SS 夏の残照◇後編 | 有限実践組-skipbeat-

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 いちよおおうΣ(=°ω°=;ノ)ノようやくお届けいたします、蓮キョ愛・真夏の夢シリーズ最終話の最終話(笑)

 妄想が脳裏にあってもやっぱり書けるときと書けない時があるのですよ!

 いやー。不思議だねぇ~。(*^▽^*)にょんにょん


 後編が行き詰って致し方なく残渣から読み返したのですけれども、残香の蓮君と残照の蓮君がかみ合っていない事に気付いちゃった一葉。いや、遅すぎだろ!! そしてこっそり中編を直してみたりしました…。ごめんよ、ごめんよー。


 もしかしたらそれで進まなかったのかも。…いえ、ただの言い訳です…。


 前のお話はこちらです↓

 「夏の残渣」  一葉作

 「夏の残像」  ゆみーのん様作

 「夏の残香」  yununo様作

 「夏の残照◇前編中編」  一葉作


蓮キョ愛捧げあい「真夏の夢」シリーズ

■ 夏の残照◇後編 ■





 最上さんが浴衣に着替えている間、俺は冷蔵庫に用意されていた夕食を庭に置かれていた木目調のテーブルに並べ、準備を整えてからそばのベンチに腰を下ろした。


 辺りに人気の無い貸別荘の庭で、一人夜空を見上げる。


 暗青色の空に雨雲は無く、星が美しく瞬いていた。

 到着時より湿度を持った空気が漂ってはいたけれど、それでも風が渡れば心地よく感じられた



 貸別荘の窓辺に視線を送り、感じる彼女の気配に口元を緩める。

 そのとき、約束通りラブミー部まで迎えに行った時のやりとりが脳裏で色鮮やかによみがえった。


「 最上さん、遅くなってごめんね?出られる? 」


「 はい、平気です! 」


 俺の声に弾かれて顔を上げた彼女は、笑顔を浮かべて自分の荷物をかき集めた。


「 ん?…なんか、荷物多い? 」


「 あ、すみません。おかみさんからお借りしたものなので置いて行く訳にもいかなくて… 」


「 謝る必要はないけど、借り物って何? 」


「 えーっと…浴衣、なんですけど。花火を見るならって貸して下さって…。あ、ありがとうございます… 」


 最上さんの荷物を受け取りながら、まるで俺の反応を窺うように上目づかいでそう言った彼女が肩をすぼめた。


 幾度も見た夢の中のデートで、確かこの子は浴衣を着ていたな…なんて思い出し、そんな些細な符合さえ嬉しくてつい目を細める。



「 そうなんだ。それは楽しみだな 」


「 へえぇっ? 」


「 夏の風物詩だよね。浴衣と花火。そして可愛い女の子 」


「 かわ…可愛いって… 」


「 じゃあ、行こうか。雨が降って来ないうちに 」


「 は、そうですね! 」



 花火大会が中止になる可能性が高いと知って、急遽探した別の花火大会。


 検索して見つけたそれが、たまたま今日に限って雨の影響を受けない場所で開催されると知って握り拳を作った。

 近くに貸別荘があることをつきとめ、早急に手配を掛けたその場所にいま彼女と二人でいる。


 夜空を見上げながら、どんな柄の浴衣なのかな、と想像して笑みを漏らした。


 好きな子の浴衣姿に特別感を持ってしまうのは、自分が日本人ではないからだろうか。

 いやもしかしたら、繰り返し夢で逢ったあの子が浴衣姿だったからかもしれない。


 カラカラとドアが滑る音が聞こえて、最上さんが顔を出した。



「 敦賀さん、お待たせしました 」


「 ん。着替え済ん…だ… 」




 ――――― そのとき、新鮮な衝撃が俺の全身を貫いた。




 そこにいた彼女は想像とまるで違っていた。


 色を抑えた大人っぽい雰囲気の浴衣を身にまとっているのに、開いたドアに手を添えて佇んだ最上さんの頬が初々しく上気している。

 浴衣の襟から鎖骨が見えていて、小首を傾げた仕草から続く細い腕の白肌がやけに俺の目を惹いた。


 少女と女性が同居している…。そのアンバランスさが妙に色っぽく見える。


「 …よく似合っているよ。浴衣姿、かわいい 」


「 そんな風に褒めないで下さい。照れくさいです… 」


「 最上さん、そのままゆっくりベンチに移動して?もう少しで花火があがるから 」


「 はい… 」


 庭に降り立とうとした最上さんの手を取り、丁寧に段差を降りる彼女の肩を支える。ゆっくりと導いた彼女がベンチに腰を下ろしたのを見届け、俺もその隣に腰を掛けた。


「 最上さんってすごいよね。本当に自分だけで着られるんだね 」


「 はい。でも浴衣ならそれほど難しくないので、自分で着られるって人は割と多いと思いますよ 」


 渡る風が彼女の髪をいたずらに弄んだ。

 最上さんの声に耳を傾けながら、細く笑った彼女の乱れた髪に手を伸ばし、優しく梳きあげてからほんのり赤くなった耳にそっとかける。


「 そう?…俺は着られないけど 」


 辺りは静まり返っていて、囁き声でも耳に届いた。


 腕の中に閉じ込められるほど近くにいる彼女の息遣いさえ見えそうで、彼女を想う気持ちに拍車がかかる。


 気持ち前屈みになって覗き込むように彼女を見つめると、最上さんもそっと俺に視線を向けた。その動じない瞳に心惹かれる。


 けれど同時に

 揺るがず俺を見つめる彼女の熱のこもった瞳に、俺は少しの違和を覚えていた。



 …最上さん、どうして?


 今日の君、いつもの君と違わない?

 それとも俺が勝手にそう思っているだけなのかな…。



「 敦賀さん? 」


「 ん? 」


「 本当は私、今日は雨だから花火は見られないって諦めていたんですよ。なのに、敦賀さんってば… 」


「 俺はそう簡単に諦めたりしないよ。往生際が悪いんだ、俺 」


「 ふふ…。だから余計に嬉しいです。本当は浴衣も着られないんだって残念に思っていたので… 」


「 そうだったんだ。じゃあ俺、得したのかな。言っただろ?花火と浴衣と可愛い彼女は夏の風物詩だって 」


「 ……っ!!また、そんな顔でそんなことを… 」



 それでも気のせいだと、何度も自分に言い聞かせていた。

 たとえばいつもだったらそんな反応を見せない彼女が、照れくさそうな笑みを浮かべて頬を染めたとしても…。


 なのに、俺から視線を逸らして、最上さんがコクンと小さく息をのんだのが視界に入って、気持ち落ち着かない様子の彼女の動揺が手に取るように見える。


 テーブルに視線を移した最上さんは、並べられた食事を見ておいしそう…と呟いた。



「 本当は君が作ってくれる食事のが良かったんだけど、仕方ないよね 」


「 だったら言って下さったら良かったのに。作りましたよ?私… 」


「 それだと君と一緒に花火が見られなくなるだろう。約束しただろ?夕食を摂りながら二人で花火を見ようって… 」



 優しい囁きが耳に届く夏の夜。

 こんな風に特別な時間を君と過ごしたいとずっと思っていた。



 刹那 ――――――



 打ち上げ花火特有の甲高い音が闇夜に響き渡った。

 弾かれるように二人で夜空を見上げると、華やかな火花が大輪の花に姿を変え夜空で大きく弾け飛ぶ。

 間を置いて火薬の炸裂音が轟き、二人で思わず歓声を上げた。


「 わーっ!!すごい、大きいーっ!! 」


「 ほんとうだ。これは俺も予想外だった 」


 次々と打ち上げられ、咲き乱れる夜空の大華。

 暗闇に瞬く儚い花。


 咲いては散り、また花開いては美しく散ってゆく火薬の名残音に耳を傾け、風に流され霧散してゆく煙までも二人で見守る。


 空を仰ぎ続ける彼女は満面の笑顔を咲かせていて、何度も最上さんの横顔を見つめながら自然と俺も笑みを漏らした。



「 キャー!!すごいー!本当にすごく近いですよ、敦賀さん!きれいー、すてきー、すごいぜいたくー!! 」



 はしゃぐ姿がとても可愛くて

 楽しそうに夜空を見上げるその姿が嬉しくて


 夢の中で実感したのと同じように

 夜空に浮かぶ花火より彼女を見ていたかった。


 胸に熱く灯るのは君を求める恋情

 だけど君を困らせることはしたくない。


 それ以上に、拒絶されたら立ち直るなんて出来ないと思ったから

 俺は疼く恋心を抱いたまま、彼女の笑顔を見守るに徹した。


「 クス…。三拍子、揃っちゃった。打ち上げ数はそれほど多くないみたいで申し訳ないけどね 」


「 な、なんで敦賀さんが申し訳なく思うんですか!私はすっかり諦めていたんですよ!だから見られて本当に嬉しいんです 」


「 …うん。喜んでもらえたなら本当に嬉しい。俺も見たかったしね。君と二人きりで… 」


「 ……敦賀さん… 」


 助長していく俺の中の熱情。

 頬を赤く染めて俯き加減になり、上目づかいで俺に視線をくれた最上さんの仕草に、自分の鼓動が勝手に高鳴る。


「 あの…。わ、たし、も…見たかったんです。こうやって、敦賀さんと二人で… 」


「 最上さん…本当に? 」



 ねえ、どうして今日に限ってそういう態度…?

 これでも俺、夢と現実は違うんだと幾度も自分に言い聞かせていま君の隣にいるのに。


 まさかまた夢じゃないだろうな、と疑う俺に

 変わらず下腹部に響く打ち上げ音がこれが現実だと教えてくれていた。



「 ほ…本当ですよ。信じて下さい、敦賀さん… 」



 俺の決意を破裂させる、大きく見開かれた澄んだ瞳。


 ダメだよ。

 君がそんなに甘く俺を見つめたりしたら、心のタガが外れてしまう。


 変わらず夜空には大輪の花が咲き乱れているのに

 俺の目に映るのはもう最上さんだけになっていた。



「 最上さん…? 」


 彼女の耳元に唇を寄せ、囁くように名を呼ぶと

 瞬間発火した自分の頬を隠す様に最上さんが自分の頬を両手で押さえた。



「 は…はいっ!? 」


 仰向いた彼女の艶めいた唇が、静かな緊張感を俺に伝えている。


 誘われるように彼女の手に自分のそれを重ね、小さな手ごと片頬を抱くと、長い睫毛がふるりと震えた。


 手のひらから伝わる君の体温。

 花火に照らし出された最上さんの瞳がいま俺だけを見つめている。



 眩しくて無垢な君の事が誰よりも愛おしいと

 なんど夢の中で思い知ったことだろう…。



「 ごめん。俺、君を困らせたくないと思っていたけど、やっぱり我慢できそうにない 」


「 え?…つるがさ…? 」


「 もう、何度夢見たか判らないよ。君に、告白をする夢を… 」



 間を空けずに夜空を彩る花火が、驚きで見開いた彼女の瞳を明るく照らし出していた。


 変わらず下腹部に響く爆音を聞きながら、散りゆく花火のように彼女が俺の前から逃げて行かないよう、自分の頬を抑えたままの彼女の手にもう片方の手も重ねて、最上さんの顔を両手で優しく抱きあげる。


 彼女の吐息が、切なく俺の腕をかすめた。



「 告白って、一体なんの… 」


「 逆に君に聞きたい。告白って聞いて、最上さんはそれ以外の何を思うの? 」



 たとえば俺は、どんな辛い時でも君の顔を見ただけで嬉しくなれる。


 君の喜ぶ顔が見たくて

 その笑顔を作れたのが自分だと思えるだけで胸の奥はこんなにも熱くなれるんだ。



「 そ、れ以外…って、だってまさか、そんなこと… 」


「 最上さん。 聞く前から否定しないで欲しい 」


「 だって、敦賀さん… 」



 最上さんの眉が切なげに歪んで、頬に張り付いた彼女の手を強引に解いた。


 自分の口元にそれを寄せ、瞼を閉じて祈るように細い指先に口づけを施す。


 小さく跳ね上がった声が聞こえたけれど

 最上さんは俺の手を振りほどこうとはしなかった。



「 俺、君が好きなんだ。ずっとこの想いは隠しておこうと思ったのに… 」


「 …好…?敦賀さんが…?そんなの… 」


「 最上さん、知ってる?恋って、一度自覚すると恐ろしく進行が速いんだ 」


「 …し…知ってます 」


「 君への想いを自覚させたのは他ならぬ君自身で、いまこの気持ちを抑えきれなくさせたのも他ならぬ君自身だ 」


「 え?へ? 」



 戸惑う声が、俺の手の中で抗いを見せた。


 俺から逃げようと力を込めた指先を絡め、耳まで真っ赤に染まった彼女の顔を見つめて、絶えられないとばかりに瞼を閉じた彼女の額に自分の額を重ねる。



「 俺の事が嫌いなら、俺の前で無防備になるな。抱きしめてしまいたくなるから 」


「 手……!! 」


「 ね、聞かせて?君は俺じゃダメ?俺では君に相応しい男になれない? 」


「 敦賀さん、手を離して下さい… 」


「 最上さん 」


「 お願いです、手を… 」


「 答えを先に言って?好きか嫌いか、それだけでいいから 」


「 き…キライです。だから、離して…!! 」


「 …ご、めん 」


 手の力を抜くと、俺から視線を外した彼女の指がするりと自分から離れていった。


 変わらず顔を真っ赤にしたまま、眉をひそめた最上さんが少し怒った口調で言葉を継ぐ。



「 私、こんな風に敦賀さんにされるの、本当に嫌いなんです 」


「 ごめんね。俺… 」


「 ただでさえ敦賀さんがそこにいると思うだけで、心の鍵が簡単に開いてしまうのに 」


「 ……?…え? 」


「 優しく笑う顔を見たら心が痺れたみたいに呆けてしまうし、甘い声で囁かれたりしたら身体中の力が抜けてしまうんです 」


「 も…がみ…さ… 」


「 触れられたら心臓がバクバクしすぎて、このまま死んじゃうんじゃないかって本気で思うんですよ!だから、嫌いなんです 」


「 そ、れって… 」


「 それなのに…ずるいですよ、敦賀さん。あなたに相応しくないのは私の方でしょう?第一、あなたの事が本当に嫌いだったら花火が見られないって判ってガックリくる訳ないじゃないですか。土曜日に一緒に花火を見ようって誘われて、嬉しくて、凄く楽しみで、雨が降るって判っていても浴衣なんて用意しちゃって…。あなたが嫌いだったら、そんな風になるわけ無いのに。なのにそんなこと、わざと言わせようとするなんて… 」


 俺から視線を外して、俯いた彼女の艶めいた唇が固く結ばれた。

 さっきより更に赤く染まった顔。


 静かに頬が震えていて

 彼女が抱く緊張感が俺にも見える。


 いつもとは全く違う彼女。

 恋などしないと言った君が、いま俺への気持ちを口にしてくれた。


 生まれた言葉はまるで幻のように、風に乗って掻き消えていった。


「 俺、君に嫌いって言われたら、立ち直れないって思っていたけど… 」


 否。決して消えたりしない。

 君の言葉はいま全て俺の心に入って来たから。


「 そんな風に君に嫌われているって知って、天にも昇れそうなほど嬉しいんだけど… 」


 こんな甘い告白が、この世にあるなんて知らなかった。


「 それは私の方です…。まさかこれ、真夏の夜の夢とかじゃないですよね…? 」



 潤んだ瞳で呟いた言葉に、クスリ…と笑みがこぼれた。


 それを何度疑ったか、俺の方こそ数えきれない。



「 冗談じゃない。もう夢なんてごめんだよ 」


「 え? 」



 夜空に打ちあがった火花が、瞬きながら儚い花を咲かせている。



「 最上さん、抱き締めていい…?これが夢じゃないって実感したい 」


「 …え…っと…。は、はい… 」



 彼女をそっと抱きしめても、上空で舞い散る爆裂音が確かに下腹部を振動させていた。


 腕に灯る温もりを守りながら

 陽が沈んだあとの空に瞬いている花火がまるで真夏の太陽の化身みたいだ…なんて、俺はそんな事を頭の片隅でうっすらと考えていた。



 華やかな夜空の下で

 最上さんの香りがいつまでも俺の鼻孔を優しくくすぐっていた。






   E N D


このお話、残渣が蓮君、残像がキョーコちゃんで、残香が蓮君と続いたので、前・キョーコちゃん、中・蓮くん、後・キョーコちゃん、としたかったのですが、どうしてもキョーコちゃんsideだと蓮が告白に至らず…。


結局、蓮を動かすには蓮sideにするより他はなく、蓮sideでお届け致しました。無事告白にいたって本当に良かったです…。



⇒夏の残照◇後編・拍手

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※ラストおまけ話⇒「夏の残心」 に続きます※


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