごく普通の専業主婦。
「自宅で食事を全く摂らない」と依頼人の夫である、
対象者の挙動不審を疑っていた。
口には出さないが浮気を心配しているようだ。
「直接ご主人に聞いたらどうですか?」という言葉を飲み込み、
依頼を受けた。不景気な昨今、ばかばかしい小さな仕事でもこなして行かなければ、
明日にでも餓死しそうな経済状態なのだから・・・。


対象者は程なく、ラーメン屋に入っていった。
「東洋軒」という屋号のその店に私も入る。
対象者はカウンターの一番奥に座っている。
私はカウンターの一番手前に。
対象者はラーメンと小ごはんを注文。私はラーメンのみ。
数分後に出来てきたラーメンを目前にしても、対象者はすぐには食べなかった。
携帯とデジカメで何枚も写真を撮っている。

中年のオヤジが、ラーメン店でバチバチとラーメン画像を撮る。

なんとも滑稽な絵面である。

ラーメンはさほど好きではない私は、出されたラーメンを見ながら、
ちゃんぽんにした方が良かったかなと後悔した。
というのも、なんとも薄味でガツンと来るものがない、
凡庸なラーメンだったからである。
スープの色も、豚骨なら茶褐色系だろうという私の概念を覆すような、
乳白色である。麺も軟麺でなんとも表現しがたい食感である。

佐賀ラーメンと言うのだろうか??
この味は私には許容しがたい。
これならシコシコと2DKの事務所兼自宅のマンションで、
「うまかっちゃん」でも食っていたほうがマシだと心底思った。

私がラーメンを半分ほど食べた頃に、対象者はラーメンと小ごはんをたいらげ、
勘定をしだした。
おいおい、なんという早食いだ。
これでは依頼人は、対象者の浮気より食生活を心配すべきではないか?
という疑問がふつふつと湧き上がる。
塩分過多のスープまで全て飲み干しているようなので、
間違いなく三大成人病予備軍である。
「いい大人が・・・」と突っ込んでやりたい心境だ。

仕方なく私も、食べかけのラーメンを残し店を出る。
対象者は全く私の方には視線をよこさない。
ラーメンに取り付かれているかのように、
ラーメン店を目指し走り、ラーメン画像を撮り、ラーメンを早食いする。
まさに一心不乱である。
ここまで来ると探偵失格であるが、少しは尾行に気づけと言いたくなる。

対象者はバイクで職場に戻った。
これから夕方の退社時間まで、長い退屈な張り込みを戸外で続けることになる。


依頼者からの情報によると、今日は上の娘がバレエの発表会の練習のために、
依頼者が下の娘も連れて、送迎をする予定らしい。
それで対象者は今晩一人で、フリーな時間が持てるとのこと。

今晩は「しっぽ」を捕まえる、絶好のチャンスなのである。

18時過ぎに対象者が職場から出てきて、帰途についた。
どうやら、寄り道をせずに自宅へ帰る模様である。
こじんまりとした社宅の通路で部屋の様子をうかがっていると、
対象者がすぐに着替えて出てきた。
今度はバイクではなく自動車で移動するようだ。
いよいよかと思い、私は心を引き締めた。
追跡中の信号待ちの間に、証拠写真をとるためのデジカメのスタンバイを確認する。
よく、記録用のデバイスをパソコンのスロットに挿入したままで、
出かけてしまうことがあるからだ。大丈夫だ。

対象者の車は西部環状線を東に走ったあと、空港道路入り口交差点で右折し、
南下した。佐賀空港へ続くこの道は、
両サイドが田んぼで、なんとものどかな風景である。
ちょうど沈みかけた太陽が西の空にぽつねんと浮かび、
雲を茜色に染めている。

対象者の車は、高架を渡りきったところに位置する交差店を左折した。
バイクでかなりの距離を取って追跡しているが、
決して見失うことがないくらい、交通量は少ない。
かえって、少なすぎて追跡を悟られないかと心配な程である。

しばらくして対象者の車が、とある建物の駐車場に停まった。
なにやらプレハブの建物のようである。
怪しげにパトライトが回転している。
その下には、「スナック・ハッピー」と「ラーメン・いちげん」
と書かれた看板がある。問題はその看板である。
ピンクとブルーという配色といいデザインといい、
ダサうまの極地のような看板である。
ダサイのかクールなのか判断しかねるようなブツである。
私は思わず、今朝のテレビで見た、あの庵野監督が作る
キューティーハニーでのサトエリの変身シーンを思い出してしまった。
どちらもなかなかのサイケデリック具合である。

私は道路の対面にあるコンビニにバイクを停めた。
対象者は多分、スナックのほうに入るんだろう。
昼食もラーメンだったのだから、またラーメンを食べるなんてことは
到底考えられない。もしそうなら人間失格である。
少なくても分別のある大人のとる行動ではない。

スナックで女性と待ち合わせか?だとすれば少々困った展開だ。
こんな田舎のスナックである。特に今の時間には、客が何人もいるわけがない。
私もスナックに客を装い潜入し、証拠写真を撮るというのはかなり難儀だ。
となれば、一緒に出て来るところをツーショットでいうことになるが、
フラツシュを焚かなければならない時間帯になるだろうし・・・。
今日は暗視撮影用の準備がないのだ。

しかし、私の心配は苦慮に終わった。
なんと対象者はラーメン店の暖簾をくぐったのだ。
「そな、あほな」と一人ツッコミをしている場合ではない。
バイクをコンビニに置いたまま、メッツのキャップと度なしメガネという
安直な変装で、ラーメン店に入ることにする。
道路を渡っている時点で、豚骨の獣臭が漂ってきた。
「オーマイガッッ!」私はひとり愚痴る。
どうせラーメンなら、「塩」か「醤油」という嗜好の私には、
この匂いだけで、意識が南回帰線あたりまでひいてしまう。

対象者はL字型のカウンターの長辺側の中ほどに座っていた。
私は短辺側の一番奥、壁際に座る。
「ラーメンね」対象者がオーダーする。
ビールでも飲みながら待ち合わせかと、一縷の望みを抱いていたが、
その望みは、海辺の砂の城のように跡形もなく消え去った。
仕方なく私もラーメンをオーダー。
本当はコーラあたりにしたいのだが、怪しまれないためにはこうするしかない。

ラーメンが出来上がると、またぞろ対象者は例の「儀式」を始めた。
携帯とデジカメでの写真撮影だ。
アングルが気に入らないのか、途中で椅子から立ちあがり、
俯瞰の構図で収めている。私はいたたまれない心持ちになってしまう。
こんな奴と同じ場所で同じ時間を共有するなんて反吐が出そうだ。

私のラーメンも出来てくる。
昼間の店と違って、私のイメージどおりの豚骨ラーメンの色をしている。
店外に漂っていた、妙に鼻を突く獣臭もそれほど気にならない。
スープを飲むと、旨みが凝縮された味の奥行きが感じられる。
豚骨もいいのでは、と一瞬考えてしまった。

対象者は「今日もなかなかだね」と、茶髪の店主に話しかけている。
どうやら常連のようである。


尾行そのものは簡単すぎるくらい簡単なのだが、
なんとも精神的なストレスの溜まる尾行である。
対象者のような人種を「ラーメンオタク」とでも言うのだろうか・・・。
はたから眺めていると、爽やかなものではない。
対象者の車は、そのラーメン店から出た後、
自宅を通り越して行った。「いよいよか」と期待が膨らむ。
佐賀大学の交差点を右折してすぐの、「マンガ倉庫」という
中古コミックを主に販売している店の、駐車場に車は停まった。

対象者は「マンガ倉庫」の入り口には向かわずに、
駐車場のフェンスを飛び越えて敷地外に出た。
「今度こそ、近所の居酒屋あたりで待ち合わせか?」
と思った刹那、対象者は「池田屋」と書かれた幟が掲げられた店に消えた。
おいおい、ここは「ちゃんぽん屋」だぞ。
さっきラーメンを食ったばかりではないか。

見るからに狭そうなその店内に、意を決して入ることにする。
対象者は三席ほどの小さいカウンター席に、
私は入り口に一番近いテープル席に陣取った。

「蒸し麺でちゃんぽん」。

ここでも本当に食べるつもりらしい。
メニューを眺めると、カレーがある。心底助かったという心境である。
もう麺は御免だ。私はカレーをオーダーする。
このカレーが意に反して旨かった。甘味と辛味が微妙なユニゾンを奏でる。
こんなところにこんな店があるとは。ささやかな今日の収穫である。


対象者はその後、コンビニに立ち寄り「白波」と「ピスタチオ」を買い込んだ。
そして、自宅へ戻ってしまう。


いやはや、今日の一日は何だったんだ。
これが対象者の日常であろうか。
ただの「麺馬鹿」というだけではないか。
依頼者に追加調査を提案するのは、全く馬鹿げている。
それは、私がどんなファクターを考慮してもダービーを獲れない
というのと同じくらい確かだ。

今日の救いは、調査に要した必要経費がラーメン二杯とカレーという
小額で済んで、依頼者から感謝されるくらいのものだ。


「逆ハードボイルド」な探偵業務は、なんともツライ。



【最終調査報告書】

浮気ではない。完全無欠な本気です。「Fall in love with 麺.」





東洋軒 佐賀市水ケ江1丁目5-7 0952-23-4859 11:00~21:00 定休:日曜 P 店舗北二軒目の路地を西に突き当たったところに2台 



いちげん  佐賀郡川副町大字西古賀925-1 0952-45-7865 11:00~21:00(15時~17時中休み) 定休:水曜 P12台 



池田屋  佐賀市赤松町6-11 0952-22-7508 11:30~21:00(15:30~18:00中休み) 日曜休み Pあり








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