一迅社文庫アイリス編集部

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こんにちは!
試し読み第2弾は……

『侍女ですが恋されなければ窮地です2』

倉下 青:作 椎名 咲月:絵

★STORY★
大切な姫様の幸せを邪魔する者は許さない!
公姫の身代わりを務め、傭兵隊長ジルヴィーノとの政略結婚阻止に成功した侍女マリアダ。ところがマリアダ自身が気に入られ、彼の婚約者として傭兵の住む館に迎えられることに。傭兵隊長の妻なんて無理!――と求婚に抵抗していたある日、姫に新たな婚姻話が。姫のためにマリアダは再び身代わり&今度はジルヴィーノと恋人の演技まですることになって!?
侍女と傭兵隊長の身代わりラブ第2弾★

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「公妃さま、急いで面会――しっ失礼いたします!」

 従僕の言葉半ばで扉が開かれる。
 マント風の上着をひるがえして入ってきたのは、ジルヴィーノだった。

「ご無沙汰いたしております、公妃さま」

 挨拶こそしたものの、強引な入室にも、テレーザに向けられた醒めた視線にも、見間違えようのない警告が込められている。

「マリアダを迎えにまいりました。彼女はすでに私にいただいておりますので、いかに公妃さまといえども、軽々しく呼びつけるような勝手はおやめいただきたく」

 その口調も、言葉はともかく命令に近い。
 あのあとタージから話を聞いて、彼もろくでもない面倒事の予感がしたのだろうか。おもいがけないジルヴィーノの登場に、マリアダの口から安堵の息がこぼれた。

(――って、どうしてよ)

 そんな自分に少しむっとする。

(……ま、まあでも、テレーザさまが一介の侍女の言うことなんて素直に聞くはずもないけど、傭兵隊長なら話は別だもの。いまから新しい傭兵隊長を見つくろって契約するなんてまずできるわけがないし、だからテレーザさまだってこの人の言うことなら無視できないわ。援軍の出現にほっとするのは当たり前よね、うん、そう、それ以上の意味なんてないわ。エルヴァラさまの名前を持ちだしての脅しだって、この人には効かないし)

 自分の感情に理屈をつけて、マリアダはやっと落ちついた。テレーザに静かに微笑みかけてやる。

「テレーザさま、ではそういうわけですので、おいとまさせていただきます」

 だが、テレーザも、ここで素直にひきさがるようなかわいげなど持ちあわせてはいなかった。

「あらあ、迎えが来たならますますゆっくりできるじゃない」

 扉のむこうで何があったのか、すっかりおびえている従僕を廊下に帰してから、テレーザは不機嫌な傭兵隊長に微笑みかけた。

「ひさしぶりにマリアダと話をしたかっただけよ。でもちょうどよかったわ、時間があるようなら、ジルヴィーノ、おまえにもぜひ同席してもらいたいわ。相談があるのよ」

 不意に現れた彼を相当いまいましく思っているはずだが、テレーザはそんな気配はおくびにも出さない。
 とはいえジルヴィーノもこの程度の猫なで声に騙されるはずもなく、醒めきった口ぶりで指摘した。

「あいにくと、冬季の傭兵隊運用は契約には入っておりませんが」
「そんな、傭兵隊を動かすような大げさな話じゃないわよ。おまえは来季もわたしたちの味方じゃない。そう堅いことを言わないで、ちょっとだけマリアダを貸してちょうだいな」

 ジルヴィーノはわずかに目を細めた。

「どういう理由ででしょうか」

 テレーザは抗うように、いっそう微笑む。

「全然たいしたことじゃないのよ。もう一度、カファル公姫になりすましてもらいたいだけよ。本物のエルヴァラがいないんだもの、マリアダにやってもらうしか方法がないのよ」
「カファル公姫については、先の誘拐未遂で衝撃を受けた心身を休めていると公表なさっておいででしょう。それを覆して、わざわざ表に出す必要はありますまい」
「わたしだってそう思うわよ。でも、継母じゃ話にならない、公姫と直接話させてもらうまでは絶対に帰らない、って言い張る失礼で強情な求婚者が押しかけて来ちゃったんだから――」
「求婚者!?」

 マリアダはぎょっとした。どう考えても面倒なことになるとしか思えない。
 ジルヴィーノが片頬に皮肉な笑みをひらめかせた。

「ほう、求婚者ですか。そんな相手にマリアダを会わせるということは、公妃さまは、私との来季の契約は破棄されるおつもりですか?」
「誰も本当に結婚させるとは言ってないわよ。まあ聞きなさい、ジルヴィーノ」

 微笑を形作ったテレーザの両眼には、見飽きるほど見てきても少しも嫌悪感が減らない計算高い光がある。
 マリアダはいっそう警戒を強めた。長年やりあってきた経験からわかる。ジルヴィーノの反対という障害に遭って笑顔の下で急いで計算していたテレーザは名案――マリアダにとっては悪夢――を思いついた。

「マリアダにカファル公姫になりすましてもらって、面と向かって求婚を断らせるだけよ。マリアダだっておまえのときよりずっと楽な仕事よ。今度はたらしこむんじゃなくて、失礼にならないように丁重に、あとくされなく、こてんぱんに振ってあげればいいだけなんだから」
「それのどこが楽な仕事なんですか!」

 マリアダはジルヴィーノに視線と念を送る。

(だめよ、断って、絶対断って!)

 テレーザは、夫と自分のためなら侍女マリアダの都合も継娘エルヴァラの都合も鼻にもひっかけないが、相手が傭兵隊長ジルヴィーノとなれば話は違う。彼の機嫌を損ねて契約を破棄されないよう、この面倒事も自分でなんとかして始末するだろう。

(だからきっぱり断って!)

 ジルヴィーノは醒めた目でテレーザを見据えたままだったが、皮肉な笑みはその片頬から消えていない。マリアダは安心する。
 しかし彼が拒否を口にするより一瞬早く、テレーザがすばやく言い添えた。

「でもね、ただ気が進まないって理由でのお断りじゃむこうも納得できないだろうし、こっちとしてもちょっと失礼でしょ。だから、おまえが公姫の恋人ってことで、二人の相思相愛ぶりを見せつけてほしいのよ。それなら断る理由も説得力も増すじゃない?」
「はっ!?」

 マリアダは声をあげた。
 と同時に、ジルヴィーノが片頬の笑みを消してちらりとこちらを見る。
 テレーザのずうずうしい申し出を一刀両断する代わり、ジルヴィーノがあれこれ検討を始めた気がする。一気にいやな予感が広がった。マリアダはあわてて顔をそむけ、テレーザをにらみつけた。

「毎回毎回、姑息な手段でその場しのぎをしようとしないでください! そんなばかげた方法が通じるわけがありません」

 テレーザは扇であおぐような仕草で手を振った。形勢逆転を見せつけるかのような優雅さが、いっそういらだたせてくれる。

「いいえマリアダ、おまえならできるわ。ジルヴィーノ以外の男なんて目にも入らないって見せつけて、通じさせるのよ。存分に、たっぷり熱演してちょうだい。できあがってきたばかりの冬のドレスも貸してあげるわよ。……仕方ないわね」
「舌打ちしてまで貸していただかなくて結構です、要りません、やりません!!」

 そこに、考えるようなジルヴィーノの声がした。

「――カファル公姫に求婚してきたというのは、どこの誰です」

 マリアダはぎくりと体をこわばらせたが、彼に向けたテレーザの微笑にはいまや勝利の歓喜があった。答える声もはずんでいる。

「バジーリス王国のアージェルト王太子よ。知ってるでしょ。格式と伝統だけはあっても力も金もすっかりなくした国だから、うちとしてはうかつに仲よくしたくないの。弱い国と結んでも、こっちの足をひっぱられて損しかしないもの。なんの得にもならないわ」
「あ――」
「だからといって、格上の名門をすげなく追い返すわけにもいかないというわけですか」
「ちょっ――」
「そうなのよ。悪名もものによっては悪くないけど、敵がつけこめる隙としてしまうのはまずいわ。格式だけは高いバジーリス王国への不義理は、ちょっと外聞が悪いのよ。かび臭い伝統にいつまでもしがみついているしか能のない分、妙な名声はまだ残っているのよね」
「まっ――」

 マリアダは何度か口をはさもうと試みたが、二人とも聞こうともしない。

「公妃さまのご慧眼には、感心いたします」
「ありがとう、嬉しいわ」

 傭兵隊長と公妃は、いまや好意的な言葉をかわして双方満足げだった。

「……い、いやです、お断りします、たっ退職します、いますぐに!!」

 マリアダは必死に抗ったが、二人とも気にも留めていない。

「では、実行は早いほうがいいでしょう」
「そうね、さっそく王太子に返事をするわ。明日でいいかしら」
「だから勝手に話を進めないでください、わたしは承知なんてしていません!!」

 マリアダの叫びははかなく宙に消える。
 慎み深い侍女を気取って壁際にひかえていたレベナが、ふんと鼻を鳴らした。

「……見損なったわ。もちろん最初から、人が悪くて意地悪で勝手極まりない人だとは思っていたけど、ここまでとは思わなかったわ」

 黄砂岩造りの館に帰る馬の背に揺られながら、マリアダは前に乗ったジルヴィーノの背中にぶつぶつと恨み言をぶつけた。

「わたしがいやがっていることはよくわかっているくせに、それでもやらせるなんて――仮にもそれが、婚約者を名乗る人の態度?」

 いらだちのあまり口がすべった。婚約者、という言葉にマリアダ自身がどきりとする。
 ジルヴィーノが肩越しにふりかえる。

「だから王太子の前で、堂々とマリアダの婚約者らしくふるまうつもりだが」

 人の悪い笑みをたっぷりふくんだその目を、マリアダは負けじとにらみつけた。

「も、もう少し賢いかと思っていたわよ! テレーザさまの口車に乗ってほいほいただ働きを承知するなんて、傭兵隊長の風上にも置けないわ。冬は契約期間外でしょ」
「傭兵隊としてじゃなく、おれ個人に頼まれごとをされただけだ。それに、ただ働きでもないしな」
「え?」
「ひさしぶりに、マリアダの姫姿が見られる。充分な報酬だ」

 以前このジルヴィーノを誘惑するために着せられたテレーザのドレスの高すぎる露出度を思い出し、マリアダはかあっと赤くなった。どうせ今回貸すという冬のドレスも、今日のテレーザを見るかぎり前回と似たようなものに決まっている。それを今度は、いまや素のマリアダをよく知っている彼の前で着て、さらに愛しあう恋人同士を演じなければならない。

(いっ――いやいやいやいや絶対にいや!!)

 マリアダは心の中で絶叫しながら、ぶんぶんとかぶりを振った。そのまま目をそらせたのは、恥ずかしくてジルヴィーノを見ていられなくなったからだった。

「暴れると落ちるぞ。馬は乗り慣れてないんだろう」

 くすりと笑ったジルヴィーノが、手を後ろにまわしてマリアダを支えようとする。


~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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