「容疑者は供述の中であなたが女性にいつも守られている強運の持ち主だといってましてね、私は少しだけ調べさせてもらいました。誘拐事件の細かい部分というやつを少し調べてみたら、碧名さんという隣人のことを添田は恨んでいた可能性があるんですよ」
「そうかもしれないですね」
「あなたが助かったことで恨んでいる訳じゃなくて、あの碧名さんの父親はクラタ工業で働いていたそうなんですよ。そして、添田の母親はあの隣の家で亡くなった場所なんですよ。何を意味しているかわかりますか?添田の母親は助けてもらえなかったかもしれないんですよ。母親が助けて貰えなくて、あなたは助かったんですよ。もっと大きくいうとつまり、母親は見殺しにされたかもしれなくて、あなたが助けられたかもしれない。そう思ったら碧名さんを恨んでいたかもしれないでしょう!!」原嶋のセオリーに悠人はいささか失望した。
「あなたの想像で話しているとしたら、今、あなたに期待したことに失望しました」
「そうですか?添田は母子家庭で育ったんですよ。なぜ母親が自殺をしたのか、考えたことがありますか?」
「ないです」
「添田の母親は奏子といいましてね、海で尼として働いていたんですよ。父親は教師だった継母と再婚していますが、添田は母親をしたって聞いています」原嶋の言葉に悠人はいつか父親がそんな訳がないと言下に否定した時のことを思い出した。
「私もまだそこまで詳しくはわからないのですが、碧名という女性の一家がいなくなったことと、添田の誘拐事件は何か関係があるような気がします。匂うんですよ。私のシックスセンスというものが疼いているんですよ。だから碧名という家をもう一度僕は調べてみたいと思います。あなたも、あなたの父親は叩けば埃が事件が終わったとはいえ、いくらでも出てくると思いますので、あなたも父親の社長さんにきいてもらえたらいろんなことが早く解決すると思いますよ。親友を裏切ったことは想像以上に闇は深いような気がしますから」原嶋は意味ありげにいった。
p.ps