こんにちは。血液内科スタッフKです。
今回は久しぶりのJAMA Oncologyからで、CAR-T細胞療法後の骨髄性腫瘍についての報告です。
Features and Factors Associated With Myeloid Neoplasms After Chimeric Antigen Receptor T-Cell Therapy
Gurney M et al, JAMA Oncol 2024, doi: 10.1001/jamaoncol.2023.7182
【背景】
印象的な臨床試験のアウトカムによって、B細胞性リンパ増殖性疾患(LPD)に対するCD19、多発性骨髄腫(MM)に対するB細胞成熟抗原を標的としたキメラ抗原受容体T細胞療法(CART)が米国FDAの承認につながった。CAR-Tの最も頻度の高い毒性である免疫エフェクター細胞関連血液毒性(ICAHT)は、一般的に3カ月までに軽快する。CART後に発生する骨髄性腫瘍(post-CART MN)も認識されているアウトカムであるが、現在までに観察された潜伏期は短い。カウンセリング、リスク層別化、潜在的な監視戦略についての情報を提供するため、我々はアップデートされたpost-CART MNイベントの頻度や、それに関連した因子を報告する。
【方法】
我々はMayo Clinicで2016年6月から2021年12月31日の間にLPDもしくはMMに対してCARTを受け、その後にMNを発症した患者を同定した。MNの分類はWHO分類に基づいて行われた。Post-CART MNに関連した臨床因子を同定するため、我々は6:1の割合で、MMもしくはLPDの初期診断を受け、CARTを受けたがその後にMNを発症しなかった、マッチした対照群を定義した。CAR-HEMATOTOX Score(CHS)が計算され、多変量モデルで独立した変数として扱われた。
【結果】
20人(年齢中央値[四分位範囲] 67歳[52-76];男性8人[40%]、女性12人[60%])がpost-CART MNを発症し、CART注入から中央値(四分位範囲)10カ月(5-18)のことだった(フォローアップ期間中央値[四分位範囲] 14カ月[6-23])。Post-CART MNの推定累積頻度は、1年、2年、3年でそれぞれ4%、6%、9%で、LPDとMMの間では同等だった。次世代シークエンスによる解析により、クローナルな造血(変異アレル頻度[VAF]2%以上)がベースラインのサンプルで11症例のうち7症例(64%)で検出され、主にTP53とPPM1Dが関与していた。評価可能な10症例のうち7症例で、ペア検体によりクローナルな関連が確立したが、3症例ではベースラインのクローンは臨床的に報告価値がないものであった(VAF2%未満)。
これらの症例と比較し、対照群の患者(n=120)は年齢が若かった(年齢中央値[四分位範囲] 61[21-81];男性72人[60%]、女性48人[40%])。単変量原因別ハザード回帰モデルにより、高齢、ヘモグロビン低値、血小板数低値がpost-CART MNに関連していた。多変量原因別ハザード回帰モデルで変数ペア間で比較を行うと、モデルB(年齢65歳以上、血小板数14万/μL以下)がconcordance indexが良好だった(0.776)。コマーシャルのCARTを受けた患者に適応すると、モデルBはpost-CART MN発症率が、それぞれ1因子がある場合に100患者年あたり4(中間リスク;コホートの48%)、2因子がある場合に100患者年あたり27(高リスク;コホートの16%)だった(P<0.001)。フォローアップ時点で80患者年を超えていたが、低リスクカテゴリー(コホートの43%)でpost-CART MNは起こらなかった。CHSはカテゴリー変数としてpost-CART MNを関連していたが、この関連性は年齢と組み合わせることで向上した。
【考察】
クローナルな造血にかかわらず、年齢と血小板減少という直感的なベースラインの因子によってCART後の患者で起こるMNリスクを層別化でき、このことはカウンセリングの助けとなり、監視戦略の指標となる。MMやLPDの移植後より高率であるが、全ての患者は殺細胞薬の前治療歴があることから、post-CART MNイベントがCART曝露に直接寄与するものとは言えない。CART前の次世代シークエンスを用いたスクリーニングは、まだ研究目的に留まる。クローナルな関連を有した症例の半数ではベースラインのクローンは報告限度未満であった。そのかわり、モデルBはリスク増加の実用的な代用物である。Post-CART MNは重要なICAHTの鑑別診断であり、CHSとの関連は年齢を組み込んだモデルで向上した。
この試験の限界には独立したコホートによる検証がないことが挙げられる。さらに、post-CART MNイベント数により多変量解析モデルがペア因子に限られ、クローナルな造血に関する不完全なデータによりモデルに組み込むことが出来なかった。その上、対照群から導出されたハザード比は豊富なサンプルを反映し、一般化できない。対してコマーシャルなCARTを受けた患者から算出された発生率は有益である。これらの観察から、より大規模な多施設もしくはレジストリベースの試験による確認が必要である。
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血液領域に限らず、抗がん剤治療後に発症する二次がんは重要な問題です。CAR-T細胞療法後の二次がんについては歴史が浅いため、まだよく分かっていないことが多いのが現状ですが、今回は骨髄性腫瘍に限ってMayo Clinicから報告された単施設での検証になります。それによると、CAR-T細胞療法後の骨髄性腫瘍の発生率は3年間で約9%と想像していたよりは多そうです。年齢、血小板数を組み合わせた予測モデルが有効とのことでした。これらの患者さんはCAR-T細胞療法以外に多数の治療を受けていますから、全てがCAR-T細胞療法に起因するものではないのですが、注意すべきものであることがよく分かりました。
おまけ
先日食した肉じゃがです。さすがプロが作ると、家とは違う美味しさがありました!