2、西洋の宗教(1)キリスト教

 

ところで、世界最大の宗教であり、欧米思想の象徴である「キリスト教」は、今も世界の政治、経済などの幅広い分野に影響を及ぼしています。そこで改めて、他の宗教や思想も踏まえながら、キリスト教について見てみます。

 

さて、キリスト教の内容はイエス・キリストの時代から幾多の変遷を経て今日に至っています。キリスト教の教義の上で権威となる「聖書」が正式にできあがるのは紀元後も400年に近く、使徒達の世代から350年もたってからのことです。

 

その内容も、500年の間に15人の人物により30回以上書き換えられてきたと言われており、そして、さまざまの会派の勢力争いを経て、最終的に「正統派キリスト教」となったのが「カトリック」で、さらにカトリックに離反し「プロテスタント」もできました。

 

まず、キリスト教が広がり始めたのは、イエス・キリストの死後50~60年前後からで、弟子のパウロによるギリシャ・ローマ人への伝道が行われます。パウロの教えは、「イエスこそが救世主キリストである」「その骨幹は神の愛にある」「信仰のみで義とされる」というものです。

 

これを反映し、「新約聖書」では、初めに「イエス・キリストは神の御言葉」であり、人間は自分で自分を救うことが出来ないため、神はイエス・キリストを”神の子”として地上へ送った。だから神に契約を破った罪を告白し、悔い改め、イエス・キリストを心に受け入れれば罪は許され、天国に入る事が出来ると説きます。

 

ところが、パウロは、「『旧訳聖書』で預言された救済者(キリスト)はイエスであるから、イエスはユダヤ教を打破し乗り越えている」としたため「反ユダヤ教主義者」とみなされ、イエス同様ユダヤ人に捕えられてローマで皇帝ネロに処刑されます。

 

その後「イエスが救世主キリスト」であることの根拠は何かが問題になりましたが、イエスが当初、寄って立ったのは「旧約聖書」だったため、「旧約聖書の預言どおりに救世主が現れた」「その救世主はイエスだ」として整合性をとりました。

 

そして、イエスの神とユダヤ教の神は矛盾せず、ただユダヤ教徒の”解釈の誤り“があったに過ぎず、ユダヤ教の神とはイエスの神にほかならないとし、「旧約聖書」は救世主の出現を告げる預言の書、「新約聖書」はキリストの生涯を描いた書として、ユダヤ教はキリスト教に受け継がれることになったとキリスト教では解釈しています。

 

これにより、「ユダヤ教的思想」がキリスト教内に浸透してきたため、「ユダヤ教主義キリスト教」をもって「正統派キリスト教」とし、「パウロ主義」は薄められていきます。また、現在の「プロテスタント」でも、薄められたパウロ主義の思想を回復しつつ、他方で「原典主義」からユダヤ教主義も認め、「パウロ主義」で「ユダヤ教的」という微妙な立場です。

 

ちなみに、キリスト教文書の最初となり、現在の「聖書」の書簡部分の中心となる「パウロ書簡」はこのころ執筆され、現在13の書簡が収録されていますが、真筆とされているのは7つで、残りはパウロの弟子によるものとされています。

 

なお、「三位一体説」や「終末思想」などの現在のキリスト教の教義の土台は、神学者アウグスティヌスのとき完成したと言われいるため、その内容は「アウグスティヌス」のところで詳述します。(次回に続く…)