最終手妙手の研究③ 捨て駒以外の手段で好感触を生み出す | 不況になると口紅が売れる

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当然のことながら、詰将棋の最終手において「捨て駒」は成立しない。
(後述するが、ピンの効きに打つ「取れない捨て駒」は別として…)
つまり最終手妙手とは「駒を捨てなくても好手と感じられる手」でなければならない。

図6は森信雄七段「あっという間の3手詰」第90番から。
森七段の3手詰は「あっという間」に解けない問題も多いが、本作もそのひとつといえる。

▼図6 森信雄七段作(「あっという間の3手詰」第90番)




18歩、16玉、26香、まで3手詰

ちょこんと突く歩に始まり、ちょこんと前進する香にて終了する。
この作品において「捨て駒」は発生しない。
本作が詰将棋作品として位置づけられる根拠は、地味な歩突きに続く最終手26香の感触にある。
18歩、16玉となった局面では、香による開き王手は6種類あり、香不成まで加味すると8種類もある。
その中から、最も地味な26香が正解となるわけで、この「最小移動」の非効率さが妙手と感じさせる要因である。
香という駒は、なるべくたくさん縦に動かしたい、というのが心情である。
それを逆手にとった一間移動は、心理的な妙手となっている。
大事なのは、常識や固定観念への裏切りであるというわけだ。
(ちなみに本作は、18歩、同玉、28馬の変同がある。が、そんなことはどうでもいいので、ここでは追究しない)

この、最終手妙手は「捨て駒」ではない、という特性に注目してみたい。
駒を捨てれば詰将棋作品になるというのは、あまりに安易な考え方である。
最終手妙手の類型化は、「捨て駒ではない妙手のあり方」を考える上で、よいきっかけを与えるのではないか。

森七段は、捨て駒のない短編をいくつも創作している。
これもまた、捨て駒なしの名作だ。ぜひ解いてみてください。

▼図7 森信雄七段作(「あっという間の3手詰」第103番)