初めての方プロローグからどうぞ


また無言の時間が続いた。

「アカシは化けモンだからよぉ、心配ねーよ」

そう信男が切り出したが、
その後に続く者は
誰も居なかった。

時間が止まってしまったように感じた。

待合室の時計を見たら、
もう夜の7時だった。

俺は
居ても立っても居られずに
こてっちゃんと信男に
何度も目をやった。

二人とも下を向いたままだった。


ワン公は泣いていた。

「バカヤロウ!
泣くんじゃねーワン公!」

俺は自分自身に
言い聞かせるように言った。

足音が聞こえたので
目をやると、
アカシの両親だった。

医者も一緒だった。

「先生、アカシは?」

こてっちゃんが聞いた。

「あまり良くない状態です」

「どーゆーことだよ?」

「出血が多過ぎました。
それと、
肋骨が2本折れてます」

「てめー、
助かるんだろーな!?」

こてっちゃんの目からは涙がこぼれていた。

「それと…」

「それと?なんだよ?」

「頭部をかなり強打しているようで、
まだ意識が戻らない状態です」

こてっちゃんは
壁を思い切り殴った。


「アカシに会わせろよ!」

俺は叫んでしまった。

「面会謝絶です」

何故だか
とても冷たい言葉に感じた。


俺は人の隙間をすり抜けて
アカシの元に
走り出そうとした。

その時
後ろから引っ張られた。

そして振り向きざまに
思い切り平手で殴られた。

俺は吹っ飛んだ。

殴られた瞬間の
手の感触で
誰だかすぐに分かった。

俺の親父だった。

「達也ぁ!ジタバタすんじゃねー!」

その場は
一瞬にして静かになった。


医者がまた話し出した。

「意識が戻るまで
身内の方しか
面会はできませんので、
また日を改めて
おいで頂けますか」

食い下がろうとする
俺の首根っこを
親父が掴んだ。

そして引きずられるように
病院を出された。

玄関にはワン公の親も来ていた。

何もかも
納得が出来なかったが、
今俺に出来る事は何なのか考えた。

親父に
首根っこを掴まれたまま
ワン公に話しかけた。

「なぁワン公、腕、大丈夫か?」

「いてー」

「お前それ、
事故った時にやったんじゃねーの?」

「たぶん」

「やっぱな(笑)」

「アカシさん大丈夫かな?」

「大丈夫だよ。不死身だから」

また自分に言い聞かせた。

「だよな」

俺は今出来る事を思いついた。

「なぁワン公」

「何?」

「お前、
腕ヤっちまってるしよ、
今日はまっすぐ帰れ」

「達也どうすんのよ?」

「俺か?ちょっと行く所が出来たよ」

そう言って親父の手を振り払った。
俺は信男から
大漁のボンタンを奪い取り、
走り出した。

次回
長い夜(2)
へ続く